リレーコラム:若手デザイナーの眼差し
第115回 河合瑠夏/テキスタイルデザイナー
このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。
今回、私が在学中に書いた卒業論文(英題:“Do work uniforms promote specific behaviours at work?”)を元に、制服と人間の行動の関係、個人プロジェクト” HELLO WORK” についてご紹介します。
●趣旨
ファッションデザインを学んでいく中で、レファレンスとして必ずついてまわるのは制服の歴史です。例えば軍服はその見た目だけでなく、機能性を含めて現代のファッションデザインの世界にも多大な影響を与えています。制服は着る人の職業や身分を表し、社会的な立場を示すことがあります。
現代社会においても、会社規定の制服、学校指定の制服など普段から制服を着用する人は多いのではないでしょうか。人が制服を着るとき、その人は個人であると同時にその組織/団体の一員になります。前述の論文では、特に働くときに着用する制服が人の行動に変化をもたらすかという点について、さまざまな角度から検証しました。この考察をベースに身近な人からインスピレーションを経たプロジェクトが”HELLO WORK”プロジェクトです。
●”HELLO WORK”プロジェクト
これは2019年に発表した卒業コレクションからスタートしたプロジェクトで、人々の現在の職業で着用している服と、昔憧れていた職業のユニフォームを合わせて1つにするプロジェクトです。プロジェクトの詳細は2019年に取材していただいた和楽のWeb記事をご覧ください。
▲2019年セントラルセントマーティンズ卒業コレクション。(クリックで拡大)
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私は関西の中高大一貫校に通っていたのですが、高校卒業後すぐに海外に行きました。セントマーチンズ在学中の2017年頃、久しぶりに再会した同級生たちは一足早く就職活動の真っ只中でした。この間まで教室で冗談を言い合ってた友人たちが、昼間はスーツを着て説明会に行き、ときには圧迫面接のような試練を乗り越え、立派な社会人になろうとしている姿を見たとき、尊敬の念を抱くとともに少しさみしいような気持ちになりました。
子供のときに憧れていた仕事に就く人は少ないかもしれないけど、さまざまな苦労や社会に揉まれながら今日も働くすべての人にエールを送りたくて、友人や家族述べ20人以上にアンケートを取り、プロジェクトをスタートさせました。
▲リサーチノート。(クリックで拡大)
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●今後の展望
“HELLO WORK”プロジェクトは現在も水面下で進んでいて、その輪をどんどん広げていく予定です。最終的な目標は、大人が職業体験できるような企画をしたいです。私はこれを大人のキッザニアプロジェクトと呼んでいます。キッザニアは子供向けの職業体験学習施設なのですが、さまざまな職業を体験しながら自分が興味を持つあるいは自分に向いている職業分野を知ることができます。
転職が当たり前の時代に、大人も自分が本当に好きなこと、向いている職業、諦めきれない憧れの職業を少しでも体験することで、もしかしたら違う分野に進む後押しができるかもしれないし、逆に今の職業や生活の幸せに気づく人もいるかもしれません。このプロジェクトが誰かのターニングポイントになればいいなと思います。
私の肩書きはデザイナーですが、ジャンルにとらわれず人々の日常に少しの変化と気づきを与えるものづくりをこれからも続けていきたいです。
河合瑠夏/Kawai Ruka
1995年生まれ。高校卒業後、英国セントラルセントマーティンズカレッジ ファッションデザイン科卒業。卒業後帰国し、株式会社イッセイミヤケ入社。
https://www.instagram.com/ruka_kawai/
2021年11月10日更新。次回は大島頌太郎さんの予定です。
※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
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