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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第118回 中川宏文/建築家

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





もし、富士吉田のまちづくりに関わることがなければ、僕の建築家としての選択肢は建築をつくることだけになっていたかもしれない。建築家には、たくさんの選択肢を社会や地域に提示し、変化を生み出す力があると信じている。しかし、それ以上に、建築家のつくる建築の力を信じている。

●富士吉田に新しい情景を

富士吉田のまちづくりにおいて僕に求められた仕事は、空き家の再活用による地域活性化だった。地域に残る独特な雰囲気を大切にしながらも、少しずつ手を加えることによって、また新しい情景を生み出すことを目標に、5年ほどで10以上のプロジェクトが完成した。

2年前には空き家を改修し、東京の設計事務所のサテライトオフィスを開設して本格的に設計活動の拠点を整備した。2021年は、日本一富士山が綺麗に見える商店街の空き店舗を、東京のデザイン事務所「れもんらいふ」プロデュースのもと、行政や地域企業の方々と協力し、東京と富士吉田をデザインの力でつなげるための拠点として生まれ変わらせた。


▲店内の富士山の壁画が印象的な喫茶店「喫茶檸檬」。Ph:楠瀬友将。(クリックで拡大)








建築も含めて、デザインの力で地域を元気にできる、ということを信じてくれる地元の方々の理解によって富士吉田は少しずつではあるが、着実に魅力的な街に進化している。

そのような中で、建築家が担える役割がもう1つあるように思う。それは、プロジェクトディレクションの役割である。建築家が建築を設計するときは、与件整理からスタートし、スケジューリング、予算調整、関係者のコーディネートや交通整理などが仕事の大部分を占める。いくらいい設計図面を書いても、それを実現するための調整能力がないと、なかなかいい建築は生み出せない。

この調整能力は、建築をつくる目的以外の場面でも大いに役に立つ。そして、建築家として建築をつくらないということを選択した時にも、建築家の能力が十分発揮されることになる。その時に、文学、社会学、哲学など物事の考え方の根本になるような知識や、社会問題、行政の仕組み、政治などの理解は必要不可欠な要素になる。


▲行政と一緒にリサーチや予算調整をし、デザイナーを召集して作成した「富士吉田街歩き用ガイドマップ。(クリックで拡大)










●観光名所のふもとの橋の架け替え

上記のように、建築以外のさまざまな場面で、行政や地域の方々と仕事をしていると、思いも掛けない機会に恵まれることがある。富士吉田では有名なある観光名所の麓にある橋の架け替えの計画が進んでいた際、せっかく観光名所の近くの橋を掛け替えるのだから魅力的な橋にしたい、と設計途中にも関わらず、デザインを提案させてもらえる機会をいただけた。

かつて、大学院時代に、オーストリアとスイスの国境近くの街、Feldkirchに滞在しながら、Marte-Marte-Architectsでインターンシップとして働いた時、彼らのつくる橋にとても魅了された。日本では建築家がこのような公共の土木構造物のデザインに関われる機会はそう多くはない。元請けの土木コンサル、県の景観協議チームの皆さんもとても前向きにデザインの検討が進み、無事着工し、今春には竣工予定である。

▲神社の麓にあるため、鳥居や灯籠の朱色との調和、素材の経年変化を期待して、耐候性鋼板によるルーバーをデザイン。CG:桝井孝暢。(クリックで拡大)









●建築で連鎖を生み出す

まちづくりも建築も、1人の力では絶対につくることができない。

この原稿を書いているちょうど今、とある公共プロジェクトの最終調整作業の真っ只中である。市役所内に常駐席をつくってもらい、連日、職員の皆さんと締め切りギリギリまで少しでもいい建築になるように、図面のチェックや予算の調整作業を深夜まで繰り返している。

市役所の一部が設計事務所と化している。建築家の役割は、いい建物を設計することはもちろんだが、そこに関わってくれた多くの人たちが誇りに思えるものをつくる責任がある。そして、その背中を見て、また彼ら彼女らの子どもがいい建築をつくる、もしくは発注する立場になる。その連鎖が、また、いい建築を地域に生み出すことにつながる。

そして建築が地域の文化になる。僕の仕事はその連鎖を生み出すきっかけをつくることだ。今春、その連鎖の重要な1ピースが着工予定である。



中川宏文/Nakagawa Hirofumi
1989年12月長崎県長崎市生まれ。熊本大学工学部建築学科卒業(田中智之研究室)後、東京理科大学工学研究科修士課程建築学修了(坂牛卓研究室)に進学。在学中にオーストリアの設計事務所marte-marte-architectsに勤務。大学院卒業後、研究室の教授坂牛卓氏が主宰するOFDA associatesに就職し、同時に富士吉田市地域おこし協力隊(総務省事業)として東京と山梨の2拠点ダブルワークを始める。昨年よりOFDA associatesのデザインパートナー兼取締役として富士吉田市を拠点に活動する。




2022年2月16日更新。次回は細野隆仁さんの予定です。


※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
 


 


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