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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第125回 高坂裕子/デザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





●「シーン」を作りたい

背筋をすっと伸ばして深呼吸したくなるような静謐な佇まい、触れた家具から感じられる職人の丁寧な仕事、派手さはないけれど世代を超えて愛される街のシンボルのようなお店。

わたしがつくりたいものは、造形物というよりこのような形のない「シーン」や「情景」そのものだと感じている。

その「シーン」を街の中に少しずつ点在させていくようなイメージで、1つひとつの仕事に丁寧に向き合っていく。そのプロセスにおいても、クライアント、関わっていただく施工関係者、異業種のチームメンバー、それぞれが気持ちよく働ける「シーン」をつくり出すことも自分の大事な役割だと思っている。

そうして、地域の中で気持ちの良い循環が生まれ、その輪が少しずつ広がっていくことに、とても面白さとやりがいを感じている


▲「高の井酒造」内観。(クリックで拡大)



▲「Barber&shop NOBLE」外観。(クリックで拡大)



▲「個人住宅」(クリックで拡大)





●誰かの運命を背負うことの不思議

どのプロジェクトを振り返っても、クライアントの人柄やその時々のエピソードが思い起こされる。

つくづく不思議だなぁと思うのは、店舗を構えたり住宅を建てるという、クライアントの人生を左右するかもしれない大きなライフイベントに、見ず知らずの私が、ある時から「ご一緒します」と、歩みを共にすることだ。例えるなら、大航海に出る船の乗組員になったような感覚、というと大げさだろうか。

決して少額ではないお金を預けていただいて、今あるものに手を加えて一生モノの価値を見出す。そんな重要な仕事を任せてもらうたびに、緊張と喜びとプレッシャーで、常にそわそわと落ち着かない。「これ以上いいプランは思いつかない」と腹を決めたとしても、引き渡しをしてクライアントに喜んでもらうまでは気が気じゃない。だからこそ、両手を上げて喜んでもらえた時はなんとも言えない解放感と達成感で満たされる。と同時に船を降りなくてはならない寂しさもじわじわとやってきて、そうしているうちにまた別の新しい船がやってくる。そんな感覚があって、本当にこの仕事はおもしろい。

●裏方が好き

自分の話になるが、もともと派手なことは苦手な方で、自分がステージに立つというよりも何か別の存在を輝かせるために演出したり、裏方仕事を黙々とやるのが子供の頃から好きだった。

きっと心の奥底ではステージで輝く人への憧れがちょっぴりあったのだけど、裏でそれをつくり出す面白さの方が上回って、「つくり上げること」そのものが自分の人生の目的になったように思う。

だから、ストイックに蕎麦を打ち続ける蕎麦職人、命をかけてパンを焼く人、コーヒーで人をつなげ街に文化をつくる人、お菓子で人を幸せにする人、地域を愛し地域に愛される酒造、観光と自然を守る企業、そういった仕事という「縁」がなければ交われなかったかもしれない人々と、同じ目的地に向かってどんな「シーン」を作り上げていこうか、そんなことを考え続けることが、私のライフワークとなっている。


▲「本手打ち蕎麦 しんばし」。(クリックで拡大)



▲「picto」(クリックで拡大)



▲「GOOD LUCK COFFEE」(クリックで拡大)






●もう一歩前に進むために

そして私はいま、もう一歩踏み込んであるチャレンジをしたいと思っている。

これまでの仕事は、クライアントの意向もあって、空間の意匠に関わる部分がウエイトを占めていたが、ある時からそれに付随する周辺仕事も請け負うようになった。

例えば、ロゴのデザイン、パンフレットの作成、ライティング、サイン計画といった広告・グラフィックをはじめ、コンセプトデザイン、商品開発、仕入れのセレクト、販促、施工管理、社内における交通整理など、時には頼まれていなくても必要だと感じれば、自ら提案して行う。


▲「BROS TENNIS CLUB」のロゴ/サイン計画。(クリックで拡大)



▲コインランドリー「YUKIDARUMA」のサイン計画。(クリックで拡大)




▲「高の井酒造」のコンセプトビジュアルの作成。(クリックで拡大)





特にローカルでは、スタート時からこれらをセットで考えているクライアントはなかなか希少で、プロジェクトの進行に応じてあれもこれも必要、となるケースの方が圧倒的に多い。

私はもとから自分の役割をここからここまでと線引きしていない。私ができることであれば、なんでも要望に応えたいと思っている。しかし、同時に、自分はあくまでも「デザイナー」であることに「限界」を感じることがある。課題を抱えるクライアントに真に寄り添うためには、「デザイナー」という枠を取りはらい、見えない部分を内側から見つめてみるということが必要であることを、この仕事を通して学んだ。

特に、数字に関わることは非常に難しい。どうすれば良く見せることができるか、どうすればお客さんに伝わるか、という表面上のことはアドバイスできても、どうすれば売上が上がるか、お客さんの数を増やせるか、という本質的なことには説得力を持てない。実に自分の感覚が中途半端だと感じるのである。

そこで、自分で別に商いをしてみようと思った。小さくてもいい。仕入れとか人件費といった経営に必要な感覚を、実際に体感して身に着けるのである。来年には実行に移せるよう、計画を進めている。


●デザイナーの力量を試される時代

今の時代こそ、定形のない「デザイナー」という仕事の力量を試されているような気がする。圧倒的にマンパワーの足りない地方でのデザインワークは、自分に足りないものを気付かせてくれるチャンスでもある。

もはや自分でも「何者」を目指しているのか分からないときもあるが、それはそれでいいとも思う。やはり自分は裏方向きの人間なのである。

最後までお読みいただきありがとうございました。このコラムのご縁をいただいた星山充子さん、次にバトンをつなぐ和田紘典さんは、ともに新潟を拠点に、枠にとらわれず幅広く活躍するデザイナーさんです。同世代であり、私のずっと先を行く頼もしい存在です。

しばらく新潟編が続きますが、ローカルがどんどん面白くなっている今日この頃。次回も乞うご期待です!




高坂裕子(Yuuko Takasaka):デザイナー。Sponge inc./代表。新潟県生まれ。武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科を卒業後、東京のインテリアデザイン会社に8年勤務後、地元新潟にUターン。2015年長岡を拠点にSpongeを設立し、地域を越えて空間デザインを主軸に多岐に渡って活動を行う。「心地よく無理のないこと、そしてどのワンシーンを切り取っても美しい佇まい」を目指して、日々デザイン活動に取り組む。来春からコワーキングスペースの運営もスタート予定。


2022年9月16日更新。次回は和田紘典さんの予定です。


※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
 


 


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