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▲ゲルインクボールペンの魅力とは?

今、気になるプロダクト その60
大人の日常ペンとしてのゲルインクボールペン
~パイロット「ジュースアップ」、三菱鉛筆「ユニボールシグノ307」をめぐって


納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。


●日本のボールペンの歴史

日本におけるボールペンの歴史を見ていると、面白いことに気が付く。日本では、太い軸のボールペンがヒットした歴史がないのだ。唯一の例外と言っていいのがパイロットの「ドクター・グリップ」。それ以外は、鉛筆と同じくらいの太さのボールペンしか普及してはいない。しかも、ボールペンが最初に普及したのも、オートが「鉛筆型ボールペン」を発売してから。

実は日本は歴史的に見ると筆記具に関しては、かなり遅れていて、ヨーロッパやインド、エジプト、中国などにあった、石などに彫って文字を書くという時代がない。文字と筆は同じくらいに入ってきて、筆記具の歴史は細い軸の筆から始まっている。画材としては石などもあったようだが、文字を書く道具としては小筆がすでにあったのだ。

その後、万年筆や付けペン、鉛筆が入ってきた時、ヨーロッパでは画材的な扱いだった鉛筆が筆記具として普及したのも、鉛筆が細い軸だったという要素も大きい。その後、シャープペンシルもボールペンも鉛筆型が出て初めて普及する。万年筆が特別な筆記具と言う扱いなのも、軸が細くないからなのかも知れないのだ。

という歴史の帰着として、現在、一般的な筆記具として普及しているのが、いわゆる100円ボールペンだ。多分、その原型は、ビックボールペンあたりなのだろうが、昭和40年代にはプラスチックの透明軸で中のインクの減り具合が見えるタイプが、事務用の筆記具として広く普及し、大幅な技術的改良はあったけれど、その外観は、ノック式になったくらいの変化しかない。その形は、日本人が最も手に取りやすい形なのだろう。ただ、それでは、大人がポケットから出すペンとしては使いにくい。

特に、ゲルインクのボールペンは、その色数の豊富さや、安定して細い線が書ける機能のせいか、学生がメインユーザーだったため、大人が使えるデザインのものは少なかった。最近、ビジネスユーザーも筆記具に対する興味が向上していることもあって、油性ボールペンや水性ボールペンは、いわゆる高級筆記具の価格帯の製品も増え、ジェットストリームやフリクションボールなどには、安価ながら大人っぽいデザインの製品が発売されている。

ゲルインクボールペンは、現在、ボールペンのシェアでは1位なのだ。元々、油性インクの扱いやすさと速乾性、水性インクの滑らかな書き心地を併せ持つインクとして、また、細い文字を安定して書けるインクとして人気は高く、発売以来、プラスチック軸のボールペン市場の中心的存在ではあった。パイロットのハイテックCなどの、大ベストセラーも出た。

静止状態ではゲル状で、ボールの回転によって攪拌されると液状に変わるという性質のゲルインクは、開発に時間がかかっていることもあり、発売当初から比較的完成度が高く、当時、まだ書き味が重くインク溜まりができやすかった油性インクや、書き易かったがノック式がなく、裏抜けもしやすい水性インクと比べ、汎用性が高く、欠点が少なかった。ヒットするのも当然ではあるが、その分、これまで、あまり大きな改良などが加えられることがなかったため、機能的にも、油性、水性に差を付けられていた。

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▲写真1:パイロット「ジュースアップ 0.3mm 黒」200円(税別)。(クリックで拡大)



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▲写真2:三菱鉛筆「ユニボールシグノ307 0.5mm 黒」150円(税別)。(クリックで拡大)








