▼ThinkDesignを用いた「Colander」の制作例
ThinkDesignによる製品図面完成(クリックで拡大)
サイドビュー(クリックで拡大)
トップビュー(クリックで拡大)
ボトムビュー(クリックで拡大)
ハンドル部(エラストマー)と金属部(ステンレス)がインサート成形による一体のデザイン。アセンブリの状態で図面を作成し、部品図に分けてファイル形式を変換し製造工場へそのまま出図する(クリックで拡大)
ハンドル部:デザイナーがスチロールを手作業で削り、モックアップで握りやすさを検証後、そのままの造形を3DCAD化する。複雑な三次局面はサーフェスで作成後、ソリッド化(クリックで拡大)
製品図面をそのまま光造形でのプロトタイプ制作に使用。水の動きを検証後、穴の径、配列、底面の曲面等、製造技術による制限をエンジニアと打ち合わせしデザイナーが3D CADを修正(クリックで拡大)
断面表示(クリックで拡大)
断面表示を画像として用い製造側とのWeb会議に使用。誤解が生じにくく、海外との打ち合わせにも有効(クリックで拡大)
製品(クリックで拡大)
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フォルムのワークフローをツールベースで具体的に聞いた。CADは基本的にはクライアントごと、プロダクトごとにツールを使い分けているという。手描きスケッチ、モデル制作、2Dグラフィック、3D CADに加え、プレゼンテーションではアニメーション機能も利用している。
「最初は2Dで簡単に描いて、プレゼン用途に3D CGなども絡めながら、データを3Dサーフェスモデルとして渡し、さらに設計段階で3D CADに持っていきます。あとはラフなモデル制作ですね。私たちがきちんと作るモデルはそのままカタログ撮りできるレベルですが、それ以外に『3Dスケッチ』といって、手描きのサムネイルのようなイメージでクレイや紙、樹脂などいろいろな素材で作ります。動きがあるものはデザイナーがパントマイムみたいな感じでやって、なるほどねと(笑)。
それとプレゼンテーションは最近では3Dアニメーションで行う場合もあります。さまざまなクライアントに対して『一番効果的な方法は何か』を考えます。例えばサントリーなど有名な商品の場合は、広告代理店経由で経営陣にプレゼンします。デザイナー以外の人に伝える場合、アニメーションは効果的ですね。社内にはCGなどの素材ができていますからそれを元にアニメーション化します。スケッチだけだと分からなかったり誤解が生じたりしますが、3D化して回すと質感も含めて『ああ、なるほどね』とご理解いただけます。トップの決断をすぐに得ることができるので、3Dツールは非常に有益です。また、データはそのまま生産のための開発に活かします」。
松本氏自身も現場で先頭に立つ。
「私自身スケッチも描きますし、CADを使う場合もあります。やはり自分でやっていないと(笑)。フォルムでは3D CADはThinkDesignとSolidWorksの2つを用いています。ThinkDesignは自由な曲面の扱いができるという点と、サーフェスとソリッドの両方を併用できる点を評価しています。
それと3D CADは生産現場とのデータのやり取りで選択する場合もあります。ThinkDesignは中国とのやり取りでデータの変換に問題が出ることもありましたが、それはだんだん変わってきていると思います。
ちなみに私は2D CADメインで、今はCADRAを使っています。ずっと親しんでしまったものですから使いやすいですね。手描きスケッチの時代からずっとやってきていますので、2Dを描きながらも頭の中で立体にはなっています」。
2D CADの人気は根強いが、3D CADを使えば最初から立体に矛盾はない。松本氏は3D CADの有効性をどこに感じているのだろう。
「そうですね、3D CADであれば生産ラインまでノンストップでいけます。金型や製造の部分までずっと一緒にやっていく中では3D CADは絶対に必要です。
私たちの図面は製品図面であって、部品が全部成立しないといけない、生産できなければ意味がなくて単なるデザイン図ではないのです。それが3D CADによってだいぶ変わってきていると思います。私どもがCADを入れた頃、『エンジニアや設計者ではないのに何でCADが必要なのか』とよく言われました。でもそれでは海外で通用しないんです。きちっとした共通語とした数値です。これはどんなに大きく書こうが小さく書こうが、5と書いたら5ミリになる、R3と書いたら半径3ミリというこれが共通語ですので、この部分を自分の中に持っていないとダメですね。
