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イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第95回 𠮷田勝信/デザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





この原稿を書いているとき、前回のリレーコラムを書いた岡部さんたちと「NEW TRADITIONAL」というプロジェクトで一緒に仕事をしている(「NEW TRADITIONAL」ついては前回の記事を読んで欲しい)。

そのせいもあって「NEW TRADITIONAL」という言葉を考えながら日々を過ごしている、 この機会に自身の仕事を振り返りつつ考えてみたい。今回の紙幅の都合上、前提条件となる僕の時代認識や社会認識は省かせてもらい実践のみを書いていく。



▲ISKOFFEEのショップカードとポイントカード(2017年)。(クリックで拡大)




▲ISKOFFEEの贈答用の包装紙(2018年)。(クリックで拡大)






▲ISKOFFEEのパッケージデザイン(2016~2018年)。(クリックで拡大)




▲カフェオレベースのパッケージデザイン(2017年)。(クリックで拡大)




●コーヒー店のデザイン

山形県山形市にある「sui-cafe」「ISKOFFEE」(イズコーヒー)というローステリア(コーヒー豆焙煎所)のグラフィックやパッケージングなどのデザインを6年ほど担当している。

僕は大学を中退した後、仲間たちとカフェを始めた。その際に自分たちのお店で提供するコーヒー豆を探していて「sui-cafe」のオーナーである山口さんに出会った。僕が自分のお店をやめ、デザインを生業にし始めた頃からの付き合いだ。最初は「sui-cafe」のパンフレットを依頼してもらったのがきっかけだった。

彼らは自分たちの考えが形になってくのを面白がってくれて、完成後もどうやって僕がデザイナーとしてお店に関わっていくか一緒に考えてくれた。僕はどうやってフェアにマネタイズするか、アイデアを3つ提案した。最終的には、僕が「社長の給料の10%」を月々貰い、メンバー全員が集う定例会を運営することが仕事になった。これは現在も変わらない。第2店舗となる「ISKOFFEE」の立ち上げからデザイナーとして本格的に関わり始めた。

コーヒーは起源となる神話がいくつかある。その1つを大まかに書くとこんな話だ。森で見知らぬ赤い実をヤギが食べてしまった、その晩、ヤギの寝付きが悪くて困った。明くる日、ヤギ使いが赤い実をもって寺院へ相談しにいったところからコーヒーが発見されたという話だ。歴史的には、その神話は定かではないが、実際にコーヒーは僧侶たちが瞑想を行う際に飲まれ、覚醒する「薬」として使われていた。また、14世紀のヨーロッパでは、コーヒーハウスが大流行。そこは芸術家や学者、労働者などさまざまな階級の人々が混じり合い、革命につながる動きになっていった。

そのような経緯を踏まえ、僕と山口さんは、おいしいコーヒーが息抜きするための用途だけではなく、思考を活性化し日々の暮らしを創造的にする「目醒めのコーヒー」というコンセプトを考えた。



▲実家のYUIKOUBOUで作っている風呂敷の型染め。(クリックで拡大)




▲右の切り紙をデザインに取り入れたショップカード(2015年)。(クリックで拡大)



▲型染めの染型を作る技法で作った切り紙(2015年)。ISKOFFEEで切り紙を作り始めた初期の頃のもの。(クリックで拡大)



●型染めのデザイン

この会社で行っていることは、自らがコーヒーの産地である赤道直下の国々へ赴き、何十という農園を回りながらカッピング(評価)を行い、自分たちが良い風味だと思う豆を買い、日本へ持ってきて、その風味がよりひらく温度を探り、たくさん焙煎し、パッケージングして販売することだ。

この手間のかかった商品を表現するために、僕自身も制作に手間をかけることにした。ちょうど実家の染織工房「YUIKOUBOU」を手伝い始め、型染めの染め型の彫り方を教わった頃だったと思う。これは、渋紙をカッターのような刃物を使い彫ることで図案部分の穴を空けことで型を作る技法だ。染め型を布に重ね、そこから糊や染料をヘラで布へ押し出すとプリントできる。原理はとても簡単で、ようはグラフィックデザインで言えば印刷の製版と同じことだった。

僕はこの技術でやってみることを提案するとともに、ロゴマークやロゴタイプなどのビジュアルアイデンティティを作らないことを提案した。何故かというと、契約体系上、僕が長期にわたり会社の内部へ入り並走することが予想できた。また、実際にお店を運営してみてサービスや商品、時代や社会の要請などいろいろと変わることが多いだろう。その流れの中で制作物が作り続け、イメージが重なり合い、自ずとアイデンティティができ上がっていくと考えた。



