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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第97回 宮田雄介/プロダクトデザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





初めまして。宮田雄介と申します。自らをデザイナーと名乗れるほどの実績があるかは分かりませんが、いただいた貴重なこの場を借りて、「デザイナーの眼差し」という主題通り、自分が普段どのような眼で物事を捉えているかを記してみたいと思います。

●山形での暮らし

学生時代にプロダクトデザインを学んだ私は、インテリアの魅力に惹かれて家具メーカーの天童木工に就職。現在は本社工場のある山形県天童市にて商品開発に従事しています。私の所属する部署は自らの提案のほか、社外デザイナーからの提案を現実的なものに翻訳し製品化へとつなげる業務を担っており、製造現場をリアルタイムで確認しつつ開発を進めることのできる、ものづくりには理想的な環境です。

そんな山形へ越したのは2018年の秋。半年間の東京勤務を経てからの転勤でした。当時、デザインの中心地から離れるという点で念が残りましたが、いざ蓋を開けてみれば、東北山形を拠点にものづくりに生きる人々の作品や、各地方の伝統文化など、そのどれもが血の通った美しいものばかり。これといった風習もない千葉県のとある町で育った私にとって、山形での生活は刺激的なものに溢れていました。

とはいえ、やはり地方。これまで学びの場となっていたインテリアショップや展示会などはそう多くありません。しかし、この環境の変化は私にとって非常に都合の良いものとなりました。その理由は次に記すとして、ともかく私生活で眼にする対象は劇的に変化しました。

●歩く

ここで、デザインと向き合うために、仕事と並行して学生時代から続けていることをご紹介したいと思います。それは、歩いて旅をすること。いわゆる膝栗毛です。生活拠点が山形となったことで、東北中心にはなりましたが、より奥へ、より深くへと行くことができるようになりました。これが好都合の理由です。

旅の主な目的は3つ。1つ目はもちろん、全国各地の暮らしをこの眼で見るということ。対象はさまざまですが、その土地々々が生んだ「かたち」の持つ特徴などを知ることが主です。2つ目は歩くという行為そのもの。その「かたち」の変化を肌で感じ取ることです。例えば、特定の道具の「かたち」ひとつをとっても、集落から集落へ峠ひとつ越えるだけで変わることさえあります。そういった地域ごとに異なる「かたち」の情報量を実際に足で稼ぐことで、風土との関係性をより深く身体で覚えることができると考えています。そして3つ目はその感覚を自分なりの「尺度(デザインするための指針)」として落とし込むことです。これまでの旅を経て、この「尺度」をつくり上げるためには徒歩が最適だという結論に至りました。

当然ながら、1歩進むと1歩分の景色が変化します。今日ではあらゆる交通手段が存在しますが、時速4キロ程の時間の流れ方は、色かたちのほか、さまざまな要素の変化が心地良く身体に染み込む格別なもの。得られる情報量もまた徒歩に勝るものはないと感じています。このようにして各地を時間をかけて行脚し培ってきた知識や身体感覚が、やがて自分なりの「尺度」となり、現在の素材や寸法、加工方法の選定などの考え方に結びついているように思います。


●スツールをつくる

社会人になりしばらく経った頃、この「尺度」を用いて自主製作したスツールがあるコンペを受賞しました。そのクラフトコンペでは、「アート」と「プロダクト」の差異についての解釈が求められ、これに対してプロダクトデザインを学んできた私は、学生時代の構想を基に、「機械生産可能な手工芸」という考えを具現化し、提示しました。

針金を撚るという単純作業を反復させることで、素材の美しさや加工技術の高さに依らない、純粋な作業量による魅力の創出を狙ったそのスツールは、製造方法が要。治具からの開発を行い、「尺度」を用いて最適な針金の素材や径などを選定することで、人の手の介入しない製造工程における表現手法を探りました。

実際には自らの手製というかたちに留まりましたが、最終的には機械で製造することを見据えた手法までをも設計することで、プロダクトデザイン的な製造工程から生まれた「かたち」が工芸領域でどのような評価を受けるのかという疑問を解く実験的な試みとなりました。そして、一定数の共感を得られたという結果を受けて自身の「尺度」の有用性を確認することのできた貴重な機会となりました。



▲スツール(2018年)。(クリックで拡大)




▲スツール構造のアップ(2018年)。(クリックで拡大)




●木製の量産家具

さて、話を今に戻したいと思います。すでにご存知の方もいるかも知れませんが、私の勤める天童木工は成形合板と呼ばれる技術を主軸としています。この技術の歴史は古く、世界で初めて量産に用いられたのは三四半世紀以上も前のこと。その技術的進歩の量は計り知れませんが、製造工程自体にはさほど変化のない、今でも職人の手に多分に依存している木工技術です。



▲成形合板の家具。(クリックで拡大)




▲成形の様子。(クリックで拡大)




この技術をいかにして更新させるかが課題ではありますが、そう簡単なものではなく、私なりに思索し、先の「尺度」を適用させるなど試みてはいるものの、これがなかなかどうして難しく今日も実現には至っていません。ですが、より技術的な領域、特に再現性や安定性という点においてはまだまだ発展の余地が残されており、十分に希望のある量産技術であると確信しています。

多くの業種で製造体制に変化が生まれている昨今、木製家具もまたその1つとなる可能性は少なからずあるはずです。そういった変化の先に人の心打つものづくりが存在するかは定かでありませんが、今後も自分の眼を信じ、これからの時代に求められる「木製量産家具」のあり方を探っていきたいと考えています。





宮田雄介/Miyata Yusuke
1992年千葉県生まれ。2017年法政大学大学院デザイン工学研究科システムデザイン専攻修了後、株式会社天童木工へ入社。主に商品開発に従事するかたわら、個人製作活動も行う。2018年高岡クラフトコンペティショングランプリ受賞。




2020年5
月15日更新。次回は矢野拓洋さんの予定です。



※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 


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