それに手描きと比べたらこんなに楽な道具はない(笑)。手描きでは特に嵌合や断面の問題で大変な思いをしました。想像力もすごく使います。今は3Dでモデリングしてこの面でとやるとクーッと移動できます。あれを最初に見たときは夢のようだと思いましたよね(笑)。ゼブラを使い形状面での造形的矛盾はないかを確認できたり、アセンブリや動きに関しての干渉チェック。それに強度など、さまざまな不安要素を事前に解析シミュレーションできるなど、素晴らしいです。
これからは『デザイナー』と『エンジニア』ではなく、デザイナー自身がその両方を融合させていかないとやっていけない時代です。スピードアップや質の向上は時代の要請で、そのためにこういうツールがあります。今まで苦労しながらやっていた部分はコンピュータやCADソフトがやってくれるわけですからそれに任せて、空いた時間を本当に考えないといけない部分に使う、という振り分けが必要です。クルマもそうですけど運転を習うときは大変ですよね。でもそれが身に付いてくれば楽しい生活ができます。目的のための運転、ドライブですよね。CADソフトを使うためにやっているのではなくて、デザインするためにCADソフトを使うのです」。
●CADによってデザイナー自身も進化する
下流工程ではSolidWorksとThinkDesignを使い分けているフォルムだが、それぞれの特性をどのように捉えているのだろう。
「相手先にもよりますけども、基本的にはThinkDesignが持つ自由な曲線・曲面と、SolidWorksが持つ機械的なメカニカルな強さで分けています。ThinkDesignの魅力はGSMですね。海外の自動車メーカーさんとお話する機会がありますが、ThinkDesignはピニンファリーナで用いられています。確かにGSMによるカーモデリングはソフトの特性として非常に適していると思います。
ThinkDesignのGSMは使いやすいですが、一般的にCADは固い気がします。もともと設計の道具からきているので、仕方ないと思いますが。CADもいずれはもっと鉛筆を持つような感じになってくれればと思いますね。ただ1つのCADを使いこなせるようになると、他のCADの扱いは楽です。“このクルマを運転できればこっちにも乗り換えられるようになる”ということですね。クルマよりは大変かもしれないですけど(笑)」。
CADはもともとエンジニアのツールだった。デザイナーがエンジニアが使うべき機能面まで分かってくると、デザイナーだけで完結できるモノ作りも不可能ではない。フォルムの場合はどうなのだろう。エンジニアいらずの時代も遠くないのだろうか。
「そうですね、私たちだけでできることは実はたくさんあります。さすがに基板が入ったものを最終的なところまではできませんが、電子デバイス系のデザインでもフォルムでは基本的なパートは女性スタッフが内部で作ります。
よくそこまでできるねと言われますが、必要だから勉強するとできる、ということです。さまざまな業態のクライアントとお付き合いしていますから、とにかくそこのエンジニアの方々に教えてもらいます。聞きまくるんです(笑)。
教えてもらうには、最低の部分は勉強しないと何が分からないかが伝わりません。教えてもらうための基本を勉強していくと相手にもそれが分かるし、同じ言葉で話ができます。例えば医療もそうで、感染制御など私たちも前からやってきています。お医者さんと一緒にやることが多いので、自分たちでも医療の実態などを勉強しながら、お医者さん、看護士さんたちと実際にコミュニケーションを取っていく中でいろいろなことを学ばせていただきます」。
人とのコミュニケーションによるスキルアップの他に、CADツールが秘めた機能による実現性もあるのではないだろうか。
「こんなに素晴らしい道具はないと思います。CADは空間を作ってきちっとした立体を持たせる。それを回して見せて分解してなどいろいろなことができます。また従来のモノ作りはさまざまな人たちの手によって最終的なカタチが形成されましたが、CADがあれば自分たちだけで最終イメージの立体を構成できます。デザイナーにとって責任が増すということでもあるのですが、同時に結果・評価が得られることは素晴らしいことだと思います」。
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