●colorではジャンルにとらわれないモノ作りを
−−現在は基本的にデザインに対するロイヤリティを受け取る仕事がメインなのですか。
そういう場合もありますが、最近はブランディング的な仕事が多くなっています。たとえば、conof.のようにコンセプトから考えて、そこからどういうプロダクトを作るか、さらに広告も含めてそれをどう世の中へ発信していくのかという一連のオーダーですね。もともとそういうことが僕らのやりたかったことだったのですごく嬉しいことですね。
実際、そのほうが最終的なプロダクトデザインも考えやすいですね。表面的な形だけではなくて、きちんとした思想やストーリーがプロダクトに生まれますし、現在はそれらを含めてデザインであるという捉え方が強くなっていると思っています。
今はどうか分からないですけど、僕がいたときのメーカーは内部が細分化されていて、プロダクトデザイン担当のデザイナー、広告部隊、店頭周りのパッケージやPOPを手がける部隊にはお互いほぼ接点がありませんでした。
−−そもそも部署が違いますからね。
だからプロダクトを作っているときと、それが世の中に出たときのギャップをすごく感じていました。「このパンフレット、こういうことかなあ?」「あんなに時間をかけて色を決めたのにPOPをベタベタ貼ったら商品が全然見えないなあ…」と(笑)。そういうギャップは僕だけでなくてお互いがそれぞれに感じていたと思いますが、そういった横軸がつながっていないとユーザーには絶対届かないはずで、そういうジレンマはすごくありましたね。
−−そういった面で、たとえばご自分でコストを負担して、企画から流通までトータルのモノ作りはご興味ありますか。
将来的には自分で在庫を持ってでも1個1個きちんとプロダクトを作りたいという気持ちもどこかにあります。
−−純粋に自分の中だけで完結したモノと、メーカーの条件のもとで作ったモノでは違いがありますか。
微妙なところですが、自分一人の想いで作ったものとまったく同じものだとは思いません。ただ先ほども触れたように、結果的にどうなるかは別として売れないものは作りたくないのです。それは儲かるとかそういうことではなくて、やっぱり人が望んでいるものを作りたいということで、逆に言うと人が望んでないものは作りたくないということです。
−−それは完全にプロフェッショナルの発想ですね。アマチュア的な、あるいはアート的な作品志向ではないですね。
それもやはりメーカーにいたということが大きいかもしれないですね。よく話すのですが、三菱電気ではライン実習という新人研修があって、僕の場合は静岡県の霧ヶ峰の工場でした。
−−実際の工場のラインに立つわけですね(笑)。
そういうことです(笑)。当たり前ですが、工場では1日中ベルトコンベアの上をエアコンが1台ずつ30センチ間隔ぐらいでどんどん流れてくるわけです。そうすると純粋な気持ちとして、「何でこんなに作るのだろう?」「これみんな売れるのかな?」と、絶対に何かがおかしいと思わずにはいられないわけですよ。もう、すごい罪悪感(笑)。
もちろん現実に売れているから製造しているわけですが、どう考えても自分の中で気持ちの整理がつかないのですよね。そうやって何千、何万というプロダクトが毎日世の中に出ていくのを肌で感じているので、「モノを作るのってすごいヘビーなことだな」という感覚が潜在意識にずっとあるのだと思います。
とくに成形品を作る場合、環境に有害なプラスチックを使って何千万円もする金型を使って作った結果、その商品が売れなかったら地球や人間にすごく申し訳ないという気持ちが強いです。
●アイデアをカタチにする方法論
−−アイデアをカタチにする方法論を教えてください。まず企画の段階でいろいろなキーワードが挙がると思いますが、それが形になるタイミングや過程に非常に興味があります。
意外に今までのパターンだと最初に思い浮かんだものが最終的に残ることが多いですね。そこから手でスケッチを描いていろいろと試行錯誤をしますが、結局は最初の造形コンセプトに戻ることが多いようです。
−−それはコンセプトの打ち合わせをしている段階でなんとなくパッと芽生えるものがあるのですか。
そうですね。今までの経験では途中で迷えば迷うほど出来上がりの落とし込みが甘くなるような気がします。ただ、設計、仕上げの部分では試行錯誤を繰り返すことはあります。
−−最初のアイデアがその後のワークフローのプロセスで耐えられなくなることはないのですか。
もちろんそういう場合もありますね。ただ、思想の部分でブレがなければデザインの調整でまったく違うものにする必要はないですし、造形的にまとめることはできると思っています。
−−たとえばconof.の「デスクライト」にしても、最初にパッとひらめいたのですか。
そうですね。conof.の場合は「シュレッダー」に対してかなり明快な答えが出ていたし、シリーズの基本姿勢が具体的なカタチとしてすでにあるわけですから、その後についてはそれに基づいて「デスクライトはどうあるべきか?」「電話はどうあるべきか?」と考えられたので結構スッと出てきました。
−−キーコンセプトもconof.としての見せ方だということですね。
そうですね。conof.のキーワードは「ココチノヨイ」ですが、これはcolorのキーワードの1つでもあります。当たり前ですけど、やはり日常生活に溶けこむ「心地の良い」モノを作りたいという思いはプロダクトやグラフィック、広告を問わずにすべてにありますね。
−−そうしたベースとなるアイデアが初期の段階で浮かんでしまうのはすごいですね。
いやいや。でもそれは、いろいろな状況に対して「もっとこうしたほうが良くならないかな」と3人が常に考えていて、お題が出たときにはそうした積み重ねから答えを出しあっているからだと思います。
