pdweb
無題ドキュメント スペシャル
インタビュー
コラム
レビュー
事例
テクニック
ニュース

無題ドキュメント データ/リンク
編集後記
お問い合わせ

旧pdweb

ProCameraman.jp

ご利用について
広告掲載のご案内
プライバシーについて
会社概要

コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第106回 西原 将/建築家

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。




私が建築を設計する上で考えていることを整理しつつ、その実践をどう行っているかを書いていきたいと思います。

●建築は暴力的であるということ

まず、建築の設計は、自ら意図を持ち、線を引き、素材を決め、形あるものにしていくことです。それがプロダクトなどよりも大きいため、人に与える影響が大きく、プログラムによっては不特定多数の人が使うこともあります。

建築家がこうしたいと思いつくられた良い空間を、体験する人も同様に良い空間だと思うのが健全なあり方だと思うのですが、ともすればそれは建築家の意図に縛られるということになります。空間体験というのは体験する人にとっては防御不能の体験で、そこをコントロールできるのが建築家なのです。もちろん多くの建築家は善意と努力でその関係を良いものにしようとしていますが、それは権力と結びつきやすく、歴史を見てもそれは明らかです。


●意図を意図的に越えるために

私は建築家として建築の歴史を前に進めるために、そのような建築家と建築の支配的な構造を見直すことで新しい建築を作ることができないと考えています。つまり、建築家の意図を”意図的”にどう超えていくかということ考えることで、体験する人によってさまざまな体験が得られる建築を作ることができるのではないかと考えています。そのために3つのテーマを考えます。

(1)建物の論理として「超建築家的な形式」
意図を感じさせにくい形式の選択と操作

(2)モノに論理として「心象を引き出す断片」
人によって感じ方の違うモノを使い、さまざまな解釈を引き出す

(3)人の論理として「行動を誘発する仕組み」
使うことによって建築を解釈する

ようするに建物そのものを作るためのフェーズ、素材や家具、照明などのフェーズ、その中で人がどう使うかというフェーズで意図を感じさせないものになっているかを考えようということです。では、実際の設計においてどう考えているかを書いていきたいと思います。


●三宿の部屋

建築を構成する要素を見直し、作ることの余白を作る。

中古マンションを購入し自分で設計したものです。そのプロセスはnoteで公開しているので興味ある方は自己紹介のリンクをご覧ください。ここで考えたのは、自分の意図を自分でどう超えていくかということで、

(1)完成しても後から作り変えられるようにすること
(2)その仕組み自体が意匠的な特徴となること

を考え、「長押」と「巾木」をDIYの最低限のインフラとし、一般的には仕上げ面に現れてくる電気スイッチ、コンセントを下地のレイヤーに整理し、仕上げ面を電気工事なしで変更できるようにすることを考えました。



▲「三宿の部屋」。Ph:kenta hasegawa(クリックで拡大)



Ph:kenta hasegawa(クリックで拡大)



▲三宿の部屋の図面。(クリックで拡大)


●片倉町の部屋

置かれるであろう家具を制限しない素材感と部屋を作りやすくするための仕掛け。

こちらも中古マンションの1室のリノベーションですが、こちらは再販プロジェクトで、まだ住人が決まっていない中(要望が分からない)どのようにデザインするかということで、

(1)購入者がどんな家具を置いても馴染むような空間のあり方
(2)DIYをやらない人でも部屋を作る想像力が持てる仕組み

を考え、新しく挿入するモノによって新しいものと古いものを架橋するようなあり方をハードボードの垂壁とメッシュラックを設置することで実現しようとしています。この垂壁は下側に溝のようなものがあって、壁を新設したり、ロールカーテンを仕込んだり、突っ張りツーバイフォー材を入れたり、ある程度DIYもできるようなものになっています。

また、このハードボードの素材感が新しいものにも古いものにも馴染むようなもので、コンクリートの荒々しい躯体や、補修されたモルタル、既存の長押などとバランスしながら和風洋風問わず、さまざまな家具を受け入れることができる空気感を作っています。



▲「片倉町の部屋」。(クリックで拡大)



(クリックで拡大)



▲片倉町の部屋の図面。(クリックで拡大)


このような小さなリノベーションであっても構成を見直すことや小さな形式を挿入し、素材を選択し、人が関われる部分を積極的に残すことで、建築家の意図を超えるための実践ができると思っています。

「建築家の意図=個々の体験」となる空間を作ることが必要になる部分ももちろんあるので、このようなあり方を否定するというよりは、「建築家の意図≠個々の体験」となる空間の可能性を探りたいと思っています。そして、そうすることが新しい建築のあり方につながると信じています。それは、建物と人間の関係性を考えるということで、どれだけ設計する建物が大きくなろうが、時代が変わっても、その関係性の中で建築を考えるということは変わらないと思うからです。




西原 将/Sho Nishihara
1985年生。sna主催。京都大学工学部建築学科卒。スキーマ建築計画を経て2020年に独立。受賞歴:JIA全国学生学生コンクール2012金賞 など
https://note.com/architectonia


2021年2月10日更新。次回は巽奈緒子さんの予定です。



※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 


Copyright (c)2007 colors ltd. All rights reserved