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▲写真1:キングジム「ポメラDM200」49,800円+税(クリックで拡大)

今、気になるプロダクト その62
文章を書く道具考
~「ポメラDM200」をめぐって~


納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。

●紙と筆記具、そしてポメラ

文章を書くのに必要なものは、基本的には紙と筆記具だ。とりあえず、それだけあれば文章は書ける。しかし、「ポメラDM200」が出たとき、「ネットにつなげても検索ができないなら使えない」といった意見が聞かれた。多分、新しいノートやメモ帳に対して、そんなことを言う人はいないだろう。でも、ポメラだと、最初からテキスト作成に特化したマシンだと謳っているにも関わらず、そういう意見は出てくる。それはデジタル機器の宿命ともいえるのかも知れない。

今や、仕事で文章を作る場合、ネット環境は必須だと言われている。そう言われるのも分かるけど、ネット環境はテキスト作成環境と同じところになければならないかというと、それはそうでもないのではないかと思うのだ。例えば、今、私はこの文章をポメラDM200で書いているが、ネットにつながっていないことで困ることはない。調べ物はスマホで行うし、調べた内容を読んで、自分の文章の中に自分の言葉で組み入れるので、スマホとポメラがつながっている必要性も感じない。ネットからのコピペができないことは、さほど文章を書く上での障害にはならない。文章内でのコピペができれば十分だ(写真02)。

多分、ノートと筆記具の組み合わせの代替機としては、ポメラくらいの機能があればオーバースペックなくらいなのだ。そして、そのことは、もう30年以上前に、パーソナルのワープロ専用機が登場した時に分かっていたことだ。ワープロは当初「清書マシン」だった。文章の最終出力を活字っぽい文字で出すための道具だ。それは、ワープロの多くが、機能を増やす際に、文章作成の補助となる機能よりもレイアウト機能を充実させていったことでも分かる。同様に、パソコン用のワープロは、画面が大きくなったことを幸いと、その方向を充実させる方向で発展した。

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▲写真2:さっと取り出して、サッと打つ。それだけやるなら、ポメラが一番楽かも知れない。(クリックで拡大)










●ワープロ専用機の進化形?

そのことで、プロの文章書きはワープロから離れ、テキストエディタなどの、機能が少ないシンプルな文章作成用ソフトへと流れた。ワープロソフトは、ワードプロセッサという名前が意味する機能から離れて、今や便利な事務機器になっている。ワープロ専用機は、その流れの中で消えていき、もしかしたらあったかもしれない「文章を書くための専用機」への進化は失われた。

オアシスポケットやシグマリオン、HP200LXといった、初期のモバイル機器は、妙にテキスト入力周りが充実していたけれど、それは、そこが一番CPUに負担を掛けずにいろいろできたからだろうし、小さな白黒画面でも十分に機能を発揮することができたからだろう(写真03)。つまり、文章を書くために必要な機能は、ネット以外にもいろいろあったし、だからプロの文章書きの多くが「オアシスポケット」を使っていた。でも、そういう事実も、もしかしたらワープロ専用機の消滅とともに忘れられていったのかも知れない。

ポメラDM200を使っていて嬉しいのは、これが、初めてワープロを買った時に期待していた(けれど裏切られた)いろいろが、ちゃんと実装されているということ。それは、快適な漢字変換能力であり、行番号表示機能であり、持ち歩けるサイズと軽さであり、素早く動いて直したい箇所を直せるカーソルの動きと消去の速さであり、自分が考えた文章がキレイな文字で画面表示されることである(写真04)。

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▲写真3:ポメラを使って文章を書いていると、画面が白黒であることをまったく意識していないことに気が付く。文章を書くのに色はいらない。(クリックで拡大)



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▲写真4:かつてのワープロ専用機ではウリの機能の1つだった原稿用紙表示機能も搭載。これも、目からのフィードバックを大事にした機能だ。(クリックで拡大)








●思いついたらすぐ書ける

見た目も含め、ポメラDM200は本当にワープロっぽいのだ。キーボードが良くなって、キーの端を打ってもきちんと入力されるようになったことや(写真05)、画面が大きく、明るくなって、表示フォントがキレイになったこともあって、「かつてのワープロが使いやすくなって帰ってきた」感じなのだ。だから、必然的にパソコンやスマホに比べると野暮ったい。パソコンで当たり前にできることができない。でも、文章を書くのに必要な機能は意外にパソコンよりも充実していたりする。

