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▲写真1:IK Multimedia「iRig nano amp」6,480円(税込)。(クリックで拡大)

今、気になるプロダクト その64
スマートフォンと楽器演奏をつなぐもの
~iRig nano ampをめぐって~


納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。

●エレキギターとギターアンプ

ギターアンプというのは、エレキギターという楽器の性格上、本来ならギターの次には購入するべきで、さらに演奏する場合、常に、そのアンプを携行するべきなのだ。アンプで増幅されて初めて音が出るのがエレキギターなので、その音の出口であるアンプは「音色」を考えた場合、どうかするとギター以上に重要なポジションかも知れない。

しかし、シロウトのギター弾きの場合、タンスほどもあるギターアンプを置いておく場所もなければ、それを鳴らせる場所もない。現在、世界的に大きなアンプは売れないそうで、フェンダーもマーシャルもVOXも、現在の売れ線はコンパクトなタイプなのだそうだ。プロにしても、アンプのヘッドだけを持ち歩いて、大きなキャビネットにつなぐことでライブやレコーディングに対応している人も多いという。

それでも学生時代、田舎の一軒家に家族と住んでいた頃は、50cm×50cmくらいのサイズの30Wクラスのギターアンプを持っていたけれど、東京のマンション暮らしでは、そのくらいのサイズのアンプを鳴らすのも難しい。かといって、ヘッドフォンばかりではつまらないし、ちょっとしたセッションもできない。ということで、本当に小さな、卓上サイズのアンプを使うことになる。この小さなアンプもいろいろ出ていて、それこそ、マーシャルやらVOXといったアンプの一流メーカーのものもある。

筆者が使っているVOXのヘッドフォンアンプをつなぐタイプの小型キャビネット(写真02)も、なかなか優秀で、特に、ヘッドフォンアンプを差し込むとキャビネットアンプになるというギミックは、小物好きの筆者の心をくすぐるし、出力も小さい割に十分なのだが、ヘッドフォンアンプの音がダイレクトに出るので、音色の幅が狭いのがネックだった。デザインも、別に大型アンプを象る意味はないなあと思っていたし。

ということで、iRigの「iRig nano amp」が出た時には飛びついたのだ。モニタースピーカーのようなデザインが良かったし、何といってもiRigだから、iPhoneがつなげるのも嬉しい。iPhoneには優秀なエフェクターやアンプシミュレーターのアプリがたくさんあるのだけど、それをつなぐには、iRigをiPhoneにつないで、そこからギターとイヤフォンにつないでというのが手間なのだ。そのせいで、つい面倒くさくて、使わずじまいになってしまったり。

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▲写真2:VOX「amPlug AC30」と「amPlug Cabinet」。(クリックで拡大)









●iRig nano ampはギターアンプに非ず

「iRig nano amp」は、iPhoneをエフェクターとして使うのに便利な卓上アンプのように見えた。iPhoneにつないだギターから出る音を簡単に確かめられるモニター、として使おうと思って購入したのだ。実際使ってみると、iPhoneをつながず、アンプに直でギターをつないだ場合、卓上アンプとしては、かなり出力は小さい。単三乾電池3本で動かす(写真03)のだから、それほど大きな音が出るわけもないのだが、筐体としてはマーシャルなどの卓上アンプよりもやや大きいくらいなので、その出力の小ささは、やや拍子抜けするほどだ。

また、ゲインとボリュームしかつまみがなく(写真04)、ゲインを下げるとボリュームを最大にしてもあまり音が出ないため、ゲインを上げると当たり前だが音は歪む。つまり、それなりの音量を出そうとするとディストーションがかかってしまうのだ。それはそれで、面白い音ではあるけれど、アンプ単体ではやや使いにくい。一方で、iPhoneをつないで、アンプシミュレーター(写真05)などを使うと、本体のゲインのつまみは、ほぼ影響がなくなる。iPhoneのアプリ側でクリーントーンに設定すれば、それなりの音量でクリーントーンを鳴らすこともできる。

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▲写真3:iRig nano ampは単三乾電池3本で動く。電池ボックス周りの作りは多少ぞんざい。(クリックで拡大)



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▲写真4:本体右側には、上部にゲインつまみ、下部にボリュームつまみ、中央にiPhoneをつなぐミニプラグの端子がある。(クリックで拡大)



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▲写真5:IK Multimediaは、iRig接続で使うアプリも多数提供している。画面は、AmpliTube LEのアンプシミュレーター。(クリックで拡大)




