●プルーフオブギルドのワークフロー
−−ジュエリーというのはある意味超アナログな世界ですが、竹内さんはどちらかというとCADは否定派ですか?
竹内:否定派というよりは、肯定派です。アドビのソフトで印刷物を作りますし、Webサイトも運営しています。ただ自分たちの場合は、なんでもCAD頼みはよくないかな、という考えが基本的にあります。コンピュータで作ったものをもう一度自分の手で直していくのであればよいと思いますし、どちらかに偏りすぎずに上手い使い方ができていればよいと思います。
−−CADを道具の1つとして利用できているかということですね。では、竹内さんのワークフローを順におたずねします。最初はスケッチを描くのですか?
竹内:たくさんは描きませんね。まったく描かないこともあります。
−−ではどうやって形にされていくかを教えてください。
竹内:例えば「Hand & Hand」というフラワーベースですが、もともとバラバラの指輪入れに指輪を載せてディスプレイしていたのを、まとめて持って移動させたときに「まとめると結構かわいいな」とふと思ったのがきっかけです。お花の仕事もしていたので、花瓶的なイメージにすぐに結びつきました。
そして、形がイメージできたら、あまり躊躇することなく1つずつパーツを削っていきます。最初に形を全部決めてしまうのではなくて、ある場所を彫ったときにその先はこういうふうにつながっていく…というように形を追っていくように作ります。かなり感覚的ですが、そうして削り出していった後にこの花瓶の形は完成しました。
−−手で直接いくわけですね?(笑)
竹内:直接いきます(笑)。スケッチはとても大切ですが、平面に描いたシミュレーションを忠実に作ることはほとんどありません。立体に起こしていくときのバランス感で形を作っていくというのが一番理想的な形に近いですね。それが手で作る良さなのだと僕は思います。
−−カチッとした全体像が最初にあるわけではないのですね。
竹内:頭にあるイメージを手でダイレクトに形にしていく感じです。
−−すごいですね。素材は何で作るのですか?
竹内:最初、木で削りましたが、磁器用の型をとるときに水を吸って木目が出てしまったので、次は石膏で原型を彫りました。
−−そういったモノ作りのアプローチはジュエリーも同じですか?
竹内:ジュエリーも含めて同じですね。例えばカトラリー「BREAKFAST SET」も、根元の部分を感覚で削り出して、先の方は金属を叩いてバターナイフみたいにしようとイメージしたときに、なんとなく頭の中ではこういう工程を経ていけばいいだろうと思い描いているので後は作業していくという感じでしょうか。
−−ワークフローというより1フローですね。
竹内:だから、何かに引っ掛かって傷がついてしまったということでもなければほとんど大丈夫です。
−−作品の構想は頭の中でいろいろ熟成させるのですか?
竹内:作りたいものはまだまだいっぱいあるので、そういうアイデアの素をとりあえずまとめておいて、同時に量産しやすくする方法をすごく考えます。
例えば量産型のスプーン「White Spoon」の場合、もともと金属のスプーンを作っていたのですが、この形を金属で作るには手間が掛かるので高価なものになってしまっていました。そこで磁器に落とし込むことにしました。コストの課題をクリアしつつも、れんげのように優しい口当たりの洋食向きのスプーンが完成しました。
−−「White Spoon」はセラミックですが、原型は木型ですか?
竹内:蝋(ろう:ワックス)で原型を作ってそこから型をとっています。
−−原型まではご自分で作って実際の量産工程は工場に依頼しているのですか?
竹内:はい、そうです。
●他メーカーとのコラボレーションも
−−現在はジュエリー系とプロダクト系だと、ビジネス的にはプロダクトの方が大きいのですか?
竹内:半々くらいでしょうか。
−−ジュエリーもオープン当時はユーザーさんから「こういうのを作って欲しい」というリクエストが多かったそうですが、今では竹内さんのテイストで作って欲しいという依頼が増えているのではないですか?
竹内:はい、やっていて良かったなと思いますね。
−−デザイナーとして、今後は他にこんなものを作りたいという対象はありますか?
竹内:今までは自分たちで企画して、商品の型を作って生産をお願いできるところを見つけて、在庫を抱えながら販売先を見つけて…と、すべてを自分たちでやっていました。
ただ、それだけですと自分たちの仕事の範囲を狭めてしまうので、今後はだんだんと幅を広げていきたいと思っています。そうした思いもあって、見本市「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング 2013」に出展しました。
−−今まではセルフプロダクトだったけど、今後はメーカーとのコラボレーションももっとやっていきたいということですね。
竹内:現在数社とプロダクトの開発が進んでいますが、そうした仕事を通して今までの自分たちだけでは実現しなかったものも追求することができるので魅力を感じています。「こういうものを作ってみたい」というお題をいただければ、ぜひ。
−−ジュエリー、日用品だけではなく、家電や家具などに興味はありますか?
