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東京でジュエリー制作を軸に展開しているデザイナー、佐藤 愛氏のモノ作りには最先端のテクノロジーとスキル、そして感性が込められている。ザハ・ハディド建築事務所出身で現在独立2年目。そんな佐藤 愛氏に、コンピュテーショナルデザインと3Dプリンタによるワークフローやデザインへの想いを聞いた。

佐藤 愛/デザイナー
https://www.aisatodesign.com/


[プロフィール]
南カリフォルニア建築大学大学院修了後、ロンドンのザハ・ハディド建築事務所に勤務し、リードデザイナーとして世界の大型建築に携わる。その後2016年に独立。建築デザイナーの目線からジュエリー、プロダクト、家具、インテリアスペース、建築などあらゆるスケールのデザインを手掛ける。モノや空間を3Dで造形し、どの角度から見ても美しいと思えるデザインを目指している。多くのデザインは、コンピュテーショナルデザインを用い、また自然界の形態からもインスピレーションを得ている。




●ザハ・ハディド建築事務所に入るまで

−−最近の活動を伺う前に、まず学生の頃からザハ・ハディド建築事務所に入るまでを振り返っていただけますか?

佐藤:私は生まれは愛知ですが、3歳頃から高校まで岐阜県で暮らしました。田舎育ちですので、10代の頃は都会に憧れていまして(笑)、大学は都会に行きたかった。建築に興味を持ったのもその頃で、たまたま書店で雑誌の「新建築」を手に取ってみたら、ラスベガス特集か何かで、人工的なラスベガスの景色、ホテルやレストランの写真に魅せられました。建築でここまで世界を変えることができるのだと感銘を受け、建築の仕事に携わりたいと思いました。

高校は進学校で、国公立の大学を目指すのが普通の流れでした。私は数学が好きだったので理系に進み、建築学科のある大学を受験しました。ところが志望校に落ちてしまい、浪人するか悩んでいたところ、アメリカに行けば9月入学でしたので、とりあえず渡米して(笑)、テキサス大学に入学しました。

−−理系とのことですが、中学、高校の頃は絵は好きでしたか?

佐藤:学校の美術、技術も好きでしたが、数学が好きで生物より物理が好きだったので、必然的に建築に向かっていたのかなと思います(笑)。

インテリアデザインにも興味があり、テキサス大学では最初インテリア学科に進学しました。2年の時に建築学部に編入しました。テキサス大学ではトラディショナルな建築を学んだのですが、日本人というだけで珍しがられて、その分頑張らないとという思いで励みました。その頃から、ただ1人、ぐにゃぐにゃした形状の建築をデザインしていました。

テキサス大学には4年半いたのですが、その後ロサンジェルスの南カリフォルニア建築大学の大学院に2年半行きました。南カリフォルニア大学はコンピュテーショナルデザインが有名で、ここでは生物のパターンや昆虫の行動パターンを自分で研究して、その結果をランドスケープや建築、タウンスケープに当てはめる試みを行っていました。

−−アメリカでトラディショナルな建築と先端のコンピュテーショナルデザイン、両方を学ばれたわけですね。そして卒業後にザハ事務所に入社されたのですか?

佐藤:大学院卒業後は1年間オプショナルプラクティカルトレーニング期間が与えられて、インターンをしていました。その後、ロンドンにあるザハ事務所にアプライしたら、すぐにニューヨークのホテルで面接の場をいただけ、そのままスムーズに入社することができました。ザハ事務所には、アメリカの大学からだと、南カリフォルニア大学、MIT、コロンビア大学の卒業生が入ることが多く、やはりカリキュラムがザハ事務所の仕事内容に近しいからだと思います。

●ザハ・ハディド建築事務所時代の仕事

−−ザハ・ハディド建築事務所では、どのような建築物を手掛けたのでしょうか?

