pdweb
無題ドキュメント スペシャル
インタビュー
コラム
レビュー
事例
テクニック
ニュース

無題ドキュメント データ/リンク
編集後記
お問い合わせ

旧pdweb

ProCameraman.jp

ご利用について
広告掲載のご案内
プライバシーについて
会社概要
インタビュー

軽自動車のタイムレスデザインを実現したホンダ「N-ONE」

2012年11月1日に発売されたHonda「N-ONE」。
1967年に発売され大ヒットとなった軽自動車「N360」に着想を得て普遍的な造形美はそのままに、
現代的なデザイン解釈や使い勝手の良さを盛り込むことで新たに生まれ変わり、
国内累計販売は1年足らずで10万台を突破した。
タイムレスデザインをコンセプトに生まれた「N-ONE」の企画立案の経緯、
デザインの過程などをエクステリアデザイン担当の蔦森大介氏と
インテリアデザイン担当の金山慎一郎氏に伺った。

http://www.honda.co.jp/N-ONE/


●N-ONEの企画立案と開発の経緯

−−N-ONEの発売は2012年11月1日でしたが、そもそもの企画立案はどのくらい前から始まっていたのですか。

蔦森:開発時期や期間の正確なところはご勘弁ください。通常クルマの開発には3〜4年はかかりますので、お察しいただけると助かります。近年、軽自動車が国内市場で半分近くのシェアを占めるようになりました。その中でホンダとしてインパクトのあるクルマを提案したいというのが始まりです。

自動車のダウンサイジングの流れの中で「軽自動車に乗り換えると何故スタイリングやインテリアの質感までも落とさないといけないのか」と不満を覚えるお客様も多いように感じていました。

−−個性のある軽自動車の提案とお客様からのニーズへの回答という2つの前提があったわけですね。

蔦森:そうした時期に過去の大先輩にあたる「N360」のことを思い出したのです。ただ、当社のクルマながら、我々自身も知らないことが多かったので、栃木にあるコレクションホールまで見学に行きました。

−−N360は、1967年に発売され大ヒットした軽自動車の代名詞的存在でしたね。もう50年近く前のクルマですが、実際にご覧になってどのように感じましたか?

蔦森:まず個性という部分で相当なインパクトがありました。小さなクルマでありながら質感が高く、走りも相当なもので、室内は広くパッケージも非常に優秀でした。さらに使い勝手も良く、とても画期的なクルマだと思いました。ですから、まずはN360のそういう優れた部分を勉強して志していこうというのが開発のスタートになりました。

なかでも見学時に一番衝撃的だったのはデザインですね。たとえばシートの表皮をチェックにしてこだわるなど、概念的な言葉でいうとオシャレでもありました。クルマのコンセプトは走りや燃費の良さが優先され、デザイン性が最初にこないことが多いのですが、今回N-ONEの場合は「タイムレスデザイン」というコンセプトを開発当初から掲げて「このクルマはデザインでいこう」と決まっていました。

−−インテリア面ではいかがですか?

金山: ホンダのクルマ作りは、メカを小さくすることで人がいる空間を大きくとってあげるという「MM思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)」に原点があります。最初にN360を見た時にはずいぶん小さいと感じましたが、乗ってみると意外と広く、そこに驚くと同時に改めてMM思想の素晴らしさを感じました。そういう点はN-ONEのインテリアにも活かしていきたいと思いました。

●N-ONEの位置づけ

−−御社の軽自動車のNシリーズはN-ONEのほかにN-WGNとN-BOXがありますが、これらはモダンなデザインとなっています。一方、N360をモチーフにしているからかN-ONEにはレトロなテイストを感じます。

蔦森:Nシリーズの頭文字のNは「New Next Nippon Norimono」を意味しているので、どのモデルも軽自動車という枠組みにとらわれない新しい乗り物を目指しています。ただ、N-ONEは象徴的なモデルにしたかったので、N360をモチーフに使いたかったのです。

−−子供時代の記憶として残っていますが、個人的にも当時N360のインパクトは強かったです。

蔦森:ただ、N360の当時のデザインをそのまま使ってしまうと、一部のN360のファンの方には愛されるかもしれませんが、新しい客層を開拓できないと思いました。ご存知の通りN-BOXはファミリー向けなので、N-ONEでは若者層とシニア層の両サイドを狙いたかった。

−−たしかにN360をそのままコピーするだけでは団塊の世代だけのものになってしまいます。若い人を攻略するために意識した点はありますか?

