●欧米寄りのムードを保ちつつ、日本的デザインを模索
実際に「ファンタジーロア」をプレイしてみると、確かに、その戦闘シーンが圧巻(写真04)。PSPなどの格闘ゲームと比べても遜色ない出来だ。特に、背景の作り込みによる、人物の動きに合わせて見え隠れする背景のリアリティが凄い(写真05)。また、細かいところだが、攻撃のターンが変わる際の、視点がくるりと動く際の自然さが、ゲームの進行を分かりやすくしていると思う。カードを出してから、攻撃のアニメーションに移行する際のタイムラグの無さも嬉しい。その分、章変わりのローディングは長いのだが、メモリに余裕があれば、全体をあらかじめダウンロードしておくことで、ロード時間を大幅に短縮できる。そのあたりも、PSPのゲームなどに似ている。
ゲームに華美なグラフィックは必要なのか、という議論は、ファミコンなどの家庭用ゲーム機から、次世代機と呼ばれたプレイステーションやサターンといった機器へと移行する時代には、頻繁に行われていた。ドラゴンクエストが面白かったのは、8ビットのシンプルなグラフィックが、想像力をかき立てるからで、中途半端なリアルは、かえってゲームの面白さを損ねる、という言説は、それなりに説得力があった。グラフィックは綺麗でも、ゲームとしてはつまらないタイトルが多かったことも、その論の正当性を支えた。ただ、その言説は、今となってはあまり有効ではない。そのくらい、最先端のゲームのグラフィックのレベルは向上している。それができる以上、そして、それに見慣れてしまった以上、今更、グラフィックの質はゲームの面白さとは無関係とは言えないだろう。
特に、Xpec社のように、現在のモバイル系カードゲームのメインユーザーであるライトユーザー層と、従来からのゲームユーザー層の中間を狙う場合、ゲームの満足感を手軽に味わってもらうための要素として、高度なグラフィック表現は必須。そこから本格的なゲームへとユーザーを誘導するためにも、現在の技術を見せる事は重要だろう。既に、その方向のモバイルゲームも登場してきている。そこで差別化するために必要なのは、3Dグラフィック以前に、キャタクターの造形と、ゲーム全体の世界観。「ファンタジーロア」の場合、メインとなるキャラクターのグラフィックを見て分かるように、ダークファンタジー風の世界(写真06)に設定されているが、ここに落ち着くまでにも、時間をかけ、何度も試作を重ねたそうだ。
「欧米寄りのリアルなムードを保ちつつ、日本市場で成功するデザインを模索しました」と丁氏。ファンタジーSFから萌えまでの幅の中で、リアリティが高いものをメインにしながら、幅を持たせる事で、カードの枚数が要求されるモバイルゲームの世界に対応させる、というスタイルを取っている。「ペンタッチは日本風で、カラーリングを欧米風にして、ダークファンタジーのムードに統一していきました」と丁氏が言うように、アニメ的な表現と、欧米の懐かしいSF雑誌のイラストのような世界が上手く融合したスタイル(写真07)になっていると思う。
「とにかくこだわって作った40数枚のメインキャラクターのグラフィックは、日本の有名イラストレーターにも依頼して、絶対に譲れない世界観を支えるものにしています。それ以外のカードは、やや幅を持たせて作っています」と丁氏が言うように、確かに、メインのカードのグラフィック(写真08)は、その日本風のタッチと欧米風のカラーリングの融合が絶妙。ただ、ここに辿り着くまでには、かなりの試行錯誤があったようで、見せていただいた資料にあった初期のグラフィックは、かなりアニメっぽい絵柄だった。3Dのアクションシーンをカッコ良く見せるには、ある程度のリアリティが必要だし、キャラクターの分かりやすさ、覚えやすさには、アニメ風のタッチが強い。その間の調整の過程は面白く、それは、そのまま現在のモバイルゲームの位置付けを表しているように思った。
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