3種類の銅合金を組み合わせて作った時計(クリックで拡大)
上の時計の裏側(クリックで拡大)
上の時計のVectorworksによる編集画面(クリックで拡大)
Vectorworks上のSOLARISの編集画面(クリックで拡大)
曲げわっぱの編集画面(クリックで拡大)
Vectorworksで曲げわっぱをレンダリング(クリックで拡大)
自身のデザイン、そして道具について語っていただいた田中行氏
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−−話は前後しますが、CADツールにVectorworksを選ばれた経緯をお話ください。
田中:東京に戻る前に、手伝っていた関西の建築設計事務所がVectorworksを使っていて、プレゼンテーションの時、面に色を塗れるのがいいなと思いました。モデリングも比較的簡単ですし、私はアイデア、検証などデザインの初期の段階から3Dを使いたいので、それならVectorworksだなと思いました。
−−インテリアもプロダクトもCADはVectorworksですか?
田中:はい、そうですね。先ほども述べましたが、Vectorworksはモデリングも簡単に作成できます。2Dで作成した図面を元に3Dでモデリングしたり、また逆に3Dでモデリングしたものを2Dの図面に落としたりと2Dと3Dを行き来できるのがいいですね。インテリアだと空間のボリュームの確認ができますし、プロダクトだとディテールの確認をしたりと重宝しています。
−−田中さんのデザインのワークフローですが、最初は手描きのスケッチから始まるんですか?
田中:モノによりますね。手描きのときもありますし。空間デザインの場合は、たいてい最初からVectorworksをスケッチレベルで使っています。すごく便利なのは、平面の壁ツールを使うとすぐ立体を起こせるので、早いですよね。模型を作らなくてもスタディレベルで様子が分かるのも便利です。最近はプロダクト以外は模型を作らなくなりました。
−−ではプレゼンテーションはレンダリング画像中心ですか。
田中:そうですね。私の場合はリアルなレンダリングは作らず、ラフの段階で見ていただきます。照明の具合と色の確認がメインですので。レイアウトに関しては平面図で見ていただきます。
−−フォトリアルなレンダリングは行わないのですか。
田中:そうですね。リアリティよりは色を重視しています。Renderworksも入れてますけど、照明の確認用です。照明デザイナーさんから上がってきたプロットをもう1回入れてみて、画面上で調整します。最終的なプレゼンテーション資料はPhotoshopで仕上げています。その方が早いですね。ライティングやレンダリングのセッティングにこだわるより、お絵かきの方が得意なので(笑)。
あと、空間デザインにはグラフィックの要素が入ってくるので、サインなどにはIllustratorを用いたりもします。
−−例えば店舗デザインの場合など、椅子1つひとつまでモデリングされるのですか。
田中:はい、すべてVectorworksで作っています。特に椅子は、人間工学的とまではいいませんが、背もたれの角度まで全部詰めています。施工業者やメーカーにデータを渡し、試作ができたらウレタンやバランスの確認など工場で行います。
−−モデリングツールとしてのVectorworksのメリットはどういう点ですか?
田中:最近は便利な機能が増えてきて、私も覚え切れていないのですけど、なにより操作が分かりやすい点ではないでしょうか。あと、特に色にこだわる方なので、素材や質感などの表現も比較的楽な点が助かります。実は個人的には3Dの操作がまだVectorworksや他の3Dソフトでやり切れてなくて。
−−思い通りの形状制作は可能ですか?
田中:昨年バージョンアップしたばかりで、いまだにオペレーションも遠回りしているのかもしれません。常にコンピュータにしかできないものにチャレンジしたいなって思っているんですけどね(笑)。
あと「壁ツール」はすごく便利です。2010年度まで、インテリアデザイン・コーディネーター専門学校ICSでインテリアデザインを教えていたのですが、「壁ツールを使いなさい」と言っても意外に生徒の大半が知らなくて。平面を描きながら立体化でき、スタディに使えると教えていました。
−−現在までさまざまなCAD関連ツールをお使いだと思いますが、Vectorworksならではのメリットとか、これが一番いいなと思うポイントはありますか?
田中:やはりインテリアなどで、正しい寸法できっちり描けることです。スケールを全部変える、スケールをまたげる、それで1枚の風景にできるっていうのが重要なので。クラスやレイヤを細かく設定し、椅子にしても10分の1と部分詳細の原寸などを、A3サイズ内に入るように図面化できるので、形状を説明しやすいです。それとVectorworksはレイヤごとに3Dにできるので、例えばお弁当箱「曲げわっぱ」の仕組みを検討、説明するときなどにすごく便利ですね。
それと色に関してですね。Vectorworksは色が豊富だし、カスタムカラーも作れます。それはすごくいいですね。Photoshopに持っていっても違和感ない感じになってきています。これまでのバージョンではそこが物足りなかったのですが。
−−Vectorworksで質感表現も行いますか?
田中:テクスチャはフラットですね。どんなに凝っても違和感は残るので、だったらお絵かきした方がいいと思っています。Vectorworksの負荷をかけずに、一番早くあがる状態にして、Photoshopで加工します。私の場合はその方が時間を掛けずに済みますので(笑)。
そういう意味ではCADにそんなに多くの機能を望んでいるわけではないんですよね。むしろ適材適所にソフトを使い分けたいほうです。照明も入れ過ぎちゃうと、レンダリングに時間が掛かるので、見えないところを間引いたりする工夫はしています。仕事ではできるだけ早くアウトプットすることが大切です。
−−ちなみに実際の下流工程へのデータ渡しというのは、図面ですか? CADデータですか?
田中:クライアントによって変わります。施工業者さんにはデータと図面と両方渡すことが多いです。
−−機能的にはもう十分?
田中:あえて言えば、照明の設定をもう少し簡単に行いたいです。けっこう難しいですね。モデリングよりも、照明に時間が掛かってしまうこともあります。自分の思い描く照明がなかなかうまくいかない場合があります。内観などは白いのに黒くなったり。ちょっと困っています。
−−そういった照明設定にはTipsがあるようです。
田中:そうですよね、私はプロダクトデザインでも凝ったレンダリングは行わないので、知らないだけなんですね(笑)。
−−最後に、今後作ってみたいモノはありますか?
田中:型生産の工業製品はやってみたいです。樹脂やアルミ製品、携帯電話などですね。例えばこの時計は銅で作りました。発表はしましたが商品化にはなっていません。3種類の銅を組み合わせて、当初は組み手で考え、製作側との打ち合わせ後にダボ継ぎの仕組みをVectorworksで描いて、クリアランス寸法の微調整まで行いました。
−−銅は溶接しているわけではないのですね。
田中:違います。ダボ継ぎしています。
−−量産できそうですけどね。高くなってしまうんですか?
田中:そうですね。これは細かい形状ができるロウ(ワックス)を利用した消失型鋳造法の一種のロストワックスで作っています。ですから、ここまで高い精度が出せるんですけど。
−−銅の微妙な色の違いがいいですよね。
田中:亜鉛や錫の含有量などが異なる3種類の銅合金の素材を用いました。素材フェチみたいなこだわりですね(笑)。
−−ありがとうございました。
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