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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第100回 吹野晃平/建築家

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





●シンクタンクと建築設計

私はパートナーである川口貴仁とともに、シンクタンクをメインとする「Cultural think tank」と、建築設計をメインとする「Kawaguchi+Fukino」という2つの事業を主軸に活動を行っている。今回は私たちの考えるシンクタンクと建築設計というあり方、あるいはリサーチへの自身の態度についてお話させてもらう。

●リサーチを科学する=道具の発明

リサーチでは、依頼主も気づいていない物事の不確かさを洗い出し、新たな視点や価値創出を図る。リサーチは私たちにとって根幹的なテーマであり「リサーチを科学する」とは、そもそもリサーチとは? という根底に立ち返り、そのあり方を模索しデザインすることでユニークなアウトプットの創出を目指す試みである。

また、その方法において暗黙知での共有や理解という抽象的なものに留めず、リサーチにおける「かた?」の発見までを目指す。「かた」の発見はリサーチを共有可能な開かれたものへと発展させ、転用や再現可能な手法へと転換させる。さながら道具を発明するイメージである。

●文脈研究と価値設計

リサーチというものを「文脈研究」と「価値設計」の2つのアプローチから考える。これら2つのアプローチは独立して機能する時もあれば、相互補完し合うことでより多角的な視野を有しアウトプットへ向かうことを可能とする。

・文脈研究
異なる時代の社会背景に影響を受け、脈々と積み上げられたものが文脈であり、そこには独自の変遷が潜む。それを紐解き、再解釈していくアプローチは私たちにあるものごとに対する新たな視点や尺度を与えてくれる。

新天地や旅先で異なる文化やさまざまな体験を通し、自身のものごとへの見方や価値観が更新もしくは一新される体験は多くの人に覚えがあるだろう、私たちにとって文脈研究とはまさにその体験に近く、知のアーカイブへの旅と位置づける。

文脈研究というアプローチがプロジェクトの指針の決め手となった例として「クラシックホテル展」を紹介する。2020年東京オリンピックの開催を機にインバウンド商戦への関心は高まり「宿泊」は社会的に重要なテーマとなった。現代の社会背景を踏まえ、展示企画は宿泊史の文脈研究から始まった。昨今、宿泊体験におけるナイトライフの充実という観点から都市型のコンセプトホテルが台頭し注目を集めている。しかし、宿泊史の文脈リサーチを進めていくとその起源を戦前に持ち、100年という長い時間ホテルとして生き続ける存在を発見、そこからクラシックホテルというテーマは据えられた。

現在の成熟した都市に反応するように増えていく都市型ホテルと比較し、日本が先進国として発展を遂げる以前から存在すクラシックホテルは、都市計画のキーピースや地方都市再興の核として計画されており、都市と宿泊の関係に新たな視点を与えてくれる。



▲企画会議中のホワイトボード。今注目を集めているものと比較しながら宿泊史の文脈リサーチは進められた。(クリックで拡大)




▲クラシックホテル展の会場写真。(C)kawachiaya/建築倉庫ミュージアム(クリックで拡大)



▲同じくクラシックホテル展の会場。(C)kawachiaya/建築倉庫ミュージアム(クリックで拡大)




・価値設計
あるものごとに対する独自の視点や価値を発見し、捉えるべきパラメーターの抽出を目的とするアプローチ。「観察」「選択」「比較」「収集」「分類」「変換」「名付け」「読替え」「紐付け」の9つから考える。9つの手法はリサーチプロジェクトの先進事例や私たちが過去に行ってきたリサーチを題材に模索することで設定した。

「都市の場ミリ(注1)」というリサーチプロジェクトを通し価値設計というアプローチについて話を進める。
※注1:場ミリとは舞台上での物の配置や、人物が立つ目印をさす舞台用語。

空間が他の領域に侵入していくことへの興味からこのプロジェクトは始まった。互いの領域を越境し境界を崩していくふるまいは計画されるものではないにしろ、そのようなふるまいを生むきっかけとなる存在を模索することで都市のアノニマスな空間形成を紐解く。4段階のプロセスを経て建築や都市空間には領域を越境し、境界を崩していくときに起点となる目印のようなものが存在することを発見した。



▲Step1:領域の越境、境界の崩しが起きている場所について平面と断面の詳細な実測を行う(平面一部抜粋)。ここでは都市を広範囲で記述し、あらゆるものが起点となっている可能性を視野に入れ模索する。実測と並行し何が起点となりアノニマスな領域の拡張を引き起こしているか観察し捉えるべきパラメーターを見極める。(クリックで拡大)




▲Step2:観察を進めていくと、起点となる存在に気付く。例えば、これはあるバーの店先である。車止めポールを拠り所とし、ビールケースが積層配置され天板が置かれお店の領域が拡張されている。このとき、車止めポールを領域の越境、境界崩しを引き起こす起点と読替え、「場ミリ」と名付けた。(クリックで拡大)



▲Step3:都市空間に点在する場ミリの収集を進める。集まった無数の場ミリをモノの集まり方という視点から9つのグループに分類した(一部抜粋)。(クリックで拡大)






▲Step4:9つのグループに分類される各場ミリの組み合わせにより、「ふくらみ型」「ひきこみ型」「とびち型」の3つの空間形成のバリエーションが存在することに気付く(ふくらみ型の平面一部抜粋)。このリサーチから得た「場ミリ」という存在をはじめから計画に組み込むことで、計画困難と思われる利用者・生活者の自発的な空間形成を誘発することを可能にするのではないだろうか。(クリックで拡大)








●設計プロセスに潜むリサーチを探る

現在進行中の「House S」という戸建住宅のプロジェクトを介し建築設計とリサーチについて考えてみる。建築設計の大まかな流れは図8のようになる。敷地・事例調査にリサーチが潜んでいることは想像しやすいだろう。前述した、文脈研究に相当する。そこで今回は案を決める設計プロセスに潜むリサーチについて話を進める。



▲建築設計ワークフロー。(クリックで拡大)








設計案はスタディ(注2)を繰り返し行うことでアイデアを形にし、敷地に合わせリアライズしていく。最終案に行き着いた時、初期案からの過程を振り返ると、「◯案目のここが反映されている」、「◯案目の時にはこの形のよさに気づいている」とその変遷の中に最終案を予感させる無数のかけらを感じ取ることができる。

つまり、スタディとは案の観察、比較、時には分類や案どうしの紐付けを行うことで、ある場所でなにが可能かリサーチしているのである。そして、一連の流れにおいて選択されたものの総体が最終案となる。
※注2:スタディとは建築設計において案の検討を行うこと。



▲共通して写真右側、斜め面が南になる。No.3の最初期案の段階から建物に外部空間を纏わせるアイディアが試されていた。他にも各スタディー模型やスケッチからは最終案へ向けリアライズされていく前の、プリミティブなアイデアのかけらが見て取れる。(クリックで拡大)




▲最終案の外観写真。(クリックで拡大)



▲最終案の内観写真。(クリックで拡大)




普段何気なく繰り返し行っているアウトプットへのアプローチ、そこに潜むリサーチに注視しそれ自体の創意工夫、リサーチという道具の発明を通し私たちらしいユニークなアウトプットの創出をこれからも目指そうと思う。




吹野晃平/Kohei Fukino
1992年鳥取県米子市生まれ。2014年近畿大学建築学部卒業。2016年~2018年MATSUOKASATOSHITAMURAYUKI勤務。2018年東京藝術大学大学院卒業。2020 culture cruft company 共同主催。




2020年8
月14日更新。次回は小島衆太さんの予定です。



※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 


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