佐藤:ザハ事務所では最初はアシスタントから始まり、その後徐々にステップアップして、最終的にリードデザイナーとして7年間在籍しました。

入社は2007年頃、当時はドバイに多くの建築物が建っていた時代ですけれど、2008年にリーマンショックがあり、中東系のほとんどのプロジェクトが止まってしまいました。ザハ事務所の大きなプロジェクトも中東系に多数あったので、あまり景気が良くなかった。自分の担当していたプロジェクトもキャンセルになってしまい、コンペもなかなか通りませんでした。

そういった中でも、上海のSkySOHO という、虹橋空港近くの開発地区にオフィスとショップレストランの複合施設を作るプロジェクトには、最初のコンペのデザイン段階から完成まで携わることができました。 関連ショールームのインテリアや家具もデザインしました。

あとは、ドバイでつい最近完成に向かっているホテルとオフィスの複合施設「オーパス」も、インテリアデザインを担当していました。

−−日本でザハというと、一時、国立競技場の話題で持ちきりでしたが、佐藤さんは国立競技場のプロジェクトに関わっていらしたのですか?。

佐藤:はい(笑)。コンペ前はノータッチだったのですが、コンペに勝ってから、数少ない日本人ということで、2014年から日本に来て5社のジョイントベンチャーの会社と共同で2年間働きました。

−−国立競技場は二転三転して結局ザハ案はキャンセルとなり、その後ザハさんの死去など不幸もありました。そういった中で、佐藤さんは独立に踏み切られたのですか?

佐藤:建築は自分自身でなく、多くの人がチームになって初めて、でき上がるものですが、逆に、自分の名前で仕事をすることで、デザイン一連の工程すべてに責任を持って仕事できないかと思い、独立を決意しました。ロンドンに帰ってザハ事務所の他のプロジェクトに関わる選択肢もあったのですが、日本に10数年以上いなかったこともあり、日本での活動を考えました。


●そして独立へ

−−独立は2016年、まだ2年ですが、現在はジュエリー製作がメインですね。

佐藤:独立を考えた時は、クライアントもいなかったですし、つてもほとんどありませんでした。建築事務所や建設会社で3Dソフト関連の技術者にもなりたいわけでもありませんでした。

リーマンショックの時期に自分で指輪を作ったときがあり、それをきっかけに、趣味でジュエリーを作っていました。それが楽しくて、今はSNSやWebサイトで作品を発信して販売も行えるので、まずジュエリーから始めることにしました。

建築はスパンが長い仕事ですが、ジュエリーはすぐ形にできる。建築とジュエリーはまったく違うと思う方もいらっしゃるのですが、建築形態のプロトタイプを作る過程とジュエリー制作は似ていて、デザインする過程において、多くの共通点があります。ただ、私の場合は、動物や植物など、モチーフがあるジュエリーなどとは違い、世の中に存在しない、今まで見たことのない形状のデザインをジュエリーに落とし込めて、何か新しい提案はできないか、探りながら製作しているので、それで建築デザインとの共通点が多いのかもしれません。

−−ジュエリーはどのようにビジネスに結びつけていますか?

佐藤:ネット販売の他、百貨店やセレクトショップなどに置かせていただいています。結婚指輪など、一点物のカスタマイズのオーダーも受注しています。ジュエリーには、3Dプリンタの出力そのものを製品にしたものと型で作るものの両方があります。

●コンピュテーショナルデザインによるジュエリー作り

−−佐藤さんのデザインのワークフローですが、手描きスケッチからですか?

佐藤:私は最初から3D上でスケッチします。大学院にいた頃から、手描きは見てもらえない環境でしたので(笑)。

私自身、絵を描くことがそこまで上手いわけではなく、特に複雑な形状などは絵で表現することができません。手描きで表現するよりは3Dで表現する方が好きというのもありますし、そもそも私のデザイン手法はモノとして作る場合もありますが、4次元、アニメーションを利用して作ることがほとんどです。例えばアニメーションの最初と最後に異なるオブジェクトを置いて、その間の軌道を作ります。それをスナップショットでいくつか取り出し、最適な形状をそこから調整します。

