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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第129回 武内賢太/プロダクトデザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





●プロダクトデザイナーの背景

学生の頃に思い描いていたプロダクトデザイナーのサクセスストーリーは幻であった。

自社のデザインブランドの運営を始めてから、そう感じる機会が増えた。当時思い描いていたストーリーは、大学卒業後にデザイン事務所やインハウスデザイナーとして10年ほど勤務をしながらコンペの受賞歴を増やし、デザイナーとして認知度を広げたのちに独立するというものだった。

しかし実際には、よりシンプルであり刺激的であった。

SNS利用者数の増加、オンラインストアプラットホームの充実、クラウドファンディングの台頭。いまやこういった受け皿が揃っている以上、デザイナーとして無名であっても自身のやりたいプロダクト開発やオリジナルブランドを気軽に立ち上げることができる。

プロダクト開発や生産にかかる資金をクラウドファンディングで集め、オンラインストアで販売し、自らSNSで商品やブランドへの集客をする。その道中で認知度が広がれば(バズれば)、大きなリスクを負わずにやりたいプロダクト開発が実現できる。ほとんどの場合、会社員として勤めながらできてしまうため、独立せずに趣味の範疇で行う人も少なくない

●プロダクト開発とクラウドファンディングの相性

単にプロダクト開発をすると言っても、主に量産品の生産をする前段階に「金型」を要することが多く、それに必要な「金型製作費」が馬鹿にならない。投資と考えれば多少は柔らかく聞こえるが、自身で生み出す商品の場合にどのくらい売れるかが不明確な段階で、この費用を前払いした上に在庫を抱えるのは正直ハイリスクである。そこでクラウドファンディングを活用することで、商品の生産前に必要資金が集まるのでリスク回避につながる。

そしてプロダクト開発においてクラウドファンディングが有用な理由がもう1つ。基本的にプロダクトの場合「開発にかかる初期費用+商品代金」を目標金額として設定し、支援者へのお礼として商品の完成品をリターンするケースが多い。いわゆる先行受注に近い販売形式である。商品の生産前に受注数が確定しているため、ブランドの初期段階にて在庫を抱えるリスクを軽減できる。

自身のブランドを立ち上げることや個人でプロダクト開発をすることは、難しく捉えられがちだが、近年ではそう珍しいことではなく、リスクを最小限に抑えながら挑戦できる分野となってきている。


▲goyemon第一弾となる雪駄×スニーカー「unda-雲駄-」。応援購入サービスMakuakeにてリリースし、「Makuake Of The Year 2019 GOLD賞」を受賞。(クリックで拡大)








●goyemonのプロダクト開発

2018年に高校の同級生である大西 藍と立ち上げたプロダクトデザインブランド「goyemon」では、「日本の伝統×最新技術」をコンセプトにプロダクト開発を行っている。

伝統的な製品や職人の方の技術を重んじ、「日本の伝統や魅力ある製品を、若い世代や世界の方々に知ってもらいたい。」 そんな想いから私たちなりのものづくりを実践している。もともと、生活の理にかなった無駄のない伝統製品や、未来を感じさせる最新プロダクトに心惹かれることが多く、この要素が組み合わさったら夢のような商品が生まれるのでは、と感じブランド設立に至った側面もある。

とはいえ伝統製品を単にリデザインするだけではなく、その伝統製品に込められた魅力や所作を現代に落とし込むようなプロダクト開発を目指している。

例えばgoyemonの第一弾商品である雪駄×スニーカー「unda-雲駄-」には、左右の概念がない。本来の履き物の機能である「左右対称」を踏襲しているのである。これは左右を定期的に入れ替えて履くことでソールを均一に減らし、モノを長く使うという日本の知恵が込められている。とても理にかなった仕様である。
このようなものづくりにおける日本の伝統や魅力をgoyemonを通して再認識してもらえると嬉しい。

また私自身、買い物をした際に商品のパッケージや梱包方法を余すところなく見てしまう癖がある。プロダクトがイケてる商品は経験上パッケージもイケてることが多い。裏を返せばパッケージの角までこだわっている商品の本体がイケてないわけがない。

そういった経験から商品本体のデザインだけではなく、パッケージ、商品タグ、包装紙などのアクセサリー類にもまた「ブランドらしさ」を落とし込むことを大切にしている。ユーザーが商品を利用するには、まず商品を注文し、配達員から商品を受け取り、パッケージを開け、商品を取り出すまでの行為があるが、これはユーザーにとっての大切な購入体験であり、そこまでを想像してデザインをすることで商品全体の完成度をグッと引き上げる。

プロダクト開発とはプロダクトデザインだけに留まらず、その周辺の体験をも生み出すことであると考えている。



武内賢太(Kenta Takeuchi):1993年生まれ。2016年に東京工芸大学デザイン学科を卒業後、コイズミ照明株式会社にて商品企画・プロダクトデザインに携わる。その後2018年に高校の同級生 大西 藍とともにプロダクトデザインブランド「goyemon(ごゑもん)」を立ち上げる。「日本の伝統×最新技術」を融合させた商品を創りだすことで、現代の生活にフィットした、伝統を身近に感じられる商品を展開中。




2023年1月20日更新。次回は池田美祐さんの予定です。


※本コラムのバックナンバー

http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
 


 


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