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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第128回 木下陽介/デザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





●デザインとの関わり

北海道の道東に位置する十勝は小麦と小豆と牛乳とチーズの街で、私は酪農と農業の真ん中に立つ高校に、馬と牛と畑を横目に見ながら通学していました。私にとっての自然に対する感覚は、まさにこの時の体験が元となっていると感じています。それは例えば早春の新緑や、乾いて清涼な夏季に迎える黄金色の小麦畑、イタヤカエデやシラカバが山に映す立体感ある秋の色味、音の消える白銀の冬など、表現しきれないほどの自然の表情が、自身のデザイン観に影響を与えたと実感しています。

デザインとの出会いは、私が高校生の時、雑誌Penに紹介されていたジャン・プルーヴェの特集でした。機能性ある美しい造形の椅子や、クリエイターとしてその時代の課題に対する飽くなき挑戦の姿勢に胸を打たれ、初めて本物のデザインを理解できたのがきっかけです。「デザインとは機能的で美しく合理的で、課題に対し解決を提案していくもの」という認識が生まれたことから、生き方が決まったような気がしていました。

根本的な考えは今も変わらず、デザインには機能的で美しく合理的なものを求めて活動していますが、大学時代の恩師の教えに影響を受け、形を成すモノにある合理性以外の理由として「関係性のデザイン」を学び、各プロジェクトにおいてはその物事の関係づくりを念頭に進めています。また、現在は空間デザインのみにとどまらず、プロダクトデザイン、ブランディングへと領域を広げています


▲実感を得るためのフィールドリサーチ。(クリックで拡大)




▲素材製造工程のリサーチ。(クリックで拡大)


▲環境と家具との関係デザイン。(クリックで拡大)



●デザインによる関係づくり

ひとえに関係性と言っても、さまざまな関係づくりがあります。土地との関係性、事業との関連性、日本独特の自然観との関係性、という分類で制作した事例を交えながら紹介します。

●地域との関係性(事例 1)


土地との関係性、空間エレメントとしてのプロジェクトでは、熊本にある南小国町の杉材を使用した家具プロジェクトがあります。これは、地場起こしプロジェクトではなく、その土地のアイデンティティを見抜き、その町らしさや素材の活かし方を模索したプロジェクトです。

土地との関係性という点では、この南小国町が位置する阿蘇のカルデラと草原地帯が特徴的ですが、その草原の維持と生物多様性のために野焼きが毎年行われ、その時期になると辺り一面の景色が墨色に染まる時期があります。そこで、その土地の背景を引き継ぎ、製品に落とし込むことを企画し、焼き杉加工による着彩では出せない表情を作り出す家具シリーズを作成し、土地との関係性を作った例となります


●事業との関係性(事例 2)

事業との関係性では、20代~30代の働く女性をメインターゲットに、首都圏を軸に商業施設を運営しているルミネ社の20年ぶりの大規模なリニューアルを実施した例を挙げます。

最新のトレンドや情報を取得できるニューススタンドやライブラリーを設けるとともに、企画の着想や深掘りのヒントが得られるよう、社員向けのセミナーやワークショップの開催を想定したレイアウト・設備を設けました。ルミネの理念でもある「お客さまの思いの先をよみ、期待の先をみたす」ための知見を深め、発想の刺激を得ることができる「キャンプファイヤー」という中心地を作成しました。企業の立ち位置として、さまざまなユーザーや企業の個性を引き出す存在であるからこそ、一歩引いた立ち位置での、普遍的でニュートラルなデザインを目指した例となりました。

●日本の自然観との関係性(事例 3)

最後に、日本独特の自然観との関係性では、現在も進行中のプロジェクト「Look into Nature」のプロジェクトを紹介させていただきます。これは、日本の環境に対する独特な意識をブランドコンセプトに込めた例です。

日本におけるモノと空間の関わり方は、調和を重んじ、環境を引き立てるその関係に集約されています。四季を眺めるための建築的な視線の水平垂直思考や、素材の生かし方と閉じ方(終わり方)。そこには自然と共存していくことの難しさや畏怖をも伝えるためにできた、メッセージとしての日本の独特な文化、自然観があります。この自然観に着目し、環境と関わり合いの中で、自らの行動や所作も風景の一部となるモノの在り方を、提示した「親和する風景」というコンセプトを元にした、い草の素材を空間における図として展開したプロジェクトとなっています。



▲事例1「FIL STUDIOS MASS Series」Furniture design Ph:Kenichi Aikawa(クリックで拡大)



▲事例2「LUMINE Office」Office design Ph:nacasa & partners(クリックで拡大)



▲事例3「Look into Nature by ADAL」Rebranding Images:LITDESIGN / Ph:Yoshikazu Shiraki(クリックで拡大)




●作り出すなら終わりも見据える

すべてのクリエイターに問いたいことがあります。モノを生み出すということにおいて欲求的な解法にとどまらず、生産消費に関わっているという自覚と責任を持ってほしいという単純な願いでもあるのですが、人のより良い生活のために多くの製品が生み出されてきた中、対象を人にとどめず資源と素材を循環させる思考を基として、「生み出すものは借り物」と考えていけないだろうかと。

私は自然の循環システムに、感動や畏怖を覚える感覚を忘れずにモノづくりを考えていくことは、2030年、2050年を生きていく私たちにとっては、とても重要な価値感覚ではないかと考えています。人の豊かさは自然の上に成り立っていることを念頭に物事を考えると、経済主体ではない価値基準が確実に存在しています。常に物事の終わりを見ながらも、課題に対し挑戦的であるべきです。各時代の巨匠と呼ばれるデザイナーや建築家が巨匠と言われる所以は、その時代においての当たり前を疑い、挑戦的な視点で持って創造してきたためであると考えます。

実感と想像力を持って物事の関係性を明らかにし、俯瞰しながら新たな枠組みともののあり方を創造していく。私はこの考えを元に、専門領域を軸としながらも領域を超え、自らの視点で大局を見て、これからの時代のクリエイターのあり方とものづくりのあり方を提案し続けていければと考えています。


▲「FIL STUDIOS」Wall adornment Ph:Kenichi Aikawa(クリックで拡大)



▲「FIL STUDIOS」Wall adornment Ph:Chani Kim(クリックで拡大)



▲「FIL STUDIOS」Wall adornment Ph:Chani Kim(クリックで拡大)






木下陽介(Yousuke Kinoshita):CANUCH Inc. CEO/Designer。東京工芸大学芸術学部デザイン学科助教。1984年生まれ。2007年東京工芸大学デザイン学科卒、内装設計のインハウスデザイナーを経て2012年、東京を拠点とするデザインコレクティブCANUCH設立。人と物との関係性の探求を起点とし、インテリアデザイン、プロダクトデザイン、マテリアル開発などさまざまなプロジェクトを手がけている。代表的な仕事に、株式会社ルミネ新オフィス、鎌倉紅谷八幡本店、TBWA\HAKUHODOオフィス、JIDA Design Museum Selection Vol.22 に選定された小国杉を使用したファニチャーFILの「MASS SERIES」のデザインなど。日本デザイン学会会員、JIDA正会員、2021年より東京工芸大学芸術学部デザイン学科空間プロダクト研究室助教。




2022年12月13日更新。次回は武内賢太さんの予定です。


※本コラムのバックナンバー

http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
 


 


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