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▲写真1:ぺんてる「エナージェルインフリー」各200円+税。色はボール径0.5mmモデルはブラック、ブルーブラック、ブルー、ターコイズブルー、オレンジの5色、0.4mmはブラック、ブルーブラック、ブルーの3色、0.7mmはブラック、ブルーブラックの2色。リフィルは各80円+税。すべて限定販売。(クリックで拡大)

今、気になるプロダクト その77(最終回)
透明軸筆記具の新しい在り方
~ぺんてる「エナージェルインフリー」をめぐって~


納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。


●透明軸の筆記具の歴史

透明軸の筆記具は今でこそ珍しくないが、それがスタンダードというわけでもない。多分、その最初は、1930年代、ペリカン社が自社の万年筆のインク吸入機構を解説するために作って、営業ツールとして使っていたという「デモンストレーター」(写真02)だろう。日本では1966年、ゼブラが透明軸のボールペン「クリスタル」を発売する。当時「見える見える」というコピーがあれだけ流行ったということは、それ以前に、透明軸のボールペンはほとんどなかったということだろう。

パイロットの「カクノ」の透明軸バージョンが発売されたのは、2017年8月。「カクノ」の発売が2013年だから、発売されて約4年後に登場したことになる。そして、今回取り上げる、ぺんてるの「エナージェルインフリー」は、速乾性ゲルインクボールペンの「エナージェル」の透明軸タイプだが、これは限定品としての発売だ。実際、透明軸の筆記具は、不透明軸に比べるとコストや作る手間がかかったりということだろう。

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▲写真2:ペリカン「M205」。「M200」の透明軸版。ペリカン社は、他にもさまざまなモデルのデモンストレーターを限定販売している。(クリックで拡大)











●何故、透明軸?

透明軸は、元はペリカンのように構造を見せるためだったり、ゼブラのようにインク残量を見せるためだったりと、何らかの目的や機能があってこそのもので、デザインの1つとして考えられていたものではない。内部機構をそのまま見せるのを「デザイン」とするという考え方は、かつてはなかったのだろう。しかし、ペリカン社が、後に「デモンストレーター」を限定品として製作し、それが売れているのは、明らかに透明軸が「カッコいい」からだし、パイロットの「ハイテックC」のように、最初から透明軸をデザインとして意識して作っている製品もある(ハイテックCは後にグッドデザインロングデザイン賞を受賞している)。

1998年に発売されたアップルの「iMac」のヒットに前後するあたりから、透明ボディの製品がデザインとしてカッコいいものという認識が広まった。前述のハイテックCが1994年発売だから、iMacの登場以前に、その準備はできていたと考えられる。これ以降、透明軸の筆記具も割とよく見掛けるようになる。しかし、筆記具において透明軸がブレイクするのは、ここ数年のこと。2013年、パイロットの「カクノ」によって火がついた万年筆ブームに引っ張られるように、2015年あたりから、ボトルインクブームが起こり、さまざまな色のインクを使い分けることが、趣味の1つにもなっていった。そのインクの色をより楽しむための1つのスタイルとして、透明軸の万年筆が流行したのだ。

●ぺんてる「エナージェルインフリー」

ぺんてる「エナージェルインフリー」は、エナージェルの透明軸版ではあるけれど、単に軸を透明にしたというだけではない。例えば、ノックボタンやクリップは従来通りの銀色だが、ノックボタンからクリップに流れるパーツは透明になっている(写真03)。ノックボタン下が斜めになっている、この面倒なパーツもきちんと透明にしているのだ。また、リフィルがよく見えるように、ロゴの位置も従来のクリップ下から、クリップの横に変更されている。ノックボタン下からすぐに透明になっているので、ノックのメカニズムがそのまま見えるのもカッコいい(写真04)。透明軸のポイントの1つ、「構造を見せる」が活かされているのだ。

