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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第114回 山本 至/建築家

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





●デザインについて

建築家によっては「デザイナー」という言葉を嫌う。デザインという語に含意されるものがせまく映るからだろう。そもそもデザインという概念は産業革命を発端として生まれた概念である。産業革命は都市構造だけでなく、人間の生活サイクルすら根源的に変えた。

産業革命以後の生産構造の中で、その動向を肯定的に捉えることでデザインは力を増した。バウハウスは工業生産品を美しくすることに貢献はしたが、産業革命後の世界を肯定的に捉えることでデザインという語の持つ可能性を結果的に狭めてしまった(これは今だからこそ言えることは承知している。その当時、産業革命がもたらす社会変動を正確に予測し、それとは異なる未来を提言できたものは少なかっただろう)。

上記の話が示すものはなにか。私たちがデザイナーという言葉を聞くと表層を造形する者をイメージする。そこには社会的な提言や思想は含意されていないように見受けられる。だからこそ、その欠如を補うためにデザインには修飾語としてそれを説明するさまざまな文字が加わる。デザイナーとは表装をつくるものだと思われているのだ。

しかし実際は建築家に限らず素晴らしいデザイナーは社会のニーズに追随するだけでなく、新しい概念を構築しているはずだ。JDS(公益財団法人日本デザイン振興会)によればDesignの語源はラテン語のDesignareからきている。意味は「計画を記号に表す」ということらしい。すなわち記号だけを抽出していじくりまわすことだけではなく、計画を構築することからが元来の意味であったはずだ。

一部の建築家がデザイナーと呼ばれることを嫌うのは、その後変動していったデザインの意味に則って、表装だけをつくるものだと思われたくないという意思表示である。語源に忠実になれば新しい社会を構築するために提言をし続けるものは、建築家だろうがアーティストだろうがデザイナーであることを肯定的にうけとるだろう。

●いづみproject

上記の話を下敷きに、私の事務所で取り組んでいる仕事を1つだけ紹介させていただく。

「いづみproject」という仕事だ。これは横浜市にある小さな町、泉町の町づくりプロジェクトである。この町に1980年代から建っている建築を再生させながら町の賑わいを取り戻すことを目指している。横浜駅から徒歩圏内であるため、十分都会なのだが、戦後の都市計画によって車道が拡幅されたことにより、昔から息づいていた商店街の活気は消え失せた。

その時代をもちろん私は知らないが、この町に昔から暮らしている人たちによると、小さな経済圏が消失したことにより、町の魅力は霧消したという。簡単なことではないが、町のあり方を決定する権利が小さなコミュニティの中に存在していれば、住人たちが私事として町づくりに関与するだろう。歩道が拡幅することを喜ぶ人は多いのにそれが実現しないのは、街路が行政のものであり、住民のものであるという自覚を持てないからである。

美しいものは重要である。人の感情が揺さぶられるからである。しかしそれだけが目的化していた現代的デザインの在り方を良いとは思わない。美しいもの、実験的なデザインは、それが目指すべき社会に向けての計画とともに価値を獲得するのだ。

「いづみproject」で私たちが目指すものは美しい建築をつくることではなく、これからの社会に適合した人間の生活をつくりだすことである。私はこの行為をこそ、デザインと呼びたい。



▲横浜市の小さな町に1980年代から建っている建築を再生させ、町の賑わいを取り戻す試み「いづみproject」。(クリックで拡大)










山本 至/Yamamoto Itaru
1987年横浜生まれ。東京大学大学院建築学科で修士号を取得。修士課程では都市再生を専門に研究、東北での町づくりを通して都市の構造による振る舞いの変化などの研究を行う。その後、首都大学東京特任助教を経て、現在は東京大学大学院博士後期課程在籍。2016年「itaru/taku/COL.」を稲垣 拓と協働で設立。主な論文に「都市の終わりから思想の始まりへ」「都市景観とシークエンス」など。



2021年10
月12日更新。次回は河合瑠夏さんの予定です。


※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 


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