▲看板やメニュー、照明などのために作った型紙たち(2015年)。(クリックで拡大)



▲型紙を使い自分たちで印刷したメニュー板。ISKOFFEEの店舗は、元々、大工さんの工場だったため、そこにあった木材を使わせてもらった(2015年)。(クリックで拡大)




▲店内サインはすべて型紙を使ったものか手描きにした(2015年)。(クリックで拡大)




▲照明看板も自分たちで印刷した。型紙は黒いもの(2015年)。(クリックで拡大)



▲開店後「何屋さんですか?」というお客さんが多かったので、外側の木の壁を彫り看板にすることにした。僕が鉛筆でスケッチを描き、お店の人たちで彫った。写真に写っているのはオーナーの山口さんが彫っているところ(2016年)。(クリックで拡大)




▲切り紙で作った文字をお店の人が真似した描いた看板。僕が作ったものをお店の面々が真似することでビジュアルアイデンティティができ上がってきた(2016年)。(クリックで拡大)


●デザイナーを介さないデザインへ

「ISKOFFEE」の開店にあたり、店内サインや看板も自分たちで作ることにした。たくさんは刷らないので紙で版を作り、直接、壁や扉に刷ったり、道路に面した木の壁へ僕が鉛筆でスケッチしたものをみんなで彫って看板にした。お店の面々は自分たちで作ることを楽しんでくれた。開店してからは、僕が紙を切り作った文字を真似をしてポップなどに描くようになり、ビジュアルアイデンティティが複製されるようになった。

紙媒体は、2~3年の間は手で彫り作っていたがどんどん原版が増えていき、ふと振り返ったときに「これを編集するのはどうだろう」と思い、これまで作った図案を素材にデータ上で再構築し、作ることが多くなっていた。

そして、最新のパッケージデザインは、もう僕は作っていない。ことの発端は、オーナーの山口さんからの相談だった。僕が制作したパッケージのデータを印刷会社へ依頼し納品されるまで当たり前に日数がかかる。ちゃんと作りたいときはその方がクオリティが安定するが、もっと小まめに、今日思いついたアイデアをその日のうちに試してみたいこともあるという話だった。

共感できる話だった。僕もそういうことはあるし、お店に立っていて「あ! この方がいいかも!」と思ったことをデザイナーを通さないと試せないというのは、なんとも腰の重たい話だった。ここでの問題は、デザイナーを介さないこと、印刷をしないこと、メンバーが誰でもできること、歩留まりがいいこと(ロスがないこと)、店内でできることだった。

僕は、まず白い袋に黒いマッキーで手描きして完成するパッケージを提案した。開店時、看板やサインを作るときに染め型を作り自分たちで刷ったが、メンバーの面々は難しそうにしていた。染めの世界では型染職人がいるくらいだから当たり前だ。その技術でパッケージを印刷するのは歩留まりが悪くなるだろうし、食料品を扱うお店としてはインク汚れが気になるので、身近なところで手に入り定着しやすいマッキーが良さそうだなと思った。あと、描く部分を限定した方がやりやすいだろうと、袋と同じ大きさの厚紙に描く部分だけ窓を空けて治具を作った。模様は風味を彷彿とさせ、簡単に描ける一筆書きのものを考えた。もう1つ、パッケージは、家庭用のプリンタで刷ったラベルに一種類の模様を色で風味を描き分けてもらった。いずれもメンバー全員へ1~2時間のワークショップを行い、すぐに描けるようになった。



▲これまで作った切り紙各種。それを素材に再構築し冒頭の写真にあるポイントカードや包装紙を作った(2020年)。(クリックで拡大)



▲模様の理解の仕方、左利きや右利きなどの身体の違いよって、お店の面々が描く模様が異なる。郷土玩具の絵付けのように人が同じ物を早くたくさん作る時に生じる、7割程度の複製性(2018年)。(クリックで拡大)




▲パッケージを描くにあたり窓を空けた治具を作った。そこに風味を連想させるような一筆書きの模様をマッキーで描いてもらっている(2018年)。(クリックで拡大)




▲ラベルをA4に面付けし家庭用プリンタで出力。それにマッキーで模様を描いてからカッターで切り貼る(2019年)。(クリックで拡大)



▲僕が差し出してきたデザインを再構成し、山口さんが自らでブリコラージュして作ったパッケージ。自分で作ったから治具の必要がなかった(2020年)。(クリックで拡大)




▲前に作った商品名の判子とマッキーを使い「前に吉田くんがこんなことしてた」と言って新しい模様を考えていた(2020年)。(クリックで拡大)