そして、「エナージェルインフリー」の面白いのは、もう1つ。リフィルのパイプに、インクの色に合わせた半透明の色のフィルムを貼っていること(写真05)。万年筆のインクブームで、透明軸が流行ったのだけれど、インクはよほど明るい色でない限り、一定量が集まっていれば、ほぼ黒く見えるのだ。光に透かしたりして、やっと少し色が見えるくらい。万年筆にしても、コンバーターに入れたインクは、まず色は分からない。だからというわけでもないが、「カクノ」の透明軸が出た時、インクよりも、カクノの尻軸のスペースに、いろいろと光るパーツなどを入れることが流行したくらいで、インクの色をキレイに見せるのは難しいのだ。

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▲写真3:ノックボタン下からクリップに至る、斜めのラインはエナージェルのデザイン上のポイント。その部分もすべて透明にしているのだが、ここの加工は、かなり難しいという。(クリックで拡大)



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▲写真4:透明だからノックボタンのシステムもすべて見える。(クリックで拡大)



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▲写真5:このように、リフィルのパイプ部分にインク色に合わせた色のフィルムが貼られている。(クリックで拡大)



そこで、「エナージェルインフリー」のリフィルは、インク色が分かりやすい色付きのフィルムをリフィルのパイプ全体に貼り、インク自体は、リフィルの下部に溜まるように作られている。これなら、パッと見れば、何色のインクが入っているか一目で分かるし、透明軸に求めているインク色を愉しみたいというスタイルにも対応する。もちろん、インク自体も見えるからインク残量も確認しやすい。リフィルのパイプに色をつけるというスタイルは、一見、本末転倒のようだが、透明軸をデザインとして捉えれば、これは、とても優れたアイデアと言える(写真06)。

その上で、「エナージェルインフリー」は、インク色も慎重に選んでいる。ラインアップは、ブラック、ブルーブラック、ブルー、ターコイズブルー、オレンジの5色(写真07)。まずは、エナージェルファンとしてはブルーブラックがあることに喜んだけれど、ポイントはそこではない。もちろん、万年筆のインクブームの流れからの透明軸という点を押さえたブルーブラックとブルー、ブラックの選択は素晴らしい。しかし、それ以外の2色、オレンジとターコイズブルーは、透明軸の中で見せるインクの色という意味で見事なチョイスだ。黒っぽくなりやすい赤ではなくオレンジ、緑や水色だと実用性に欠けるけれど、実用性もありつつビビッドな色も入れたいというところからのターコイズブルー。5色並べた時のバランスもいい。

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▲写真6:外から見た時、インク色をキレイに見せるために、フィルムを貼っている意味は、外観写真を撮るとよく分かる。(クリックで拡大)



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▲写真7:透明軸にする意味と実用性を秤にかけて選ばれた5色。良いバランスだと思う。(クリックで拡大)







●カッコよく普段使い

とても良い製品なので、正規版として継続販売して欲しいところだが、リフィルにフィルムを巻くという手間だけでも、限定品なのは仕方がないかと思う。しかし、限定品ながら、そのリフィルもきちんと別売で売ってくれるのが嬉しい。メーカーサイドが、リフィルあってこその「エナージェルインフリー」だということが、よく分かっているということでもある。0.4mmはブラック、ブルー、ブルーブラックの3色、0.5mmは全5色、0.7mmはブラックとブルーブラックの2色という展開も、コストや手間の問題が大きいのだろう。それでも、ちゃんと、ブラックとブルーブラックという実用度が高いところに、0.4、0.5、0.7mmを揃えているあたりも流石だ。

今後、どういう展開になるかはともかく、従来のエナージェルのイメージを大きく変えるという点でも、「エナージェルインフリー」は良く考えられた製品だと思う(写真08)。品質は、速乾性ゲルインクとして、クッキリした線と、異常といっていいくらい速い乾きは定評があるし、インクはしっかり出て気持ち良く書ける、いつものエナージェル品質。安定して普段使いできるボールペンがカッコよくなるのは、ユーザーとしては大歓迎なのである。

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▲写真8:手に持って筆記してみる。インク色がノックボタン直下まで見えるのは、やはりカッコいい。(クリックで拡大)













 



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