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新世代デザイナーのグランドデザイン


建築デザインの世界で最近よく耳にする「コンピュテーショナルデザイン」という言葉。
まだ新しい手法だが、いち早くそれを実践しているのがアンズスタジオだ。
今回はアンズスタジオの竹中氏、岡部氏にアンズスタジオの設立経緯や、
コンセプト、今後の展開などを聞いた。

竹内 稔
[プロフィール]
竹中 司:武蔵野美術大学 建築学科修士課程修了後、同大学助手、講師を経て、2005〜2008年ブリティッシュコロンビア大学 建築学科大学院 客員講師。2009年アンズスタジオ共同設立。豊橋技術科学大学 研究員、 人間・ロボット共生リサーチセンター 運営委員、日本建築学会 建築情報教育小委員会委員、日本建築学会 アルゴリズミックデザイン応用小委員会委員

岡部 文:ブリティッシュコロンビア大学建築学科先進建築学修士課程 首席修了。2009年アンズスタジオ共同設立。豊橋技術科学大学研究員。主な受賞に武蔵野美術大学優秀作品賞、JIA卒業設計コンクール長谷川逸子賞。建築と植物の新しい関係性を示唆した論文「Translating Serial Relations」で高い評価を受け、Merrick Architecture Graduating Prize 受賞、Governor General's Gold Medalにノミネート。

アンズスタジオ
http://www.ans-studio.com/


●アンズスタジオ設立前夜

−−まず、お2人がアンズスタジオを設立するまでの経緯を振り返っていただけますか? コンピュテーショナルデザイン事務所というのは新しい分野だと思います。

竹中:私は高校生の頃、クルマが大好きだったので自動車のデザイナーかエンジニアになりたかった。周りの友人たちはエンジニア志望が多かったのですが、私はデザイナーがいいかなと思い、デザインのことを調べ始めました。進路的には東京の美術系の大学が目標になってくるのですが、一方でデザインの難しさに興味が湧いてきます。例えば建築はあらゆる要素が集まった複雑なデザインです。そういったことに挑戦したくなってきたのが、そもそものスタートでした。どうせなら、たくさんの要素を取り込んだデザインをしたかった。建築ができれば、幅広い分野にも応用できるだろうと考え、大きなチャレンジに挑もうと思いました。

−−最初の段階から意匠のみならず、構造などエンジニア目線もお持ちだったわけですね。

竹中:それほどうまく理解できていたわけではなくて、ばらばらで複雑なものを解いていきたいという、パズルに向かうような気持ちで、美しいものを作りたいと思っていました。

−−やはり理系ですか?

竹中:コンピュータについては小学校の頃から触っていて、自分でゲームを作っていました。友だちがファミコンで遊んでいた頃に、自分は同じくらい面白いゲームを作ってやろうと(笑)。

ただそれが自分の職能になるとは思っていなくて、やはり空間や街の中の要素を取り込んだ、美しいデザインをしたかった。それはいまでも変わらないですね。目標に向かってどうやって解いていくかという行為がすごく楽しいです。

岡部:私はもともと山登りや、自然に触れるのが好きで、自然の形の裏にある、見えないアルゴリズムみたいなものを形にできないかという思いがあって、そういうところからデザインに入りました。

私はアンズスタジオではリサーチを担当しています。コンピュータでプログラミングを行っているので、プログラミングだけが重要に思われるのですけれど、その中にどういうパラメータを入れるかも大切です。例えば音楽ホールのデザインでしたら、音響のこういうパラメータを入れると面白い形になる、あるいは音響の研究をしている人がいるからこの人の考え方をデザインに取り入れようなど、そういったリサーチを行っています。

−−経歴を拝見するとお2人とも武蔵野美術大学卒業後、ブリティッシュコロンビア大学に行かれましたが、同級生だったのですか?