また、パソコン上で生物学、物理学的なスクリプティングを書いてデザインに応用しています。例えば、ポイントをランダムに取った時に、ポイントとポイント同士の最先端距離を線で結ぶとエリアができるボロノイ図などを使用しています。スクリプティングを書き、そこから何か面白いことができないか、アプローチしていきます。

−−コンピュテーショナルデザインですね。最近はRhinoceros上でGrasshopperを使う人も増えているようですけれど、佐藤さんはスプリプティングから書かれるところがすごいですね。

佐藤:Grasshopperは私の中では形状を作るためのデザインツールというより、ラショナライズするツールとして使用しています。建築デザインの場合、ファザードのパネリングの最適化、パネル割りなどにアプライしていくツールという使い方をしていました。例えば、ひし形のグラデーションのパターンなどはGrasshopperで出せますね。

私はPython(パイソン)というC言語をMaya上で使っています。先のひし形パターンなども、Pythonのデータをペイントツールに当てはめて、ペイントで色を塗るときに濃い方に大きいひし形があって薄くなる方に小さいひし形が空くようなスクリプティングを書いています。そうすることで、自分で手で描いたときにグラデーションの大きさをコントロールできます。コンピュテーショナルデザインといっても、数値で打って出てきたものより、もっと自分の個性が生かせるような使い方を考えています。

−−コンピュテーショナルデザインはコンピュータの計算結果としての形状から選ぶことかと思っていましたが、スクリプトを書くことで、より自由な使い方も可能ですね。

佐藤:自分の個性は出したいので、曲線のけっこう荒い線もわざと残したりして、選んでからの微調整も自分で行っています。

−−スクリプト自体をご自分で書かれている点がすごいといいますか、日本でここまでされているデザイナーはまだまだ少ないと思います。これまでのキャリアやコンピュテーショナルデザインのスキルを活かして、建築のお仕事は始めないのですか?

佐藤:建築関連では、会社や建築事務所のコンサルティングや大学、専門学校などでのレクチャーでお話させていただいたりはしています。

BIM(Building Information Modeling)のワークフローの説明やアドバイスなどを行っています。

■作例ムービー01 (WMVフォーマット)

■作例ムービー02 (WMVフォーマット)

−−建築やインテリアはこれからですね?

佐藤:独立してまだ2年目ですので、今後、広げていきたいですね。

−−コンピュテーショナルデザインは建築の世界では日本でも徐々に浸透し始めていると思うのですが、プロダクトの世界ではまだまだのようです。

佐藤:例えば照明、ライティングのデザインなどには使われています。あとはインテリア系でパーティションのパターンなどにも活用されています。コンピュテーショナルデザインだからと境界線を引く必要はなくて、デジタルツールを使うことで、もっと発展の可能性は広がると思います。

プロダクトデザインをするとき、普通は、最初にでき上がりのイメージありきで、そこに向かうことが多いように思います。ツールを使うことで、自分のイメージしていたものや、自分で絵で描ける範囲以上のデザインができたりします。その自分の能力外のデザインイメージを、自分の言語として取り込むこともあっていいのかなと思います。

●3Dプリンタも欠かせないツール

−−3Dプリンタを駆使されているのも佐藤さんのデザインの特徴ですが、3Dプリンタはいつ頃からお使いですか?

佐藤:南カリフォルニア大学の大学院の頃からです。建築の模型を3Dプリンタで出力していました。石膏タイプの3Dプリンタ(Z Printer)でしたね。ザハ事務所時代も3Dプリンタは常用していました。

−−3Dプリンタは現在は何をお使いですか?

佐藤:現在は出力は外注です。デスクトップ型の3Dプリンタは日進月歩で製品の回転が早く、またメインテナンスも大変で、出力を依頼した方が確実です。トラブルの際に自分で対処できないです。またなにより、デスクトップタイプの出力では販売できるだけのクオリティには至っていませんね。

−−なるほど。

佐藤:現在販売しているジェエリーのクオリティを出すには、現状ではやはり数千万円台の3Dプリンタが必要です。

−−佐藤さんのデザインワークにはコンピュテーショナルデザインと3Dプリンタは欠かせないツールとなっていますね。

佐藤:そうですね、出力サービスに出す前に、画面上で材料を当てはめレンダリングして空間に置いた場合などの素材感を確認しています。レンダリングはMayaのmental ray、V-Ray、Maxwell Renderなどを使っています。このように、3Dソフトの使用によって、絵が描けなくても、手先が器用でなくても、ジュエリーがデザインでき、製作できている現状は、まったく想像していませんでした。

●ザハの遺伝子

−−佐藤さんのデザイナーとしてのアイデンティティはザハ事務所で確立したのですか?

