リレーコラム:若手デザイナーの眼差し
第127回 川瀬和幸/デザイナー
このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。
●自分を構築した時代
滋賀で18年、山形で10年間、東京で10年ぐらいを過ごしてきました。昔からさまざまなものに興味を持つなかで、デザインを仕事をしたいと思った大学時代でしたが、大学院へ行き卒業する頃には、デザインの仕事を東京などでやっていても自分に未来はあるのだろうか? と考えるようになりました。
大学で山形の地場産業、伝統工芸など職人さんのものづくりに触れてきたことがきっかけで、ものづくりの現場とタッグを組むことができれば、これからは強いのではと考えるようになりました。地場産業や伝統工芸の世界に関わりたいと思い、ご縁あってデザイン事務所の山形採用で仕事ができるようになりました。
デザイン事務所では日本の産地をまわりながら、海外とのものづくりや展示会などにも関わらせていただき、そういった経験から自分の今の基盤ができていると感じています。
独立後も、これまでのご縁でさまざまな地場の人やクリエイターとつながりながら仕事をしています。今でも勤めていたデザイン事務所の仕事に参加させていただき、多様な立場でデザイン経験を積ませてもらっています。
▲「noix(ノア)」 冨岡商店(樺細工)。(クリックで拡大)
|
|
▲「EMI」 秋田内陸縦貫鉄道。(クリックで拡大)
|
|
▲「箸ホルダー」(クリックで拡大)
|
●ものを生み出すための環境
仕事はチームで行うのが当たり前ですが、新しいものづくり、新しい時代を作っていくために、ものが生まれる環境づくりとしての仲間づくりと、その場所づくりが必要だと最近は特に思っています。自分はデザインという視点で提案していますが、提案したものが具現化されたり、より良いものに昇華されたり、最終的な商品になるとき、自分のデザインだけではなく一緒に作り出す仲間がいるという環境が大切だと思っています。
実際にものを加工してくれる企業の方や、同じデザインでもグラフィックや建築であったり、カメラマンであったり、はたまた販売をする人であったり、直接関係なくともそういうメンバーと仕事の枠を超えて、新しいものづくりやアイデアを共有したり出し合いながら、実験したり何かに挑戦できる環境。そういった人とのつながりという意味での環境が、デザインだけでなく、ものを作るという意味での未来への基盤づくりでもあり、これからのものづくりに必要なものであると感じています。
▲「ハンモックスタンド」 コンパクトではなく大きくて存在感があること、新しい楽しみ方として揺れを楽しめる自分の空間を作るというもの。
カワコッチ:新潟県三条市で地域の工場の若手後継者とクリエイターを中心とした有志のものづくりチーム。自分たちでこんなもの作ってみたいに挑戦したり、外部からの相談で企画、開発などを行っている。(クリックで拡大)
|
|
▲「ポンポン酒」 エキラボが主催するアワードでグランプリを受賞したガチャガチャで日本酒が出てくるという商品。エキラボが商品化を実現(2022年11月12日から)。(クリックで拡大)
|
|
▲「エキラボ帯織」 新潟県燕三条地域で、無人駅を活用したものづくり拠点としての場所をつくり、個々には受け止められない仕事をチームになることで受け止め、また、地域のものづくりの窓口になるような活動を展開している。(クリックで拡大)
|
●デザインとは何か?
自分が純粋な工業デザイナー、プロダクトデザイナーとして人よりすごく長けているという思いはなく、むしろ足りていなくて悔しく思うことが多い中で、自分ができることは何か? というのを考えて活動しています。
もののデザインももちろん行いますが、ものづくりのために人や産地などのご縁をつくったり、新しい場所をつくったり、その基盤になったり、サポートをしたりということ。そういった環境をつくることで良いものが生まれるようになること。そこに自分なりのデザインや存在意義というものがあると感じています。
●自分でデザインしたものを自分で売ること
以前勤めていたデザイン事務所では、自社で商品を売っていて、自分のデザインしたものに直接お客さんから意見が聞けたり、フィードバックがあることにデザインする側として学びがあることを深く感じました。
もちろん、良い意見もあれば、悪い意見もあります。悪い意見は、すぐには受け入れられなくても、どこかでそれを消化して次のものづくりにつなげることは大きな意味があると思います。そして、買って喜んでもらえた感想などを直接聞けた時に、自分がデザインをやりたい、デザイナーという仕事をしたいと思っている根源がここにあったのだと気づき、思いだします。
いつかは自分でものを売るお店、ものづくりの拠点にもなる場所を作りたいなと思っています。そこには自分だけでなく一緒にものづくりをしてくれる工場や職人さん、クリエイター仲間の商品も並ぶような場所であり、みんなが集える場所であって欲しいなと思っています。
川瀬和幸(Kazuyuki Kawase):株式会社WAgon代表取締役。東北芸術工科大学大学院修了。大学卒業後にKEN OKUYAMA DESIGNにて奥山清行氏に師事。2017年に独立。日本の職人によるものづくりや、地場が持つ特性を大切にしたデザインを行いながら、海外展示会などへの出展サポートも行う。人と人、人とモノ、モノとモノ、さまざまなつながりをつくるコーディネーターとしても活動。
2022年11月14日更新。次回は木下陽介さんの予定です。
※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
|