リレーコラム:若手デザイナーの眼差し
第88回 酒井雄大/株式会社スライムデザイン
http://slymedesign.jp
https://doogoo.slymedesign.jp
このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。
●出会いとご挨拶
プロダクトデザイナーの酒井雄大と申します。つないでくださった外林さんは、高校時代の先輩です。同じ部活動で汗を流し、同じ美術学校に通っていました。当時、持っているものから佇まいまで格好良く、とても影響を受けました。持ち物を真似して買ったこともありました。
私たちの母校で知る限りでは、「デザイン」という分野に足を踏み入れようとしている人が他にいなかったので、身近な兄貴的存在だった外林さんが同じ境遇で、心強かったことを覚えています。このコラムのおかげで久々につながれたことが嬉しく、思い出を振り返るとキリがないので、本題に入ります。
●私の血と肉と今
私は「株式会社スライムデザイン」でプロダクトデザインに従事し、同社のブランド「DOOGOO(ドゥーグー)」の代表もしています。
大阪で就職し、クリエイティブ集団「graf」に入社。家具とプロダクトのデザインをしていました。その後、ペットメーカー「ドギーマンハヤシ」に移り、ペット用品のデザイナーとして勤しみました。そして2013年に独立。大学の先輩とデザイン事務所を立ち上げ、2016年に法人化し、現在に至ります。空間デザイナーとプロダクトデザイナーで始めた事務所ですが、今では新たな頭脳も増え、グラフィック、プロダクト、空間と多岐にわたってデザインを手がけています。
●すごく考える癖
プロダクトデザインの分野は広いので、「何を作っている人ですか?」とよく聞かれます。そう聞かれると、今作っているものを答えます。例えば、メーカーの製品(ホームページには掲載しておりません)、家具やお店の什器など。あと自社ブランドに関しては、製作以外のすべてに携わっています。かなり表面的な回答ですが。実際は設計業務だけではなく、企画立案から市場調査はもちろん、特許などの知的財産権にも業務が及びます。
そしてまれに、「何が得意ですか?」と聞かれることがあります。そう聞かれると、「すごく考えることです」と答えます。その質問で得意な分野を聞かれていることは分かっていますが、何が得意なのかは自分でもよく分かりません。とにかく、すごく考えます。
考えることは仕事のためだけではなく、おそらく「癖」です。普段から、これはなぜこんな形をしているのか。あの店のロゴマークはどういう意味があるのか。と気になり、それに対して自分なりの答えを探そうとしてしまいます。子どもたちが通る「なぜなぜ期」が、大人になっても続いている状態です。
ただそれが仕事に役立っているようで、私がデザインしたモノは「売り文句がある」と言われたことがあります。プレゼンテーションをする時も、「こうだからこう」というデザインの意図がはっきりしていますし、「美しいから」とか「格好良いから」という言葉は使いません。結果そのデザインの意図が、そのまま売り文句になっているのかと思います。
製品の場合、物が店に並ぶまでに何人も介し、各々が製品の良さを伝言していきます。そうなれば、美しいとか格好良いという、人によって感覚が違う特徴だけでは、どこかで伝言が途切れてしまいます。
それに対して「驚き」や「機能」は多くの人の感情を動かします。そういう理に適った製品は、結果として美しく、格好良いのです。いわゆる、「機能美」です。私がデザインしたモノも、どこかで誰かの感情を動かせるように「すごく考える」ことを続けたいと思っています。
▲「T-02」自社ブランド「DOOGOO」のミニテーブル。構造体で特許登録済み(特許第6245711号)。(クリックで拡大)
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▲「DOOGOO TIME THE TABLE 420」レジャーブランド「Allstime」とのコラボレーション商品。(クリックで拡大)
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●幸せなデザイン
良いデザインとは何か。それは人それぞれで違います。私は、皆が幸せに感じられるかどうか。だと思っています。綺麗事を言っているわけでも、理想論でもありません。
モノに関わる人を大雑把に分けると、考える人、作る人、売る人、買う人。役割を兼任していることもありますが。私はこの皆が幸せであるべきだと思っています。
この中でも最近よく話すのが、作る人。製造業の職人さんです。昔に比べて発注される数量は減っても要求は多く、それはそれは大変そうです。世の中に、製造という観点でも理に適っているモノはどれだけあるのでしょうか。作りにくくても不良品は許されない。これは幸せではありません。楽に作れるものが良いというわけではなく、挑戦は欠かせません。ただ、「挑戦すること」と「無理をすること」はまったくもって違います。
デザイナーが物を考えることはできても、商品レベルで製造することは難しいです。それを具現化してくれるのが、熟練した職人さんたちです。彼らがいなければ、良いアイデアもデザインも、ユーザーに届くことはありません。
もっとコミュニケーションをとって信頼し合い、職人さんからも学び、理に適った素材と製造方法で作られた製品を、売る人、買う人に丁寧に届ける。この当然の仕組みができていないことも少なくありません。
こうして生まれた新製品が今世に出ようとしています。製造業の方々と新たなブランドを立ち上げ、第一弾製品として完成した「アルミグリルプレート」。これで終わりではなく、始まったばかりです。自らの発言を自らにも言い聞かせ、「幸せなデザイン」を生み出し続けたいです。
▲「アルミグリルプレート」製造業の方々と立ち上げた新ブランド「atta(アッタ)」の第一弾製品。(クリックで拡大)
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▲アルミ製なので驚くほど軽く、屋内外で扱いやすい道具。さまざまな五徳に嵌る底形状で意匠出願済み。(クリックで拡大)
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●同級生の建築家
バトンをつなぐのは、大学の同級生、建築家です。大学時代、彼の存在は知っていましたが関わりはなく、社会に出てから交流するようになりました。大手から独立し、センスが良くて頑張っている彼の姿は、とても刺激になります。どのようなコラムを書くのか、楽しみにしています。
酒井雄大/Yuta Sakai
プロダクトデザイナー。「株式会社スライムデザイン」取締役。自社ブランド「DOOGOO(ドゥーグー)」代表。主に製品の企画、開発、設計、デザインを担う。調理器具、スポーツ用品、医療機器、家具、店舗什器など、その分野は多岐にわたり、その製品の一部は、特許、意匠、実用新案権などに登録されている。自社ブランドでは製造以外のすべてに携わり、国内外で販売中。さらに別ブランドとのコラボレーションも行っている。
2019年8月8日更新。次回は髙橋 渓さんの予定です。
※本コラムのバックナンバー
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