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インタビュー

軽自動車のタイムレスデザインを実現したホンダ「N-ONE」


●手描きスケッチからデータへ

−−実際のデザインワークフローをエクステリアとインテリアの両面からお伺いします。クルマのインテリアとエクステリアのデザインは1人で手がけるのかと思っていましたが、別々なのですね?

蔦森:会社によりますがホンダでは分かれています。ただ、インテリアもエクステリアも表裏一体であるべきだと考えているので、最初のコンセプトを決める時はもちろん、開発途中も常にお互い意見を交わしながら進めていきます。

−−デザイン工程についてお聞かせください。

蔦森:N-ONEに限らずですが、自動車デザインのデジタル化が進む中ででもホンダが大事にしているのは人の手の温もりというか、アナログ的な作業です。インテリアもエクステリアも手描きのスケッチから始めて、そのスケッチからクレイを起こします。エクステリアの場合、25%スケールのクレイを作っていきます。

−−クレイはモデラーが作るのですか?

蔦森:ええ。デザイナーが手を出すこともありますが、基本的にモデラーが作業します。モデラーの職人的な腕の見せ所でもありますね。

−−デザイナーの思い描くイメージと実際にモデラーが作るモデルが合致しないことがありますよね。

蔦森:そこがぶれないようにするために大事なのがスケッチです。やはりスケッチでいかに良いものを出すかが重要になります。

−−スケッチは二次元で?

蔦森:はい。話が少しそれますが、僕は軽自動車っぽくないスケッチを描くのです。5ナンバー車くらい全幅があるように見えるようで「軽自動車に見えないじゃないか!」と怒られています(笑)。

金山:嘘つきとか言われている(笑)。

蔦森:ただ、そういう意気込みや目標がないと、今のN-ONEの豊かな面質には辿り着いていなかったと思います。

−−そのスケッチで立体を作ってしまうのですからモデラーさんの腕前もすごいですね(笑)。

蔦森:佇まいが決まったら100%のクレイに移行して、それを3Dでスキャニングします。それをベースにデータ化していくわけです。それでも当然クレイありきというか、クレイに対してデータが大きく乖離してはいけないと考えています。

−−2次元スケッチはウソがつけますが、3Dはそれができません。たとえば左右対称など、データ化した際のクレイとの比較が難しいでしょうね。

蔦森:我々の場合、真ん中から左側を中心に作っていくのですが、反転については手で行う場合もあれば機械でオートマチックに行う場合もあります。そして、反転させた際にクレイの測定データと重ねます。そこでどれだけ乖離しているかを注意深く見ながら、「ここはデータの方が良い」「ここはクレイの方が良い」などコンマ単位で突き詰めていきます。

−−自動車のデザインはスケッチからCADベースでモデリングする方法もありますが、そういうアプローチはしていないのですね。

蔦森:エクステリアで言いますと、実際そういう方法も行っているクルマもあります。ただ、やはりデータ一発でやってしまうと、どうしても人間の手の温もりが消えてしまうのですよね。データで作り始めても一度クレイに戻すなど、結局アナログベースになりがちですね。

−−モダンなデザインのクルマでもそうなのですか?

蔦森:そうですね。

金山:インテリアも同じですね。ホンダは「現場、現物、現実」という「3現主義」なので、やはり実際のもの(立体物)で確かめながら作っていきます。

−−データをRPや3Dプリンタで出力して検証は行っていますか? とくにインテリアなどは小物が多いと思いますが。

金山:小物であればそういう3Dプリンタを使ってクレイと比較検証する場合はありますね。

●エクステリアとインテリアの統合

−−デザインはエクステリアが先行するのですか。それともインテリアと同時進行ですか?

金山:ほぼ同時ですね。

−−デザイナーが異なると、お互いの世界観がぶつかることはないのですか?

金山:今回はそんなになかった気がします。「いわゆる軽自動車は作らない」「本物を目指す」という目標が明確で、新しいものを作るという気持ちが強かったですから、ぶつかることはありませんでした。

蔦森:一切なかったですね。

−−たとえば、インテリア側で「ここを5ミリ出したい」という場合、エクステリアをいじらないといけないという状況はあるのでしょうか?

