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▲写真1:チノン「Bellami HD-1」85,000円(税別)。購入は公式サイトから。http://chinon.jp/bellami/(クリックで拡大)

今、気になるプロダクト その35
レトロカメラの意味と面白さを考える
チノン「Bellami HD-1」をめぐって

納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。

●レトロデザインの必然性

カメラや時計、万年筆、といった、実用品でありつつ嗜好品でもあるような世界では、往々にして、古いデザインの復刻や過去の名品のデザインテイストを参考にした製品が発表される。そのこと自体は、それこそ古くは着物のデザインや文箱のデザインなどで室町時代あたりにも見られる発想で、それも1つのデザインのジャンルではあるし、懐古趣味、レトロフィーチャーなどなど、バリエーションも歴史もたっぷりある。

ただ、実用品の場合、やはり「実用」と「デザイン」は、相互補完というか、デザインには機能に対しての意味がなければ面白くないし、機能もデザインに寄り添っている方が面白いと思うのだ。例えば、カメラの場合、昔のカメラのデザインを踏襲するなら、踏襲するだけの理由が欲しい。大口径のレンズと大きな感光素子を使いたいからハッセルブラッドのデザインにしました、というのなら分かるけれど、現在のデジタルカメラの構造では、特に必要がないペンタプリズムのデザインをわざわざ残して一眼レフカメラを作るのは、何だかよく分からないのだ。

過去のデザインを踏襲するのは、そのデザインが機能的に優れているからであってほしいし、単に懐かしいというだけなら、実物そのものを買えばよいと思う。古いアナログカメラはかなり変わった機種でさえ悲しいくらい安価に入手できるのだから。もちろん、最新技術が古めかしいデザインの中に凝縮されている、といったスタイルの魅力も分かる。しかし、カメラのデザインの歴史は、使いやすさや機能の進歩に最大限応えるためのものだったはずで、明らかに制約だったフィルムの巻き取りや、撮影の瞬間を見ることができない一眼レフの構造、ミラーの設置のための空間の確保による、レンズの巨大化、といったデジタルになって開放されたはずの要素が十分に反映されたカメラが未だ登場していないのに、懐かしさに走るということに違和感がある。

とはいえ、古いレンズを使うのは面白い。特にミラーレス一眼タイプの、ミラーがない故の、レンズと感光部の距離の近さを利用した、ほとんどのレンズに対してアダプターを用意できるというメリットは、明らかに従来のカメラにはなかったものだ。また、古いレンズを手ブレ補正機能やAE、撮影前に拡大してピントを確認できる機能などと組み合わせて使うことで、素人でも手軽にレンズで遊ぶことができるというのも嬉しい。だから、オールドレンズを使うことを前提にしたカメラが、懐かしいスタイリングをとるのは、それほど間違ってはいないと思う。

●8ミリカメラ的デジカメ

チノンの「Bellami HD-1」は、かつての8ミリカメラ用レンズを使用できるデジタルカメラとして作られている(写真02)。8ミリカメラ用の細長いレンズを付けてカッコ悪く見えないスタイルが、かつての8ミリカメラのデザインだというのは、それは当たり前の話で、しかも、フィルムの大きさを必要としない分、コンパクトになっている(写真03、04)。そのあたり、形における懐古趣味を狙ったというよりも、撮影のスタイルそのものを懐かしんだデザインと言えるだろう。これは、8ミリ用レンズ、という対象が定まっているからこそ説得力を持つ。

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▲写真2:8ミリカメラ用のオールドレンズが使えるDマウントのマウントアダプターと、焦点距離4ミリ、絞り開放値F4.2の標準レンズが付属する。マウントアダプターはCマウント用、M42マウント用が各2,000円(税別)で購入できる。(クリックで拡大)



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▲写真3:カメラを構えた左側に操作ボタン類が集中したスタイル。右手で構えて左手で操作ということだろう。このパネルでオート、マニュアル、静止画、動画の切替え、シャッター速度や露出補正の設定が行える。(クリックで拡大)



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▲写真4:反対側はバッテリーが入る。充電式の単三乾電池とチャージャーが付属。電池はアルカリ電池、エネループなどのニッケル水素電池も利用可能。(クリックで拡大)



カメラとしては、210万画素と解像度は低いが、動画、静止画共に1920×1080ドットの、いわゆるHD画質で撮影できるため、商業印刷などで使うのでなければ十分な画質。むしろ、適度に荒れた写真や動画が撮影できるので、往年の8ミリカメラで撮ったような絵作りもしやすい。というか、撮影する側も、8ミリカメラのような気分で撮らなければ、このカメラの面白さは引き出せない(写真05)。実際、いろいろ撮影してみたのだが、相当クセの強い、というか、感覚としてはトイカメラに近いと感じた。カメラの特性をつかんで、それに合わせて絵作りを楽しむタイプのカメラだろう(写真06)。

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▲写真5:わざとらしいほどに昭和っぽさを意識して撮影。アーケードの天井の色と、適度な道幅の狭さが古い日本映画のような雰囲気を作る。写真そのものは上手くもなんともないが。(クリックで拡大)



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▲写真6:撮影結果は、ファインダーの中でしか表示されない。ズームボタンで拡大は可能だが、あまり細かく写りをチェック出来るわけではないので、Eye-fi mobiなどと組み合わせて使うと良いだろう。(クリックで拡大)





