画像1:Bunkspeed Shotによるレンダリング画像。NVIDIAのGPUカードで、高速に写真品質のレンダリングが可能。(クリックで拡大)
画像2:眼鏡・サングラスプロデューサー、大浦イッセイ氏と協業している「GreenJacketSports」のテストレンダリング。GreenJacketSportsは高機能な国産サングラスブランド。(クリックで拡大)
画像3:メガネ用のプラグイン QProの操作中の画面。3Dのレンズやリムを2D図形とパラメータから生成することができる。(クリックで拡大)
画像4:QProで製作したモデルのレンダリング画像。レンズによって透過画像が屈折していることも分かるので、美しい。(クリックで拡大)
画像5:このようなデザインエッジをやわらかく仕上げたい場合、Rhinocerosではエッジの曲率にしたいてフィレット半径がかなり小さくない限りは失敗する。そのようなモデリングも手間がかかりそうだ。(クリックで拡大)
画像6:上の平面は曲線、垂直の面をアイソカーブで切って、なめらかにつなぐことを考える。なめらかさ確認のためゼブラ表示。 (クリックで拡大)
画像7:大きな半径でも、NURBSの柔軟性を使うことで、簡単なオペレーションで、微分連続性を維持しつつ、なめらかに接続することができた。(クリックで拡大)
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−−まず、咲和惟の活動内容、現状などお話ください。
三枝:当社、咲和惟は福井県鯖江市にあり、近くの企業と一緒にプロダクトやパーツを作る仕事をしています。周辺は伝統工芸、眼鏡製造、繊維などの規模が小さい企業が多く集まっている地域です。
咲和惟の主要な業務の1つは、販売側と製造企業の間のコミュニケーション業務です。スケッチや図面からデザインの意図やコンセプトを損なわないよう3Dモデルを起こし、パーツを抽出し、製造可能な図面などにしていくことです。また、そういうものから、レンダリングイメージや動画を作って、販売側へ提供します。そのためにデジタルツールがとても役に立っています。
−−工業製品の製造というと、大きな企業がまとめていく、というイメージがありますが。
三枝:私達の製造は小さい企業が組み合わさって成り立っています。大きな企業が行う製造とは異なるところ、足りないところもありますが、いいところもたくさんあります。いいところを活用していただける切り口を作り、他の地域の企業と組み合わせたり、販売される方や気の利いたものを必要とする人の元へ提案できるよう工夫を重ねています。
−−小さい企業がデジタルツールでまとまってモノ作りをしていく、というイメージでしょうか。
枝:そうですね。デジタルツールは、操作や選定が難しいソフトだと思います。企業にとって完全に操作できる人を確保することは大変だろうと思います。私達が、デジタルデータを作り、製造系の図面や、レンダリングした画像や動画を作成し、必要な人に必要なものを出力しています。しかし、中には、3Dソフトそのものを使うことで、発展できる企業があります。咲和惟では、もう1つの事業として、社内で活用している、製造やデザインに使えるソフトを紹介しています。国内で販売されているものや、海外の製品、弊社で開発したソフトもありますが、小さな企業で費用負担ができるもの、多くの人が協力して使えるものを選んでいます。
−−デジタルツールでつなげていく、という発想は面白いですね。
三枝:さきほどの2つの事業がいい関係にあって、そうなっています。製造では工業規格に沿った図面が必要ですし、販売側ではレンダリングや動画が必要です。それらは同じ3Dモデルから生成されることが効果的で、つながるポイントです。
今は2Dや3Dの画像や動画といったビジュアルがネットで簡単に伝えられるので、多くの人を興味で結び、コミュニケーションし、実現していける面白い世の中ですよね。
−−お取り扱いのデジタルツールに関して少し説明をお願いします。
三枝:まず、3Dのレンダリングは、さまざまなコミュニケーションに使える重要なソフトウェアですね。リアルな画像や動画にすることで販売される方やユーザーと広く美意識やコンセプトを共有したり、ヒントや反応を得ることができます。
レンダリングには「Bunkspeed(バンクスピード)」製品を使っています。これはNVIDIAのGPUを利用し、クオリティが高く、かつ高速に写真画質のレンダリングを行える技術が搭載されています。この製品は優れている点がたくさんあります。当社が、Bunkspeed社の国内のリセラーとして販売して、日本ユーザーへの説明の対応やマニュアルの製作、フォローを担当させていただいています。
静止画のレンダリングは、Bunkspeed Shotがあります。これは一度プロジェクトを用意すれば、誰でも簡単に操作ができます。年配の社長さんでも、お客さんと色や素材を提案する際に、自社商品をレンダリングしながら、こんな色や素材だったら、とその場で提案などもできるようになるんですよ。
Bunkspeed Moveという動画製作ソフトもあります。動画は、特にGPU計算の高速性が生かせます。Moveを使えば、3Dデータから、必要なパーツの機構的な動きや、キーフレーム間の自由で滑らかなカメラワークのある動画を作ることが簡単にできます。
※Bunkspeedに関しては以下をアクセス
http://bunkspeed.saesoft.jp/
−−3Dモデルのレンダリング動画でのプレゼンテーションの利点はなんでしょうか。
三枝:3Dモデルとレンダリング動画の組み合わせは、見せたい視点移動による立体感、ハイライトの移動や透明物の屈折の様子、メカの仕組みなども、容易に表現ができ、想像以上に美しく分かりやすいです。動画が表示できるデバイスは今たくさんありますが、顧客への3Dモデルのプレゼンテーションが劇的に分かりやすくなります。
−−実際に用いられるシーンはどういったところでしょうか?
