●ミニマムな財布にこだわる
ミニマムな財布とは、というのは多くのデザイナーが考えていることだと思う。私も、革デザイナーと組んで考え、製品化したこともある。この作業が難しいのは、財布の機能は、紙幣とコインとカードという、形も違えば。紙と金属とプラスチックと素材も違う3つの要素を、どうにかまとめなければならないわけで、あまりミニマムにならないこと。
一方で、ラウンドファスナーの長財布という、大きくなることは承知の上で、小型のポーチのように何でも入れられるスタイルの中で使いやすさを追求するスタイルもある。最初からポケットに入れて使うことを諦めれば、使い勝手が良く容量も大きくデザインもカッコいい財布ができてしまう。ミニマムな方向でも、マネークリップやコインケースなど、収納するモノの種類を限定してしまえば、本当にミニマムなモノができ上がる。
フル機能の財布をいかにミニマムに作るかというのは、早い話が、いかに小さくするかということ。ただ、いろいろな財布を使っていると、「小さく」にも「ミニマム」にも、方向が1つではないことに気がつく。財布という道具が、日常的に使うものである以上、その使い道はそれぞれで、小型化の方法もミニマムという考え方もいろいろあって当たり前なのだ。例えば、私が関わった、safujiの「ミニ長財布納富バージョン」(写真02)は、革財布としての質感、長財布の扱いやすさを残したまま、いかに幅を短くしながら、たくさんのカードを大きさを犠牲にせずに入れられるか、という点に焦点をあてた。ズボンのポケットに収まるフル機能を目指した。
一方で、同じくsafujiの「キー付ミニ財布納富バージョン」(写真03)は、外観の小ささと、オールインワン性に注力しながら、すべてのアイテムの出し入れのしやすさを考えた。それぞれ、独自のアイデアで機能を実現したため、どちらも、ちょっとだけ特殊な財布になって、だからこそ個性的な財布になったけれど、使う人を少しだけ選ぶ財布にもなった。それは悪いことではないと思っているし、小さな財布を作るということはそういうことだと考えている。
▲写真2:safuji「ミニ長財布納富バージョン」。ミニマムな構造ながら、大きなコインケースと20枚近く入るカードケースも内蔵。外装はナッパネビア、内装はブッテーロという贅沢な仕様の小型長財布だ。(クリックで拡大)
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▲写真3:safuji「キー付ミニ財布納富バージョン」。まるでキーケースのようなサイズとルックスだが、ここにコインも紙幣もカードも、鍵までも収まる。紙幣も2つ折りで収納できるのだ。(クリックで拡大)
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●目指したのは世界最小
ルボアの「ブレイクノット オレット」(写真04)も、「目指したのは世界最小の長財布」という製品。これがまた、財布におけるシンプルとはこういうことだ、というお手本のような構造で、見ただけでは使いやすいのかどうか分からない。しかし、その小ささ薄さは、長財布としては目を見張るレベルのもの。しかも、植物なめしの牛革を使いながら、16,200円~というリーズナブルな価格で、この「最小」を実現してるのだから、興味を惹かれずにはいられない。
この「オレット」、面白いのは紙幣入れ、カード入れ、コイン入れが全部独立していること(写真05)。これ、ミニマム系の財布ではまずないことなのだ。2つ折りの長財布で、片側は紙幣入れ、もう片側はコインケース部とカードポケットが横に並んでいるという、大型の長財布でも見ない珍しい構造なのだ。だから開くと、全部が見渡せる。影になった部分は1つもない。例外として紙幣入れの中にICカードなどを入れる隠しポケットがあるが、それは「隠し」なのだから、隠れていて当然(写真06)。この構造、何かに似ていると思った。エレキギターに用いるエフェクターボードだ。必要な要素を必要な順番でボードに並べていった、機能的なエフェクターボードそのものだ。
▲写真4:サイズは、こんな感じ。外側は、植物なめしの牛革にクロコダイルの型押し。経年変化も楽しめる革だ。(クリックで拡大)
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▲写真5:「オレット」を開いたところ。紙幣入れ、コイン入れ、カード入れが全部独立して、ボードの上に並んでいるという、シンプルだが珍しい構造。(クリックで拡大)
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▲写真6:この隠しポケットにICカードや、保険証などを入れておく。(クリックで拡大)
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シンプルというか、他に類を見ないボードの上に財布の各要素を並べただけのようなエフェクターボード構造なので、財布としては、本当に、使ってみないとどんな感じになるのかまったく想像ができなかった。特に、コインケース部分は、小さいし、2辺だけが立ち上がる特殊な構造(写真07)だったので、コインの出し入れがどの程度スムーズなのかも分かりにくかった。
