Part2
いよいよ登場したロボット掃除機と
成長続けるコードレスクリーナー
●ロボット掃除機「Dyson 360 Eye」
−−「Dyson 360 Eye」は駆動部にキャタピラが使われているのが特徴ですが、ロボット掃除機にキャタピラを搭載するのは技術的にいかがでしたか?
マーティン:まず、素材を決めるのが難しかったです。さまざまな素材を試して、ゴム製のタイプに決めました。キャタピラは、分厚いラグでも掃除できるようにと考えて搭載したものなので、敷居を乗り越えるといったことよりも、プラスチックの車輪だと、片方が床で片方がラグなどの場合、滑って動かなくなってしまう、そういう場合でも均等に動けるように、というような状態を想定していました。
−−掃除用のヘッド部分は、ハンディ掃除機のものとは異なりますか?
マーティン:一番の違いは、黒いカーボンファイバーの部分です。これは細かいゴミをかき出す必要から、1つ前のモーターヘッドに近いヘッドを採用しています。フラッフィのヘッドが付いたロボットも面白そうですが、外出している時に細かいところをキレイにして欲しいというロボットの使い方と、目に付くゴミを素早くキレイにしたいというハンディ掃除機では、使用シーンが違うので、ヘッドもそれに合わせて採用しています。
−−「Dyson 360 Eye」は背の高さが印象的ですが、この高さは必然だったのでしょうか。
マーティン:サイクロンテクノロジーを採用するには、空気の経路を確保するため、どうしてもこの高さが必要でした。結局、高さを取るか吸引力を取るかという問題ですね。実際、お客様からは、ベッドの下に入る低いタイプの要望もあったのですが、それよりも、幅を小さくすることで椅子や家具の間を、よりキレイに掃除できる方を選択しました。また、裏を見てもらえると分かるように、ヘッドが円の幅より出っ張っています。そのため、部屋の隅なども掃除しやすくなっています。
−−配色や形状は、どのように決定されるのですか?
マーティン:創業者の姿勢でもあるのですが、私たちは、私たちのテクノロジーをデザインや色で表現したいと考えています。親しみやすい色よりも、機能を表す色を使うことが多いですね。また、カメラ部分などテクノロジーが集約している部分にテーマカラーを置くことが多いです。
−−中央にカメラが付いていますが、これは独自開発の360°ビジョンシステムのためのものですよね。
マーティン:カメラは「Dyson 360 Eye」が自分の位置を知るために使われています。カメラと三角法を駆使して自機の位置を認識するために、45度の角度で周囲を見ています。このカメラで障害物を見分けているのでは? と思われる方もいらっしゃいますが、障害物などは前方にある左右各4個つの赤外線センサーで障害物の認識と落下防止を担当しています。カメラで認識をしたデータは学習するのではなく、1回1回リフレッシュされます。なので、光の具合などによって、同じ動きをするわけではありません。
ターゲット(三角法の目印)などの設定は不要で、空間の中で自分で探して動くようになっています。目視をして動いているのと同じ状態なので、暗闇は苦手です。ただ、どこをどう動いたかのデータは5回分までアプリに保存されますから、掃除の状況を確認することができます。それを使えば、ロボットに掃除してもらって、帰宅後に、ロボットが掃除できなかった部分を確認して、自分で掃除するといった使い方もできます。
−−アプリなしでも使えますか?
マーティン:アプリでできるのは、掃除履歴の確認、リモコン、スケジュールの予約といったところなので、なくても掃除するのに問題ありません。ただ、外出先から予約できたり、トラブルシューティングの機能もあって、何かが引っ掛かって動かないといった場合、どこに問題があるかといった表示もしてくれますから、便利に使っていただけると思います。ただアプリを使用するには、Wi-Fi設定が必要です。
−−ルンバとの差別化は考えられたのですか?