思いついたらすぐ書けるという機能は、スマホになっても、まだあまりうまくできないのだけど、ポメラなら初期モデルからできる。というか、それができるのがポメラだった。思いついたらすぐ書けることは、文章作成でもしかしたら一番重要なことかも知れなくて、紙と筆記具なら当たり前にできることで、だから、それを実現したのがポメラの新しさだったのだ(写真06)。発売当初、電子メモと呼ばれたのも、その素早い起動と入力しやすさが他にない機能だったから。

その後、ポメラは折り畳み型のキーボードから、より安定して入力できるストレート型のキーボードへと進化し、メモ機というには随分大きく重くなってしまった。でも、ポメラシリーズでは最大サイズのDM200にしても、実はノートや原稿用紙を広げるより場所をとらない。メモ機としては大きいけれど、長文を書くのに耐える道具としては、デジタルアナログ全部の中で、筆記スペースをもっとも取らないかもしれない(写真07)。つまり、DM200の登場は、実用に耐える機能を持ったコンパクトなワープロの復活なのだ。

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▲写真5:キーの端を打っても、キーが引っ込んだままになったり、キーの穴に引っ掛かったりせず、きちんと入力される。こういうちょっとした部分に入力のしやすさがでるのだ。(クリックで拡大)



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▲写真6:DM200は、抱えて持ち歩けるサイズだけれど、パッと開いてパッと打つというには多少大きい。(クリックで拡大)



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▲写真7:奥行きが短く、高さもないので、狭いスペースでも安定して文章が書ける。ドトールの狭いテーブルでもこんな風に使えるのだ。(クリックで拡大)



●DM200の主な機能

例えば、DM200には段落ごとに書いたり並べ替えたりできる、簡易アウトラインプロセッサ風の機能が付いている。同じテキストを2つの画面に分割して表示できる機能が付いている(写真08)。2つのテキストを並べて表示する機能が付いている。行番号表示機能が付いている。文字数を決めたフレームの中で文字を埋めていく機能が付いている。これらは、普通に文章を書く上で、当たり前に欲しい機能で、ちゃんとしたテキストエディタには大体実装されていて、多くのワープロソフトでは省みられない機能。ブログツールなどにも搭載されていなくて、ブログの文章が今一つなのは、こういう文章作成補助機能がないせいじゃないかと思ってしまうほど、文章作成において、とてもプライオリティが高い機能なのだ。

電子辞書が内蔵されているのもありがたい(写真09)。冒頭、文章を書くのに必要なのは筆記具と紙と書いたが、本当は辞書も必須なのだ。これは多くのプロの作家や文章家が言っていることだが、プロの文章書きというのは、自分が知らない言葉でも、辞書さえあれば使いこなせる人のことなのだから。「明鏡国語辞典MX」「ジーニアス英和辞典MX」「ジーニアス和英辞典MX」「角川類語新辞典.S」と、とりあえず必要な辞書が内蔵されているのは、本当に助かる。

Web情報についてはスマホがあるから、わざわざポメラに内蔵する意味はない。無理に内蔵しても、この程度の画面サイズでは使いにくいだけだし、文字コードの混在の問題も出てくる。たまに「他のことができないから文章に集中できる」といった評価も見かけるが、それは多分ない。集中できない時は集中できないし、集中できる時は集中できるものだ。ネットにつながるから集中できないのではない。どっちにしても手元にスマホがあれば同じじゃないか。

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▲写真8:画面分割には、やや画面サイズが小さいが昔のワープロ専用機もこんなものだったなあと。そして、この機能は、画面が小さいからこそ便利だったりするのだ。(クリックで拡大)



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▲写真9:電子辞書は特に類語辞典があるのが嬉しい。文章書きにはとても助かる。(クリックで拡大)







