●フル機能を持ったミニマムな財布
財布はどこに収納するものなのか、ということをときどき考える。頻繁に出し入れするものではない場合、カバンに入れておけばよいだろう。よく出し入れするならポケットだろう。カバンに入れるならサイズは比較的大きくてもよいわけで、そうなると財布の大きさはそれほど気にならないかもしれない。しかし、ポケットに入れる場合、財布はできれば少しでも小さい方が嬉しい。ただ、財布というものには案外いろいろなものを入れるので、小さくするといっても難しい。
結局、ある程度入れるものの種類や量を絞ることになる。紙幣、コイン、カード、ICカード、領収書、名刺、コンサートなどのチケットなどなど、人によっても入れるものが違うし、優先順位も違うだろう。ただ、ポケットに入れておきたいものとそうでもないものには分けられるかもしれない。例えば、領収書やチケットは、カバンの中でもよさそうだし、名刺は名刺入れに入れる方が便利だと思われる、といった具合。
残るのは、紙幣とコインとカードとICカード。ポケットに入れて、スムーズに出し入れしたいというと、大体これらになるだろうし、それは「財布」本来の役割と言えるものだ。さらに細かく考えれば、紙幣とコインとICカード1枚、あとカードを何枚入れられるようにするか、ということになると思う。コインや紙幣も無制限に入れられるわけではないが、ここは、なるべくたくさん入ると嬉しい。少なくともコインは15枚ほどが楽に入ると100円以下のものを1,000円札で購入しても困らない。紙幣は10枚入れば十分だろう。それ以上の紙幣を持ち歩く場合、それらはむしろポケットには入れない方がよさそうだ。
カードは、クレジットカードと、どこかのポイントカードとICカード各1枚の3枚が多分ミニマム。それ以上は、カードケースに入れてカバンの中でよいような気がする。多くて5枚入れば十分だし、むしろ使い勝手を考えれば、3枚程度をその都度入れ替えるというのが現実的なようにも思う。世間にいくつか出回っている「小さな財布」は、多分、こういうような思考経路で製品を作っているように思う。そして、ここまでは、小さな財布というものをデザインするにあたっての前提。
筆者は、そういうことを考えて作られた、かなり出来の良い「小さな財布」をいくつか使ってきた。多分、現在、販売されている「財布としてのフル機能を持ったミニマムな財布」のすべて(コピー製品を除く)を、長期間に渡って使っていると思う。その中で、最もしっくり来たと言うか、筆者の財布の使い方に最も合っていたのが、safujiの「キー付きミニ財布」だ。もちろん好き好きもあれば財布の使用方法も、財布のどこを重要ポイントとするかなど、個人差があるので、これが最高と言うつもりはない(この財布の欠点についても後述する)。ただ、「小さな財布」というジャンルの中の、財布を小さくするための問題解決方法が一番好みだったということだ。
▲写真2:2つに折った紙幣を、コインケース部分の下を潜らせるようにして収納する。紙幣は1枚づつ折っても、数枚をまとめて折って入れてもよいので、そこはお好みで。(クリックで拡大)
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▲写真3:中央にコインケース部、それを挟むように紙幣収納部、カードは外側に挟むという構造は、他に類を見ないが、紙幣とコインの出し入れに関して、最初から違和感なく使えるのは、全体の見通しが良いからだろう。写真は使い込んだものなので、味が出過ぎているが、そこはご容赦。(クリックで拡大)
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●safujiの「キー付きミニ財布」
「小さな財布」を作る場合、まず前提として入れるものを絞った後に決めるのは、長財布的な便利さから、何を犠牲にして小ささを実現するかということ。ある財布はコインケースを極限まで小型化し、ある財布はカードの枚数を2枚に絞り、その代わり、紙幣を折らずに収納できる構造を実現している。この「キー付きミニ財布」が犠牲にしたのは、紙幣は二つ折りしてから入れる(写真02)、という部分。その代わり、コインの出し入れやカードの出し入れについては、普通の財布とほぼ使い勝手が変わらない(写真03)。ただ、紙幣は二つ折りするという「手間」が発生する。結局、その犠牲にした部分が自分にとって、どれくらいの問題か、というのが「小さな財布」選択の大きなポイントになる。
財布を小さくする際の、もう1つの大きなポイントは、全体のデザインだろう。小さな財布は小さくすることが目的だから機能と、それを実現する構造が自動的にデザインを決めてしまう。そのため、あまりカッコ良くならないような気もするのだ。また、小さい財布に重要なのは小さく見えること。実際に小さくても、見た目が小さく見えなければ、「小さな財布を使っている」実感が湧かない。そうすると、小さな財布を持つ意味も薄れてしまう。コンパクトな二つ折り財布ではだめなのか、ということになってしまう。
「キー付きミニ財布」が優れているのは、この「見せ方」の工夫。カードをメインコンパートメントの外側に収納することで、コインと紙幣を収納するメイン部分は、まるでキーケースのような見た目と大きさになっているのだ(写真04)。もちろん、このサイズとデザインを実現するために、紙幣を二つ折りするという妥協が必要だったわけだが、その妥協を補って余りある程に、このデザインと大きさは魅力的だ。革製品は内容量に比例して曲線部分や縫い代が大きくなる。だから、カードを外に出すだけで、財布部分はカードの大きさ以上にコンパクトになる。カードはその背中に差し込むような形になっていて、実際はカードの短辺の長さ分が財布本体からはみ出しているのだけれど、そこは薄いし革が包んでいるわけではないため、本体がとても小さく見えるのだ(写真05)。
▲写真4:カードは、このように、背面のスリットに差し込む。革ベルトで巻き付けているので、知らない内に抜け落ちるということもない。(クリックで拡大)
