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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第83回 森田美紀/mok architects
http://mokarchitects.dk/

この連載リレーコラム「若手デザイナーの眼差し」では、プロダクトデザインやインテリア、建築などを手掛けている若手デザイナーの皆さんの”今の声”をお伝えしていきます。




初めまして。森田美紀と言います。大学の住居系学部を卒業後コペンハーゲンに引っ越し、それから学生を経て今は建築家として活動をしています。

●コペンハーゲンとの出会い
紹介をいただいた前回の本コラムの田中慎一さんと出会ったのは、10年前のフィンランドでした。2010年の夏、大好きな友だちとの初めてのヨーロッパ旅行、偶然出会ったお兄さまに20歳女子たちの慣れない旅路に付き合ってもらい、切符の切り方が分からず検札に追いかけられたり、行く先行く先でばったり出会ったり。私にとっては愉快で楽しくて、そして特別な旅となりました。

そこでコペンハーゲンのデザインの歴史と新しい取り組みの軽やかなバランス感覚に一目惚れして大学院留学を決め、卒業してからもずっとこちらに住んで、少しずつ人脈を作りながら、なんとか設計・デザインの仕事ができるようにまでなりました。

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▲コペンハーゲンの日本食レストランの設計。(クリックで拡大)









●ニュー・ノルディック
さて、デザインとは関係のない話をします。新しいと古いの上手いバランス感覚を、デザイン以外の場所で特に感じるのは食の分野です(食いしん坊だからでしょうか)。伝統の食事といえばすべて、焼いた肉、重めのソース、野菜のピクルス、茹でた芋…で決まり。といったような、これまで発展の機会を逃し続けていた北欧の食文化をいかに発展させていくか、フランスなど世界で修行をしてきた北欧のシェフたちが真剣に考え、会議をしました。その結果以下のような条文、マニフェスト (Manifesto for new nordic kitchen)が宣言されました。

1. 北欧に根ざした純粋さ、新鮮さ、シンプルさ、倫理観を表現すること
2. 食事に季節の移り変わりを反映すること
3. 北欧の気候、自然、中で育まれた個性ある食材をベースに調理すること
4. 美味しさと、健康に生きるための現代の知恵を結びつける
5. 北欧の食材と多岐に渡る生産者を世界に紹介し、その背景となっている文化・歴史を広める。
6. 動物を不要には苦しめない、海、農場、大地におけるヘルシーな生産を推進する。
7. 伝統的な北欧の食材の新しい活用の方法を発展させる
8. 北欧の特有の調理法・食文化を世界からのインスピレーションをうまく融合させる
9. 自給自足されてきたローカルな食材を、高品質な地産品へと結びつける。
10. 消費者代表、食に関わる職人、農家、漁師、食品工業、小売業、卸売り、研究者、教師、政治家、公共機関が皆で協力し、北欧諸国の皆に利益と強みをもたらすよう努力する。

この宣言とこの条文を遵守したレストラン(例えば、北欧の食材ではないレモンを使わない代わりに蟻の蟻酸を酸味として使う、など)の活躍のおかげで、ピクルス、発酵などの伝統的な調理法、北欧にしか生えない野草などの地元の食材を活用した北欧の新しい食文化は、「ニュー・ノルディック・キュイジーヌ」として世界を舞台に花開き、新しい食文化の歴史を作りました。

Manifesto for new (anywhere) architecture
これは、面白いイノベーションへのアプローチではないか、と思いました。地元の食材のこと、伝統料理を使って新しいメニューを作ることは誰もがやってきたことではあるけど、歴史、気候、環境などたくさんの条件でクリエイションの自由を縛りに縛り、自らのルーツを徹底的に省みた結果、発展と発明が生まれたのです。

そして、これはデザインにも同じことが言えるのではないか、とも感じました。ここからやっとデザインの話をします。例えば調理される食事はデザインされる建築、食材は建材や素材。建築も食事も、それが生み出される場所の気候、文化、風景を表現するもの、「ゲニウス・ロキ」を具現化するものであることは同じなはずです。

1. その土地に根ざした純粋さ、素直さ、シンプルさ、倫理観を表現すること
2. 建築に季節の移り変わりを反映すること
3. 敷地の気候、自然、中で育まれた個性ある素材をベースにデザインすること
4. 格好よさと、快適に生きるための現代の知恵を結びつける
5. その土地の素材と多岐に渡る生産者を世界に紹介し、その背景となっている文化・歴史を広める。
6. 環境を不要には苦しめない、森林、工業、大地におけるヘルシーな生産を推進する。
7. 伝統的なその土地の素材の新しい活用の方法を発展させる
8. 敷地の特有の工法・伝統工業を世界からのインスピレーションをうまく融合させる
9. 自給自足されてきたローカルな素材を、高品質なデザインへと結びつける。
10. クライアント、職人、他の建築家、エンジニア、素材の生産者、デベロッパー、リサーチャー、教師、政治家、公共機関が皆で協力し、北欧諸国の皆に利益と強みをもたらすよう努力する。

極端なシンプルな変化で、建築のマニフェストになりました。これを実際の設計として発展させ修士設計としてまとめ上げ、王立学院の建築学校を修了しました。

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▲マニフェストを下敷きにして発展させたニューノルディックレストランのためのホテルとアーティスト・イン・レジデンスの提案。北欧のデザイン言語・素材を参照しながら、列柱空間や半屋外など新しい要素を挿入して新しい空間が作れるか模索しました。(クリックで拡大)









その土地のデザインの伝統を革新的に更新し、世界の中でもまったく新しいものを作っていく。そのために必要なことは、その場所、ルーツつまり歴史、風土、文化のすべてをいろいろな角度から徹底的に見直し、その上で関わる人々の関係性や世界の文化、最先端の技術までもデザインに織り込んでいくことも道の1つなのだと知りました。その考えを自分のマニフェストとしながら、まだまだ未熟ながらコペンハーゲンにて設計、デザイン活動を頑張っているところです。

次のリレーコラムは、アメリカのロサンゼルスでインタラクションデザイン、舞台、映像、音楽などすべてのクリエイションを駆使してエキサイティングな空間を生み出している小林宏嗣さんです。彼の作る空間において、経験をデザインすることはきっと建築と同じです。でも彼は最先端の技術を自在に操って非現実的な経験を空間に込めていく、建築とは似て非なるデザインをする人です。今どんなことを考えながら作られているのか聞いてみたくタスキをお渡ししました。アツシさん、よろしくお願いします!

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▲芸術祭用のパビリオンの設計・施工。デンマークの無垢フローリング会社ディーネセンに協力してもらい、デンマークのレゴのシンプルさ、遊び心に日本のもったいないを組み合わせてフローリングの端材を30センチの小さなモジュールにして組み上げパビリオンを作りました。(クリックで拡大)










森田美紀/mok architects
大阪市立大学居住環境学科を卒業後、デンマーク王立芸術アカデミー修士課程修了。現在はコペンハーゲンの設計事務所に勤務しながら、パートナーの小林優とともにmok architectsとして設計、家具デザインを中心としてデザイン活動を行っている。設計だけではなく、建築金具、グラフィック、ブランドアイデンティティなど、人が触れる場所すべての意匠をトータルにデザインし世界観を構築する、ヤコブセンなど北欧の先人の手法を参考にしながら、拠点のコペンハーゲンにて活動の幅を広げている



2019年3
月22日更新。次回は小林宏嗣さんの予定です。

※本コラムのバックナンバー(メールマガジン時)
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 


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