竹中:岡部とは武蔵野美術大学で一緒でした。武蔵野美術大学時代はデザインやどうやって形を作るかについて、彫刻や油絵の友だちとよく議論していました。1つの形はどうやって決まっていくのか? 彫刻家が作る形、建築家が作る形、これらの形にどういう意味があるのかにすごく興味を持っていました。

武蔵野美術大学卒業後、2005年から2008年まで、ブリティッシュコロンビア大学で教鞭を執る立場になるのですが、ここでは大学院の設計教育やデジタルデザインの授業を担当しました。武蔵野美術大学でも少し教えていて、そこではコンピュータおたくの先生という立ち位置だったのですが(笑)、ブリティッシュコロンビア大学には私の職能を活かせる講義がありました。プログラムをきちんと動かせて建築能力のある人という役割が求められていていたのです。北米には、そうした研究者のための学会もあります。そこで岡部と共同で取り組んだ研究論文が選考され、ハーバード大学で発表したのがアンズスタジオのはじまりです。

当時はとりわけコンピュータサイエンス、工学的なところを研究していました。アートのバックグラウンドはあったので、プログラミングでどのように形を描くか、そういった研究…コンピュテーショナルデザインの原型のようなことですね。ただ、まだそういった言葉はなかったですし、日本に戻ってきた2009年頃でもこの分野の説明は大変でした。

●コンピュテーショナルデザインとデザイナー

−−これまでのCADは、コンピュータを使っていてもデザインツールとして紙と鉛筆の延長線上にあると思うのですが、コンピュテーショナルデザインはデザインの道具として捉えるべきなのかどうか…かなり先行していますね。

岡部:みなさん誤解されている面もあると思うのですが、コンピュータはチューリングの時代から万能マシンです。コンピュータをどう使うかはユーザーに委ねられています。楽器もそうですが、上手い人が弾けば同じ楽器でも別次元の音を奏でます。現在は誰もがコンピュータを使うための道標としてアプリケーションソフトが用意されていますが、これはコンピュータライゼーション、つまり電子化の時代なんですね。Wordで文章を書いたりCADでモデリングしたり。でもこれは手で描いたものをデジタルに変換しただけなので同じです。単に置き換えなのです。

電子化の時代の次は何かというと、コンピュテーションになると思います。手の仕事を超えて、コンピュータでしか扱かえないことをユーザーが操るという領域です。トポロジーの考え方、形を形態としてとらえるのではなくて、丸も四角も同様に扱う状況を私たちが扱えるということです。それがコンピュテーションの世界だと思います。

コンピュータライゼーション時代を踏まえてのコンピュテーションですから、手の仕事からずーと延長して、超越して、自分なりの道具を作り上げるということだと思います。

デザインの世界においても、CADなどのアプリケーションの時代とは異なり、自分で道具を作り出さなければいけない。ただその環境が昔より柔軟になっていて、異分野と自由に融合できるコンピュータコミュニケーションのステージが整っています。それがコンピュテーションの大きな特徴だと思います。まだスタート元年に近いですけれど。

−−コンピュテーションも人間にとっての道具の1つということですね。CADより一歩進んだ環境といいますか。

竹中:そうですね、開発の準備は整ったので、これから新しい道具をみんなで作っていかなければいけない。

岡部:いままでは、誰かが作ったCAD、誰かが作ったアルゴリズムですべてのデザインを行ってきましたが、コンピュテーショナルデザインになれば、プロジェクトごとにその人のための道具を作ります。それは昔の宮大工が、建物ごとにいっぱい道具を揃えているのと同じです。人と道具の自然な関係が生まれると思います。また、デジタルファブリケーションによって、設計の最初の段階から、マテリアルとすごく近い対話ができます。

竹中:何故、我々が産業用ロボットに注目しているかというと、ロボットはフィジカルなユニバーサルマシンで、買ってきただけでは6軸の関節が回るだけで何もできない。そこに息を吹き込んで何をさせるか、を自分たちなりに組み上げなければならない。我々が書き上げたデザインのためのプログラムと、それを制作するためのロボットプログラムがつながって、はじめて専用の道具になるわけです。次世代のツールとして完成する。「ビット」側のツールと「アトム」側のツール、この2つを作らなければコンピュテーションの世界は成立しません。そして私たちは、デザイナーの創造を実現するための道具を作る職能なんです。

−−アンズスタジオの資料を拝見すると3つのキーワードがあり「コンピュテーション」と「ファブリケーション」の間に「オプティマイゼーション」がありますね。これはどういう位置づけなのでしょうか。

