リレーコラム:若手デザイナーの眼差し
第93回 川﨑富美/プロダクトデザイナー
このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。
●デザイナーふるさとに帰る
山陰は今日も曇り空。デスクから見える風景に混じって写真を撮った。冬枯れの景色にも楽しみは多い。東京から鳥取にUターンして2年が経った。転居の理由の1つは「小さな経済圏で生活したい」から。生業は一応プロダクトデザイナーだけれど、今興味があるのは、暮らし方の選択です。
2年前まで私は、製造小売業で商品企画とデザインを担当していた。世界中の人の役に立つ製品を作りたいとかいう学生時代の夢は、ある意味叶ったかもしれない。より良い商品を作ることに真剣に取り組める会社だった。
前職に勤めた約10年の間に、世の中はゆるやかに、しかし大きく様変わりしたと思う。2008年を境に日本の人口は減りはじめた。長い歴史の中で、人口が一番多い時代を生きたことに驚く。市場と生産地は国内から中国、東南アジアへと変遷していく。グローバリゼーションという言葉を知ったときにはすでにその渦中にいた。それでいて旅行や出張で訪れる土地土地の個性が、年々平均化されていくことを惜しんでしまう。大量生産の仕組みの一部である私と、土地に根ざした文化を愛する私は相入れない。折り合いをつけようと、仕事を辞め変化がゆるやかな鳥取へ帰ることにした。
▲デザインを担当した無印良品の商品。(クリックで拡大)
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▲Found MUJI の仕事は、世界の道具との出会い。写真はシンガポールでの展覧会の様子。(クリックで拡大)
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●生きることと切り離せないお金の話
製造小売業の商品開発は、売上げリストを読み込むことから始まる。数値の大小や増減から、次期の物作りを検討する。リストの中の、例えば「売上数:1000」という数は、購入した1000人の心が動いたこと表す。1人の購買行動が積み重なって企業の方針や経済を動かしているという、シンプルな世界の構造を知った。選挙の1票も大事だけれど、お金の使い方にはもっと具体的に、誰かを応援したり思想を表現する力がある。
今、農村の空き家に猫と暮らしている。仕事部屋から眺める風景が気持ち良いのが何より大事。食べる物は、輸送や生産にかかるエネルギーや鮮度を考えると地元産の旬の食材を選びたい。ハーブなどは庭で摘むし、割と頻繁に近所の方が野菜を分けてくださる。永く続いて欲しい店に足を運ぶようにする。作家の展示会で物を買う。友人の大工に家の修理を頼む。そして自分が暮らす街のために働く。人口が少ない土地では、見知らぬ人とも必ずつながりがある。お金が目の届く範囲で回っていく、小さな経済圏での暮らしは私にとって納得感がある。
▲鳥取県立図書館のためにデザインした、移動図書館用の運搬箱。県産材で制作。(クリックで拡大)
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▲鳥取市の福祉作業所「アートスペースからふる」のアート作品をプリントし、一点物の手ぬぐいを作るプログラムをデザインした。(クリックで拡大)
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▲(クリックで拡大)
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●一歩引いた場所で考えること
街を歩くだけで広告や流行の情報に囲まれる都会から離れると、物の見え方も変わる。名作デザインともてはやされるプロダクトも、一緒に暮らしたいかといえば話は別だ。身の回りの物は、古道具や作家物や手工業の品が多い。造形がゆるかったり、扱いに気を使う素材だったり、量産品だったらB品として廃棄されそうな不具もある。そういう道具も十分使えるし、愛おしい。大量生産品にまつわる人の叡智やシステムの精緻さ、低価格で商品を提供する努力には重々敬意を表しつつ、より原始的な手法で作られたものを求めている。ハイテク製品が必要となれば、物は世の中にあふれているし、私はもう、自分がわざわざ作らなくてもよいと思っている。
さて、生きるためには働かねば。街の人々の夢や願いを愉快に叶えていくために、デザインとクリエイティブは役立つはず。心惹かれるのは「祈り」や「縁起物」、「贈り物」や「互助」にまつわるものごと。ハードがすごいスピードで変化しても、科学至上主義の世の中でも、人の心の変化は案外ゆるやかで、土地の個性はそういう部分に宿り続けるのだと思う。
▲鳥取県東部の正月飾りは海老型。縁起物のスタイルは土着的。(クリックで拡大)
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▲島根県浜田市の長浜人形招き猫。郷土玩具は祈りの象徴であることが多い。(クリックで拡大)
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川﨑富美/Kawasaki Fumi
1979年 鳥取県鳥取市生まれ。2002年 岡山県立大学デザイン学部工芸工業デザイン学科プロダクトデザインコース卒業。2003年~2007年ゼロワンデザイン。2007年~2017年株式会社良品計画生活雑貨部企画デザイン室にて無印良品の商品企画とデザイン、Found MUJI、福缶を担当。2018年より鳥取市にてフリーランスデザイナー。
https://www.kawasakidesign.net/
2020年1月14日更新。次回は岡部太郎さんの予定です。
※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
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