三枝:店頭でのデジタルサイネージ、YoutubeやWebでの製品説明、公開プレゼンなどがあります。動く映像は人間にとって強力なアイキャッチにもなり、面白いですね。
一般的に、3Dデータや、動画とかいうと、高価ですごい技術を駆使して、という感じですが、私は、身近で分かりやすく、気軽な事例が増えてくれると、なんとなく嬉しいです。
−−御社ではモデリングサービスも行っていらっしゃいますね。
三枝:はい、メガネのモデリングが多いのですが、定型的なものは、Rhinocerosのプラグインを開発してモデリング業務を効率化をしています。メガネのフレームとレンズをはめる部分は、性能的(幾何、光学)、業界的(製造性)な決まりごとがあります。玉型(レンズ2D形状)、サイズ、カーブ数で、レンズの度数以外の主要な形が決まり、配置の位置や角度で、フレームの正確なレンズ周辺の形状と大きなイメージが固まります。
レンズに対し十分な考慮がないと、店頭でレンズを加工しても、きちっとはめられなかったり、視界がひずみます。フレームは自由なモデリングができますが、レンズ周辺は正確に現在のスタンダードに合致させなければいけません。
玉型は顔を決めるので、メガネデザインの要です。メガネ特有の約束事に関しては3D-CADのプラグイン(QPro.NET)を製作して、レンズの幾何的なモデリングの正確さと効率化をはかり、モデリング業務に活かしています。
−−レンズとフレームの形状をみると立体的な曲線ではまっていますね。モデリングは大変なのでしょうか。
三枝:標準の3D-CADの機能だけでも、レンズとフレームの幾何的な配置の基礎を学んで、慣れれば誰でもできるものです。しかしオペレーションの手数と神経をとても使います。モデリング業務ではあとで角度の変更もあります。レンズも厚いもの、薄いものを入れてみて、フレームへの干渉チェックや、見え方の確認のためレンダリングすることがあります。
QPro.NETを使うことで、変更をしたいときも、いつでも、業界のパラメータの数値で、パラメトリックに、かつ形状履歴的なモデルの再生成が瞬時に行えるようにしました。CAD上ではモデリングオペレーションに気をとられることがなくなれば、デザインや感覚中心の思考になり、微妙な変更のトライがたくさんできるようになります。
−−モデリング業務のワークフローを教えてください。
三枝:スケッチや2D図面があればもらい、コンセプトなどを打ち合わせをします。Rhinocerosを使いモデリングをし、パースをBunkspeed でレンダリングをしてクライアントに送ります。そこでデザインラインの変更があると、たいていはそのラインを使ったところまで作業を巻き戻して、同じように面を張り直します。途中段階でもコミュニケーションのためにレンダリングを送ります。よく考えてみると、3Dシステムは人間の頭の中にしかないものを、3Dで詳細化して眼前に見せてくれるだけです。パースペクティブに息を吹き込んでから美しいかどうか、新しい発見など「見えてくるもの」があります。
想像が足りなかった部分、至らなかった部分、新しいひらめきなどをフィードバックしたくなります。自分でデザインしたものをオペレーションすると、なおさらそうです。Rhinoceros 5では、ワイヤーワークやザクっとした形を求めるためのデザインワークにおいて、ヒストリを積極的に使えるコマンドが多くなり、そういう部分で活用ができるので喜んでいます。
−−咲和惟ならではのモデリングテクニックなどはありますか?
