●古くて新しい家電メーカー
−−なるほど、UPQは古くて新しい、ということかも知れません。市場が飽和状態ということは、そこにはなにもない、フラットな状況という言い方もできるかもしれません。大企業がもがく中で、新世代の作り手たちが生まれつつあり、中澤さんはそのフロントランナーのように思います。
中澤:新しい動きはみなさん考えていると思います。
iPhoneが出てきた頃からITだ、Webだ、アプリの時代だといった風潮になり、プロダクト、ハードウェアのビジネスが見えにくくなってきました。昭和のモノ作りの楽しい時期を経験していたメーカーの先輩たちも、モノ作りの魅力や面白さを失いかけていきました。
私はカシオには5年しかいなかったのですが、半分以上は苦しい思いをしてきました。そこでプロマネとしてモノ作りの魅力も学びました。ですから、まだこれからもアプローチ次第でモノ作りの楽しさを味わえるのではないかと思っています。
私が若いから、楽観視できているのかもしれません。「そんな簡単じゃないよ」と先輩たちは言うわけですけど、この国でモノ作りをできないのはおかしいじゃないですか。
−−あくまで製品、ハードにこだわりたい?
中澤:カシオを退社後、カフェを立ち上げたり、フリーランスで商品企画を行ってきました。家電メーカーではなく、飲食、衣料品、化粧品、アプリなどの商品企画もしてきました。そこで感じたのは、大企業の中の若手はその会社に入れたことでハッピー。そこで満足、頂点に達してしまっている。本気で企画してる人が少なかった。それは何かおかしいなと感じたんです。
では、私のやる気をどこにぶつければいいの? と。グーグル、アップルなどに席巻されて、向いてもない日本メーカーが同じ戦略に乗るようなビジネスに切り替えようと必死にもがく家電業界に戻るとか、IoTのスタートアップになるとか…いや、そこにいかなくてもいいんじゃないかと、踏ん張る人がいてもいいんじゃないか。
先輩たちが教えてくれたこと、昭和の時代から変わらぬモノ作りの魅力を大事にしながらも、私の時代の形に変えてやってみようと考えたわけです。
−−それを実行する若い世代がいなかったですね。
中澤:周りをみても私の世代で、同じことをできる人いないと思います。そもそも大手メーカーに入社してもモノ作りの全体を見せてもらえる環境、かつがむしゃらに走り回らせてもらえる環境には入れない世代でしたから。部署ごとに仕事が細分化されてシステマチックにモノ作りをしている時代にしか、社会人になれてないので。
私もカシオでモノ作り全体を見渡せる立場に放り込まれなければ、ぜんぜん違う人に育っていたかもしれません(笑)。
●これからの日本製品をプロデュース
−−新しい世代のデザイナーやエンジニア、あるいはデザインエンジニアと名乗るクリエイターも出てきていますが、中澤さんのような若手のプロデューサー的立場の人が不在なので、そこはもっと期待したいところです。
中澤:そうですね、デザイナーとエンジニアはもっと喧嘩しなければダメだと思います。それをデザインエンジニアという肩書きの人が、1人でバランスを保つのは結構難しいです。違う立場で言い合ってこそ、いいモノになる場合も多い。それをプロダクトマネジャーがジャッジする、そういう状況が一番必要だと思います。
プロダクトマネジャーは理系である必要はないです。私自身も文系です。そういった職能のある人たちを見つけて育てることが、今の時代必要だと思います。
−−例えば、携帯電話や掃除機など、どんどん海外勢が入ってきていて、それはそれでいいのですが、一方で日本発のモダンな目線のモノ作りにももっと期待したいです。
中澤:UPQでは、いろいろな国の人たちと話をしてモノを作っているわけですが、日本人である私が作るものとしてめちゃくちゃこだわっています。
日本は、最近元気がないからダメだよねという人も多いですが、一方でUPQ製品は日本のブランドだからと手にとってくれる人もたくさんいて、そこに対して何を提案できるかをよく考えないとなと感じています。
モノを作る上で、大手メーカーが年月を重ねて培ってきたノウハウ、ポリシーはすごく大事で、中国やアジア各国の生産現場の皆にとっては、そのノウハウと一緒に日本製品を作れるだけでメリットがあるんですよね。日本の市場は小さいしガラパゴスでしょと言われることもありますが、日本のノウハウが入ったモノは世界で売りやすい時代はまだ続いています。
−−日本の良さを日本人が一番分かっていない気さえしますね。
中澤:過去の栄光にすがっているというか、頑固なんですよね。培ったノウハウなど伝承すべきことは大事にしなければいけないですが、私には、過去の栄光なんてどうでもいいんですよ(笑)。
私たちの世代が次に何を生み出すかが大事だと思っています。その過程において海外の協力を得ることもいとわない。中国の工場で作っているから中国品質=ロークオリティというイメージなのも古い考えかなと。
−−最後にpdwebの若手の読者に向けて一言お願いします。
中澤:デザイナーはデザイナーとして頑固であるべきだと思いますが、スキル、経験が少ないにも関わらず、先人の態度だけ真似して天狗になっていたりする人たちも少なくないですね。プライドは高くなければいけないんですけれど、実が追いついていない人をよく見かけます。本当にできる人はごく一部ですね。
それと、言われたとおりに直してしまうデザイナーはデザイナーではないと思います。請負の仕事をするデザイナーはお客さんありきですから、その通りに直す気持ちも理解はできますが、そこにポリシーや専門職としての意地を感じたいです。一緒に仕事をしていて、あまりに張り合いがないですね。
プロダクトマネジャーの立場からは、デザイナーもエンジニアもマーケティングも、曲者の方がやりがいがあるんですよ(笑)。言い合いができる人たちとでないとモノはよくならないです。
−−ありがとうございました。
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