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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第108回 大坂谷一平/空間デザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。




●10年も経っていた

このコラムを書き始めているのは3月11日。10年前の今日。僕は西荻窪で古道具屋を営んでいた。

営むといってもバイトを掛け持ちして貯めたお金でオープンした5坪ほどの小さな店。ヨーロッパの蚤の市で商品を仕入れて、1人ほそぼそと営業していた。内装は漆喰を塗り重ねた壁に鉛筆を薄くなぞってエイジングをした。 物を並べるとリズムや奥行が生まれる。それに合うBGMはどんなのかな? 音量は? 室温は? ちょっと良い香りも調合して仕掛けよう。ドアの下に塗っておいてお客さんが開いたらフワッと香らせよう。

お客さんが買ってくれるかどうかは分からない。この空間にいるとどんな気持ちになるかなぁ? の部分を突き詰めて5感を通して伝えようと思った。心地よかったら人に話して、また戻ってきてくれる。

雑誌に掲載してもらったり調子に乗っていた矢先に大地震が起きた。店があった雑居ビルの5階は建物ごと倒れるかと思うくらいの激しい揺れだった。什器は崩れ落ち造作棚がひん曲がり、商品が窓から落ちていく。パリやベルリンで丁寧に選んだ品々は床で粉々になった。瓦礫と化した空間を眺めていると悔しさがこみ上げた。同時に抽象画みたいな空間で「美しいな」とも思った。

骨董界で有名な北大路魯山人は「食器は料理の着物である」と言った。店の場合だと商品は料理でそれがよく見えるかどうかの大切な食器の部分が空間なのかなと思った。後に夜間学校に通って空間デザイン分野に身を置く理由となる景色でした。

10年経つと「お店がなくなって残念だね」と声をかけられることもなく「変わった経歴だね」と会話のネタになる


●最近の仕事より

まだ変わった経歴はフル活用するに至らず。店舗やオフィス改修、個人邸リノベーションの仕事をしています。

前回のコラムのグラフィックデザインの巽さんとご一緒した
・都庁のアンテナショップ「TOKYO GIFTS 62」

先月と連続の紹介になってしまいますが、私の観点から紹介させていただきます。4坪の店内に62市町村区のご当地商品が並び、「都内でコーラを作ってるんだ」とプロダクトをキッカケに観光に深みや広がりをもたらすことを主題にしたプロジェクトである。まず都庁という丹下健三先生の建築の中に異空間を作るという、丹下ファンとしては怖くもあるけど美味しい仕事だとも思いました。

什器は地産地消で多摩産材の杉を選びました。杉は柔らかくて傷凹みがでやすいため不特定多数がくる店舗には向かないが、今回は柔らかさを「やさしさ」、傷凹みを「味」と解釈。また木目の流れ方向を横向きとし、回遊型導線のリーディングとした。都庁の1階は天井が高いので手元足元で小物をじっくり見てもらうために視線が上下しすぎない狙いもあった。

暖簾、杉と「和」を感じる要素に馴染むように床はじゃりじゃりしたテクスチャーのサイザルを採用し、テナント外のフロアカーペットやタイルとの質感の対比を表現した。

スポット照明は電球色とし周囲の環境と色温度をズラすことで小さな店の存在感を高めようとしている。
周辺と天邪鬼なしつらえをすることで、温かみのある空間づくりを目指しました。



▲東京新宿・都庁内の「TOKYO GIFTS 62」(クリックで拡大)



構想段階でのスケッチ(クリックで拡大)



多摩産材の杉を利用。木目の流れ方向を横向きに制作(クリックで拡大)


・多治見市の新町ビル

岐阜県多治見市にある古ビルを人が集まる場に再生し地域の魅力を発信していくプロジェクト。イベントスペース、陶器店「山の花」、デザインオフィスなどが入居している。今回は1Fに常設の飲食店スペースを新たに設けることになった。コロナ渦で東京から監理するのは難しい状況だったためリモートで設計。

イベントには週替わりでお洒落なカフェやタコス屋が呼ばれ、洋服やオブジェが展示されていたり演奏や講演会も開かれている。キュレーションされていて感度の高い人たちが集まっている。

彼らの背景となる飲食スペースはどんなデザインが適切か? そんなデザイナーっぽいこと言ってもお金は降ってこないし予算内で設備工事もやらないといけない。ということで施主が以前DIYした仮設用の木箱にステンレス板を貼って一体感のあるカウンターを作ることに。

手作りの陶器のぬくもりや古ビルのササくれた躯体壁を際立たせるために、あえて金属で直線的なカウンターやサイン取付面のH鋼を提案しました。きっと感度の高い人たちの止まり木になってくれるはず(H鋼のつなぎが省略されるアドリブも加わり完成…)。



▲仮設用の木箱にステンレス板を貼ってカウンターに(クリックで拡大)



古ビルの味わいを生かすため金属で直線的なカウンターやサイン取付面のH鋼を採用(クリックで拡大)




●日々考えていること

1. 最近事務所を倉庫的な場所に移転しました。そこには工務店が解体現場から拾ってきたパーツが散乱している。集めたスクラップでビルドできることがないか構想中。「夏休み 廃材でつくる本棚 参加費2,000円」しか思いついてないです。

2. 建築業界は日本ではすごく理系で肩身は狭い。僕は文系で元古道具屋なので、数字は苦手だからストーリー重視でその空間で過ごす人や商品を引立てるよう「食器は料理の着物である」を肝に銘じて、良い着物となる食器(背景)づくりに携わっていきたいです。

でも気づいたら10年くらい経っていて、また違うことをしてるのかも知れない。



大坂谷一平/Ippei Osakaya
1984年生。法政大学中退。2004年-2011年古道具店運営。2015年桑沢デザイン専門夜間部学校卒。2013年-2015年アトリエ設計事務所勤務。2015年-2018年内装設計施工会社勤務。
2018年~ミイリデザイン所属 http://miili-design.com/ 
2019年~カフカ株式会社主催 https://kafka-3.com


2021年4月14日更新。次回は小幡友樹さんの予定です。



※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 


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