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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その75:「軽さは力」

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

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[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(ハーフマラソン91分、フルマラソン3時間20分、富士登山競争4時間27分)。



●身軽な身体

アインシュタインの「E=mc²」という超有名な定理。Eはエネルギー、mが重さであり、cはその移動速度である。質量が重いほど、そのエネルギーも大きくなるということ。確かに、ピンポン玉より重いボーリングの球がビルの上から落ちてきたらとんでもない破壊力だと容易に想像はできる。

しかし、これは物体世界の話であって、人間の生活に例えると真逆なのである。軽いほど、エネルギーを内包している。短い人生において、自らの身体としての質量は「軽いほど」エネルギーがあると思う。分かりやすい例としては、マラソンや駅伝などの陸上競技を考えるとよい。選手のほとんどは体脂肪が5パーセント以下の脂肪の極度に少ないシェイプされた身体であり、そこに、鍛え上げられた全身の筋肉と、強靭な心肺機能が備わって、驚異的な速度で長い距離を走り抜けることができる。

生命体にとって、遠くまで速く移動できるという能力は極めて基本的な力である。根を張った植物やキノコでさえ、種や胞子をどこまで遠くに飛ばすことができるかを競っているかのように感じる。人は死ぬときに持っていけるのは、楽しい思い出しかない。生きているうちに、地球上のいろいろな美しい景色や文化を知り尽くしていれば本望だろう。

これはF1などのレーシングカーでもまったく同じ原理である。車体をカーボンファイバーなど軽量で頑丈な素材で構成したうえで、馬力のあるエンジンを載せれば、理論的には速く走れる。あとはこれを操作するドライバーの腕次第となる。

身体が軽くて筋力があるほど早く移動できるのは間違いない。もちろん、競技によっては、相撲とかラグビーなど、衝撃をもらってもびくともしないように重量が必要なものもあるだろう。しかし、サッカーやホッケーなど、ほとんどの競技では長時間にわたって速いスピードで走り続けられる選手がやはりチームとして重宝されるのである。

速く長く動けるメリットというのは、危機管理の面を考えてもそうだろう。大地震などで交通機関がストップしても、長時間 素早く自分の足で移動できれば自分以外の誰かを救うこともできるかもしれない。津波や土砂崩れなどが多いい近年、素早く逃げられる力というものはもっと重要視されてくると思う。電車内での凶悪な犯罪や街中でのテロなど物騒な事件もどんどん増えているではないか。たまに、電車内で逃げ回っている動画などをニュースで見ると恐ろしいではないか。

●身軽な旅

以前のコラム(第2回:旅行の達人)でも書いたのだが、旅は「身軽さ」で行動範囲がかなり変わってくる。キャスターバッグをガラガラと引きずって街を移動するのは大変だ。ヨーロッパの石畳やネパールの未舗装路などでは、土砂降りの雨になったりしたら、傘も差せず移動もできずお手上げだ。それより、軽量のバックパック1つでジョギングしながら街を周ると、いろいろなことが可能になる。行動範囲も格段に広がるし、限られた時間でもより多くのことができるだろう。身軽な旅の場合は、タクシー代もあまりかからないから、金銭的にも節約できる。その分を食事や宿などのランクアップに奮発できるというメリットもある。

旅の行程で必要なものは、可能な限り軽いものを選んだ方がいい。自分は折り畳みの傘は、83グラムという知る限りの軽量で実用的なものを常に持ち歩いている。タオルに関しては、山岳用品メーカーのモンベルの「マイクロタオル 」という商品があるのだが、これが秀逸である。このフェイスサイズ1つあれば、散歩中にふと見つけた風情のある銭湯にも、そのままふらっと入れるのである。バスタオルとしても十分に機能する。そして30分もすればすぐに乾いてまた軽量になりバッグに入れられる。

以前は、水泳用のものを持ち歩いていたのだが、こちらのほうが圧倒的にかさばらず、柔らかくて使い勝手が良い。いろいろな日常小物は、山岳用品が軽量化に特化して開発されているのでとても良い。食器などもチタンが軽くてスタッキングもコンパクトで良い。

日常のウェアに関しても、山岳用品は軽量でかさばらず、通気性があり暖かい。機能で選んでいくと、どうしてもこの山岳用品のゾーンにたどり着く。市場を観察していると、山岳用品、スポーツ用品のハイエンド技術が、普通のアパレルなどに数年かけて降りてきて広がっているようだ


●身軽な生活

「身軽さ」の意識はお金の支払い方にも顕著に表れる。まず、どんな財布を使うか? スーパーのレジなどで、もたもたしている人ほど、やたら大きい財布に、大量のスタンプカードや小銭を入れており、清算に時間がかかる。そもそも、大量の小銭を運ぶということ自体が、ナンセンスだし、荷物を重くして「身軽さ」から反対の方向に向かっている。

日本は世界的にも、お金に関しては電子化が遅れている後進国であり、まったくもってお金の機能を果たしていない新500円玉や、自販機で使えない新札が混在している。いざという時に使えないお金はお金ではない。電子マネーやスイカを内蔵した腕時計ですべてをさらっと済ませるのがスマートだろう。そしてそれを超えるのが、マイクロチップの人体埋め込みだ。これは北欧のスウェーデンやドイツではすでに実施されている。交通機関はもとより、電子決済から社員証、スポーツジムまで手をかざすだけで完結するのである。事故などに巻き込まれたときも、身元が判別できる。

一方の日本では、マイナンバーカードに保険証、免許証などの一本化の動きがあるが、その集約されたマイナンバーカードを落としたり、盗まれたらとんでもなく厄介なことになるし、悪用された場合の責任はどうなるのだろう。どう考えても、紛失して翌日再発行など不可能に近い。そのあたりの説明なしに強引な一本化はちょっと考えてしまう。それよりも、絶対に紛失や盗難の心配のない、チップ埋め込みのほうが便利だし安全だろう。国内でも早く、実現してほしいものである。


2024年11月1日更新




▲筆者愛用中の「ガーミン265S」。毎日のランニングや心拍数の管理はもちろんのこと、Suica機能で交通系の移動と買い物、バイク、自転車の駐輪場の入退室などが可能。SpotifyやAmazon Musicなどの音源も内蔵でき、スマホレスですべてが完結できる。重量38グラム! アップルウォッチなどコンペチターとの優位点は充電が4日に一度くらいで十分なことと、GPSの精度が抜群に高いこと。ガーミンのフォアランナーシリーズは18年くらい前の1号機から使い続けていている。進化の度合いがものすごいのである(クリックで拡大)


▲筆者が常にカバンに入れている2つの必需品。モンベル「マイクロタオル」フェースサイズ(写真左)。これ1つあればずぶぬれの大雨でも対応でき、お風呂もこれ1枚でバスタオル代わりにもなって、このサイズ。そしてあっという間に乾くという優れものだ。もう1つは、85グラムの折りたたみ傘。バッグに入れているのを忘れるくらいの軽さとコンパクト性。これで十分なのである。使い捨てのような透明ビニール傘はあまり好きになれない。(クリックで拡大)


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