−−colorは基本的に3人のユニットですが、内部ではコンセプトを形に落とし込む場合はどのように決めているのですか。
それは3人でアイデアを出し合って良いとこ取りですね。最終的なジャッジは僕がするようにしていますが、3人がそれぞれに純粋に考えて一番良いアイデアを形にしています。
そもそも発想の根本が3人とも違うんですね。僕はグラフィックもやっているせいかプロダクトの造形や考え方も2.5次元的な感じですが、サトウは建築とプロダクトに特化しているのですごく3次元的なことを言います。そういう意味で僕とサトウが言い合うことはありますが、それが逆に面白いですね。そして、そこにシラスアキコの客観的な意見が加わります。
−−目線が同じだと見えないものもあるかもしれませんしね。
一方、シラスアキコは消費者目線のコメントが出せるし、コピーライター/クリエイティブディレクターとしては完成したプロダクトを市場にどう流すかというジャッジもできます。きっと、3人の発想がそれぞれ違うからこそ一緒にいられるのだろうなと思っています。
●ワークフローは、ギリギリまで手作業にこだわって
−−現在使用しているツールはIllustrator、Photoshop、DraftBoardということですが、基本的にIllustratorで作る場合が多いのでしょうか。
最終的な仕上げについては、図面の場合はIllustratorではなく図面のソフトです。
−−ワークフローの最初は手描きのスケッチからですか。
完全に手描きですね。なるべくギリギリまで手描きと発泡モデルで進めていきますし、どんなものでも画面上では絶対ジャッジをしません。図面や画面に落とし込むのは最後の業務的な仕上げでギリギリまでの手作業は死守するようにしています。
−−メーカーへのプレゼンテーションではレンダリングもするのですか。
レンダリングに起こす場合もありますし、手描きが良いところには手描きのスケッチを持っていく場合もあってケースバイケースですね。
−−昨今CADを使用するデザイナーさんも増えていますが、シラスさんはいかがですか。
必要に応じて外部の専門スタッフにCADで描いてもらうこともありますね。ただ、個人的にはプレゼンテーションツールとしては必要かもしれないですが、想いを伝えるためのツールとしては良し悪しがある気がします。
たとえば、プレゼン用にCADでスケッチを描いても自分の思い描いていたイメージになかなかならないというか、絵としての完成度も高いし、カッコよく陰影もきれいに出てはいるけど何か違うなと思うことが多いのです。CADの方が自分の意図したラインやディテールを作ってくれない場合があって、そこにジレンマを感じることが結構あります。
●デザイナーとしてのこれから
−−好きな素材や対象物、これから作ってみたいものは何ですか。
紙や木、そしてセラミックなどの手触り感のある素材でいろいろなものを作ってみたいですね。
−−製品のジャンルとしては具体的に何がありますか。
"ココチノヨイ" 状況を作り出すという意味では、公共デザインにも興味があります。上記の解答とはちょっと異なるかもしれませんが(笑)。
−−シラスさんの中ではグラフィックとプロダクトのどちらのアイデンティティが強いのでしょうか。
そもそもデザイナーに目覚めたのはグラフィックからなので、グラフィックの要素は大きいかもしれないけれど、自分の中ではあえて常に曖昧にするようにしています。
−−colorとしての今後の活動はいかがですか。
繰り返しになりますが、いわゆるグラフィック、プロダクトデザインだけではなく、もっと根本的なブランドのあり方やコンセプトからひも解いたデザインという包括的なスタンスでも活動していきたいと思っています。
−−現在の日本は不況や今後の少子高齢化などで、モノ作りの現場も元気が出る状況ではないと思います。現役のデザイナーさんとしてどのように感じていますか。
僕自身は今の不況をどうプラスに捉えるかが大事だと思っていて、この不況が良い意味でいろいろなものを淘汰するのかなという気がしています。もう無駄なものは作れないし、本当に必要なものだけを作ろうという風潮になったので、一度原点に立ち返ってみるにはこの不況も良いことだなと感じていますね。
−−一方では中国などで安くモノを作って売るという現実もあって、日本のモノ作りの土壌が弱体化しているともよく言われています。
今、中国、香港、韓国などアジアの元気が良いなかで、日本の元気のなさがすごく残念だなと思っています。実際、去年香港に行ったのですが、まだまだ荒削りだけど活気と勢いがすごくて驚きました。でも、僕は日本のデザインレベルはアジアだけでなく世界的にもトップレベルだと思っています。だからこそ日本人が持っているデザイン力を海外にアピールしていくことは今まで以上に大切なことだと感じています。
−−たしかに展示会で各国のデザインが並ぶと日本のデザインのクオリティの高さを感じます。
いつも海外行くたびに思いますけど驚きますね。日本はすごいなと我ながら思います、ただやはりまだまだアウトソースの方向が内向きな部分も多いので、今後はワールドワイドにやっていく必要がありますよね。そこは自己反省も含めて、これからなんとかしないといけないと思います。
実際、すでに市場の規模が日本国内という感覚ではなくなっていますし、経済的にももはや日本の市場だけでは成り立ちませんから、そういう意味で日本のデザインがもっとどんどん世界に広がるように我々も活動していきたいと思っています。
−−ありがとうございました。
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