Part1
空気清浄機能付ファンヒーター、加湿器など
充実してきたダイソンの空調家電
●空気清浄機能付ファンヒーター「Dyson Pure Hot+Cool」
−−ダイソンの空調家電のシリーズは、最初、「羽根のない扇風機」という形で登場しましたね。
マーティン;「羽根がない」という部分がクローズアップされましたが、元々は、扇風機の風にはムラがあるという問題を解決する製品として発売されました。以前から開発していたハンドドライヤー「Airblade」の勢いのある風を出す技術を応用して、下から周りの空気を吸い込んで、細い穴から勢い良く風を出すという構造で、そのために「外部に羽根のない形」になったわけです。
−−この形状で、スポット的にも部屋全体にも風を送ることができる技術というのは、どういうものなんでしょう。
マーティン:風は、円形部分の手前の開口部と奥の開口部、両方から出るようになっています。それぞれ、風が出る角度が違うので目的に合わせて風が当たる範囲を変えることができます。「フォーカスモード」では、奥の開口部から集中的に風を生み出します。部屋全体に幅広く空気が送る「ワイドモード」の場合は2つの開口部から空気が送り出され、2つの気流が合流し広角に定められた傾斜に有意されることでパワフルかつ幅の広い空気の流れが生まれます。これはエア・マルチサプライヤー機能の中心技術です。
−−風の質は、ムラのない自然な風と勢いのある風どちらも実現しているのですね。
マーティン:そうですね、ムラがない均一な風を送るということです。周りの風も巻き込んでちょうど流れるプールのように、風を送っているんです。この、従来の製品が解決できていない問題を解決する、というのはダイソンの製品全体の開発意図です。
−−空気清浄機の機能は、従来の製品に対してどんな問題を解決しようとされたんでしょう。
マーティン:通常の空気清浄機は、いかに速く空気をキレイにするか、という方式が多いのですが、調べてみると、とても小さなもの、例えばPM0.1サイズのような超微小粒子状有害物質は取り切れていない場合もありました。PM2.5などは馴染みがあると思いますが、PM0.1まで取れるメリットは、あまり知られていないかもしれません。PM0.1のようなとても細かい物質は、肺の奥まで届いてしまう恐れがあります。PM0.1を99.95%まで取るぞ、という考えが、空気清浄機開発の基本にありました。
−−その実現のための技術は、どのようなものだったのでしょう。
マーティン:PM0.1を99.95%取る、という時に、まず考えられるのはフィルターの目を細かくすることです。ただ、私たちは、空気清浄機としてだけでなく、扇風機としての機能も保持したかった。例えば、あまりにも細かい目のフィルターになってしまうと、空気を吸い込む量が減ってしまい、扇風機として機能しなくなってしまいます。
扇風機と空気清浄機のどちらの機能もフルに発揮できるようにする、というのが一番の課題でした。それで、まず、多くの空気清浄機のような、四角い平面的なフィルターでなく、360度の円柱状のフィルターが付いているというのが、この製品の特徴になっています。360度、周囲全部の空気を吸うというエア・マルチサプライヤーの技術は、扇風機に搭載していましたから、それを使うことで、どこに置いても、周囲の空気を吸い込むことができます。
また、フィルターを外していただくと分かるように、プリーツ状になっています。これはHEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filterの略)というもので、「定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルター」という規格のものです。これを333回折ってプリーツ状にしたものを使っています。元々、細かい粒子が取り除けるHEPAフィルターを折って層にすることで、より細かい粒子が取れるようにしたんですね。
−−フィルターは交換式ですか?
マーティン:はい、定期的な掃除は必要なく、フィルターごと交換していただきます。目安としては1日12時間使用で1年に1回交換していただくようになっています。
−−このフィルターの選択によって、扇風機との機能の両立になっているのですか。
マーティン:HEPAフィルターより目が細かいULPAフィルターという規格もあるんですが、そこまで目が細かいと空気を吸い込まなくなります。プリーツ状にすると、目の大きさが細かくなるわけではないんですけど、表面積が増えるので、その分浮遊している有害物質もキャプチャできます。
−−モーターやファンの技術は従来の扇風機と同じですか?