●長文が気持ちよく書ける意味

文章を書く時に原稿用紙と筆記具にこだわる人は多いが、これは書かれた文字が自分の目へフィードバックされる時の気持ちよさが文章を書く上でとても大事だからだ。そして、それはデジタルでも同じこと。キーを打った時の画面の反応、漢字変換の快適さ、画面の見やすさ、視認性の高さ、表示されるフォントが好みかどうか、表示される文字の大きさが十分かどうか、前後の文章の読みやすさ、などなど。これらすべては、手書きで言う「筆記具と紙」の問題と同じレベルの話なのだ。その点が、全体的に向上していて、私個人としては、ようやく長文がそれなりに気持ちよく書けるようになったと思った(写真10)。DM100では画面表示が暗くて文字がイマイチで、メモレベルを越えることはなかったのだ。

昔、ワープロを使っている人たちの間でも、文豪派とかルポ派とか書院派とかオアシス派とかいろいろあったけど、あれは、機能よりもキーボードと画面とフォントの好みだったと思う。文章を書くというのは、結局、そこのインターフェイスに拠る部分が大きいのだ。私の場合、キーボードはHHKB Proが基本だから、モバイル的に使うなら、それとiPad miniの組み合せが、キーボードと画面表示に関しては、最も使いやすい。けれど、漢字変換はDM200の方が快適で、文字を最大にして、黒画面に白文字で表示させれば、画面の見やすさもDM200が上だ。だから、荷物が少なければHHKB Proの無線版を持って出るが、荷物が多いとDM200を使う(写真11)。また、電車などの移動時間にも書くならDM200だ。そこまで長い文章を腰を据えて書くのでなければ、iPhoneで十分。

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▲写真10:別売のソフトケースは使用時にはパームレストになる。これも「文章作成専用機」らしいオプションだ。(クリックで拡大)



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▲写真11:カバンに入れやすい形状なのだ。(クリックで拡大)







●DM200の得手不得手

結局、そういうことなのだと思う。ノートと筆記具の組み合せを選ぶように、デジタルによる文章作成もさまざまな環境から選ぶ。その選択肢の中に、DM200が入ってきた。ポメラが長文を書く環境の1つとして選べるようになった、と言うことなのだ。長文を書く環境の1つとして考えた時、ネット機能は不要だけれど、他の文章を書く環境とのテキストのやり取りは楽にできないといけない。書き始めたら、その環境で最後まで仕上げなければならないなら、それは長文を書く道具として失格。そんな自由度の低い環境は嫌だ。その意味で、無線LAN対応も、ちょうどいいくらいの機能になっていると思う。iOSとMac OSに限定されるのは残念だが、Macで書いていて、途中でメモ帳に貼っておけば、後はiPhoneからでもDM200からでも続きが書けて(写真12)、DM200側で同期作業をすれば、また続きをMacで書ける。これができるから、文章作成環境として選べる。

残念な点も、もちろんある。まず、1行当たりの文字数が選べないこと。実は、これは文章書きにとって致命的。常時文字数が表示されていれば、まだ許せるのだが、それもない。とりあえず、文字を最大の大きさにすると1行が20文字になるので、そこに行番号を出して凌いでいるが(写真13)、これはどうにかして欲しい。そして、ポメラSyncが遅くて、操作が煩雑だ。ワンタッチで接続から同期まで、他の作業しながらでも完了させてほしい。あと、ちょっと重い。キーボードを打つことを考えれば、あまり軽くても使いにくそうだけど、それにしても重いなあ。アップロード機能もどうせなら、文章をメール本文か添付書類にするかが選べれば良かったと思う。そうすれば、書いた文章をkindleに送って、kindle pwなどのリーダーで電子本のように読めたのに。

あと、キーボード側にも照明か、キーボード自体が光る仕組みがあると、暗い場所でも書けたのにとか、まあ、言い出せばいろいろある。それでも、文章を書くための道具の選択肢が増えたことは、とてもめでたいことなのだ。

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▲写真12:ポメラsyncフォルダに保存したポメラの文章は、Wi-FiにつないでGmailで同期すれば、iPhoneやMacのメモアプリのpomera_suncフォルダに保存される。その逆もいける。(クリックで拡大)



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▲写真13:文字サイズ最大、行番号表示で1行が20文字になるのは、偶然かもしれないが、ありがたい。これでぶら下がりの禁則が効くのも助かる。黒地に白文字表示もワープロ専用機を思い出して楽しい。(クリックで拡大)











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