佐藤:ザハ事務所ではすごく多くのことを学びました。デザイナーとしてのアイデンティティを確立したというよりは、建築をデザインする上でのワークフローや、仕事に対する取り組む姿勢などの方を、より多く吸収していたと思います。

−−3Dプリンタで出力された、佐藤さんのジュエリー作品の形状を見ていて、やはりザハらしさといいますか、遺伝子を感じます。

佐藤:3Dプリンタといえば、ザハ事務所後に独立し、3Dプリンタの業界で活躍している人もいます。3Dプリンタとロボットアームを組み合わせることでバウンダリーをなくし、より大きなものを造形できるシステムを開発する会社を立ち上げています。材料自体もプラスチックを再利用できるなど新しい試みです。

3Dプリンタの建築用途への可能性など、ロボティックアーキテキチャがこれから主流になるかもしれません。3Dソフトなどの技術がある人の多くは、自動車などの機械関連、医療関係などに可能性を見出す人が多く、ジュエリーデザインに活かしている人は少ないですね(笑)。

−−今後の展開はいかがですか?

佐藤:ジュエリーで自分の表現したいことはできているのですが、こういった技術を使いたいけれどできない人とコラボして広げていきたい。自分自身から発信していくことは大事だと思っています。もっとスケールの大きなアートワークや家具、インテリアスペースなどにも興味があるので、そういった活動もしていきたいです。

−−コンピュテーショナルデザインはネイチャーへの回帰なんて話も聞いたことがあるのです。

佐藤:自然界の中にはたくさんの美しいと思う形状が存在しています。建築自体が箱型なのは作りやすいからであって、地球に目を向けると直線である方が不自然だったりします。ただネイチャーを突き詰めていくのもデザインとは少し違うアプローチと思いますし、やはり自分らしさを投影していきたい。

1点1点作り手の思いが込められている手作りは、日本では重要視されていると思うのですが、コンピュテーショナルデザインを使っても、デザイナーのユニークさや個性、感覚、直感などは反映させたい。

−−なるほど。最後に読者へメッセージをお願いします。

佐藤:独自のアプローチによるジュエリー製作や、インタビューを通して、建築やインテリアデザイン、さらには、コンピュテーショナルデザインといった技術面に、より多くの方が興味を持っていただけるきっかけになればと思います。そして、そのきっかけが新たな発見や出会いにつながっていけば嬉しいです。

−−ありがとうございました。


話を聞いた佐藤 愛氏




●主なジュエリー作品から


「ループシリーズ」。(クリックで拡大)

「マリーナピアス」。(クリックで拡大)




●3Dプリンタの出力も含むさまざまなジュエリー

「3Dプリントジェリーなど」。(クリックで拡大)


「左からマリーナネックレス、ボロノイピアス、ノッコカンザシ」。(クリックで拡大)

「へリックスリングシリーズ」(クリックで拡大)



●プロトタイプ作品より
「ファッションシューズ」。(クリックで拡大)

「ウェーブベンチ」。(クリックで拡大)




●大学時代の作品

「形態スタディ(大学1年時の作品)」。(クリックで拡大)


「ボロノイオフィス(大学院1年時の作品)」。(クリックで拡大)




●上海のSkySOHO プロジェクトより

「SkySOHO 外観」。(クリックで拡大)



「SkySOHO 外観」。(クリックで拡大)



「SkySOHO ロビー インテリア」。(クリックで拡大)



「SkySOHO ショールーム インテリア」。(クリックで拡大)



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