●ゲルインクのボールペン

だからというわけではないのかも知れないが、ここに来てゲルインクのボールペンに大きな変化がやってきた。インクに新素材セルロースナノファイバーを使い新しいインクを開発、より滑らかに書けるようになった三菱鉛筆の「ユニボールシグノ307」(写真03)、コーン型とパイプ型の良いとこ取りのペン先を開発し、スタイリッシュなデザインの軸に収めた大人の細書き、パイロットの「ジュースアップ」(写真04)、瞬間的に乾くため、書きながらインクを擦っても安心のゼブラ「サラサドライ」(写真05)などがそうだ。また、大人が使えるゲルインクボールペンを意識したデザイン(写真06)や、高級軸のタイプ(写真07)も遂に登場した。

それぞれが興味深い製品になっていて、それぞれの紹介だけで1本のレビューができるほどなのだが、ここでは、まず、パイロットの「ジュースアップ」を紹介する。もう見るからに、これまでのプラスチック軸ボールペンとは違い、直線的でマットな質感の軸は、大人が使って何の違和感もないどころか、むしろカッコいいと言える程だ。

このボールペンの新しいところは、ペン先の先端、いわゆるチップと言われる部分。パイロットの一世を風靡したゲルインクボールペン「ハイテックC」は、いわゆるパイプチップと呼ばれる、ペン先が細いパイプになっていて、その先端にボールが付いているタイプで、細い文字を書く際に、書きたい部分がよく見えて、精密な線が書き易いのが特徴だが、一方で、筆圧が強いと曲がったりしやすかったり、ボールへのインクの供給にやや時間がかかるため、書き出しが少し擦れるという欠点もある。一方で、油性ボールペンなどに使われる、円錐型のペン先は、コーンチップと呼ばれるタイプで、インクの供給が安定し、筆圧に強いけれど、精密で細い線を書くのには向かない。

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▲写真3:三菱鉛筆「ユニボールシグノ307」。色は赤、青、黒の3色。ボール径は0.5mmと0.7mm。(クリックで拡大)



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▲写真4:パイロット「ジュースアップ」。標準色は、ブラック、レッド、ブルー、ブルーブラック、グリーン、オレンジ、ピンク、バイオレット、ライトブルー、ブラウンの10色。ボール径は0.3mmと0.4mm。写真の10色セットも用意されている。(クリックで拡大)







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▲写真5:ゼブラ「サラサドライ」150円。ボール径は0.4mmと0.5mm。色は、赤、青、黒の3色。本当に書いたら瞬間的に乾く。(クリックで拡大)



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▲写真6:ぺんてる「ノック式エナージェル 限定ネコ柄」200円。猫の毛並みを幾何学模様にデザインした軸のエナージェル、数量限定品。写真は「アメリカンショートヘア」。(クリックで拡大)







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▲写真7:ゼブラ「サラサグランド」1000円。ゲルインクボールペン初の金属軸を使った高級筆記具バージョン。通常のサラサクリップのリフィルが使えるのが嬉しい。(クリックで拡大)










 

●パイロット「ジュースアップ」

パイロット「ジュースアップ」のペン先は、新開発のシナジーチップ(写真08)と呼ばれるもので、パイプチップとコーンチップの良いとこ取りの構造を持っている。コーンチップの先端、通常ボールが付いている部分が少しだけパイプチップの形状になっていて、その先にボールが付いているのだ。この構造によって、ペン先の視界は確保されるので精密な線が引けるし、パイプのすぐ後ろは大きく開いているのでインク供給も安定、強い筆圧でもパイプが曲がりにくい。このペン先のおかげで、0.3mmという極細のボール径にも関わらず、かなりスムーズに、カリカリと引っ掛かることなく、濃い文字が書けるのだ。

そして、何より、その黒を基調にした直線的な軸(写真09)や金属の口金、飛び出さないノックボタン、インク色に合わせた半透明のシリコングリップなど、デザインにも凝っていて、人前で使っても安っぽく見えないのが有り難い。200円のボールペンだが、充分、愛着を持って使えるのだ。その上で、黒い紙にも書ける不透明インクの、パステルカラー6色(写真10)と、メタリックカラー6色(写真11)を、こちらはパステルカラーが白い軸、メタリックカラーがシルバーの軸と、ちょっとポップに仕上げてくるあたりも、とても上手いと思う。同じ、顔料系ゲルインクボールペンで、同じシリーズだとは云え、多分ユーザー層が全く違うわけで、こういう買い間違えない工夫は重要だ。