蔦森:そういうのはありますよ(笑)。細かい数値的なせめぎ合いは、もう日々ありますね。

金山:ホンダの場合、我々に加えてさらにパッケージデザイナーがいるので、三者でのやり取りですね。

蔦森:ホンダはパッケージングを重要視しているので、寸法をある程度見定めた上でインテリア、エクステリアを話し合いながら進めていきます。たとえば、エクステリア的には走りを主張したいのでリアのパネルはなるべく寝かしてあげたい。ただ、そうするとインテリア的に車内の空間が狭くなってしまう。では、そこで一番良いバランスはどこなのかを検証するという具合です。

−−パッケージデザイナーはどういう立場なのですか?

金山:基本的には外形寸法や人の乗せ方を含めた室内空間のレイアウトを司っています。デザインにパッケージデザイナーがいることは他社ではあまりないようなので、そこは強みですね。

蔦森:ホンダでは、パッケージデザインとデザインコンセプトは表裏一体です。そのクルマのコンセプトを、具体的な寸法に落とし込んで、大枠の姿かたちに表したものがパッケージデザインです。つまりパッケージ側からコンセプトを語らせないといけないと考えています。コンセプトが集約された規格をベースにインテリアとエクステリアがデザインを進めていくので三者で1つの世界観を表現していく必要があります。

−−では最終的なジャッジがパッケージデザイナーになることもあるのですか?

蔦森:それがそうもいかなくて(笑)、スタイリングは非常に大事なので「ここを変えてほしい」なんてことも多々ありますね。

●N-ONEの完成度、満足度

−−では、最後にデザイナーから見たN-ONEの完成度、満足度について聞かせてください。

金山:自分が満足できないものはお客様へ出せないですから、個人的には満足しています。

−−ご自身が買ったくらいですものね(笑)。

金山:こんなことを言ってはいけないのかもしれませんが、僕はインテリアをやっていますが、まずエクステリアが格好良くないとダメですよね。やはりお客様が最初に見るのは外側で、そこが最初のフックをもっていないといけない。それで乗ってみたらさらに居心地も良いと感じてもらうことを目指しています。デザイナーの立場としては、エクステリアとの駆け引きがうまく両立できた時が気持ち良いですね。とくに軽自動車はその点が面白いと感じました。

蔦森:今後のホンダのデザインとしても、これだけの空間が必要だからこういう形になったというのではなく、言い訳なしに格好良いデザインを目指していきたいですね。

金山:今回はチャレンジングな機種だったと思うので、そう言う意味ではやりきれたと思います。とはいえ、さらに上のレベルを目指したい気持ちはありますので、それは次に活かしていきたいと思っています。

例えば実際に運転し使ってみることで新たな発見や課題が見えてきます。毎回そうですが、次の開発で今回の課題を活かしていく、問題意識を持ってやることが大事だと思います。

−−蔦森さんはいかがですか?

蔦森:今回、自由な発想で1からやらせてもらえたので、僕もそういう意味では満足しています。

大げさな話になりますが、僕の一番の夢はクルマを通して新しい文化を作っていくことです。クルマの造形のみならず、そのクルマを使う人間の生活シーンまでもデザインしていくことが使命だと思っています。ただ単に新しいクルマを出すだけでなくて、人々の生活が変わるとか、ちょっと良い生活になるだとか、今回N-ONEを出してからそのようなシーンをかいま見ることがあったので、そういう意味では個人的に非常に満足しています。

−−行為のデザインですね。先ほど格好良いデザインという話が出ましたが、時代によって「格好良い」という概念も変わっていきます。N-ONEはN360という当時格好良かったモデルにヒントを得て、今の時代に格好良いクルマを作ったということですよね。ですから、N-ONEがまた50年後にも格好良いと言われるようになるといいですね。

蔦森:中身でいえば時代進化があるので褪せていく部分は当然あるでしょうが、造形としてはこの先もインテリア、エクステリアともに褪せないものになるはずだと考えています。

−−今日はありがとうございました。

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蔦森氏によるN-ONEの初期スケッチの数々。レトロというよりN-360をモチーフにした未来志向のデザインであることが分かる(クリックで拡大)


N-ONEの最終スケッチ(クリックで拡大)


N-ONE(プレミアムモデル)の最終モックアップ(クリックで拡大)








金山氏によるインテリアの初期スケッチ(上)、初期クレイモデル(中)と初期モデル(クリックで拡大)


中期のアイデアスケッチ。インパネが初期スケッチよりフラットなデザインになっている(クリックで拡大)



金山氏によるインテリアの初期スケッチ(上)、初期クレイモデル(中)と初期モデル(クリックで拡大)













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