●キーボードの重要性
昔から言い続けていることではあるが、キーボードは筆者にとって、最も多くの文字を書く道具だ。それこそ月間10万文字以上をコンスタントにキーボードで書いているわけで、それは多分、私が今までの人生で手書きで書いた文字を遥かに超えているどころか、もう何十倍何百倍の差がある。これは多かれ少なかれ、今の人に共通するのではないだろうか。その次はフリック入力か。
そういう具合に、筆者はキーボードで文字を書き続けているわけで、それはつまりキーボードは筆記具だということなのだ。だから、ボールペンや万年筆以上に、打鍵の感覚や、早く打てるリズムへの応答速度、デザイン、耐久性などが重要で、それこそキーボードが変わると文章が下手になるわ、遅くなるわで大変なのだ。それは打ち心地が良いとか、打鍵感が心地よいとか、そんな感覚レベルの話ではない、かなり具体的な要求。
それは多分、筆者だけの話ではないと思う。テープ起こしの職人のような人がいて、その人はノートパソコンのキーボードでは打鍵速度が遅くなってしまって仕事にならないと言う。慣れの問題ではない。純粋に最高速度が下がるのだ。それで、その人は東プレの「RealForce」というキーボードを使っていて、筆者は、PFUの「HAPPY HACKING KEYBOARD Professional」(以下、HHKB Pro)のシリーズを使い続けている。この2つのキーボードの共通点は、どちらも「静電容量無接点方式」のキーボードであるということ。
●静電容量無接点方式キーボードの特徴
「静電容量無接点方式」の詳細については、興味がある場合、各人で調べていただくとして、ポイントは、この方式はスイッチがなく、キーを押し切らなくても入力が可能だということ。だから、同時入力というのはあり得ず、ちゃんと先に打とうと思ったキーが先に入力される。しかも、打鍵速度が上がって、しっかり打つというよりも、キーを撫でるような状態になっても、きちんと文字を入力してくれるから、指が疲れないのだ。一見、キーストロークが深いので、最近流行の薄いキーボードに比べて、力が要りそうに見えるが、触る程度でもちゃんと入力されるから、むしろ楽なのだ。
例えば「これ」と打鍵する場合、「KORE」と打つのだが、こういう、「KO」とか「RE」といったキーが隣接している場合、指先を滑らせば瞬時に入力されていて、その速度が気持ちいいのだ。そして、そういう風に軽いタッチで打っていくと、打鍵音も小さくなり、するすると文字が入力されていく。リターンキーも軽く押さえる程度で反応するので、変換から次の言葉への移行がスムーズで、集中を途切れさせずに文章を書いていけるのだ。このリズムが筆者の文章作成にはとても重要なことで、そのため、「HAPPY HACKING KEYBOARD PRO」シリーズが手放せないのだ。
●Bluetoothキーボード「HHKB Pro BT」
▲写真2:筆者の愛機、「Pro JP」と「JP Type-S」。長年使っているので、かなりボロボロだが、HHKBはキーを簡単に外せるので、一度キレイに洗おうと思っている。(クリックで拡大)
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▲写真3:HHKB Pro BT日本語配列モデルを真上から見たところ。日本語配列とはいっても、キートップにかなの刻印はない。英語配列モデルとの大きな違いは、右下にカーソルキーが付いていること。電子書籍をパソコンで読むことが多い筆者にとってカーソルキーは必須なのだ。
(クリックで拡大)
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「HHKB Pro」にBluetoothによる無線接続版が登場した。「HHKB Pro」のシリーズは、現在、「HHKB Pro2」と「HHKB Pro Type-S」、そして、それらのJISキーボード配列のJPモデルがあり、Type-Sの方は前に、この連載でも取り上げたと思う。筆者は、Windowsマシンに「Pro JP」を、Macに「JP Type-S」をつないで使用しているのだが(写真02)、机の上を這うケーブルが本当に邪魔で、また、キーボードを自由に動かせないのがとても不満だったので、無線版の登場は、本当に待ってましたで、早速入手して使い始めたわけだ。その無線版の製品名は「HAPPY HACKING KEYBOARD Professional BT」(以下、HHKB Pro BT)。
ベースになっているのは、「HHKB Pro2」。筆者が使っているのはJISキー配列のモデルだから正確には「HHKB Pro JP」がベースになっている。というか、もう打鍵の感覚は「HHKB Pro JP」そのものだ(写真03)。後ろに電池が入るので(写真04)、少し後ろが持ち上がっているのだが(写真05)、その傾斜が、従来の「HHKB Pro JP」の足を1段出した状態と同じで、筆者は普段、1段出して使っていたので、そこもそのままの感覚で使うことができた。しかも、底面の滑り止めが大きくなっていて(写真06)、足を出さない状態で使うので滑り止めがより強力に働くおかげで、かなりの速度で打ってもキーボードが動かないのもありがたい。滑り止めが少しクッションになって、多少凹凸がある机の上でも、しっかり固定できる。キーボードは、しっかり固定できないと、本当に打ちにくいもので、ちょっとしたガタつきでも気になるので、この新しい滑り止めはとても助かる。
そしてやはり、無線は快適だ。多分、このキーボードはモバイル用途で購入する人が多いような気がするが、筆者はデスクトップで使ってこそ真価を発揮すると思っている。まず、タイピングの姿勢の自由度が向上するのが嬉しい。キーボードを置き直して、好きな姿勢で原稿が書けると、それだけでいろいろ楽になるのだ。また、モニターとキーボードの間に、資料やら何やらを置くのが好きな筆者は、そこにケーブルが這うのがとても嫌だったのだ(写真07)。パソコンのUSB端子を潰さないのも助かる。