蔦森:軽自動車は近くのスーパーに乗っていくなど、1日に15kmくらいの世界観なのですよね。ただ、MM思想をベースにN-BOXから新しく採用したプラットフォームとエンジンがあれば相当遠くまで走れるはずなので、N-ONEには普通自動車とまったく変わらない性能を与えたいと思いました。

実際、我々はレトロという概念で作ろうと思ったことはなくて、レトロというよりヘリテージ(伝承)ですね。N360を懐古するのではなく、過去の遺産であるN360を大事にして継承していこうと。我々デザイナーがN360を一度咀嚼したうえで、現代的なクルマとはどういうものかを考えた結果、N-ONEというまったく新しい乗り物が生まれたと思っています。ですから「先進感」というキーワードも重要なファクターでした。

−−たしかにN360とN-ONEは似て非なるものというか、似ているけど違います。そこの落としどころにデザインの技があるのでしょうね。

●デザインコンセプト:エクステリア

−−では、そういったコンセプトに対してどのように実際にデザインを行ったのかを伺います。まずはエクステリアからお願いします。

蔦森:デザインのベースには「親しみ」「安心」「使いやすさ」を掲げて始めていきました。当然N360から学んだ部分をベースにしています。

−−具体的には?

蔦森: N360からヘリテージとして学んだものに、時代を超えて愛されるような普遍的な造形の魅力があります。たとえばヘッドライトならまん丸、テールランプは四角など、子どもが見てもすぐに分かるデザインですね。そういう造形は頭の中にすっと入ってきて、ずっと愛されるものになるのではと思ったのです。

−−記号的な形状による親しみやすさ、安心感ですね。

蔦森:安心という点では、どしっとした安定感を出すために台形フォルムのボディにしています。というのは、軽自動車に対してどうしても不安を感じるお客様もいらっしゃいますので、安心感というのは重要な要素になるのです。タイヤもできるだけボディの隅にすることでさらなる安定感を追求しています。

−−なるほど。では使いやすさとはどういうことでしょうか。

蔦森:パノラミックなウインドウや、取り回しの良さを考えた水平基調のデザインモチーフですね。ヘッドライトのでっぱりはコーナーの視野をクリアにする役目も果たしています。

クルマなので当然車高を下げていけば格好良いデザインになるのですが、お客様の使い勝手を考えるとこれだけの空間は必要だろうということはあらかじめ定義づけました。そういう使い勝手を包括することが現代的な解釈につながると思ったからです。実際、先ほど触れたN-BOXから採用した新しいプラットフォーム「センタータンクレイアウト」のおかげで、低床で広い室内が可能になりました。

−−全体的にはいかがですか。

蔦森:エクステリア、インテリアに共通しますが大事にしたのは本物感ですね。軽自動車とはいえ100万円以上する買物なわけですから、本物を作りたかった。本物とは何かというとクルマらしさですね。たとえばヘッドライトも目を大きくするとどんどんかわいくなってしまうので、技術的には難しいのですがぎゅっと小さくしてすべてを凝縮することによって美しい比率に辿り着きました。

ほかにも我々はグラスエリアにこだわっているので、ウインドウとボディの比率にも気を配っています。軽自動車の視界を気にすると、ウインドウがどんどん大きくなり幼児体型になりがちなので、黄金比を踏まえながら本物感のある大人に見えるスタイルにしていきました。

−−「先進感」というキーワードはどの辺に具体化されていますか?

蔦森:たとえばポジションスモールランプを入れるとヘッドライトでは導光管によって丸いモチーフの輪郭が光ったり、テールランプでは四角いモチーフが強調される光り方にしたりすることで、夜間遠くから見た時でも一目で分かる個性と先進感を出しました。灯体類には気を遣って相当お金をかけています(笑)。ほかにも、クルマ全体の造形の合わせや立て付けを精緻に仕上げたり、iPhoneやスマートフォンのようなきわめて平滑でフラッシュな黒いパネルをフロント周りのグリルに使用したりすることで、現代的なモダンさが生まれればと思いました。

−−N-ONEはシンプルな形状に見えますが、実はすごく盛り込んでいるのですね(笑)。

蔦森:盛り込んでいます(笑)。シンプルだからこそ質感や先進感というものがすごく大事になってくるのだと思います。

−−これだけ盛り込むと、逆にバランスの良い普通のクルマになりがちですが、そうではなく個性的になっているのが魅力なんでしょうね。

●デザインコンセプト:インテリア

−−次にインテリアについてお伺いします。先ほど「MM思想」の話が出ましたが、具体的にN360を継承している点はあるのですか? 