三枝:デザインが確定するまではなるべく最後までJoinせず、トリムやフィレットのようなバウンダリを作るコマンドはなるべく使わない、そういう手法的な意識をしています。Rhinocerosでは、トリムやフィレットをしてJoinする多くの手法(面の切り貼り)が確立され広く紹介されています。しかしそうでない考え方、オペレーションもできます。バウンダリを持たないサーフェスは、その内部のNURBS構造の範囲内でしなやかで活きています。その「活きた面のしなやかさ」を利用して進めるモデリングを、活面モデリングと勝手に呼んでいますが、切り貼りでは難しかった、変形への追随、意匠的な面のなめらかな接続、複雑なフィレットが非常に簡単にできます。そういった工夫をするようになりました。
※活面モデリングに関しては以下をアクセス
http://saesoft.jp/category/3d-modeling-tech
−−金型データの製作まで行うのですか?
三枝:いいえ、金型は奥が深くて、型屋さんに渡す前の、モデルを提供するところまでです。よくわかっていない制約への対応は優秀な金型屋さんにおまかせしています。しかし、デザイン、モデリングで製造のクオリティや製品のライフサイクルを考えています。特に成型品などは自由度が高く、独創的、意欲的な造形が可能ですが、はじめての形状は次のような問題が発生することがあります。
1)簡単に破損してしまった
2)厚すぎる(重い)、あるいは、薄すぎる(弱い)と感じた
3)美しい面、微妙なふくらみを表現したが、成型後のヒケや取り出しで歪んだ
これらが、意外なところで発生することがあります。
一般的に大きめな外側の成型パーツでは、適当なシェル化をし、収縮要因となるボリューム集中を分散させ、曲げや変形に対して裏リブなどで断面2次モーメントが増える方向で形状を支えるようにモデリングして、軽く丈夫にします。また、裏面をシェル化+幾何的なリブに相当するような「滑らかな形状」とすることもできます。裏表で有機的にする設計は、製造や機能などで利点が大きい場合がありますが、経験や手計算では強度の分析が困難です。
−−解析まで踏み込まれたモデリングですか?
三枝:形や寸法を決めるにあたって、強度を考察しないと、すぐ折れたり壊れるものになりがちです。強度については、必要に応じて、ざっくりとしたモデリングした段階で、Rhinoceros用の3D構造解析ソフト「Scan and Solve(スキャン アンド ソルブ)」でモデリング形状の強度を確認しています。Scan and Solveは、金属やプラスチックの他、脆性材料についても、強度や変形の解析を行うことができます。
※Scan and Solveに関しては以下をアクセス
http://scan-and-solve.saesoft.jp/
−−Scan and Solveは手軽に使えそうな解析ツールのようですね。
三枝:お手軽です、Scan and Solveは、Rhinocerosに組み込まれますので、いつでも気軽に使えます。
初期のモデリングで意匠ラインとともに、ざくっと面をはり、その時点で、寸法や厚みがほぼ表現されます。その時点で、すぐに、どのような力にどのように変形するのか、破壊される場所は危険かどうか、そこを安全なところへ動かせないか、といったことを確認します。そういうエンジニアリング的な対応をしてから、モデリングを詳細化し、意匠を調整したり、面の連続性のクオリティをあげるようにしています。
−−モデリングだけではなく、モノ作りまで踏み込まれているのですね。
三枝:3Dのデザインワーク(モデリング、切削プロトタイプ、3Dスキャン)は、ツールや機器が充実して、簡単にできるようになりました。デザイン、モノ作り、販売、利用と、極端に分かれてしまっている状況ですが、小さくてシンプルなものなら、再びつなげていけると思います。広範囲なことを全部背負いこむことはできませんので、ご縁を得て、いろんな人にいろんなことを教えていただき、自分の能力が生かせるところを見極めて、踏み込ませていただきたいです。
−−最後に今後の展開などお話ください。
三枝:デジタルツールについては、なるべく学習や費用についての負担が少なく、容易に使わせていただけるシンプルなツールを使って、コミュニケーションしていくことをもっと続けたいです。モノ作りを、地味に、勤勉に、楽しく続けていきたい。咲和惟は、古い視点や観念も、いいところは大事にしながら、新しく自由なイマジネーション、創造と歓喜を共有する活動をしていこうと思っています。
−−ありがとうございました。
三枝:こちらこそ、お話を聞いていただき、光栄です。ありがとうございました。
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