●持ち歩いて邪魔にならない三脚とは
三脚は、その名の通り3本の脚でカメラを固定する道具だから、何よりまず、安定性や信頼性が重要で、当たり前だけれど「良い三脚」というのは、しっかりと重いカメラを固定できるもののことで、その上で撮影を助ける機能、水準器やエレベーター、雲台などの扱いやすさが問われる。もちろんデザイン性など二の次どころか三の次で、しかし、徹底して機能に特化した三脚は、それはそれで別種の美しさ(こういうのを機能美とは言いたくないというか、機能美って言葉は、それはそれで再定義が必要だと思うのだけど)があるもんだから、メーカー毎にファンもいたりして、だからデザインが悪いというわけではないから、中々ややこしい。
一方で、素人向けのミニ三脚は、何というかコンデジを支えるのがやっとというくらいのものもあったりして、これはこれで随分極端なのだけど、鞄に入れられて、ちょっと記念撮影などの時の台に使えるように、というコンセプトなら、製品として間違っているわけではなく、その分、こちらの製品群はやけにデザインに凝ってたりして、その対比も面白い。では、購入して持ち歩くかというと、それならマンフロットのポケット三脚のような、いわゆるスタビライザーで良いのではないかという気もするのだ。
欲しかったのは、普段は家でミラーレス一眼でのブツ撮りが気軽にできる程度の保持力があって、でも、持ち歩いて邪魔にならない三脚。その意味では、マンフロットの「befree」(写真02)はとてもバランスの良い三脚だと思う。普通に家で使える程度には、しっかりしていて強度もあって、雲台がそれなりに大きいくせに、折畳み時に雲台部分を脚で囲うという素晴らしいアイデアで、三脚の運搬で最も邪魔になる雲台部分の出っ張りを軽減。エレベーターのハンドルや、パン棒を廃した自由雲台を採用して、持ち運びのしやすさを取ったわけだけれど、カメラを直接持って操作するのは、むしろ機動性が高く、素人には使いやすい。
ただ、それでも持ち歩くのには覚悟がいるのだ。1.4Kg(カーボンタイプでも1.1Kg)という重さは、ちょっとしたノートパソコン並だし、コンパクトに畳めるといっても、脚三本分の体積は馬鹿にならず、鞄に入れてというわけにはいかない。もちろん、仕事で撮影がある時に持っていくのには、まったく問題がないどころか、こんなに簡単に持ち運べる三脚があるなんて、最高!、という気分で、ホイホイ持って出掛けるのだけど、三脚が必要かどうか分からない、という時に持って出るほどではないのだ。
▲写真2:マンフロット「befreeアルミニウム三脚ボール雲台キット」23,600円。雲台部分を脚で囲うようにして収納するスタイル。(クリックで拡大)
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●マンフロット「オフロード」シリーズ
というようなことを考えているところに、マンフロットから「オフロード」シリーズが発売された。アウトドアというか、トレッキングや登山での利用を想定した、超軽量三脚と一脚。特に一脚(写真03)の方は、普段はウォーキングスティックとして利用して(写真04)、いざという時はハンドルの上部が開いてカメラを固定するネジがが現れる(写真05)という仕掛け。この、ステッキと一脚はだいたい同じ、というところに目をつけた製品は、今後増えてくるのではないかと、筆者は自撮り棒が流行った時に思ったものだった。あれを持ち歩けるなら、ステッキや一脚なんて全然平気だ。そして、下方向に力を掛けるという点でもステッキと一脚は同じだから、基本的に同じ技術で作れるはずなのだ。
「オフロード」の一脚が上手いのは、雲台を排してネジと台座だけで固定することにしたことと、その割りにカメラの着脱も楽で、結構しっかり固定できること(写真06)。このネジが握りの部分の上部の蓋を開けると出てくるというギミックも面白い。そして、実際に使ってみて分かったのだけど、ステッキ2本使って歩くのに丁度いい長さは、撮影にも丁度いいくらいの高さになる。これが結構使いやすいというか、歩行から撮影への移行がスムーズで良いのだ。問題は、一脚として使っている間、もう1本のステッキは放置せざるを得ないということだが、これはまあ仕方がない。欲を言えば、2本のステッキが合体すると三脚になる、といった仕掛けに期待したいのだけれど、それはそれで強度が下がりそうなので、多分、今の形が完成形なのだろう。
アルミ製の一脚「Off road ウォーキングスティック」は、2本で400g、つまり一本200g。これは軽い。その割りにグリップは大きくしっかりしていて握りやすいし(写真07)、132.5cmまで伸びるし、雲台部分は2.5kgまで耐えられる。一番太い部分で17mmという脚の細さを実現しているのは、脚を回転させるだけで、脚の内部の動作が足の長さを固定するシステム(写真08)。この外側にパーツを出さないシステムのおかげで、雲台に次いで三脚や一脚のサイズを大きくしていた、足の長さを変える部分のパーツが一切外側に出ない、つまり、脚の太さ分だけしかサイズを取らないスリムな脚を実現している。脚そのものを回すため、慣れないとちょっと回しにくいのだけど、しっかり回して固定すると、人が多少体重をかけた程度ではまったく動かないくらいには固定できる。ウォーキングステッキとして使えるのだから当たり前だが。
▲写真3:マンフロット「Off road ウォーキングスティック(グリーン)」15,000円。(クリックで拡大)