絞りは当然マニュアル。露出は、一応、絞り優先AEが装備されているので、絞りさえ決めれば、シャッター速度を自動的に調整して、適性露出で撮影してくれる。露出補正も付いている。ただ、このカメラで適性露出の普通の写真や動画を撮っても、大して面白くないというか、だったらわざわざ、このカメラを使う必要がないわけで、本領はマニュアル露出にある。カメラを見れば分かるように、このカメラにはシャッター速度設定ダイヤルが付いていない。シャッター速度はファインダーを覗きながら、本体側面のダイアルで操作して変更するのだが、これが結構面倒くさい。そこで、大体でシャッター速度を固定して、後は絞り操作で露出を決める。

こうやって撮ると、露出を少し動かすだけで、眩しい日中風から、疑似夜景っぽい感じまで、ダイナミックに露出が変わるのが分かる(写真07、08)。どのみち、解像度も低いし、レンズはクセが強く、ピントが合っていない場所は、まるでPhotoshopで絵画風に処理したように、輪郭が柔らかくガタガタした感じに映るから、適性露出で撮る意味も薄いのだ。また、色も、ちょっと人工的な感じに映るので、リアルで自然な写真ではなく、フィクショナルな写真が簡単に撮れる。このあたりも、トイカメラに近い。

トイカメラとの大きな違いは、多分、そういったトイカメラ風の写真を、かなりのところまで自分でコントロールして撮影できることだろう。そして手ブレ補正機能が付いているから、トイカメラよりも大胆に露出で遊びやすい。あと、普通に撮っても、何となく空気の濃度が濃く感じる写真になる(写真09)。どうも、黒がかなり黒く写るようだ。これは、標準で付属する8ミリカメラ用のレンズ(4ミリ、F1.2)、のクセなのだろう。軽やかだったり、爽やかだったりする写真には向かない。そのあたり、デザインと実際に上がる写真のムードは一致している。

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▲写真7:右の写真と同じ風景を露出を変えて撮影。絞りリングを少し動かすだけで、こんな風に撮影できる。同じ時間に撮ったとは思えないというか、どちらも何だかリアリティがない不思議な感じになった。(クリックで拡大)



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▲写真8:(クリックで拡大)



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▲写真9:単に露出をアンダー目にしただけで、ただのスナップ写真なのに、ちょっと空気が重い感じになった。背景の滲み具合も面白いが、別に雨が降っているわけではない。(クリックで拡大)


 


●Bellami HD-1で撮影

銃のトリガーのようなシャッターボタンは、動画としてはともかく、静止画を撮る場合、引き金を引く動作が手ブレを起こしやすく、それを防ぐためには、片方の手はグリップを握り、もう一方の手は本体を覆うように待つ必要がある(写真10)。この形が図らずも、かつての8ミリカメラの構え方と同じになるのも、何だか面白かった。ただ、かつての8ミリカメラは、このように持って指があたる位置にズームボタンがあったりして、持ち方と操作が一致していたのだが、段階的なデジタルズームしか付いていない「Bellami HD-1」では、そこまでは求められないか。

いろいろと撮影してみて感じたのは、意識して懐かしさを狙うと、結構、求めていたムードが出せるということ。逆に、普通に撮ると、ちょっと画質が粗い普通の写真になる(写真11)。まあ、そんな事は当たり前で、どんなカメラでも、目的と意図がないままで撮ると、普通の写真にしかならない。トイカメラを使ってみて、思った風に撮れないとガッカリするケースの多くはこれだ。その意味では、デザインが普通じゃないことが、しかも昭和を意識させるデザインだということが、懐かしい景色を見つけ出して撮影しようというモチベーションにつながりやすい。そんな風にしか撮れないカメラを作ったからには、そんな風な気持ちになりやすいデザインは必然性がある。

今回は、お借りすることができなかったが、専用のマウントアダプターを使うことで、CマウントやM42マウントのレンズを付けることができる。Cマウントと言えば、16ミリの映画用カメラで使われているレンズのマウント。8ミリのレンズとはまた違った描写が楽しめるはずだ。16ミリ用のレンズも、あまり直径は大きくないので、装着時にもデザインは損なわないだろう。手元にあるベル&ハウエルの25ミリレンズは、少し紗がかかったような、淡いトーンの写真が撮れるタイプなので、付属の標準レンズとはまた違った写真になるはず。そういう面白さは確かにあるけれど、解像度は低めだし、どちらかというと動画に向いたカメラなので、あまり高価なレンズと組み合わせるのは何か違うような気がする。

使っていると、いろいろと面白い写真が撮れるし、狙った効果が狙ったように出るのは、扱いやすいということだと思うし、他のカメラでは撮れない絵が確かに作れる。ただ、それは、「面白い」という範疇の写真だし、例えば大きく引き伸ばしたり、商業印刷に使ったり、大きな画面で上映する(写真12)といった使用に耐えるものではない(使い方次第ではあるけど、一般的には難しいと思う)。そういう、とても狭い範囲での使用においては、凄く面白いカメラである、ということと、この特殊なデザインを合わせて考えると、とても首尾一貫した製品だと思える。
ノスタルジックなのではなく、ミニマムな道具としての特殊性が、昔あったカメラのデザインを身に纏った、ということではないだろうか。そう考えると、85,000円(税別)という価格にも納得がいく。形が面白いから使ってみよう、というカメラでは全然ないのだ。

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▲写真10:こんな風に昔の8ミリカメラのように構えないと、引き金型のシャッターではブレやすくなってしまう。この構えで動画を撮ると、ちょっと映画撮影の気分になるし、カメラ自体も安定する。(クリックで拡大)



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▲写真11:白黒モードやセピアモードを使うと、ちょっとザラッとした昔風の写真が簡単に撮れる。動画も白黒で録る方が、8ミリっぽさが強調されるようだ。(クリックで拡大)



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▲写真12:HDMI出力も可能だから、小規模な上映会とかには十分対応する。(クリックで拡大)




 



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