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イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第91回 水野太史/水野太史建築設計事務所



このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





焼き物のまち愛知県常滑市を拠点に、水野太史建築設計事務所と水野製陶園ラボの代表として活動している水野太史です。バトンをつないでいただいた石野啓太さんとは、互いに焼き物の産地において「建築」「窯業」「まちづくり」など、多面的な活動をしていることから知り合い、共通点が多いからこそ異なる部分に気付かされることが多く、いつも良い刺激をいただいています。

今回のコラムでは、設計事務所および窯業メーカーとして地域と地域産業に関わる活動や、その中で感じていることをご紹介したいと思います。

●焼き物のまち「常滑」、空港のまち「常滑」
常滑地区には、古い焼き物の工場や煙突が多く残っていて、焼き物を転用して作られた舗装や基礎などが至る所で見られます。

これらの集積でできた常滑のまちで暮らしていると、先人がそうしたように都市や社会は、自分たちで自由に工夫してつくることができるのだ、と強く感じさせられます。またそのような風景の中、焼き物産業の縮小や、中部国際空港の開港やそれに伴う都市開発など、まちの大きな変化とも日々向き合いながら仕事をしています。



▲焼き物を転用して作られた舗装と坂道の基礎。(クリックで拡大)



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●水野太史建築設計事務所の活動
水野太史建築設計事務所では、常滑地区において都市計画案から集合住宅、公共施設改修、住宅、店舗、イベントなどいろいろなスケールの仕事を、さまざまな人たちと関わりながら手がけてきました。どのプロジェクトでも「じぶんたちでつくるまち常滑」に向かって(まちづくりや建築が身近に感じられるように)活動しているという点では一貫していると考えています。

「トコナメレポート2010」と題した都市計画案では、中部国際空港開港以降のまちのあり方を追求し提案しました。「本町の集合住宅」では、この地域に相応しい新たな賃貸集合住宅を追求しRC造の長屋を設計しました(現在私は、この一住戸に住んでいます)。「やきもの散歩道」の起点となる常滑市陶磁器会館の改修では、常滑のデザイナーや職人と協働して、常滑焼きの使い方を学べる「ワークショップスペース」を設計しました。キッチンの天板や壁には常滑のタイルメーカー5社のそれぞれに特徴あるタイルを用いています。



▲都市計画案「トコナメレポート2010」一部抜粋。(クリックで拡大)



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▲「本町の集合住宅」断面図と外観。(クリックで拡大)



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常滑市陶磁器会館「ワークショップスペース」。(クリックで拡大)



また、常滑焼きの元倉庫を設計改修した「café tsunezune」では、カフェのオーナー夫婦とともに「トコナメハブトーク」を企画運営しています。さまざまな活動をしているゲストを招いて話を聞いたり、地域の課題について参加者も交えて話し合ったりするイベントです。窯業関係者、クリエイター、商店主、市役所職員、学生など、当事者意識の高い多様な属性の人たちが集まり話し合う機会になり、実際のプロジェクトなどにもつながっています。



▲「café tsunezune」とイベント「トコナメハブトーク」。(クリックで拡大)



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●水野製陶園ラボの活動
窯業の原料の陶土や釉薬から、タイルやレンガ製品までを、自社で一貫製造している株式会社水野製陶園は、常滑の自由で合理的な精神を体現した窯業メーカーです。水野製陶園ラボは、その水野製陶園の資源である「技術・資材・空間」を活用するプロジェクトとして立ち上げました。



▲水野製陶園の工場外観。(クリックで拡大)



▲膨大な釉薬の研究サンプル。(クリックで拡大)





「技術」の面では、土づくりや釉薬の高い技術を活かすべく、焼きものの質感を大切にした新たな施釉タイルの開発や、建築家やアーティストからの特注タイルも制作しています。

「資材」の面では、在庫のレンガやタイルを活かすべく、建築家の視点から販促や活用に取り組んでいます。また、特注タイルの中でも在庫製品に釉薬を施して新たな製品にアップサイクルするような試みも行っています。

「空間」の面では、工場の空間の活用方法を考え、陶製ブロックで手づくりした旧社宅を再活用するプロジェクトなどを手がけています。これまでにワークショップも開き、場の可能性を探りながら整備を進めています。



▲「house H」特注タイル 設計:o+h。(クリックで拡大)



▲JR特急列車食堂車のための特注タイル。(クリックで拡大)




▲杉戸洋「とんぼとのりしろ」展のタイル制作サポート。(クリックで拡大)




▲「透水レンガ」の在庫。(クリックで拡大)



▲新たに制作した「透水レンガ」パンフレット表紙。(クリックで拡大)




▲旧社宅での「レンガ敷ワークショップ」の様子。(クリックで拡大)


工場で粘土に触れる時、ここにかつて存在した巨大な湖のことが頭に浮かびます。数百万年前の東海湖に堆積した土が今の粘土です。釉薬のテクスチャを見ながら調合を考える時、想像は分子構造などのミクロの世界に飛びます。

工場で機械や重機や窯の火を操りながら、ものづくりをする時、伊勢湾から見える巨大なコンビナートや工場や雲の運行も、身近な存在になります。自らが設計した建築に住まい、住んでいる都市や環境について想像をめぐらし、能動的に働きかけることで、現実は拡張し、自分と環境が一体化するように感じられます。

大きな大きな広がりを持った「空間」と「時間」と「人間の営み」の総体としての「生態系」を考えながら、実際に素材に触れ、まちの風景や建築の一部になるタイルを作り、さまざまな人と直に話し合い、体と心で実感しながら、想像を遠くまで飛ばし、設計し、作り、使い、また実感し作り続けて生きること。

この延長線上に、環境とテクノロジーと人間の理想的な未来を夢見ています。



▲数百万年前の「東海湖」。(クリックで拡大)



▲タイル表面の釉薬テクスチャ。(クリックで拡大)





次にバトンをリレーするのは、同じく常滑を拠点に活動するデザイナーの高橋孝治さんです。高橋さんは広い視野でさまざまな活動を展開されていて、産地や作り手に寄り添う真摯な姿勢が頼もしいデザイナーです。プロジェクトで協働することもあり、いつも良い刺激をいただいています。




水野太史/FUTOSHI MIZUNO

水野太史建築設計事務所、水野製陶園ラボ代表。愛知県立芸術大学デザイン専攻非常勤講師。愛知県常滑市出身。京都工芸繊維大学造形工学科建築コース卒業。同大学在学中に常滑市の賃貸集合住宅プロジェクトを手がけ、建築家としてのキャリアを開始。常滑を拠点に「建築」「窯業」「まちづくり」など、多面的に活動。共著に「地方で建築を仕事にする」学芸出版社(2016)。
水野製陶園ラボ http://www.mizunoseitoen.com/lab/
トコナメハブトーク http://tokonamehubtalk.jp/


2019年11
月14日更新。次回は高橋孝治さんの予定です。

※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 

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