●地場産業とのコラボレーション
−−これまでの3年間で印象的な製品はなんでしょう。
福嶋 やはりまずは最初に手掛けた消しゴムの「プレミアムまとまるくん」です。このときはパッケージデザインのすべてを手掛けました。パッケージの型はお金を掛けないように前の型と同じものを使っています。紙の仕様、表記、滑り止めの機能を持たせたロゴ印刷など、細部にこだわって作り直しました。
あとは、和紙と活版印刷の組み合わせを活かした和紙商品です。大阪の和紙卸メーカーのオオウエさんと活版印刷の船木印刷さんとともに「off」というブランドを立ち上げました。温かみのある和紙商品をオフシーンに提案することをコンセプトにしています。ロゴタイプは活字から文字組しているわけではありませんが、グーテンベルク時代の欧文活字などをベースにしたフォントでデザインして、それを鉄やプラスチックの活版プレートに起こして印刷しています。
「off」の第1弾商品は、さまざまなサイズの便箋と封筒の「ボールペンで書ける和紙シリーズ」で、気軽に和紙を使ってもらいたいというコンセプトで作りました。用紙は300種類以上の和紙から選定しています。今の若い世代の方は和紙に万年筆や筆ペンはあまり使用しないかもしれませんが、ボールペンに焦点を当てることで和紙をより身近に感じてもらえるよう考えました。この商品は発売から2ヶ月が経ち、鳩居堂さんをはじめ全国で40店舗以上の雑貨店などで販売しています。
和紙は喜多さんのところでも和紙の照明を作っていましたので、紙を漉くところも見学させていただいたりと、馴染みのある素材ですね。プロダクトだけでなくトータルなデザインですが、その後もそういった依頼が多いですね。
−−グラフィックデザインも含めての仕事ですね。そういえば福嶋さんのデザインの特徴は色に出ている気がします。
福嶋 色もこだわっていますが、色が特徴的と言われたのは初めてです(笑)。自分のスタイルというより、それぞれの企業の要望にどう応えるかを考えていますので。でも素材を生かしているので、割と落ち着いたカラートーンかもしれません。
−−福嶋さんのデザインは、ユーザーメリットと企業メリットを同時に解決されるアプローチに感じます。当たり前なのかもしれませんが。
福嶋 そうですね、ディレクションしながら企業さんと仕事しています。販売体制をお持ちでない企業さんであれば、流通まで踏み込んで仕事します。KENJI FUKUSHIMA DESIGNのスタッフにはバイヤーもいますので、生活雑貨のモノであれば、メーカーと卸メーカーをつなぐなど、作った商品の流通まで一緒に考えています。
−−ある意味コンサルティングまで含んでいますね。
福嶋 作った商品をユーザーにいいなと思っていただき、買っていただくには、たぶんデザインしただけでは足りず、そこから先もデザイナーは考えなければいけないと思っています。デザイナーに頼んだけれど売れなかったと嘆く企業さんもこれまでたくさんいらっしゃると思いますし、自分が独立するなら、そうなりたくなかったという気持ちがありました。
−−流通やビジネスモデルの構築は、どのようにそういったノウハウを蓄積されたのですか?
福嶋 いろいろな方にお話を伺い、また本も参考にしましたが、やはり実践ですね。スタッフに経験を積んでいるバイヤーがいることが大きいです。ちなみにうちは3人のチームで動いていて、もう1人のスタッフは海外担当で、海外メーカーとの交渉事などをメインに見てもらっています。海外出展の際には同行してもらいブースの設営から商談まで一緒にしてもらうのですが、彼はスウェーデンの人でとてもユーモアがあり、来客時のコミュニケーションでは特に心強い存在です。その他にもデザインのブレインストーミングも一緒に行っています。
−−KENJI FUKUSHIMA DESIGNはデザイナー、バイヤー、海外担当の3人のチームですね。モノ作りから流通まで、トータルプロデュースの展開をされていますが、その核心となるデザインの部分は、何が特徴なんでしょう?
福嶋 一言でいうと「企業の強みを引き出す」ということだと思います。対象企業の良さは何かを常に考えていて、それを言葉にしようといつも思っています。言葉で表現できないと認識しにくいからです。逆にその企業の良さを自分の中で見つけられなかったら、どうデザインしてよいのか分からないです。
例えば、MOMAショップでも取り扱っていただいている「メモブロック」は、断裁屋の小林断截さんのカッティング技術があったからできた形状なんです。型数もコストに直結するので、なるべく少ない型でベストな解答が出せるように検討しました。
−−加工などのコスト面まで具体的に踏み込んでデザインされているのですね。
福嶋 デザイナーのデザインだから高い、と思われるのはあまり好きではないかもしれません。普通の値段でよいデザインを提供できればベストだと思います。メーカーさんがデザインを外部に出されれば、末端価格が少し高くなる可能性はあるのですけれど、それでもユーザーが手軽に購入しやすい価格で提供したいですね。
−−現場にある道具だけで、これまでにないデザインを作ろうという発想が素晴らしいと思います。バブル世代以降のデザイナーさんは現実的なのかもしれません。
福嶋 世代が近い人でも、真逆な、ゴージャスなデザインをされるデザイナーもいらっしゃいますが(笑)、現実的というのは分かります。
●日本のプロダクトデザインを取り巻く状況
−−家電への関心はもうないのですか?
福嶋 家電のデザインは今でもしたいです(笑)。生活になじみのある炊飯器とか作りたいですね。炊飯器ってアメフトのヘルメットに見えるものが多くて(笑)、キラキラしていますよね。掃除機もそういう傾向ですけど、そんなにキラキラしていなくていいんじゃないかと。今までのラインもありつつ、何か違う選択肢を提案したい。売れないとしょうがないのですが、良いバランスの着地点があるような気がします。
−−この3年間、地場産業といろいろお付き合いされて、現状いかがですか?
福嶋 中国で作らなければいけない日本の製品もいっぱいあるでしょうし、逆に地場産業の良さもみなさん気づかれていると思います。地場産業といっても、うまくいっている会社もあれば、後継ぎ問題などを抱えているところも多々あります。やはり若い世代が入っていかないと、途絶えてしまう危機感もあります。
実際、さまざまな国内外の展示会で、地場産業のメーカーにご協力いただいて制作した商品をいくつか出展したのですが、日本の完成度の高い技術力に関心を持っていただける方がとても多いです。デザイナーはある種の営業マン的な動きですが、その場に持っていくことによって各産地のモノをアピールできればと思っています。
−−地場産業自身が、自分たちの価値や評価にもっと積極的に対応していければいいですね。最後に若いデザイナー、予備軍にメッセージをお願いします。
福嶋 早い段階でいろいろな経験をしておいた方がよいと思います。学校よりも現場で勉強した方が吸収率は高いです。いろいろなところにアンテナを張って、現場で学ぶこと、失敗することもいっぱいあるのですけれど。
人材的には、突き詰めてコレという特徴を持っている人も良いですけれど、総合的な見方ができるような勉強をしておいた方がよいと思います。大企業への就職であれば、自分の得意技があった方がよいかもしれませんが、中小企業になると、デザイナーとしていろいろな仕事が要求されますから。学校はプロダクト、Web、グラフィックと専門のジャンル分けで教えますが、プロダクトだけではなくて、幅広いスキルを若い段階で身に付けていたほうがいいんじゃないかなと思いますね。
−−福嶋さん自身もマルチプレーヤー的な資質に加え、プロデューサー的な目線もお持ちですね。本日はありがとうございました。
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