リレーコラム:若手デザイナーの眼差し
第109回 小幡友樹/デザイナー
このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。
●経験としての移動
新潟県新潟市の古町という街に移り住んで3年が経った。埼玉で生まれ育ち、東京で学び働いていた私だが、近しい野心をもつ大学の同期とユニットを組むためエイヤ! と移動し今はこの地にいる。
古町周辺は江戸時代に港町として栄え、堀や通り、小路といった当時形成された街並みの骨格が現代にも残されている。海はもちろん山や川や潟といった自然と高度な機能を有する都市が共存する大らかなスケールの中で、日々繰り出されるコミュニケーションはとても新鮮で楽しい。
移動して発見する、この繰り返しで今日の私はできあがっている。学生の頃はキャンパスが御茶ノ水ということもあり、講義が終わるとそこから東西南北へ行けるところまで歩いた。巨大な開発が進む街区の影に隠れて佇む密度の高い生活感が残る路地や、各鉄道沿線がつくる都市構造、カルチャーによって育まれているストリートなど、東京の空気をたくさん吸った。バックパックで海外にも行き、拙いコミュニケーションを駆使し観光地ではないローカルな場所にある建築を探したりもした。
●テーマとしての移動
このような経験を振り返り、現在行っているデザインに目を向けてみると、移動というエッセンスが無意識に含まれている気がする。
・Sビルの床
新潟市にある築50年を経たビルの1室を改装。既存の田の字プランの骨格を残しながら壁や天井の仕上げを引いていき、土間やコンパネといった床の素材を新たに付け加えることにより、視線や気配は抜けながらも空間はゆるやかに仕切られる空間構成にした。
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・Yのサッシュ
新潟に本社を置く会社の名古屋支店をコンテナでつくるプロジェクト。ワーキングスペースや打ち合わせスペースなど必要諸室と合わせて将来の増員に対応できるフレキシブルさが求められた。そこで各コンテナ端部に引き違いのサッシュを取り付け、それらが重なり合うような配置にした。
コンテナ同士はサッシュによってつながり、1台で用途、規模が完結することなくリニアな広がりが生まれた。新潟で製作されたコンテナオフィスはトラックによって運ばれていき、今後も増設予定である。
・Oの島
新潟市にあるAIを取り入れた自立型の個別指導塾の計画。大きなワンルームに色を配した図形の学習スペースを散りばめ、図形によって生まれた地を共用部とする構成とした。平面的に仕切られた空間の中で個々が好きな居場所を見つけて移動し学習を進めてく。自習と個別指導による生徒の自主性を伸ばす学習スタイルを空間にも反映させいった。
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●これからの移動
今の考えごと。ウッドショックに揺れる建築業界、木材について今までどこからどのようにやってきて使っていたのかが漠然とした理解だったが、少しずつ現状を知るにつれ、材料の移動単位で建築を考えることに興味を持ち始めた。ここ新潟は約7割が森林という県であり、考える土壌がある。もしかしたら次は森の中から眼差しを向けているかもしれない。
小幡友樹/Tomoki Obata
1989年生。東京電機大学大学院修了。建築設計事務所を経て渡邉晋太郎とエチヲアーキ共同主宰。
https://echiwoarchi.tumblr.com
2021年5月14日更新。次回は杉山由香さんの予定です。
※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
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