●ギターアンプ付きのスマホアダプター

つまり、このアンプは、iPhoneなどのスマートフォンをつないで使うことが前提の製品なのだった。スマートフォンがつなげるアンプではなく、ギターがつなげるアンプ付きスマートフォンアダプターと考えた方がよい。まさかの、デジタル機器なのだ。そして、そう思って使ってみると、これがなかなか使いやすい。何よりまず、iPhoneからはアンプに向かってケーブルが1本延びているだけというのがよいのだ。従来のiRigでiPhoneとギターをつなぐ場合、iPhoneからiRig本体が下がっていて、そこにギターのケーブルとイヤフォンまたはスピーカーにつなぐケーブルを差すため、iPhoneの置き場が定まらず、扱いにくかったのだ。

一度、iRig nano ampをギターの周辺機器ではなく、iPhoneの周辺機器だと捉えれば、いろいろと見えてくるものがあった。まず、スマートフォンと楽器というのは、従来のギター→エフェクター→アンプ、という流れとは違ったつなぎ方ができるということ。このiRig nano ampを使う場合、接続はギター→iRig nano amp←→iPhoneというつなぎ方になる(写真06)。だから、ギターからの信号をiPhoneを通してアンプに流すというエフェクター的な使い方と、ギターの信号をiPhoneで録音しつつ、アンプでモニターするという使い方が、接続を変えずに行えるのだ(写真07)。

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▲写真6:ギターは本体左側面にある端子の下側につなぐ。上はキャビネットなどにつなぐ出力端子。中央にはイヤフォン端子がある。(クリックで拡大)



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▲写真7:上部にはスライドスイッチが2つ。左のスイッチは、スマートフォンを経由するか、直接アンプを鳴らすかの切り替え。右はアンプ自体の音色の切り替え(ノーマルとブライト)が行える。(クリックで拡大)







●音作りから録音まで

例えばGarageBandを使って、まず、ギターからの音をエフェクターやアンプシミュレーターの機能で音作りをして、そのまま弾けば、録音もできて、録音した音をモニターしながら、重ね録りもできるのだ。これは1人で曲を作ったり録音したりという作業がとても楽になる。しかも機器はギターとiPhoneとiRig nano ampだけで良いのだ。ヘッドフォンを使いたければ、iRig nano ampに付いているヘッドフォン端子が使える。

iPhoneのエフェクターやアンプシミュレーターは高機能なのだけど、実際に使うとなると、どうしてもケーブルの問題やモニターの問題もあって、じっくりと音作りをするような使い方には合わなかった。これなら、音作りをやって、録音して、といった作業がパソコンと同じような使い勝手で行える。コンパクトにまとまる分、より楽にできると言ってもいい。この、アンプに直接スマートフォンをつなぐスタイルは、今後、多くのアンプに実装されるのではないだろうか。そうなれば、スマートフォンはアンプのコントロールパネル的に使うことができるようになる。これがフットスイッチと連動できるようになれば、スマートフォンで作った音をプリセットに登録して、フットスイッチで呼び出して弾くことが誰にでもできるようになる。

●デジタル化で広がるエレキギターの楽しさ

iRig nano ampは、その可能性を見せてくれた。ただ、現状、問題もいろいろある。まずは、本体が軽く、作りがやや粗いせいか、すぐに本体がスピーカーの振動で震えてノイズが出るのだ(写真08)。これは、けっこう致命的で、柔らかい布の上などに置かないと、かなり耳障りだ。電池ケース部分も、何だかおざなりな作りで、耐久性には不安が残る。通常の卓上アンプが、木製キャビネットを採用しているのは、この振動の問題があるからなのだ。そのあたり、音響機器ではなくデジタル周辺機器だという証明でもあるけれど、残念でならない。せめて、足に大きなインシュレーターが付いていればと思う。

それにしても、アナログの極みのようなプリミティブなエレキギターを、楽器自体はそのままに、その音をデジタル信号として扱う製品が、こんなに身近に、安価に手に入るようになったことは、とても面白い。もう、デジタル信号もアナログ信号も、特に区別なく音楽の材料として使えるわけだ。iPhoneのアプリ、AmpliTubeを使えば、例えば、ジミ・ヘンドリックスの「ヘイ・ジョー」のイントロの音色、なんてものもプリセットされていて、簡単に自分のギターで、その音を鳴らすことができる。iRig nano ampも出力端子があるので、キャビネットにつなげば、振動に影響されない、しっかりとした音を鳴らすこともできる。

デジタルエフェクターはいくらでもあるのだけど、画面表示が小さいので、設定が面倒なのだ。その点、スマートフォンなら画面が大きいので直感的な操作ができる。その意味でも、iPhoneを楽器の一部として使えるようになるのは、とてもありがたい。その未来を、少し覗く機器としては、中々良くできていると思うのだ。見た目が音響機器っぽいので、卓上ギターアンプ的な製品だと勘違いしやすいのは問題だけれど。

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▲写真8:後ろのスタンドを引き出して立てることもできるけど、この場合、下には布などを敷いた方がよいようだ。(クリックで拡大)














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