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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第82回 田中慎一/Knowledge Base Design
https://www.knowledgebasedesign.com/

このコラムページは、2018年12月までpdwebメールマガジンで掲載していた連載リレーコラム「若手デザイナーの眼差し」のWeb版となります。今後は本欄にてリレーを引き継いでいきますので、引き続きのご愛読をよろしくお願いいたします。





Knowledge Base Designの田中慎一と申します。今年5月でプロダクトデザインを中心に設立・活動して満2年になります。

樹脂成型機をはじめ、さまざまな加工機や道具が併設された“贅沢”とも言える環境でインハウスデザイナーとして5年間働いていたこともあり、ものづくりのプロセスをより現場感覚で進めていくことを大切にしています。おかげさまでiF Design賞やGerman Design賞などをさまざまな賞をいただくことができました。

前回コラム執筆をした大門くんとは、日本の大学時代の友人が奈良県の東吉野村へ移住したとのウワサを聞きつけ遊びに行った際、いきなり初対面の僕を心良く家に泊めてくれて以来の友人です。最近は新しいプロジェクトを一緒に始めるほどの仲です。素朴なオーラに潜む洗練されたマインド。素敵なデザイナーです。

脱サラし、独立してもうすぐ2年。つくづく感じるのは、どんな仕事も出会いが肝心であり、僕のデザイン哲学を生かすも殺すもその出会いに委ねられているということです。せっかくなので、さまざまな仕事の中で、変わったエピソードがきっかけで生まれた仕事をお話ししたいと思います。

●ロンドンの「どこでもドア」
僕は日本の大学を卒業後、ご縁あって業界では有名なインテリアデザイン事務所で働いていた経歴があります。産学協同コンペで優勝した際に、同事務所が審査員をされていたことがきっかけで入社できたのですが、極め付けのエピソードが後に起こります。

その後渡英し、ロンドンの大学院生としてイギリスのロンドンで暮らし始めて数年が経った時のことです。 街中で友人が突然腹痛を発症し、独特なおぼっちゃま気質で有名だった彼は「我慢してでも綺麗なトイレに行きたい」と言い出したので、必死でとある高級デパートのトイレにたどり着きました。トイレに駆け込む彼の姿を見送り、ふわふわのソファに腰掛けてしばらく待っているとドアが開く音がしたので見上げた瞬間、
「あれ!?」

なんとお世話になったインテリアデザイン事務所の社長が出てきたのです。大阪でばったり会うことはあっても、ロンドンで、しかも数あるトイレの前という偶然の要素が相まって、時空の歪みを感じたのを覚えています。これが女性だったら、お互い恋に落ちていたと思います。

そんな記憶に残る出会いがきっかけで、勤務期間は短かったのですが今でも当時お世話になった方々と仕事をする機会ができました。

現在は、特化した技術や素材を持った企業が協同して、それらの技術や素材を最大限活かしたアイデアの製品化を目指す取り組みを始めました。この取り組みは、セールスや知財管理含め各分野で活躍されている方々が集まってさまざまな意見に配慮しながら開発する組織形態で、より現実的で適切な製品開発を行うことができる仕組みになっています。第一弾は、繊細で緻密なファブリックのような柔らかいステンレスメッシュをインテリア素材として香港で発表しました。現在、香港の代理店と契約準備中です。

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▲特殊な技法によって極細のステンレスで編んだメッシュ。素材の特徴から光の当たり方によって繊細で独特な表情を醸し出す。インテリア商材としてさまざまな模様やカラーから選択可能。(クリックで拡大)



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▲(クリックで拡大)






●ロンドンの「タイムマシン」
大学院入学前に、ロンドンから北欧3カ国へ数日掛けて1人で放浪していた時のこと。アアルトのスタジオ見学のため受付で待っていた僕は、日本人の学生らしき初々しい女性2人を見つけ声をかけました。ナンパではありません。

彼女たちは大阪で建築を学んでいる大学生で、見学の後もいろいろと話をしてお別れをしたのですが、残りの2カ国でも数回ばったり会ったのを覚えています。ですがそれ以来連絡は取っていませんでした。

そんな出会いから数年が経ち、僕の卒業展を見にきていた友人が数日前にスペイン旅行へ行った際の話をしたので聞いていると、2人の日本人学生と出会って今も連絡を取り合っていると。似たような境遇があるんだなぁと話を聞いていると、なんと大阪で建築を学んでいるとのこと。胸騒ぎとともにあの数年前にフラッシュバックし友人にまさかと思いながら尋ねました。
「もしかしてMさん?」
「え!? なんで知っているの? 怖い!」

まさかの同じ人でした。数年の時を超えて違った国で、違った人が、同じ人に出会う。同じく時空の歪みを感じたのを覚えています。ちなみに今回は女性でしたが、残念ながら恋には落ちていません。

それからと言うものの僕、友人、その2人が、皆で一緒に会うことは一度もなかったのですが、2018年の末に、偶然全員日本にいるとのことで再開を果たしました。最初の出会いから7年にもなりますが、皆で会うのはこれが初めてです。大学生だった彼女たちは、今では1人はコペンハーゲンで活躍する建築家、もう1人はアートの素晴らしさを伝える仕事をするため仕事を辞めてロンドンへ留学しようと頑張っているとのこと。感慨深いです。現在は、一緒に新しいプロジェクトを準備中です。

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▲玄関や脱衣所、廊下など狭い空間での使用を想定した取外し可能な物干しロープ。本体を外してブラケットに傘やタオル、ハンガーなどを掛けるフックとしても使用できる。企画から内部構造の設計、ブランディングまで全開発プロセスを担当。iFデザイン賞、German Design賞Winner受賞。(クリックで拡大)



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▲(クリックで拡大)







●これからのこと
人とのつながりに関して、点と点が線でつながっていくと言うような表現をよくされますが、独立してからより肌で感じるようになりました。僕個人としては海外での経験もありますので、点と点の距離をできるだけ遠く、ダイナミックに置くことで線を収束させないようにし、つながった時の線をより印象的に太く構成させたいなと思っています。人種、業種関係なく世界規模で人とのつながりを作って仕事をする。考えるだけでもワクワクします。

次のリレーコラムは建築家の森田美紀さんです。鋭い方はお気づきだと思いますが、そう“あの2人”のうちの1人です。

田中慎一/Knowledge Base Design
大阪芸術大学卒、London Metropolitan University 修士号取得後、日本の中小建材メーカーでインハウスデザイナーとして勤務。2017年独立。企画開発から研究、分析、ブランディング、コスト管理、製造工程管理など様々な視点に基づいてデザインすることが得意。クライアントの課題解決や魅力を引き出すために、知識・知恵を最大限発揮し、コンセプトに忠実かつ適切なデザインを行うことを目指しています。 iF Design賞, German Design賞, Good Design賞などの国内外のデザイン賞の受賞歴あり。



2019年2
月19日更新。次回は森田美紀さんの予定です。

※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 


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