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▲写真1:トンボ鉛筆「Zoom 韻 箸 白金」15,000円+税。(クリックで拡大)

今、気になるプロダクト その76
モチーフそのものをペンのデザインに
~トンボ鉛筆「Zoom 韻」シリーズをめぐって~



納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。


●ボールペンをデザインすること

何かをモチーフにデザインされたボールペンというのは昔からある。ただ、ボールペンはボールペンとして必要な形があって、基本的に細長い形状を取ることになる。太くて短い軸にすることもできるが、その場合、その形状の主張が強くなってしまい、別の何かをモチーフにするにせよ、デザインの幅の狭さは、結局細長い形状とそれほど変わらない。

実際、ペンのデザインは基本的には筆記具としての扱いやすさから逆算して作られていて、デザインのモチーフは軸の色や素材で表現することが多い。ゴッホの絵をイメージしたとされるヴィスコンティの「ヴァン・ゴッホ」は、樹脂を使ってゴッホ風の色合いを出したシリーズだし、プラチナ万年筆の「富士五湖」は、富士五湖と富士山が見せる情景を、軸の透明感と色で見せるシリーズ。何らかの情景やモノをモチーフにする場合、この方法が定番と言えるだろう。

そうでなければ、バンダイの「艦これ 艦隊勤務用提督万年筆」や、「シャアの万年筆」のように、イメージカラーとロゴなどの意匠をデザインするタイプ。これはキャラクター物や、アニバーサリー物に多いデザインで、一種の名入れに近いものだ。これはこれで、何らかのモチーフを使ったペンのデザインとしては定番と言える。これ以外には、金属部分の彫金によってモチーフを表現する、ペリカンの「トレド」のようなスタイルや、軸そのものにモチーフを刻印したり彫り込んだりするタイプもあるが、どれも、ベースとなるペンの形があって、その上にモチーフを重ねるスタイルだ。

ペンのデザインそのものがモチーフに関わっているというタイプも、少ないがないわけではない。ラミーの「ダイアログ 01」(写真02)のような、極端に変わった形のボールペンもあるし、トンボ鉛筆の「Zoom 707」のような、細さにこだわったペンもある。けれど、こちらのタイプは、何かがモチーフになっているというよりも、もっと筆記具のデザインそのものに挑戦したもので、それはそれで面白いのだけれど、ペンの形で何かを表そうというタイプとはちょっと違う。

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▲写真2:ラミー「ダイアログ 1」25,000円+税。リチャード・ザッパーのデザイン。(クリックで拡大)











トンボ鉛筆の「Zoom 韻」は、もっと直接的にモチーフそのものをペンのデザインにしてしまったという点で、とても面白いと思った。しかも、筆記具としての使い勝手も十分考えられている。そういう筆記具は、ありそうで意外にないのだ。というよりも、トンボの「Zoom 韻」シリーズを実際に見た時に、そのことに気がついたのだった。この、「箸」と「砂紋」(写真03)を、そのままデザインしたようなペンは、それくらい新鮮だったし、インパクトも強かった。

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▲写真3:トンボ鉛筆「Zoom 韻 砂紋」5,000円+税。(クリックで拡大)











●箸をイメージした筆記具

「Zoom 韻 箸」は、その名の通り、箸をイメージして作られている。というよりも、2本並べたら、あからさまに箸なのだ(写真04)。箸をモチーフにしたペンというよりも、箸を再現したペンと言っても良いほど。しかし、そのために使われている技術とアイデアは、相当凄まじい。まずは、四角いキャップに丸い軸という組み合わせと、その接続部のなだらかなグラデーションによって作られる、上部は四角く、先に行くに従って細く、丸くなっていく軸の形だ(写真05)。これが実に自然で、ペンの握りやすさにもつながっている。

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▲写真4:「Zoom 韻 箸 黄金」と「Zoom 韻 箸 白金」を2本並べてみた。これはもう箸である。(クリックで拡大)



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▲写真5:四角から丸へと、グラデーションのように自然に移行する軸。(クリックで拡大)