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▲写真4:ウォーキングスティックとしても本格的。2本を使って必ず三点が設置している状態で安定した歩行ができる。(クリックで拡大)
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▲写真5:ハンドル上部を開くと雲台が現れる。この赤いダイヤルを回してカメラを固定する。雲台が付いているのは片方のスティックのみだ。(クリックで拡大)
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▲写真6:この一脚の場合、このようにカメラを普段握るように持って、下方向に一脚を押し付けるようにすると安定する。本体が細いから、カメラを握りやすいのだ。(クリックで拡大)
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▲写真7:グリップは握りやすく、太めのストラップのおかげで、歩行時のコントロールも安定して行える。(クリックで拡大)
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▲写真8a:このように、脚の伸縮部分には出っ張りがまったくない。写真08bの仕掛けで、脚そのものを回転させることで、脚の長さを固定するのだ。(クリックで拡大)
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▲写真8b:脚のチューブを完全に抜くことができるのはで、登山などでの汚れをキレイにクリーニングできるようにするため。このあたりの配慮も行き届いている。(クリックで拡大)
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●三脚の機能を疎かにせず、徹底的に割り切る
「Off road 三脚」は、畳んだ状態での細さが際立つ(写真08)。ここまで細い三脚は、ポケット三脚などを除けば他に見たことがない、というくらい細い。畳んだ状態での太さが、なんと直径約5cmだ。そして軽い。最長122cmまで伸ばせる三脚で、650gというのは本当に軽い。この重さなら鞄に入れてもさして邪魔にならない。ただ、畳んだ状態でも55.5cmあるので、鞄の中に収めてしまうというのは、やや無理がある。かなり大きな鞄でないと難しい。といっても、例えばちょっと大きめのビジネストートなら、斜めに差し込むようにすると、頭は多少飛び出すものの、持ち運ぶのに問題はない。雲台が小さく、全体がとにかくスリムだからこそ、このような運搬方法が可能になる。
この三脚の面白いところは、あまり大きく脚が開かないようになっていること(写真09)。雲台自体はコンパクトなボール雲台なので、どうしても首部分が長くなり、重いカメラを乗せると、ちょっとぶつかっただけでグラグラする。その上で、脚が大きく開かない仕様になっているのはどういうことかというと、この三脚も一脚と同じく、基本的にはカメラを手に持った状態で、三脚は支えとして使うことが想定されているということだろう(写真10)。そして、そういう風に使うのなら、ボール雲台で問題ないし、脚はむしろ開き過ぎない方が足場を選ばずに使えるし、高さも稼げる。
この「カメラから手を離さず、そのカメラを支える脚としてのみ、一脚や三脚を使う」という割り切りがあってこそ、この「オフロード」シリーズは軽さと細さを実現している。そして、素人が外で使いたいと考える三脚の用途は、ほぼ、その条件の中で使える。そう考えると、何と良くできたコンセプトだろうと感心する。何を削って、何を取るかという選択は、あらゆる製品に存在するのだけど、それが三脚や一脚のような、元々シンプルな製品の中で行われて、それが「持ち歩いて使う」に特化したものとして商品化されているというのが嬉しい。
三脚という存在を支えるメインの機能ではないところで、三脚としての機能を疎かにはせずに、でも徹底的に割り切る、という、その方向性が好きだ。三脚の雲台に、わざわざ水準器が付いている(写真12)のも、コンパクトだけではなく、でもコンパクトであることを邪魔しない機能は積極的に採用していくという姿勢のように見える。
▲写真9:畳むと直径約5cmになるので、三本の脚をまとめて片手で握れる。(クリックで拡大)
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▲写真10:Off road三脚にミラーレス一眼を装着。脚はこれ以上開かないので、足場が狭い場所でも設置可能。このサイズのカメラなら、しっかりと支えてくれる。(クリックで拡大)
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▲写真11:脚の先端に付いたラバーキャップは着脱可能。外して、地面に突き刺すように使用することも可能。地面で支えることもできる。(クリックで拡大)
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▲写真12:雲台には小さいながらも実用的な水平水準器も付いている。(クリックで拡大)
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