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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第92回 高橋孝治/プロダクトデザイナー



このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





●借家での生活

風呂は薪で焚いていて、トイレは汲み取り式。公共の下水道に接続がなく生活排水が隣の家との間にある溝に流れてしまう。引っ越した直後に産まれた三男を含めた家族5人での生活はもうすぐ1年になるが、僕の仕事の仕方を朝型に移行したりして、妻と、たまに6歳の長男や3歳の次男も加わり、あーでもないこーでもないと工夫しながら借家での生活を送っている。

僕と妻は、家電などが普及し始める少しだけ昔の家事の部分を実生活で試して、その体験から美味しかったり楽しかったりすることを手がかりに自分たちの生活をつくっていきたいと考えている。また、ものづくりを機械や他人に任せず素材から道具一式を自らつくる職人や作家と仕事をする中で、物事の過程や原理を身につけていく楽しさをあらためて知り、その実践の場としても我が家のラボ感が一層強まっている。

風呂は五右衛門風呂ではなく、浴槽からパイプを通して入ってくる水を、屋外に設置した釜で温め、浴槽にお湯として循環する仕組みのもの。朝から水を浴槽に張っておくと、蛇口から出た水が日に照らされていくぶん温まることで、焚く時間を短縮できる。と言っても夏は1時間、冬は2時間ほど他の家事をしながら火の番をすることになる。平日の焚きつけは妻が行うことがほとんどで、ぐんぐん上達している。薪割りは、木は根元から竹は上からと、いつの間にか素材の扱いを心得ているといった具合で、知らないことを学んでくる。

妻の師匠は、次男が通う「森のようちえん」のある近所の寺の裏山に木工房を構えるお爺さんたち。竹でふいごをこしらえてくれたり、斧を研いだりと心強い。帰宅後に僕が薪のバトンを受ける。蓋の代わりに鋳物の鍋を置くと、薪ストーブのように焼き芋などの簡単な料理もできる。子どもたちは、風呂焚きの仕組みがすべて理解できなくとも、自ら沸かした湯に浸かるという充実感を僕や妻と味わっている。僕は大分の別府出身で実家の風呂には温泉の蛇口があり、温泉の良さは体感しているつもりだが、薪で焚いてじっくり温めた湯も劣らず格別だ。



▲風呂釜。(クリックで拡大)






風呂のとなりの部屋にある、ぽっかりと暗く深い穴のある便器を怖がる子供たちは、その前に設えた樹脂製のおまるを常用している。昔、僕が祖父母の家に泊まった時に、居間から離れたひんやりと冷えた薄暗いトイレへ行くため、自ら気合いを入れて駆け足で往復していたのを思い出した。井戸しかり、家の中に暗くて怪しい場所があることは決して悪いことじゃないのかなと思う。ハイハイをはじめた三男が目を離したすきに落っこちそうで、早々に便座を設置する予定だ。

下水道への接続がないので、周りに迷惑をかけないよう排水に気をつかう。油を使って調理をしたフライパンやその料理が盛られた器は、食後に古着を再利用したウェスで拭ってから、重曹などを使って洗う。毎年実家から届くかぼすが秋冬は食卓に欠かせないが、食後に器をウェスで拭う前に、使い切ったかぼすを器に当てがうと、面白いように油が取れる。パパレモンが誕生した。

つい最近電子レンジを撤去した。ずっと、お湯を沸かす道具は鉄瓶。ご飯は直火で炊いていて、ホーロー引きされた鉄鋳物の鍋を使っていたが、経年変化で本体と蓋の嵌合が甘くなってくるように感じ、使い続けても本体と蓋の密着が持続するアルミ鋳物の鍋に、鉄の重しを載せて内圧を高めた状態で炊いている。蒸篭でふかした野菜や直火で炊いたご飯が美味しい。

鉄瓶で沸かしたお湯はまろやかで、白湯が旨いから当初は驚いた。鉄瓶は「ならし」と呼ばれる湯あかを鉄瓶の内側に付着させる工程を経れば、多少の間、水を入れっぱなしにしてもサビはへっちゃらだ。

前職で鋳物鍋の企画開発を担当した時、鋳物鍋の特徴を同様の機能を持った製品と比較するため、当時の最新式の電子炊飯器や異素材の鍋とともに炊き比べてみたことがある。簡単便利を謳うものによって隅に追いやられてしまった昔ながらの道具でつくるほうが美味しいと感じ、台所の道具に限らずいろいろと昔の生活の仕方を試してみたいと思うようになった。



▲鉄瓶 釜定(岩手県盛岡市)製。(クリックで拡大)






火のある生活は思っていた以上に楽しい。今は調理用にプロパンガスを使っているが、近い将来、土間に竃(かまど)でその火を風呂焚きと両用したい。

先月、バングラデシュの北部にあるロンプールという地方に4日間滞在したが、経済的に貧しいと言われる国の地方の生活に感心した。牛の糞を木の棒に刺し天日で乾かして、土間に自作した土のこんろに焼べて料理をつくっていた。集落の池に網を投げ込み魚を釣り、ご馳走してくれた。雨季を終えて米の収穫期で、すべて村人の人力で刈り取り、運搬、脱穀、乾燥を行っていた。収穫した稲が積まれたふかふかのところに、子供たちが飛び込んで遊んでいた。

旅の話は家族に好評で、生活の技術を学びに家族でバングラデシュの旅を計画しはじめた。



▲土のコンロ。(クリックで拡大)









高橋孝治/Koji Takahashi
1980年大分県生まれ。2004年多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業。2005年~2015年株式会社良品計画で無印良品の生活雑貨のデザインを行う。現在、常滑に拠点を置きプロダクトデザインを軸にさまざまなプロジェクトを行う。2016年~2018年常滑市陶業陶芸振興事業推進コーディネーター。2017年~六古窯日本遺産活用協議会クリエイティブディレクター。
https://sixancientkilns.jp/

2019年12
月17日更新。次回は川﨑富美さんの予定です。

※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 

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