そして、まるで漆塗りの箸のような質感は、アルミの削り出しの軸に、アクリル塗装を重ねて製作(写真06)。アルミ軸のペンを多く作っているトンボ鉛筆だからこその、金属軸とは思えない軽さと、アクリル塗装によるしっとりした質感と透明感で、これまでにない握り心地と見た目を実現しているのだ。そこに、さらに、金沢金箔を貼った「金」と、プラチナ箔を貼った「白金」の2色の軸が用意されている(写真07)。漆黒という言葉が似合う漆的な質感と、箔の豪華さのマッチングが、さらに「箸」らしさを強調する。こんなにも「箸」そのもので、しかし、筆記具としての高級感もある。顔料水性インクのリフィルは、万年筆のサラリとした書き味と、裏写りせず、滲みにくいボールペンらしさを両立。この点でも実用性が高い。

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▲写真6:アルミ軸にアクリル塗装を施した、漆のような透明感のある黒。(クリックで拡大)



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▲写真7:工芸品のような贅沢な箔の使い方。(クリックで拡大)







●砂紋の質感までを手のひらに

もう1つの「Zoom 韻 砂紋」は、石庭の掃き清められた砂の上にできる砂紋を、その見た目だけでなく質感までボールペンの軸で再現しようとした意欲作。これがまた凄いのは、まず、写真では分かりにくい、中央が細く、上下が太くなった独特の形の軸(写真08)。アルミの切削で作られた、この軸は驚くことに、キレイに安定して自立するのだ(写真09)。その立った姿が、枯山水の寂たムードを醸し出す。日本の禅寺の庭のように、その形だけでなく精神性も込みでデザインに取り込もうとしているのだ。

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▲写真8:「Zoom 韻 砂紋 藍鼠」の軸。この中央が凹むように湾曲した独自の形が特徴。(クリックで拡大)



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▲写真9:自立する「砂紋」。(クリックで拡大)







ざらっとした手触りと、指にしっかりと感じる凹凸の表面仕上げは、これまでの筆記具にはなかった独特の持ち心地だけれど、指にピタリと張り付くように収まって、とても書きやすい(写真10)。これは、軸自体の湾曲した形も影響しているようだ。「白鼠」「藍鼠」と2色用意された軸の、特に「藍鼠」の色合いが、夜の砂や瓦、着物の色を彷彿する上に、シックな落ち着きがあって、この感じもこれまでのボールペンになかったもの。そして、これは「箸」にも共通するのだけれど、回転式のキャップの着脱時の気持ち良さと、精度の高さは、キャップを外すたび、着けるたびに「おおっ」と声が出てしまう。

さらに面白いのは、この特殊な形状だというのに、外したキャップは尻軸に挿せるようになっているのだ(写真11)。握りやすさといい、キャップの処理といい、普段使いのボールペンとしても、相当レベルが高い。アルミ軸なのに軽いのも、スプリング式のクリップなのも、トンボ鉛筆の技術を感じさせる完成度の高さ。インクも「箸」と同じ水性顔料インクで、滲みや裏写りを気にせず、サラサラした書き味を楽しめる。私は、このところ「砂紋」を愛用しているのだが、筆記具として飽きずに長く使える感じがある。

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▲写真10:手に貼り付くようにしっかりとホールドできる。(クリックで拡大)



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▲写真11:キャップは尻軸に挿せるようになっている。そのためにわざわざ切り込みを入れてあるのだ。(クリックで拡大)







●筆記具デザインの新境地

「Zoom 韻」シリーズが見せてくれたのは、筆記具のデザインの新しい可能性だと思う(写真12)。今や、インクやボールチップによる書き味の良さは、ほぼ完成の域に達している。150円で買える油性ボールペンの書き味の良さ、スイスイ書ける気持ち良さに、価格で対抗することはもうできない。だからこそ、意匠とデザインに対するアイデアが必要になる。

大人が持つ、高級筆記具としてのボールペンの可能性は、持ち心地とデザインを、いかに考えるかに掛かっているし、そこには大きな可能性がある。それを感じることができる筆記具の1つとして、「Zoom 韻」シリーズがある。

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▲写真12:水引を感じさせる紙なのに豪華なパッケージデザインも秀逸。パッケージは「箸」「砂紋」共通。(クリックで拡大)










 



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