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▲写真8:シナジーチップ、拡大写真。(クリックで拡大)



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▲写真9:このそっけないほどの直線的なデザインがカッコいいのだ。(クリックで拡大)







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▲写真10:パステルカラーのジュースアップは0.4mmのみだが、不透明顔料系ゲルインクボールペンで0.4mmは世界最細らしい。(クリックで拡大)



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▲写真11:メタリックカラーのジュースアップも0.4mmのみ。こちらも、ラメ入りのメタリックカラーのゲルインクボールペンでは最細。(クリックで拡大)








●三菱「ユニボールシグノ307」

三菱鉛筆の「ユニボールシグノ307」は、1987年の発売以来、改良は続けていても、抜本的なリニューアルはしていなかったゲルインクそのものを新しいものにしたい、という試みから始まったペン。ゲルインクの「ユニボール」と言えば、欧米では圧倒的なシェアを誇り、先日、日本でも翻訳が出版された、スティーブン・キングのミステリ小説「ミスター・メルセデス」でも、わざわざ製品名入りで登場したほどの定番ボールペンだ。しかし、アルファベットのような続き文字を速く連続して書いた時に擦れがでること、書き続けるとペン先にインクが溜り、それが紙に落ちてインク溜りになることなどの欠点が改善されないままになっていた。

それらの欠点を解決するには、インクの粘度を下げる必要があるということで、増粘剤に新しい素材を使おうと探していて見つかったのが、当時、経産省もフォーラムを立ち上げて、製品への使用を推奨していた、セルロースナノファイバー(写真12)。従来の増粘剤に比べ、より滑らかで、透明度も高い素材を、試行錯誤を繰り返してゲルインクに使用できるようにしたのが、「ユニボールシグノ307」に使われているインクだ。これ、従来のゲルインクボールペン、例えば、ペン先などはほぼ同等の性能を持つ「ユニボールシグノRT1」と書き比べてみると、そのスラスラ感の差は歴然。明らかに軽く、滑らかに書けるのだ(写真13)。この「ユニボールシグノ307」が行っているのは、ゲルインクボールペンの書き心地そのものをワンランク上げること。ここまで来ると、水性染料インクのローラーボールと、その軽い書き味はほぼ変わらない。元々、万年筆の代わりとして欧米で普及した水性ボールペンの欠点を改良したものとして投入されたゲルインクボールペンだから、色材を顔料にして、書き心地を軽くする、という方向に向かうのは必然。その方向に向けて一気に進化させたのが、この「ユニボールシグノ307」だと言える。しかも価格は150円。

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▲写真12:左が従来の増粘剤、右がセルロースナノファイバーを使った増粘剤。(クリックで拡大)



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▲写真13:太いグリップと、ユニボールシグノRT1にも採用されている、紙への引っ掛かりを少なくするため、ボールを支えている部分の際を削ったエッジレスチップの搭載で、さらに滑らかさを実現。(クリックで拡大)







日本の量産品としてのボールペンの質の高さは、今に始まったわけではないが、何となく、学生メインのイメージがあるゲルインクボールペンを、大人も見直す時期が来ていると思う。とりあえず、上記の2製品、及び、ゼブラの「サラサドライ」(写真14)、ぺんてるの「エナージェル」シリーズあたりは、要チェックなのだ。

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▲写真14:ゼブラ「サラサクリップ ビンテージカラー」150円。ゼブラのゲルインクボールペン「サラサクリップ」に、大人っぽいカラーインクが登場する。黒の代わりに使える渋い色が揃う。(クリックで拡大)










 



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