●スマホ内蔵カメラではできないことを
コンパクトタイプのデジタルカメラ、いわゆるコンデジの可能性について誰もが考えるのは、スマートフォンとの差別化と連動だろう。高倍率の光学ズームレンズの搭載、優秀な手ブレ補正機能による安定した動画撮影、明るいレンズの搭載、連写機能、インターバルタイマー、大型のセンサーの搭載、スマホとの差別化というと、そういった辺りだろうか。クラシカルなデザインやトイカメラ的なものも、差別化のアイデアなのだ。
実際、スマホのカメラでできないことはいくらでもあって、一方で、従来無理にデジカメでやらせようとしていた、撮影した写真の編集や、ネットへのアップロード、パノラマ合成、フィルターワーク、といった機能は、撮影した写真をスムーズにスマホに送ることができれば、無理にデジカメで行う必要はないだろう。つまり、ソフトウェア的なものはスマホで、ハードウェア的なことはコンデジで、というのが、今後しばらくのコンデジが向かう方向なのだと思う。
少し話はズレるが、かつて「レンズ付フィルム」(「写ルンです」など)という、言わば使い捨てのカメラが爆発的にヒットしたのだけど、極端に安価なデジカメというのもあってもよいような気がする。100円とかで、1Gバイトくらいの安メモリが入ってて紙製で、といったカメラがあると、カメラ自体でいろいろと遊ぶことができる。例えば、筆者は、最近、太陽の写真を撮っているのだけど(写真02)、これは、もう壊れても構わないと思えるコンデジを使っているから可能な写真。そういう、カメラ自体に負担をかける撮影も、100円ならば試せると思うのだ。
▲写真2:筆者が趣味で撮っている太陽写真の例。太陽の凶暴さのスナップなのだ。今のところデジカメのセンサーは無事。(クリックで拡大)
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●顕微鏡モードを持つデジカメ
そういった感じで、コンデジのことを考えると、オリンパスの「Stylus TG-3 Tough」(以下TG-3)というカメラが持つ、「今、コンデジであることの意味の集大成」のような機能と存在が、とても大きく感じられる。
まず、防水防塵というだけでスマホとは別に持つ価値がある(写真03)。15mまで潜れるし、ストロボではなくLED光も出せるから、暗い水中での撮影も可能。光学4倍ズーム(35mmカメラ換算で25~100mm)で、広角側F2、望遠側F4.9という、接写から人物、風景まで、とても扱いやすいレンズなのも、普段使いのコンデジとして、スマホではカバーできない範囲に対応している。何といっても、電源オン時にもズーム時にも、レンズが迫り出さない(防水カメラなので当然とはいえ)のがありがたい(写真04)。
あと、露出がプログラムオートの他、絞り優先が選べるのもありがたい(写真05)。結局、スマホのカメラで困るのは露出関係の自由度が低いことなのだ。さらに、ポケットに入れたままのカメラを下敷きにして座っても壊れないとか、汚れたら水で丸洗いできるとか、2メートルの高さから落としても平気とか、-10度の環境下でも動くとか、もう、機械としての基本性能が「日常的に使うカメラ」として高水準にまとまっている。どれだけ高画質で撮れても、その高画質を引き出すのに条件が多いと、シャッターを切る機会そのものが減ってしまう。スマホの「いつも持ってるから、いつも撮影できる」という強みを越える「いつでも使える」は、コンパクトなカメラでもっとも大事な「シャッターを切る機会を逸しない」を実現する。
他にも、最大240fpsの高速度撮影によるムービーが撮れるなど、嬉しい機能は多いのだけど、この「TG-3」のもっとも大きな、このカメラならではの面白さは「顕微鏡モード」と名付けられたマクロ撮影にある。被写体距離1cmまで近づける(写真06)というのは、コンデジには時々あるので珍しくはないけれど、この1cmは、レンズが迫り出さないカメラでの1cmなので、センサーからの距離も近く、光学ズームだけで4倍マクロでの撮影が可能。つまり0.5mmのシャープペンシルの芯を、2mmの太さで撮ることができるということ(写真07)。これだけ寄れると、被写体の幅が広がるというか、もう近接撮影は、全部、このカメラで撮りたくなる。
▲写真3:端子類も厳重にカバーされている防塵防水機能が頼もしい。(クリックで拡大)
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▲写真4:ズームしてもレンズが迫り出さないので、近接撮影時のズームも安心なのだ。(クリックで拡大)
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▲写真5:撮影モードを選択するダイヤル。従来のスーパーマクロが「顕微鏡モード」になっている他、iAUTO、プログラムオート、絞り優先、シーンモード、アートフィルター、フォトストーリー(複数の写真を1枚にする)、カスタムモードが選択可能。(クリックで拡大)
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▲写真6:レンズが迫り出さないため、被写体にカメラ自体がこれだけ近づける。この距離は圧巻。(クリックで拡大)
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▲写真7:0.5mmのシャープペンシルの芯を撮影。上が等倍、右の写真が4倍。拡大率が4倍というのは、かなり大きな差になるのが分かる。(クリックで拡大)