マーティン:はい、その部分は同じです。このエア・マルチサプライヤーの技術を、いかに最大化していくかというのが、私たちの空調家電製品開発の使命になっていますね。
−−ヒーターと加湿器は両方使うことが多いと思うのですが、今回、その組み合わせはないんですね。
マーティン:その要望は多いですね。
−−空調家電としては、現在、デザインがほぼ統一されていますが、それは、エア・マルチサプライヤーの機能を発揮できるデザインとして、今のところ、この円形が最適だということでしょうか。
マーティン:そうですね。最初は丸形、最近の製品は縦長になっています。その2つの形ですね。風を正しく送るためには、この形状が良いようです。ファンヒーター機能が付いているHot+Coolには、楕円の縦長の部分に風を温めるセラミックヒーターが入っているのですが、このセラミックヒーターが直線なんです。それで、円形にはできなかった。後は、あまり大きくならないように、ということも考えています。サイズは床面積で決めています。30分で8畳の部屋の空気をキレイにできる、という基準で考えました。
−−送風口の長さは風量に影響するんですか?
マーティン:それは、あまり影響しません。ただ、ファンヒーターの場合、ヒーターが長いと、熱伝導率が悪くなるので、短めに作っています。あと、大きいヒーターを使うと消費電力量も大きくなってしまいます。
●加湿器「Dyson Hygienic Mist」
−−加湿器は、見た目はファンヒーターと似ていますが、中は全然違いますね。
マーティン:そうですね。内部には水を入れるタンクがありますし。スイッチを入れると、まず、このタンクの水をUVライトで除菌します。水の中のバクテリアを99.9%除菌できます。
−−加湿方法には、沸騰式、超音波式などがありますが、ダイソンが超音波式を採用したのは何故でしょう。
マーティン:沸騰式は衛生的ではありますが常にお湯を沸かしているような状態で、電気代がかかります。それぞれに一長一短があり、その中で、衛生面に問題があると思われがちな超音波式でも水分中のバクテリアが除菌できれば、良い加湿器ができるのはないかとダイソンでは考えました。消費電力も抑えることができます。また、フィルターなども使っていないので、加湿器自体がバクテリアを繁殖させる場になるようなこともありません。除菌した水を、そのままミストにすることができるわけです。
−−この加湿器で、ダイソンが解決しようとした課題は、衛生的な超音波式加湿器を作るということだったんですね。
マーティン:はい、元々、加湿器は健康のために使われると思います。ところが、これまでの超音波式の加湿器はバクテリアを放出している。それでは加湿器として正しくないのではないかと考えました。方式ごとに一長一短ある中で、私たちが現在持っている技術で最高のものをと考えた時に、この選択になりました。
−−この製品も、エア・マルチサプライヤーの技術を使っているんですか?
マーティン:はい。水を入れなければ、そのまま扇風機としてお使いいただけます。といっても、タンクがありますから首振り機能や角度を変える機能はありません。一方向だけに送風する形でのご使用になります。もちろん、風量に関しては扇風機と同じです。風は風の出る穴、ミストはミストの出る穴があって、ミストを風で飛ばす仕組みですね。それで、ファンヒーター同様、部屋全体に風を送って加湿することができます。
よく、加湿器を使っていて、結露したり、部屋の一部にカビが生えたりと、ムラのある加湿に悩まされることもあると思うのですが、この加湿器は、扇風機で培ったエア・マルチサプライヤー技術の搭載で、勢いのある風をムラなく送りますから、部屋を均一に加湿することができるんです。またオートモードにすると、室温に最適な湿度をコントロールするので、加湿しすぎる心配はありません。
−−加湿能力はどのくらいですか?
マーティン:最大8畳。1回の吸水で最長18時間、使用できます。
−−この加湿器の静音設計というのは、どのような仕組みなのですか?
マーティン:従来のダイソンの扇風機やファンヒーターは、モーター音や風が乱気流となり騒音になっているんですね。それで、モーターから上に空気が上がる、その経路をシンプルにすることで、風がスムーズに通るようになって、風が通る音が小さくなりました。また、モーターそのものも、より性能がよくなり、従来に比べて静音化しています。こういう細かい技術がいろいろと組み合わさっています。
−−なるほど、扇風機も、前の網を外すだけで音が小さくなります。この技術は、ほかのエア・マルチサプライヤー搭載製品にも使われているんですか?
マーティン:はい。そうです。
−−ところで、加湿器、空気清浄機、ファンヒーター、扇風機が全部付いた製品は、作れるんでしょうか?
マーティン:ダイソンは世界に6,000名ほどの社員がいて、その内2,000人以上が技術者です。元々、創業者のジェームズ・ダイソン自ら、5,000台の試作品を作って、掃除機を開発したというヒストリーがあるので、革新的な技術というのが、ダイソンの財産なんです。その技術者たちが何百ものプロジェクトを同時に進めているんで、私たちの想像を超えるようなものが、今も作られているかも知れません。
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