金山:インテリアに関しては安全面など時代によって変わっていく点が多いので、最初の段階ではN360の具体的なモチーフを踏襲しようということは一切ありませんでした。ただ、最終的に出来上がったものがシンプルな横基調のモチーフになったので、似通う部分はありますね。結果論ですが、志や目指す方向が同じであれば最終的な形も似てくるのかなと感じました。

−−なるほど。N360からデザインを流用したわけではない、ではどのようにデザインしていったのですか?

金山:私は20年くらいホンダにいますが、今までまったく軽自動車のことを気にしたことがありませんでした。むしろ、軽自動車に乗りたいと思ったこともなかった(笑)。逆にそれがよかったのですが、「では自分が乗りたい軽自動車とは?」と考えたのです。軽自動車は車体の小ささや価格の安さ、質感などから普通車より劣るイメージがありました。それを打ち破らないと誇りを持って自分が乗りたいものはできないなと。そういう意味で、インテリアも本物感(クルマらしさ)や質感を上げるためにしっかりとした作り込みを行っていくことが大事だと思ったのです。

蔦森:金山さんはN-ONEを自分で買いましたからね(笑)。

−−軽自動車を手がけたのは初めてだったのですか?

金山:今まで大小いろいろなクルマを手がけてきましたが、軽自動車は初めてでした。今回は、今までの軽自動車のイメージを払拭したかったのですが、大きいクルマのミニチュアにしてしまうとみすぼらしくなってしまう。普通車のデザインをそのまま下ろしてきても通用しないので、そこが難しいところですが、N-ONEはそういう点をうまく表現できたと思います。

−−インテリアのデザインコンセプトについて教えてください。

金山:ベースはエクステリアと同じで「タイムレスデザイン」です。インテリアでは「爽快感」「充実感」「使いやすさ」を3つの柱にしました。爽快感とはスッキリとした居心地の良い空間です。エクステリアと同じくシンプルな形にして子どもが一筆書きで描けるような分かりやすさを大事にしたモチーフです。それを象徴するのが超横基調のインパネです。

−−やはりデザインイメージが集約されるのはダッシュボードの部分ですね

金山:もちろん後ろの席も含めて空間全体としての居心地や質感に気を遣っていますが、とくにインパネは従来の軽自動車とは異なる比率にしたいと思っていました。たとえば、オーディオは汎用品がありますが、それをそのまま入れてしまうと必然的に全体の比率が決まってしまい、いかにも軽自動車のバランスになってしまいます。そこで、今回はオーディオを新しく作って表示系と操作系を分けて、表示部は凹凸を抑えた左右に広がる1枚のパネルでつなぎました。そして今までは中央部分が張り出し、アシスタントとドライバーの境界になっていましたが、このパネルにより境を感じさせなくすることで既存の広さやバランスを崩して、今までの軽自動車とは違う空間を作り出すことができました。

−−充実感とはどういう意味でしょうか?

金山:軽自動車というクラスを感じさせないようにしたかったので、主に質感の部分ですね。どうしてもシンプル=安っぽいとなりがちなので、そこをどうにか払拭するために部品と部品の合わせ方など細かい部分にまで手を入れたり、軽自動車特有の寸法的な制約の中でドアやシートなどの形状に抑揚を持たせたり、シンプルであっても立体感を出すことで充実感を表現しています。

−−使いやすさというキーワードはエクステリアでも同じですね。

金山:インテリア面では先ほど触れたようにオーディオを新しくし、物入れやポケットを豊富に設置して快適で使いやすい空間を目指しました。また、センタータンクレイアウトを活かした多彩なシートアレンジはさまざまなシーンに対応できますし、かなり大きい荷物も楽に収納できるようになっています。N-ONEのリアシートはFIT譲りのダイブダウンやチップアップを行うことで、競合車に負けない広い室内空間を創出しています。

[1] [2]


話を聞いた本田技術研究所四輪R&Dセンターデザイン開発室の蔦森大介氏。N-ONEのエクステリアデザインを担当


同デザイン室の金山慎一郎氏。インテリアデザインを担当した




2012年11月の発売以来、累計10万台以上を販売した「N-ONE」(クリックで拡大)


N-ONEの前身となった電気自動車「EV-N」。2009年の東京モーターショーでコンセプトカーが発表された(クリックで拡大)







1967年、今から47年前にデビューし、大ヒットとなった軽自動車「N-360」(クリックで拡大)









N-ONEのパッケージデザイン。軽自動車ながら、広い空間を持っていることが分かる(クリックで拡大)

Copyright (c)2007 colors ltd. All rights reserved