リレーコラム:若手デザイナーの眼差し
第85回 小谷知輝/(株)テレビ朝日
https://www.tv-asahi.co.jp/
このコラムページは、2018年12月までpdwebメールマガジンで掲載していた連載リレーコラム「若手デザイナーの眼差し」のWeb版となります。今後は本欄にてリレーを引き継いでいきますので、引き続きのご愛読をよろしくお願いいたします。
初めまして、小谷知輝と申します。字面のおかげでよく男性に間違われますが女性です。
2007年にテレビ朝日に入社して以来、コーポレートデザインセンターという部署に所属しています。ご紹介いただいた小林さんは同じ会社、同じ部署の先輩で、初めてお仕事をご一緒したのはほんの2年前です。それまでは「随分スタイリッシュな先輩がいるな…」という印象でしたが、実際は泥臭い仕事も厭わず、面白いこと、新しいことを次々に提案してくれる良き先輩です。ご一緒した「テレビ朝日・六本木ヒルズ夏祭り」については後述したいと思います。
私の仕事は主に番組や社内イベントのセットデザインをすることですが、最近はアートプロデューサーやディレクション業務も増えてきました。
皆さん、テレビのセットデザイナーという職種にはあまり馴染みがないかもしれません。私が入社した時に先輩に言われたのは「テレビ画面に映る出演者以外のすべてのことに気を配る人」がセットデザイナーである、ということでした。
今でもこの言葉は私の信念になっていて、セットデザインだけでなく出演者の衣装や座る椅子、出演者同士が喋りやすい距離の計算、カメラで撮った時の構図の心地よさetc…現場の雰囲気作りも含め、空間すべてをデザインするのがセットデザイナーの使命だと思っています。
●マスメディアにおけるデザイン
テレビにおけるデザインの考え方は少し特殊です。テレビはマスメディアなので、当然ながら美術に興味ある人ばかりが見るわけではありません。格好良いデザインを追求し過ぎると視聴者から敷居が高いと敬遠され、チャンネルを変えられてしまう恐れがあります。デザインでいかに視聴者の懐に入り込めるかが腕の見せ所です。
例えば水曜19時~放送の「あいつ今何してる?」。
ゲストの学生時代の同級生が今、何をしているのかを調査する番組です。いつもは仕事スイッチをONにしてカメラの前に立っているゲストが、心許せる同級生たちと画面を通じて再会し素の自分に戻る…そのシチュエーションにゲストが入り込めるよう世界観を作り上げます。
ミニシアター付きオトナの秘密基地に改装した廃校の教室に、司会のネプチューンさんに招かれたゲスト。360度セットで囲ってスタッフの姿を見えなくし、VTRに集中できる環境を整えます。あとはどれだけ楽しい要素を加えていくかです。学生時代、友だちとたくさん撮ったポラロイド写真や、互いに書き合った似顔絵、青春の象徴である部活グッズや授業で使った筆記用具、こっそり学校に持ってきていた自慢の宝物…誰もが経験したであろう青春時代の時が止まってそこにあり、見ている人の心の琴線に触れるよう仕掛けます。このように番組コンセプトを可視化し、出演者を引き立てるお手伝いをしていきます。
▲このように番組コンセプトを可視化し、出演者を引き立てるお手伝いをしていきます。(クリックで拡大)
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●六本木の都市型夏祭り
前述した「テレビ朝日・六本木ヒルズ夏祭り」ではメインコンテンツの1つであるドラえもんのアトラクションに企画段階から参加し、ゲーム内容含め全体のディレクションに関わりました。夏祭りでのアトラクションの役割、他のアトラクションやブースとの差別化なども併せて掘り下げていきました。
テレビセットとは違い、お客様に会場の臨場感を直接五感で感じてもらいます。音声、照明、技術などと綿密な打ち合わせをし、まるでドラえもんの世界に迷い込んだかのような錯覚に陥る雰囲気を各方面から作り上げていきます。
一番興味深い制作段階は、ファンタジーなものを具現化する時にどの素材が一番ふさわしいかの検証です。
例えば「謎のパイプ島」にある特殊な液体が流れているパイプをどう表現するか。実際の水を使うのは重量問題もあり現実的ではないので、春雨、消臭剤ビーズ、発砲スチロールなど、さまざまな素材を試しました。その結果ガチャガチャの透明カプセルがいちばんしっくり来て、透明アクリルパイプに詰めて光を当てるとまるで液体が流れているように見えることが判明しました。
▲いろいろ試行錯誤しイメージとぴったりフィットした時の喜びは格別です。(クリックで拡大)
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▲それと同時に、ゲーム内の“起承転結”をプランニングします。まず会場に入った時の最初の驚きの仕掛け、演出のピークをどこにもっていくのか、そして不意打ちの最後の驚きをどういったものにするかなどすべてに意味を持たせた配置、デザインを考えていきます。(クリックで拡大)
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▲©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK (クリックで拡大)
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このように充実したデザイナー人生を送っている私ですが、私とはまた違うデザイナー人生を送っている大学の同級生だった澤田美野里に次回のコラムを書いてもらおうと思います。彼女は大学卒業後、「heso」というクリエイティブユニットを立ち上げた1人で、企業とのコラボやイベント企画制作、アートディレクションやファッションブランド立ち上げなど多岐にわたり活動しており、尊敬しているデザイナーです。
小谷知輝/Shiki Kotani
武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科卒業。テレビ朝日2007年度入社。テレビ朝日技術局コーポレートデザインセンターにて番組のセットデザインや社内イベントのアートプロデューサーやディレクション業務に従事する。これまでの主な担当はミュージックステーション、平昌オリンピック、テレビ朝日・六本木ヒルズ夏祭り、その他バラエティ番組など。受賞歴は2016年度第44回伊藤熹朔賞 協会賞 「ミュージックステーション ウルトラFES」
2019年5月15日更新。次回は澤田美野里さんの予定です。
※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
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