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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第119回 細野隆仁/空間デザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





私は大学卒業後、4年間の建築設計事務所勤務を経て、現在所属するライゾマティクス(株式会社アブストラクトエンジン)へ入社した。現職では主に空間デザインとプロジェクトマネジメントを担当し、プロジェクトによってはプランニングやハードウェアデザインなどを担当している。建築という静的な物を設計する環境からデジタルアートとして動的な作品をアウトプットする環境へと領域を横断した私が、今考える建築分野におけるデジタル活用についてお話しする。

●建築ビジュアライゼーション

私の大学時代はレンダリングできることが一種の特殊スキル的なものだったが、今や学生のプレゼンテーションを見るとプロが描いたものと見間違うほどのクオリティのパースがたくさん見られるようになり驚かされる。

高品質なレンダリングが高速に、そして誰もが簡単に行える時代となった。正確な光や細かなディテール、リアルなマテリアルの表現が可能となり、また模型では難しいPOV視点で建築を擬似的に体感することができるため、設計プロセスやプレゼンテーションにとても有効である。そんな建築ビジュアライゼーションだが、ただ見せるだけではない世界が広がってきている。

●建築からゲームの世界へ

少し前からにはなるがゲームの世界では驚くほど完成度の高い3D CGが使われ、そのクオリティはまるで映画を見ているかのような没入感をも作り出す。

現実世界の話に戻り、2019年4月、フランス・パリにあるノートルダム大聖堂で火災が発生した。屋根はすべて崩落し、ヴォールトの一部も崩れ、尖塔は焼失という大きな被害に見舞われた。パリの世界遺産の痛ましい悲劇に、市民やフランス国民のみならず世界中に大きなショックを与えた。

ほどなくして修復プロジェクトが動き出したが、そこで頼みの綱として注目されたのが2つの3Dデータだった。1つはこの事故の数年前、美術史家により研究目的で取られていた大聖堂の3Dスキャンデータ。そしてもう1つがパリを舞台にするゲームのために取られていた大聖堂の3Dスキャンデータである。そのゲーム開発のリソースの8割が大聖堂の再現にあてられ、かなり忠実に表現されていることに驚く。

このように実在する建築物の仮想モデルを複製することは、欠損の起こった箇所を復元するためのいわばバックアップ的な活用や、デジタルツインとして環境や避難などのシミュレーションに活用するなど、さまざまな有益性を持っていると考えられる。



▲美術史家Andrew J. Tallon博士によるスキャニングプロジェクト。(クリックで拡大)



▲ビデオゲーム「アサシン クリード ユニティ」。(クリックで拡大)






また、最近ではZaha Hadid Architectsがあるゲーム会社とパートナーシップを結び、ゲーム空間内の建築物をデザインした。彼らに現実の建築の設計を依頼することは容易ではないが、法規や構造、施工、そしてなにより建築にかかるさまざまなコストを取り払った条件となればハードルは下がる。これからメタバースが加速し仮想空間で生活する時間が増えてくれば、現実世界の建築設計者が仮想空間上の邸宅や公共空間などの設計を依頼されるということが起こってくるだろう。そしていつか、アーキグラムが描いた情報としての建築が、仮想空間上で歴史的な建築物として誰かの手によって建築されることがあるかもしれない。


▲PUBGとZaha Hadid Architects。(クリックで拡大)



▲Ron Herronによるドローイング ”Walking City”。(クリックで拡大)



▲Peter Cookによるドローイング ”Plug-In City”。(クリックで拡大)




今から5、6年ほど前、イーロン・マスクはこれからの未来では「ゲームと現実の区別がつかなくなる」と言っている。私自身ゲームはしないが、リアルタイムに描画されるCGの世界はここ数年で勢いよくリアリティを向上させている。そしてこれらの仮想空間が単なるゲームとしての娯楽ではなく、その世界で日々コミュニケーションが行われ、ワークプレイスもリアルな世界から置き換わり、買い物やさらには役所の手続きまでもが行うことができるプラットフォームとなれば、そこはもう実在する本当の世界といえるのかもしれない。

●高次元な情報を持つ建築

建築情報学の考え方を借りれば、建築は非常に高次元な情報を扱うことになる。それは、1つの建築において、立体を表現する3次元に加え、時間軸や構造、素材、設備、法規などなど、次元の異なる情報が数十ある。

膨大な情報から1枚の紙へ落とせる情報を表示、非表示しながら図面として記述し、あの分厚い設計図書として括ることで高次元な情報を取りまとめていることになる。そこで価値を発揮するのがデジタルデータ。情報伝達のため低次元化され、ばらばらに切り離された建築情報を、仮想空間において再構築したのがBIMやCIMと考えることができるだろう。

個人のプロジェクトについて

2020年冬にマンションの1戸を購入し自身の設計でフルリノベーションした。翌年2021年春の竣工以降その家で夫婦2人で生活している。


▲リノベーションした自邸 ダイニング。(クリックで拡大)



▲リノベーションした自邸 リビング。(クリックで拡大)


▲リノベーションした自邸 浴室。(クリックで拡大)






▲リノベーションした自邸 書斎。(クリックで拡大)



▲リノベーションした自邸 玄関。(クリックで拡大)



▲リノベーションした自邸 玄関。(クリックで拡大)




当初から設計プロセスにおいて1つだけルールを決めていた。それはペーパーレスを実践すること。働く場所の制約を取り払い、大きなストレージも要さない、これからの働き方にはとても有用なスタイルになると考えている。実際には素材のサンプルやカタログ、色見本の確認、職人用の図面はどうしてもデジタルでは置き換えられなかったが、それ以外は不自由なく設計、監理することができた。ただそれは、クライアントがいないことと、現場監督もタブレット端末を使用していたことがとても大きかったかもしれない。自分だけでなく関わる人たちのデジタルリテラシーの向上も必要だろう。


▲タブレット端末によるプランスタディスケッチ。(クリックで拡大)


▲タブレット端末による納まりスケッチ。(クリックで拡大)


▲ダイニングスペースの造作照明の構成ビジュアル。(クリックで拡大)




平面プランが決まり、3Dモデルを作成してから竣工までの期間、暇さえあればその3Dモデルの中で過ごした。この仮想空間で過ごす時間の中で感じたフィードバックから設計を変更することが多々あり、これは理想の生活を仮想的に走らせながらデバッグを繰り返す作業のようだった。


▲ダイニングスペースのレンダリング。(クリックで拡大)



▲玄関のレンダリング。(クリックで拡大)



▲書斎のレンダリング。(クリックで拡大)




これは持論であるが、空間をより正確に体験するには決められたカットのパースを並べて眺めるだけでは足りず、連続的なシーケンスとしてインプットすること、さらにそのシーケンスに自らの意思で操作できるインタラクティブ性があること、この2つがとても大事であることを改めて強く感じた。これを実施するのに大きな力になったのが、リアルタイムレンダリングを叶えるゲームエンジンによる高い描画能力だった。

建築とデジタル。建築領域を支えているゲームや映像技術の進化に今後も大きな期待を寄せる。



細野隆仁/Takahito Hosono
1988年埼玉県生まれ。東京理科大学理工学部建築学科で建築学を専攻し、意匠設計を学ぶ。4年間の建築設計事務所勤務を経てライゾマティクスへ。建築ビジュアライゼーションとアルゴリズミックデザインを得意とし、主に建築、空間、プロダクトなど、さまざまなスケールの「もの」をデザインする。
https://twitter.com/hosonotakahito
https://www.instagram.com/hosonotakahito/?hl=ja




2022年3月25日更新。次回は石黒泰司さんの予定です。


※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
 


 


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