マーティン:ロボット掃除機の開発は17年前から行っていますから、それほど意識したということはありません。掃除機メーカーからとロボットメーカーから、たまたま、同じような時期にロボット掃除機が出てきた、という感じですね。
ダイソンはきちんと吸う掃除機が自走する、という感じで、他社はロボット技術の上に掃除機を載せたということだと思います。それで似たような部分もあるとは思うのですが、ダイソンの場合は、360 eyeというカメラを中心に据えて、そこにきちんと吸う掃除機という部分でサイクロンの技術を搭載したということですね。また、モーターも自社開発の、他の掃除機で吸引力の実績を積んだものがあるのですが、そのモーターもロボット掃除機に搭載できるものが作れるようになったということもあります。
そういったさまざまな要素が組み合わさって、ダイソン製品として自信を持って出せる製品ができたのが2015年の秋ということです。掃除機メーカーとして今まで培ってきた知見や、さまざまな掃除機の特許技術を、この小さなボディに凝縮できたと思っています。
−−ロボット型掃除機にダイソンはどういう可能性を見ているのでしょう。
マーティン:これは、ダイソン製品全体に共通する、日常生活の中の問題をエンジニアリングやテクノロジーでどう解決していくか、ということだと思います。ライフスタイルが多様化していて、週末にまとめてお掃除が、コードレスの掃除機によってお掃除の頻度が上がったり、といっきちんと掃除をしていく上で、効率的にかつきれいにお掃除ができるオプションの1つと考えています。
●コードレスクリーナー「Dyson V6 Fluffy+」
−−従来製品と、V6 Fluffy+の違いはどこなんでしょう。
マーティン:このFluffy+のヘッド自体は2012年に出ているものですが、2015年5月、V6 Fluffyという名前で出した製品の新しいところは、このポストモーターフィルターの搭載です。それまでのコードレス掃除機は0.5ミクロンのものを9割以上取っていたので、そもそも排気はきれいだったんですけど、製品の構造上、排気口が動かす人に近いところにあるんですよね。それできれい汚いではなく、気になるという方も多かったんです。そこで、よりきれいな排気をということで、フィルターを噛ませて、0.3ミクロンのものを99.97%捉えることができるようになりました。またバッテリーやモーターの微調整、Fluffy+ヘッドがきちんと動くようなモーターの調整といった最適化も行っています。
−−Fluffy+に採用されているクリーナーヘッドの特徴を教えてください。
マーティン:床面との密着が強いと、細かいゴミは取りやすいのですが、大きなゴミが取りにくかったりします。逆に隙間が多いタイプは大きなゴミが取りやすい反面、細かいゴミは逃してしまいます。普通掃除機は、そのどちらかを選択するのですが、Fluffy+のヘッドは、密着してはいるものの、密着部分はフェルト製なので、大きなゴミも巻き込んで吸い込むことができるようになっているんです。
−−使用時の重さはどうでしょう。
マーティン:ダイソンの製品は手元に重心があります。他のメーカーさんは足下重心が多いので、最初は違和感があるのかもしれません。ただ、手元重心なのでアタッチメントを付けての、天井などの高いところの掃除などは、むしろ楽に使えるのではないかと思います。
またトリガー方式なので、使う時だけ動かすというスタイルに慣れない人も多いようです。お子さんなどは、戦隊ものの武器のような感覚で直観的に使ってもらえているようです。例えば、赤いところを動かすと何らかのアクションがあるというように作られていたりと、機能を分かりやすく伝えるデザインを心がけています。
−−バッテリーが交換式ではないのは理由があるのでしょうか。
マーティン:ダイソンの掃除機は空気の流れを安定させたり、ゴミが変なところに流れたりしないように、気密性がとても高いです。そのため分解がしにくい構造になっています。そういう意味でも、内部はなるべく触れないように、バッテリーも簡単に取り外せるようになっていません。
−−すでに完成度の高い製品ですが、ダイソンは今後どのように進化させようと考えているのでしょう。
マーティン:前のサイクロンは1層で、今は2層になっているんです。ただ、それを実現するためには、モーターから作り直しているんです。そんな風に、パッと見はマイナーチェンジのようでも、大きな技術が必要なんです。ヘッドの多様性もまだ追求していくでしょう。
昨秋に、米国のバッテリースタートアップ企業、「Sakti3」を買収したんです。これでモーターだけでなくバッテリー開発へも注力していきます。今現在、リチウム電池が主流ですが、そのリチウム電池の寿命をどう延ばすかといった研究をしていた会社を買収したわけで、まだまだ、進化しそうです。
ダイソンは、このモーターとバッテリーという二軸を中心にしたテクノロジーカンパニーとして、日常生活の問題解決ができる製品開発を行っていくのだと思います。それはコンシューマー製品だけとは限りません。公共のものなども含めて、元々あったものを違う視点で捉えて提案していくというですね。
−−ダイソンのエンジニアは2,000人以上ということでしたが、デザイナーはどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
マーティン:ダイソンにはデザイナーはいません。エンジニアがデザインも行える「デザインエンジニア」です。例えばロボット掃除機の時に、サイクロンをどうロボットに組み込むか、その場合の最適なパッケージは何か、という流れで考えていくので、両方の能力が必要なんですね。
もちろん、デザイナーが工学を学んだというケースも、工学からデザインに行ったというケースもありますが、基本的にデザイナーは全員エンジニアなんです。イギリスでは、デザインエンジニアになるための勉強がしやすい環境が整っています。デザインエンジニアの学位を取るための仕組みがあるんですね。
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