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▲写真7:4倍の画像。(クリックで拡大)
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●専用リングライトで独自の写真世界を
特に、このカメラ専用のオプションである「LEDライトガイド LG-1」(写真08)との組み合わせで、TG-3は、一気に他のカメラとはまったく違う独自性を得る。「LEDライトガイド LG-1」は、早い話がリングライト的な環境を付加するオプション。実際に発光しているのは、カメラに元々付いているLEDライトなのだが、このライトを拡散して、前方を満遍なく照らしてくれる(写真09)。つまり、マクロ撮影時に影を作らずに撮影できるわけだ(写真10)。また、リングの内側に光を出すため、平らなものなら、ペタンとレンズを被写体にくっつけて撮影することが可能(写真11)。顕微鏡モードとの組み合わせで、三脚なしで4倍マクロ撮影が可能というわけだ。
この「LEDライトガイド LG-1」は、オリンパスが昔から得意としている内視鏡の分野での技術を使ったもので、直線的なLED光をうまく拡散して、柔らかい光を満遍なく被写体に向けて照らすことに成功している。この光とマクロレンズと、コンデジという軽くてコンパクトなサイズが、日常生活の中で、極端に寄って撮影することを可能にしているわけだ。これは実際に手元にあると、とても面白くて、例えば、布の織り方の違いを確認したり(写真12)、ボールペンのペン先の形状(写真13)と実際の紙へのタッチの関係を調べたり、といったことが簡単に行えるのだ。もちろん、虫の撮影や植物の撮影に威力を発揮するのは当然。
そして、その機能を搭載したことで満足するのではなく、この優れたマクロ機能をサポートする機能がふんだんに用意されているあたりに、スペック重視ではない、新しい時代のコンデジを感じる。単に拡大写真が撮れる、というだけでは、研究用途でもなければ使い道があまり見つからないのだが、このカメラに搭載されている「深度合成」モードを使うことで、撮影の幅はさらに広がる。
この機能、ピントをずらした写真を複数枚撮って、それらを合成することで、幅広くピントが合った写真を得るという機能(写真14)。近接撮影は、元々被写界深度が狭く、ピントの合う範囲がとても短い。そのため、例えば料理のアップなどで、炒飯の米一粒にだけピントが合っていて、後はボケボケといった写真ができあがる。それをボケ味と呼んで愛している人も多いが、炒飯を撮りたかったのだったら、やはりそれはピンボケの写真だ。しかし、このモードを使えば、近接撮影でも、それなりの深さの被写界深度が得られるわけだ。具体的には、筆記具の撮影の場合、ペン先にピントを合わせてマクロで撮ると、通常、ペン全体にピントを合わせることができず、結果、全体が分かりにくくなってしまう。もちろん、引いて撮れば全体にピントを合わせることも可能だが、そうなるとペンは小さくしか写らない。という場合でも、ペン全体まではいかなくても、細部が分かる程度には全体にピントが合った写真が撮れる(写真15)。
▲写真8:オリンパス「LEDライトガイド LG-1」希望小売価格6,804円(税込)。従来機種のTG-1、TG-2にも装着可能。(クリックで拡大)
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▲写真9:光を当てながらの撮影は、とても楽だし、撮影対象に影ができにくいのも嬉しい。(クリックで拡大)
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▲写真10:リングライトなし(上)とリングライトあり(右)の撮影例。影が欲しい場合もあるので、シチュエーションによって使い分けたい。(クリックで拡大)
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▲写真10:リングライトありの写真。(クリックで拡大)
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▲写真11:布や紙などは、このようにして、直接被写体の上に置いて撮影できる。このため、かなり小さなものでも三脚なしで撮れるのが嬉しい。(クリックで拡大)
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▲写真12:眼鏡拭き用のマイクロファイバーを撮影した。布地の裏(上)と表(右)で、織り方がまったく違うのが分かる。(クリックで拡大)
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▲写真12:マイクロファイバーの表面。(クリックで拡大)
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▲写真13:三菱鉛筆の「シグノRT1」のチップを撮影したもの。ボールを支える部分のエッジがカットされているのが分かる。これは、エッジが紙に当たって筆記感を損なうのを防止するための配慮なのだ。(クリックで拡大)
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▲写真14:深度合成なし(上)と深度合成したもの(右)。深度合成によって、肩に止まっている鳥にもピントが合っている。深度合成モードでは、この2枚のように、最初の1枚と合成したものが保存されるようになっている。(クリックで拡大)