竹内:家電も家具もやってみたいですし、時計も作ってみたいなと思います。
−−時計は存在的にジュエリーと近いですよね。
竹内:はい、でも時計の場合は動力部分も重要になってくるので、セルフプロダクトとしての展開を考えると、現在の私たちの生産背景では、開発は難しいところですね。
−−時計などは中のムーブメントとの一体化になってきますからね。
竹内:メーカーや工場の方々と恊働でものを作ることで、新たに挑戦できる世界が広がります。
アイデアを原型から自分たちの手で起こすことができる、これが私たちの強みだと思います。
−−そこまでできるデザイナーさんは周りにあまりいないのではないですか?
あまりデザイナーの知り合いがいませんが…先人の、偉大なデザイナーたちは皆そうだったのではないでしょうか。人の手に近いところで生まれるかたちは優しく、美しいです。手で考えることの大切さを忘れなければ、良い結果をもたらしてくれるはずだと信じています。
−−そこがPROOF OF GUILDの強みでしょうね。実際、こうして実物を拝見していると、存在感がありますし、ちょっとしたカーブや凹み、歪みなどの曲面は、CGでは出しにくいと思います。
竹内:シンメトリーのようでシンメトリーじゃないという佇まいが、かたちに親しみを感じさせると思います。木も金属も石工も、自分で削って型を起こすというデザイナーは周りにあまりいなかったので、製造現場の方々にも珍しがられました。
−−そうかもしれませんね。
竹内:磁器の経験50年以上の職人さんに「自分で彫った型を持ち込むなんて珍しいな」と驚かれました。磁器のデザイナーですら自分で原型を彫って持ち込むことはあまりなくて、図面を描いて原型師さんに彫ってもらうみたいです。
−−他人が原型を作る段階で共同作業となり、100%1人のイメージではなくなりますからね。
竹内:そうなのです、どうしても別の人の手くせが加わってしまう。
−−結局はデザイナーさんがそれを許容するかということですよね。逆に言えば、それがコラボレーションの良いところでもあります。
竹内:たとえば洋服の場合でも、パタンナーとの相性が良くないと出来が良くならないと聞きます。職人さんとの相性というか、この人に自分のイメージを伝えたら良い形で表現してくれる、という組み合わせができている人たちは良いですけどね。
−−職人さん自身がデザイナーさんの意図を超える腕を持っている場合が一番幸せですよね。
竹内:…そうなるともっと面白いですね。
●職人の面白さに気付いてほしい
−−最後に、日本のプロダクトデザインを取り巻く状況を踏まえ、日本の若いデザイナーさんへの言葉をいただきたいと思います。
竹内:僕もまだそんな大きいことを語れるほど大きい仕事をしているわけではないのですが(笑)、職人の現場に行くたびに、みなさん後継者不足に悩んでおられます。作家として自分で表現する人は増えていると思うのですが、表に出ない仕事に就く人はどんどん減っていて、そこをうまく盛り上げていけないものかと感じています。
−−華やかなクリエイターの世界にどうしても目がいってしまいがちですが、そういった表現を支えてくれる職人さんの世界が元気ありませんね。
竹内:職人の世界があまり知られていないだけだと思います。実際に飛び込んでみるとその面白さが分かって、案外向いているな、と思う人も少なくないかもしれませんよ。
自分の経験からも、外部の仕事を行いつつ自分の作家活動ができないことは絶対にないので、両立できる仕組みのビジネスモデルがあれば、今の若い世代もやろうと思うのではないのかなと思います。
−−誰かの表現を具体化する仕事が好きな人もたくさんいるはずです。
竹内:「業務を縮小します」「これは生産できなくなりました」という話をもう何度も聞きました。海外製造との価格競争に負けてしまい、買い叩かれている現状があるからたぶん辞めていくのだと思うのですが、そういう人々がもっと潤うような環境ができていくといいですよね。日本には誇りを持って確かな仕事をしている職人がたくさんいらっしゃいますから。
−−職人気質こそ、他国より優れた日本の優位性だと思います。最後に若いデザイナーさんへ言葉をいただけますか。
竹内:手を動かしてものを作るということをぜひ実際にやってみてほしいです。自分の表現したいものを手を動かしてモノ作りをしていくというのは、僕はこれからも変わらずにとても大切なことだと思います。それができてこそ、もっと先にいけるのではないかと思います。
−−ありがとうございました。
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