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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第101回 小島衆太/アーキテクト

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





私の略歴をざっくり説明します。学生時代から建築を学び、アトリエ系の建築設計事務所に入社。そして大規模複合建築プロジェクトを完了した後、退職。今はホテルの運営会社に転職、オペレーションやマーケティングなど設計外の観点も学んでいます。

私が異なるキャリアをまたいでいるのは、どんなモノづくり、コトづくりであっても立場やスキルにとらわれず思考したいからですが、どの環境にいても「トコトン具体化することから考える」ことを意識しています。

●恩師の設計課題から

「あなたの好きな3人が住む、20人の集合住宅を設計せよ」

当時恩師より出された課題名でした。初回の授業は「住まわせたい好きな人を3人プレゼンすること」でした。通常設計の条件になりうる敷地条件、床面積、設計要望などまったく設定はなし。好きな人について教えてくれ、ということのみ。家族、友人はもちろん、アニメキャラのような架空人でもOK。

設計条件を整理することは一旦忘れて、「本質を極端に具体化することから考えよ」という課題だったのです。実務設計の場合は、敷地面積、容積率、建蔽率など法令をおさえるのは当然のことながら、賃料を合わせるために部屋数や部屋面積を要求される。気づいた時にはその土地に最大容積を立て、いかに部屋数を多く広く、どんなお客様でも対応できるように効率的に割り付けて…と、マス思考回路になってしまいます。

20人みんなが喜ぶプレゼント選ぶより、特定の3人が喜ぶものを考える方がやりやすいに決まってます。3人と20戸という数字は当時の学生課題として適当な規模であり深い意味はありませんが、部分から考えることの重要性を教えてくれるものでした。この課題をきっかけに具体化することを意識するようになりました。



▲当時の設計課題作品:イメージ模型。(クリックで拡大)




▲同じく室内イメージドローイング。(クリックで拡大)



▲同じく共用部のイメージドローイング。(クリックで拡大)




●学生課題では満足できず、社会へ飛び出す

私は大学院に進学した後、半年で退学する決断をしました。課題という架空のプロジェクトや、学生である立場で社会性について考える限界を感じてしまい、具体的に考え尽くすためには実際社会人として働きながら学んだ方が効果的ではないか、と考えたのです。

その後アトリエ設計事務所に入社し、主に大規模公共複合施設をスタートからゴールまで担当しました。組織設計事務所との共同設計だったのですが、私はアトリエ設計の主担当として従事しました。また、運営コンサルもチームに参画し皆でつくるということを経験しています。

図書館、公民館、子ども遊び場などさまざまな立場からの意見が出てくることや、公共施設というパブリック視点でものを設計するということで、非常に難しいプロジェクトでしたが、学生時にもやもやしていた部分はかなり具体化されていました。

●設計者ではなく運営者としての立場で考える

現在は設計業界から転職し、ホテル運営会社に勤務しています。なぜキャリアチェンジを? とよく聞かれるのですが、「物事の本質をより具体的に考えるためには設計者という立場だけでは難しい」という理由が大きいです。

企画→設計→運営という流れがあるとすると、企画と運営の観点は自分ごととして考えてこなかったため、具体化することができません。設計以外のことを今から学ぶのは体力がいると感じますが、今後はしばらく運営者の立場から建築も含め考えていきたいと思っています。

●利用者として体験する

また、「利用者」としての体験が欠けていることに気がつきました。ホテル業界に転職するということもあり、たくさんのホテルに泊まりに行き、さまざまなサービスをもてなされる経験が必要だと思い、旅に出ました。
この時はスリランカ→タイ→シンガポール→インドネシアと、約1ヶ月で30程度のホテルを見て回りました。



▲アジア旅の写真。Hotel Jetwing lagoon:スリランカ最大のインフィニティプール。(クリックで拡大)




▲kandalama hotel:大自然に埋もれるホテル。(クリックで拡大)




▲amanpuri:アマン系列最初の地。(クリックで拡大)








▲warehouse hotel:倉庫改修ホテル。(クリックで拡大)




▲星野リゾート 星のやバリ:森の中のリゾート。(クリックで拡大)




▲oasia hotel:シンガポール中心地に立つエコホテル 。(クリックで拡大)






現在も日々国内ホテルを勝手に視察する日々を続けています。雑誌でプランを見たり写真を見ればイメージは掴めるのですが、サービスの質や体験価値は実際に訪れないと実感できません。また、ただ体験するだけではなく、言葉に表現したり図にしたりと、具体化する作業が重要だと考え、訪れたホテルを実測をしたり、サービスや運営について記録を取るようにしています。

各ホテルごとの情報は雑誌にありますが、各ホテルを横断した情報は少なく、ないなら自分で記録取りながらまとめてしまえといった具合です。



▲ホテル記録。各ホテルの比較図。(クリックで拡大)








●最後に

今の時代は検索が用意になり、大体のことは調べると把握できますが、そこをもう一歩踏み込むことを意識したいです。特に奇抜なアイデアだとは思いませんが、さまざまな観点や立場から具体的に考え続けることを継続したとき、知識の幅が広がり、それぞれの分野に深みが出てくると思います。

アーキテクトというスキルは、都市~家具のディテールまでと幅広い分野を扱い、設計図としてまとめあげていく職業ですが、私が最初に手にしたこのスキルを元に、建築外の分野も同じように考え尽くすことを目指したいと思います。




小島衆太/Shuta KOJIMA
九州大学にて建築を学びはじめ、日々コンペに応募し続け受賞歴は20以上。卒業後は横浜国立大学大学院 Y-GSAに進学するが、実務を早く経験したいと想いが変わり中退。2013年畝森泰行建築設計事務所に就職する。大規模複合公共施設を担当し完了した後、2019年ホテル運営会社へとキャリアチェンジし、今に至る。
受賞歴:2010年 建築新人戦2010:「最優秀新人賞」、2012年 JACS 2012年住宅設計コンペ:「優秀賞」など。





2020年9
月14日更新。次回は西田庸平さんの予定です。



※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 


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