▲写真7:コインケースは、箱形だが、2辺は開いている形。(クリックで拡大)
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●カード、小銭、紙幣を入れてみる
つともあれ、使ってみないと始まらないと、まず財布の中身を移し替えていて気がついたのが、カードケース部分。カードポケットは段々に3つ付いているのだが、ポケットの入り口が斜めになっていて、これが出し入れをスムーズにしているのだ。さらに、カードは各ポケットに2~3枚入ることにも気がついた。左側のコインケースにコインを入れると、そこがやや厚くなるのだけど、カードポケットに2~3枚づつカードを入れると、財布を閉じた時に厚みのバランスが良くなるので、1枚づつより2枚重ねて入れる方が良いようなのだ(写真08)。
紙幣入れは中央が大きくV字に開いているので、長さが紙幣サイズぎりぎりに作ってあるのに、出し入れがスムーズ(写真09)。財布の端から箱状に紙幣入れが縫い付けられているので、外側に縫い代が要らず、紙幣サイズピッタリの幅で収めることができるアイデアは、私とsafujiで作った「ミニ長財布納富バージョン」と同じなのだけれど、紙幣入れの外側が開いているため、このようなV字の切れ込みが入れられるわけだ。この紙幣入れの出し入れのしやすさは、他の長財布にもなかなかない。
実際に、中身を入れても厚みがないし、長さも紙幣サイズ(つまりiPhone7Plusサイズ)なので、ズボンの前ポケットに入れても、歩行時や座る時にも邪魔にならない。財布の外側は固く作られているので、ポケットへの出し入れもスムーズなのだ。隠しポケットにSUICAを入れておけば、ポケットから「オレット」を出してのタッチ&ゴーもすんなり行けた。
紙幣やカードの扱いやすさは分かっていたが、実際に使うとコインケースのできの良さにも驚かされた。確かに、それほどたくさんのコインは入らないけれど、ケースの大きさからして山盛りになっていてもスナップボタンで楽に閉まるし、金額を確認しながらの出し入れも楽々(写真10)。コインが落ちることもないし、受け取ったお釣りは、そのまま財布の角に滑らせるようにすればキレイに収まるから、大型のコインケースと比べても、遜色がないどころか、使いやすいのではないかと思うほど。
▲写真8:カード入れの部分は多少膨らんだ方がコインケースとの厚みのバランスが良くなる。各ポケットにプラスチック製のカードを2枚づつ入れても、この程度の膨らみで済む。(クリックで拡大)
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▲写真9:紙幣の出し入れがスムーズなのは、この大きなV字の切れ込みのおかげ。札入れにはマチもあるので、20枚くらいは楽に入る。(クリックで拡大)
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▲写真10:意外に安定して使えるコインケース部。これには本当に驚いた。コインの出し入れのスムーズさは専用のコインケース並。(クリックで拡大)
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領収書や名刺は札入れ部分に紙幣と一緒に入れるしかないが、V字の切れ込みがあるせいか、数枚程度のレシートなら邪魔にもならない。カードはある程度絞って持ち歩くことになるが、6枚から9枚入るのだからどうにかなる。支払い時に、財布の中身をかなり相手に晒すことにはなるけれど、この小ささなので、これが全部とも思われないだろう。カードナンバーや名前が見えるわけでもないし、「紙幣があまり入ってないなあ」程度なら見られてもさほど問題はない。
何というか、目からウロコな構造なのだ。シンプルといえばこの上もなくシンプルだし、これをミニマムと呼んでよいのかと思うくらい、各機能が普通に独立している。でも独立しているから、どこかの機能が使いにくいということもない。なんだか見事という他はない。サイト(写真11)からの購入で、外側と内側の革の色を選べるカラーカスタマイズ(17,820円)もあるし、外側を栃木レザーにしたタイプ(21,600円)もある。このフレキシブルさも嬉しい。また、コインケース部分をなくし、縦型のカードポケットにした「オレットJ」も用意されているから、用途に応じて選べる。
封筒を模したパッケージがまた、ミニマムなデザインで可愛いのでギフトにも使える。細かいところまで良く考えられた製品なのだ。新ブランド「ブレイクノット」の第一弾として作られた、この長財布、今後、ミニマムな財布を考える時、忘れてはならない存在になる。
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