▲ここ写っているものは作る時に失敗してもやり直せない。そういう条件下の元、ディテールの失敗を内包しながら全体を完成させる技術が培われる。。(クリックで拡大)



▲この仮面たちは、日本の江戸や昭和、韓国の儀礼用、インドネシアのある部族の面。(クリックで拡大)




▲少なくても50年くらい前のアフガニスタンのチェスト。文化や時代を超え、全体を掌握する作り方は存在する。(クリックで拡大)


●積み上げ型と全体掌握型のデザインアプローチ

「ISKOFFEE」のパッケージは描く人によって模様の解釈が若干異なり、個性が出ている。それは、こけしの顔のようなものだ。同じ工人さんが作ったこけしでも目を凝らし顔を見ると筆致の差で、一体一体の表情が異って見えるが、全体としてはなんとなく同じに姿に見える。このような7割くらいの複製性・量産性が手で量産するときに発生する。

パッケージと言えば、現代ではほぼ100%の複製性で量産するのが当たり前になっており、同様にデザイナーの制作過程おいてもPCの中でコピー&ペーストを繰り返し、完成までに膨大な数のトライ&エラーを行っている。何回も線を引き直せるし、アールを1度変えてシミュレーション可能だ。それを積み上げて積み上げて、積み上げきった先に現代の一般的なデザインの成果物がある。

僕は、そういった積み上げ型の美しさとはまったく異なる成り立ちの美しさがあると思っている。積み上げ型が、言葉を1つひとつつなげていって全体を説明するような論理的な方法なら、もう1つは写真のように全体を一瞬で鷲掴みするようなやり方だ。指の間から抜け落ちるものがたくさんあって、一見適当に作っているかのように見えるが、でき上がったものはなんとなく物になっている。

例えば、郷土玩具や陶芸の絵付け、書道が分かりやすい。紙に練習はすれど、実際には1回で描ききる。僕の手元にあるアフガニスタンの木工品にもそれは見ることができる、その装飾は木材を刃物で削り図案を彫るのだから後戻りできない、当然失敗する。だけど、最後まで作り終えた時に全体としては失敗した部分もなんとなくおさまっていて、そこにある正しささえ感じてくる。同じようなものは、古代の土器や石器、未開と呼ばれる人が作るものからも見てとれる、世界各国、時代を問わず、人間が営んできた行為だと伺える。

きっと、この大まかに全体を掌握する技術は、細部を検証しながら積み上げていく技術と対をなし、人間がものを作る術のうちの1つだと思う。そして、今も僕ら身体に潜んでいて、修練をせずとも割と簡単に起動する。「誰でも」扱える術ではないかと思う。

●追記

文章の途中で触れなかったパッケージデザインがある。そのオレンジ色の格子の中に点が入っているパッケージは、オーナーの山口さんが、これまで僕が作ってきたデザインの構成要素をブリコラージュして作ったパッケージデザインだ。このパッケージは、まさにこの原稿を書いている最中に、このパッケージでやらせて欲しいと僕に連絡が来た(実際にはすでに店頭に並んでいた)。

僕がどうやってこれを考えたのですかと聞くと「吉田くんがこんなことをしていた思って」と答えてくれた。よくオーナーの山口さんは「吉田くんならこれは嫌がると思って」と僕がデザインした物の扱いに配慮してくれる。今回も現場で勝手に作るのは、彼が自分の領分を超えてしまったと思って連絡をくれた。

相手の領分を理解した上で、現場で直面した問いに対して「吉田くんだったらどう答えるだろう」と相手の視点に立ち、これまでちりばめられたデザインの要素をヒントに思考をトレースすることでアイデアができ上がった。あとは描く身体はすでに持っているので実装できる。

いよいよイズコーヒーのデザインは僕のものではなくなりつつあると感じた。




𠮷田勝信/Yoshida Katsunobu
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987年東京都新宿区生まれ。幼少期は奄美大島で育つ。2006年東北芸術工科大学美術史・文化財保存修復学科に入学、在学中より市場ではじかれる野菜を流通させる八百屋を企画運営、その延長で飲食店を開店し、中退。現在は山形県を拠点にデザイン業を営む。家業である染織工房をはじめ、さまざまな領域でコンセプトメイキングとそのビジュアライズを行なっている。グラフィックデザインの他に装飾品の制作販売、日用品やテキスタイルの制作やシェアオフィスを運営している。アトツギ編集室共同主宰。
https://www.ysdktnb.com





2020年3月23日更新。次回は荒 達宏さんの予定です。



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