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▲写真14:深度合成した。(クリックで拡大)
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▲写真15:深度合成を使えば、このようなペン全体にピントが合った写真も撮影可能。(クリックで拡大)
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もちろん、写真はさまざまな用途で撮られるものだから、ピントが合っていればよいというものでもない。イメージ写真としてのマクロ写真、つまり花や虫のアップの場合、一部だけにピントを合わせた方が良い場合もある。虫の身体全体にピントを合わせたければ深度合成モードを使えばよいのだけど、そうではなく、上手い具合にピントが合っていて、上手い具合にボケている写真が欲しい場合、「フォーカスブラケットモード」という機能が用意されている(写真16)。
ようするに、ピント位置をズラした写真を複数枚自動的に撮ってくれるモードで、最大30コマ、ピントの移動量も3種類の中から選んで撮影できる。後は結果を見て、最も合わせたい範囲にピントが合っている写真を採用すればオッケーというわけだ。段階露出のピント版だ。
▲写真16:「フォーカスブラケットモード」は、このように、10枚から20枚の写真を、ピントをズラしながら撮影してくれるので、この中から、自分好みのピントになっている写真を選べる。(クリックで拡大)
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▲写真16:(クリックで拡大)
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▲写真16:(クリックで拡大)
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さらに、被写体がレンズから1cmの位置にある場合の倍率を、ワンタッチで等倍、2倍、4倍と変えて撮影できる「顕微鏡コントロールモード」も用意されている。とにかく、ズーム全域で1cmまで寄れることが嬉しいし、寄り過ぎてもリングライトで露出も問題なし。ライトはシャッターボタン半押しで点灯するけれど、INFOボタンの長押しでも点灯するので(写真17)、ライトを付けたままで構図を決めて撮影、といったことができるのも、マクロ初心者には敷居が低くてありがたい。とにかく、近接撮影の際の、「これができたらなあ」に、ほぼ応えてくれるカメラなのだ。
▲写真17:リングライトは、INFOボタンの長押しで、いつでも光らせることが可能。(クリックで拡大)
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●これからのコンデジの方向性とは
ここまで得意ジャンルがしっかりしていて、その多くをソフトではなくハードウェアで実現していると、このカメラ的な機能がスマホに置き換わることは暫くの間ないだろう。しかも、ここで実現されているのは、オリンパス本来の得意分野の援用。別に、マクロと防水がコンデジのトレンドになるというわけではなく、このカメラでしかできないことを得意ジャンルの中で作った、という姿勢が、スマホに対するコンデジの意志の表明に見えるのだ。
そして、これも当然ながら、GPSとWi-Fiを内蔵している。つまりスマホと併用することも、これからのコンデジの標準装備というわけだ(写真18)。撮影した写真のスマホへの転送、スマホを使ったライブビュー撮影、撮影した写真の編集、GPSデータを使った移動軌跡の地図上への表示など、機能は申し分ない。自前のWi-Fiを持っているので、Wi-Fi環境の有無とは無関係にスマホやタブレットと接続できるのも実用性が高い。
TG-3を使っていると、コンデジにおける実用性は、カメラとして何でもできるではなく、従来のカメラを逸脱したハードウェア的な何かができることではないかと思えてくる。多分「Go Pro」の人気も、そういうことなのだ。手軽に、他ではできないことが行える。それをどれだけの人が必要としているかではなく、それを必要としている人は必ずいる、という方向での商品開発。それを、マニア向けではなく、一般向けの価格帯で作って、カメラの基本的な機能や画質は、しっかりと作り込む。それは、多分、まだカメラを持つことが特殊な趣味だった時代のカメラ作りに似ているような気がする。ミノックスだったり、ステレオカメラだったり、ローライ110だったり、マビカだったり、サムライだったり、XAだったり、SX-70だったり、Lomoだったり、といったカメラの多様性が、もしかするとコンデジの世界で甦るかも知れない。TG-3が見せてくれた可能性は、そういうことのような気がするのだ。
▲写真18:スマートフォン用アプリ「OLYMPUS Image Share(OI.Share)」のメニュー画面。ライブビューやワイヤレスレリーズ、写真の編集、GPSデータの転送などが行える。(クリックで拡大)
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▲写真18:(クリックで拡大)
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