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▲写真5:手で持つと、ほとんどキーケースと見分けが付かないデザインと大きさ。ポケットの中でも、まったく邪魔にならない。(クリックで拡大)
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さらにキーリングが付いているので(写真06)、鍵を付ければ、散歩には、この財布とiPhoneをポケットに入れるだけで良い。外出も、適宜、長財布にカードや予備の紙幣を入れてカバンに入れる程度でオッケー。何より、ポケットに入れるモノがとても少なくて小さくて済むのが嬉しいのだ。ただ、この形状とキーリングのせいで、パッと見がキーケースにしか見えず、財布を探している人が見逃しやすいのが問題だと、safujiの方がぼやいていた。実際、この財布を出した時、財布だと思う人は本当に少ない。そのくらい、財布ばなれしたデザインなのだろう。
内部も「小さい」ことが使いにくさにつながらないようにさまざまな仕掛けがあるのだが、その中でも大きいのは、内装にブッテーロを使っていること(写真07)。滑りが良く耐久性が高い牛革であるブッテーロを使うことで、二つ折りした紙幣をコインケースの下にくぐらせて収納するという特殊な操作をスムーズに行えるようにしているのだ。表はやや凹凸があり傷が目立たないナッパネビアを使い、内装はツルンとしたブッテーロというコントラストは、見た感じや持った感じも良く、機能とデザインがきちんと融合している魅力を感じるのだ。
デザイン上の特徴になっているのは、全体をくるりと巻いている細い革のベルト。これも良くできていて、ホックを外すだけで、この革ベルトに触らなくても、紙幣やコインが取り出せるようになっているのだ(写真08)。カードを取り出す時は、革ベルトをはね上げる必要があるのだが、これはカードが落ちたりすることがないようにベルトで留めているから。細いベルトながら革2枚を貼り付けてあり、強度は十分。このベルトが昔の財布のような風情を醸し出していて、「キー付きミニ財布」の魅力の1つになっているのも確かだ。
▲写真6:キーリングも付いているので、鍵と財布が1つにまとまる。見た目はキーケースだが、キーは本体に収納することはできないというのも、ちょっと面白い。(クリックで拡大)
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▲写真7:この内装のブッテーロが、紙幣の出し入れをスムーズにしている。表のナッパネビアと裏のブッテーロの貼り合せには、伝統の技術が用いられている。(クリックで拡大)
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▲写真8:後ろを回って下から出る構造の革ベルトは、スナップボタンを外すだけで、ベルトに触れずに紙幣やコインが出し入れできる構造。(クリックで拡大)
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実際、使っていると、とても快適だし、必要十分な収納量だし、ポケットの中がスッキリするし、紙幣を畳む手間も、一度に折るのは最大9枚(通常は5,000円札が混ざるので5枚)だし、面倒な時は、重ねたまま折って、折った部分から財布に差し込めば、スルリと収納できるから、特に問題はない。コインケース部分は沢山入るし、中の見通しも良く、出し入れに手間取ることもない。
大きな財布はいらないのでは、と思うくらいだったが、その内、1点だけ不満点が出てきた。それはカードの出し入れの部分(写真09)。3枚しか収納できないことに関しては、外出のパターンに応じて中を入れ替えるため、問題ないのだけど、財布部分を閉じた状態でのカードの出し入れができないのが、実は結構面倒だったのだ。これも、結局は使い方なのだけど、財布を閉じた状態でカードが出し入れできれば、クレジットカードでの支払い時に、一旦財布を開閉しなくても良いし、支払いと同時にポイントカードを提示する時に、革ベルトが思った以上に邪魔だったりと、ほんの少しの使い勝手の悪さが、かなり気になってきたのだ。
▲写真9:カードの出し入れは、革ベルトを正面側に回してから行うので、ちょっとだけ不便。しかし、上下が空いているため、カード自体の出し入れはとても楽なのだ。(クリックで拡大)
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そこで、1つ提案して、safujiさんに試作してもらったのが、下の写真のモデル(写真10)。カード部分をスリットではなくポケットにして、くるりと巻く革ベルトをなしにしてある(写真11)。これが、完成形なのかは、これから使って検証していく。今のところ、かなり良い手応えを感じているが、しかしルックスは明らかに従来バージョンの方が良くて悩ましいのだ。
▲写真10:safuji「キー付きミニ財布」納富バージョン試作品。まだ、ここから詰めるので、これが製品ではない。素材なども仮のものだ。(クリックで拡大)
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▲写真11:このように、カードをポケットにしている。今のところ、カードが落ちるなどの心配はなさそうだ。(クリックで拡大)
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safujiのキー付ミニ財布のページ
http://safuji.com/products/142.html/
キー付ミニ財布の購入ができるページ
http://stylestore.jp/item/HBC03-08-0000-B122/
http://stylestore.jp/item/HBC03-46-0000-B122/
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