▲写真4:背面に電源スイッチ、電池ボックス、USB端子がある。USB端子は、電池がなくなった際でも使えるように用意された給電専用のもの。パソコンとの有線接続や充電式電池への充電はできない。(クリックで拡大)
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▲写真5:電池ボックスの分、有線タイプより少し後ろが持ち上がっている。この角度が筆者にとってちょうどいいのだ。もちろん従来通り、足は2段階に立ち上がって、より傾斜を付けることができる。(クリックで拡大)
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▲写真6:底面には滑り止めが付いていて、キーボードをがっちりと固定してくれる。足も2段階に高さを変えられるが、足を出すと滑り止めの効果はやや薄れる。
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▲写真7:褒められたことではないが、このようにキーボードとモニターの間に物を置くことが多い筆者には、ケーブルはとても邪魔だったのだ。
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●バッテリーと省電力機能
気になるのはバッテリーの持ちだが、カタログスペックでは単三アルカリ乾電池2本で約3ヶ月となっている。まだ、使い始めて4週間ほどなので、実際のところは分からないが、充電式の乾電池を用意しておけば問題ないような気はしている。
省電力の機能として、5分入力がないとスリープ状態に入り、30分入力がないと電源が切れるオートパワーオフを搭載しているが、筆者はこの30分入力がないと電源が切れる機能の方をオフにしている(写真08)。5分で入るスリープはキーを叩いた瞬間に復帰するから、使用に問題はないのだが、オートパワーオフは、気が付くと電源が切れて、電源再投入、接続の確認と復帰に手間がかかるのだ。筆者は、基本、ずーっとパソコンを付けっ放しにして、仕事の画面を開いて、いきなり大量に書き続けたり、ちょっとずつ休み休み書いたりを気分次第でやってるので、30分くらいの放置は当たり前にやってしまう。書きたいと思った瞬間に書けないストレスはとても大きく、数日でオートパワーオフを切ってしまったのだ。
これが予想以上に快適で、しかも、放置していてもパソコンとの接続がずっと切れないので、その間、iPhoneやiPadのBluetoothをオンにしたままでも何の問題もなく、原稿を書き続けられるのが嬉しい。電源は、寝る時に落とすようにして、基本的に入れっ放しにしていると、有線のキーボードとの差が分からないくらい、スムーズに使ったり放置したりができるのだ。
▲写真8:底面にあるディップスイッチでオートパワーオフをオンオフできる。他に、ここでMac/iOS用とWindows用を切り替えたり、コントロールキーの場所を変えたりといった設定が可能。筆者は写真のように設定して、さらに、スペースバーの左右にある2個のキーをそれぞれ入れ替えて、Mac用に使いやすくカスタマイズした。。(クリックで拡大)
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●オフィスもモバイルも1つのキーボードで
また、外出先でiPhoneやiPadで原稿を書こうと思ったら、そのまま、キーボードの電源を落としてカバンに入れればOKというのも嬉しい(写真09)。そして、外出先でも、家と同じキーボードで入力できるのだから、効率もアップする(写真10)。バッテリーも、1日2日持ち歩いたくらいで切れるようなこともない。
筆者は、それまで、外で原稿を書く際は、Macに付属していたBluetoothキーボードを使っていたのだが、それだとどうしてもまとまった量の原稿が書けず、また、キーを打つ速度もとても遅くなってしまっていた。それを筆者はiOSの漢字変換能力や日本語変換のインターフェイスの悪さのせいだと思っていたのだ。しかし、この「HHKB Pro BT」を使うと、外でもとても快適に原稿が書けてしまったのだ。キーボードは、それくらい文章を書くさまざまな要素の中でも大きな位置を占めるらしい。少なくとも筆者にとっては。
そのキーボードを家で使って、そのままケーブルの抜き差しもなく持ち出して使えて、家に戻れば、またパソコンの前に置けばパソコンで使える、これは、お気に入りの筆記具を常に持ち歩いて、家でも外でも使うという状況と何も変わらない。HHKB Proは元々、家でも会社でも同じ入力環境で仕事ができるようにと作られたキーボードだから、コンパクトで持ち歩きやすいようにできている。机の上のお気に入りの万年筆を持ち出すように、机の上のキーボードをつかんで、ホイとカバンに入れて出掛ける快感は、あまりにも魅力的で、つい真面目に仕事してしまうほどなのだ。
強いて難を言えば、白地に黒刻印のタイプも出して欲しかったと思う(今、筆者は、HHKB Pro JPの白いキーと一部を入れ替えた、白黒バージョンを作って使用しているのだが、それはそれとして)。ほんの少しなのだけど、その方がミスタッチも減るし速度も上がるのだ。年を取るとなるべく見やすい方が楽に何でもできる。本当に、一刻も早く白キー版を、そしてその際は、ホンの少し打鍵が軽いType-Sの無線版だと嬉しい。静穏化に関しては、元々押し込まないで打つのであまり変わらないのだけど、キーの微妙なタッチの違いで、筆者はType-Sの方が好みなのだ。。
▲写真9:こんな風にカバンに入れて持ち歩いてもさして荷物にならない。持ち歩く時は、iPhoneやiPadを立てて使うための、バード電子「ウッドスタンド」を忘れずにもっていく。(クリックで拡大)
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▲写真10:外出先での原稿書きは、このようなスタイルで行う。この場合も、キーボードとモニターの位置関係を好きに動かせるのがありがたい。バード電子「ウッドスタンド」は小振りで軽いので、こういう場合重宝する。。(クリックで拡大)
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