竹中:コンピュテーショナルデザインの特徴はコラボレーションから生まれてきます。先ほどお話した音響ホールの建築の場合、プロジェクトには建築家、クライアント、音響家、多くの人たちが関わります。彼らのさまざまな意見に加え、構造、施工、費用の面でもオプティマイゼーションしなければいけない。そこで、我々のような中間をつなぐ職能が必要なのです。プロジェクトのために制作したプログラムの中に、さまざまな要素をパラメトリックに入れます。恣意性も評価としては重要です。クライアントがイヤだと言えば、どんなに最適化しても成り立たなくなりますから、好きか嫌いかは二項対立の中で最大限のオプションになるんですね。

岡部:ですから、どのようなイメージが求められているかを予測して設計しておかないと、オプティマイゼーションできないです。また、チームメンバーが変われば、オプティマイゼーションの答えはどんどん変わっていきます。

よく、コンピュテーショナルデザインはコンピュータが自動で答えを出すものと思われるのですが、そうではなくて、従来のデザイン作業に近いと思います。より効率的ですが、、、。

−−意匠の話ですが、コンピュテーショナルデザインでは、プログラムを作ってパラメータを入れれば形が出てくると思いますが、それと頭の中で漠然と持っていたイメージがかけ離れる場合などありますか。

竹中:我々が訓練したのは形を見ないということなんです。意匠の裏にあるルールや動き、関わっている人々の個性を見ながらつなぐ職能ですから。形態というアウトプットは一連の流れの一部でしかないのです。コラボレーションで集まったメンバーと予算が決まっていて、そこでプロジェクトをどういう風につなぎ合わせれば、最適化されたアウトプットが出せるかを見て作業しています。私たちは完成したモノの形ではなく、モノを作る仕組みを「デザイン」と呼んでいます。

岡部:コンピュテーショナルデザインでは、人が加わったり、誰かが1つ意見を言うたびに形はどんどん変わってきます。こういう風なデザインがコンピュテーショナルデザインだと思っています。モノ作りの根本をきちんと押さえたテクノロジーなんだと思います。

−−デザイナーはこれまでも、クライアントやチームの声を聞いて形にまとめ上げてきていると思います。違うとしたら人が線を引くか、コンピュータが生成するかだけかもしれませんが、コンピュテーショナルデザインの場合、デザイナーの個性というのはどのようにお考えですか?

竹中:1人の作家として作るのはよいと思いますが、作家性が強ければ強いほど、コラボレーションでモノ作りしましょうというのは空論になってしまう。

私たちは、コラボレーションでモノ作りを行うには、どういう方法が必要かを考えました。美大で作家教育を受けていますが、我々の考える作家性は、モノ作りの背後にあるルールを作るところに求めています。

岡部:例えば画家は絵を描くときに、目の前のものを描くのではなく、ものの裏側にあるものを描く。そうした行為と似ています。

竹中:作家性については、同じなんだと思います。私たちは、作家性を最終的なアウトプットに求めていない作家なのかもしれません。

−−コンピュテーショナルデザインが一般的になってきた場合、アンズスタジオの個性、独自性というのはどこにありますか?

竹中: 2009年にアンズスタジオを設立するとき、一番好きな言葉ですが「Contribution(貢献)」を念頭に置きました。例えば、日本の建築系の大学では建築士の資格を得るためにみんな同じ専門教育を受けます。海外の大学では、コンピュータサイエンス、経済学、心理学などさまざまな学問を学んだ学生が、さらに興味持って建築学を学びます。日本との大きな違いは、学んだ能力を社会に対してどういう貢献ができるのかを考える場が、大学なのです。ですから新しい職能がたくさん出てきます。それが社会の中できちっと歯車が回る役割を担うと、大きな会社に育っていきます。それが本来の教育と職能だと思います。

まだ日本は少し遅れていますが、北米やヨーロッパの大学はそうですけれど、これからの世代は、ダブルディグリー制度があって、2つの学問を同時に学べます。1つの大学でいくつかの学問を同時に取得できるように大学も変わってきています。そうなると、分野の枠組みにとらわれず、社会の貢献できる新しい役割を探しだす機会が増えてくると思います。

岡部:私たちも当初、一般的な設計事務所、デザイン事務所を立ち上げることを考えていたのですけれど、そうではなく、自分の能力を活かし社会に貢献するには、個々の分野をつなぐ職能、仕組みを作るデザイナーの役割を担いたいと考えました。そうすれば世の中に少しでも、新しいモノの作り方や既存のツールではできずに悩みを抱えている状況に貢献できるのではないか。

日本ではデザイナーの地位は非常に低いです。デザイナーの地位をちゃんと作り出す社会の仕組みも作っていかなければいけない。そういうアクションをそろそろやっていく時代なのではないかと思います。

アンズスタジオは難しい問題を解決していく技術集団を目指しています。

−−コンピュテーショナルデザインには、自然の解析というか、プログラムによる自然の創造的なアプローチも感じます。特に構造解析などは自然のシミュレーションを意識されているような。

岡部:自然は永遠のテーマだと思います。これは本当に不思議な感覚ですが、人間が持っている技術や能力は多くの自然から学んでいます。そして人間は、まだまだぜんぜん自然界のことを分かっていません。細胞1つにしても、宇宙のこと関しても、謎は深まるばかりです。

竹中:自分たちが経験したことは好奇心に変わっていきます。一番身近な環境から学ぶということが本質なのではないでしょうか。それを自分の中で解釈し扱える能力なんとか身に付けたいというのは人間の目標でもあり真理でもあります。ですからあらゆる道具や技術を使って少しでも近づきたい。

これまでの有名な建築の多くの形状が変な形になっているのも、そういうことの現れだったりします。経済がよいときは少しでもチャレンジしたいということだと思います(笑)。

−−影響を受けた建築家はいらっしゃいますか?

岡部:建築家で1人挙げるとしたらフランク・ゲーリー(Frank Owen Gehry)です。圧倒的に建築を違う面から作っていった方でアーティストですね。彼のデザインを実現する技術だけを作っていったゲーリーテクノロジーという会社があって、今の私たちと同じような仕事をされているのですけれど、そういう面からもフランク・ゲーリーにはすごく影響を受けています。

竹中:私は、世界中を旅して実際に見ていいなと思った建築は、北欧だとアルヴァ・アールト(Alvar Aalto)。周りの環境を融合していて素材の使われ方もすごくいいと思いました。最近では表参道のプラダ青山店などを手がけたヘルツォーク&ド・ムーロンです。外観のガラスを特注で作っていまして、建築の法規の中にある形状を美しく描いています。素材をよく理解して、場所に合わせながら作っているところが素晴らしいです。

あとはピーター・ズントー(Peter Zumthor)というスイスの建築家。そこにある石を積み上げてモダニズムと組み合わせたような温泉の建物を作ったり、木の皮をはいで教会を作ったり、地産地消ですよね。地域の力を組み合わせて活動されている、そういったデザインのアプローチにはすごく興味があります。実際に訪れてみて本当に美しいなと感じました。

−−地元の環境にあるからこそ美しい? 建築物における美は絶対的なものではなく環境的なものなのでしょうか?

岡部:そうだと思いますね。時間、場所のマッチング、とりわけ周りからくるエッセンスの影響ですね。モノというのは周りの光と影で浮かび上がらせています。ですから朝、夕方、夜では見え方が変わってきます。そこを意識すると美しさをもっと豊かに感じることがあります。

[1] [2]


話を聞いたアンズスタジオの竹中 司氏


同じく岡部 文氏

 

折り紙と音響最適化プログラム
「折り紙と音響最適化プログラム」による嬉野市社会文化会館 折り紙ホールのデザイン。形態デザインと音響解析を相互に探りながら、 音とカタチの関係性を紐解く。(クリックで拡大)




嬉野市社会文化会館 折り紙ホール
建築設計:末光弘和+末光陽子/SUEP.


建築xロボットファブリケーション
「ロボット施工+プログラム」による東京大学 DFLパビリオン 2013。次世代型のロボット建築施工プロジェクト。プログラミングで産業用ロボットを巧みに操り、0.5mmの薄いステンレス板を重ね合わせ、鉄の風船を実現。(クリックで拡大)




東京大学 DFLパビリオン 2013
建築設計:東京大学 DFL 小渕祐介研究室


穴あけプログラム
「穴あけプログラム」によるデジタルファブリケーション。伝統的な木加工の技術、金属加工技術などの職人たちの高い経験値と最新のテクノロジーを融合。デザインから生産工程までのプロセスをつなぐ新しいモノ作りの「しくみ」を実践。(クリックで拡大)







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