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▲バンダイ「ハコビジョン」500円(税別)。現在、ラインアップは「東京ミチテラス2012/TOKYO HIKARI VISION」と「東京国立博物館/KARAKURI」の2種。(クリックで拡大)


今、気になるプロダクト その33
「幻燈」+「のぞきからくり」に見るエンターテインメントの原点
バンダイ「ハコビジョン」をめぐって
http://www.bandai.co.jp/candy/hakovision/

納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。

●人は「投影」に興奮する

プロジェクションマッピングが魅力的なのは、多分、その技術とか映像の凄さとかではなくて、あれが、巨大な幻燈だからなのだと思う。多分、映画の最初も同じだと思うのだけど、暗い中で、光によって大きな画面に映し出されるモノというのは、大昔から、ずっと人を惹きつけるものなのだろう。影絵が大昔から娯楽として存在していて、今なお、魅力的であることや、ステンドグラスの変わらぬ人気も、同じ理由なのだと思う。小型プロジェクターを、大して使い道もないくせに欲しくなったり、その割には、メガネ型のプロジェクターは、それほど魅力的でなかったりするのも、すべて、「投影」の魅力なのだと思うのだ。

そういう意味では、最近、ようやく3D映画に人気が出てきたのも、あの技術が、物語を見せる装置としてより、投影の興奮を伝えるものだということに気がついて作られた映画が登場してきたからだろう。元々、ハリウッドのエンターテイメント系大作映画は、よく遊園地の乗物に例えられていたけれど、「パシフィック・リム」や「ゼロ・グラヴィティ」といった作品の3D映画としての見せ方は、もはや、乗物そのもの。大きく映し出されるモノの面白さを中心に、すべてのものが組み立てられている。それは、映像の原初的な面白さであり、同時に、これまで積み上げてきた映像の制限を打破するためのアイデアの数々の否定でもあるけれど、そういうモノに興奮してしまうのはしょうがない。多分、人間は、そんな風にできているのだ。

●ミニマムなプロジェクションマッピング

バンダイの映像エンターテインメント食玩「ハコビジョン」は、そのプロジェクションマッピングを、掌の上で再現できるようにした商品。これ、身も蓋もないというか、要するに、建物の凹凸だけ再現したフィギュアに、スマートフォンからの映像を投影すれば、ちゃんとプロジェクションマッピングになるじゃないか、というアイデアで、まあ、それはそうでしょうとしか言いようはないけれど、それを500円の食玩で実現しているというのがすごい。アイデアと商品としてのバランスが絶妙なのだ。

実際、見れば分かるように、あきらかにチャチだ。安っぽいことこの上ない。仕組みも、建物の凹凸を再現したレリーフ状のフィギュアを、パッケージの箱に嵌め込んで、その前にハーフミラーを斜めに立て掛けているだけだ。そして、箱の上にスマートフォンを置いて、そこにYoutubeにアップされている映像を表示すると、ハーフミラーに反射する映像と、その奥のフィギュアの凹凸が重なって見えるので、プロジェクションマッピングと同様の映像を見ることができる、というわけだ。

ただ、この「ハコビジョン」の場合、そのチャチさが良いし、掌に乗るというサイズが良いし、500円という価格が良いし、パッケージの箱をそのまま使うというのも良いのだ。実際に見れば分かるのだが、「ハコビジョン」の面白さと、「プロジェクションマッピング」のマッピングの面白さは、その根源である「暗い中での投影の楽しさ」以外は、まったく別の面白さを見せるものなのだ。だから、「プロジェクションマッピング」の、ある意味ゴージャスさというのは不要なのだ。もっとも、実は、「プロジェクションマッピング」にも、実はゴージャスさは不要で、それこそ、昔から、東京国立博物館本館の正面壁面に、夜になると写真が投影されていた、あれが、本来の興奮を呼ぶ「投影」なのだから、デカイものにデカイモノが映ってると盛り上がるのだ。映像のきらびやかさは、単に企画者のセンスでしかない。

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▲製品のパッケージには、このような、プロジェクションマッピングを投影する建物のフィギュアが入っている。写真は東京駅のフィギュア。(クリックで拡大)


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▲箱の上部と前部を切り取って、箱の奥にフィギュアをセット。(クリックで拡大)


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▲付属のハーフミラーを、斜めに立て掛けるようにセット。(クリックで拡大)


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▲パッケージに記載されているQRコードかURLを使って、スマートフォンからYouTube上にあるムービーにアクセス。上は「東京ミチテラス2012/TOKYO HIKARI VISION」、右は「東京国立博物館/KARAKURI」の画面。(クリックで拡大)



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▲「東京国立博物館/KARAKURI」。(クリックで拡大)


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▲スマートフォンを上部に乗せて、ハーフミラーに映像を映す。スマートフォンは設定で、画面の明るさを最大にしておく。(クリックで拡大)


●のぞきからくり的なコンテンツを

ともあれ、「デカイ」投影が魅力のプロジェクションマッピングに対して、「ハコビジョン」が提示するのは、「のぞきからくり」の面白さ。小さな箱を覗き込むと、そこに別世界が繰り広げられる、という、その「小ささ」こそ面白さなのだ。小さい箱を覗き込むと、中には別世界が広がっている、というスタイルもまた、「大きい」と並ぶ見世物の原点。それこそ、ディズニーランドのアトラクションでさえ視界を狭めたり広げたりの繰り返しで作られているし、未だに、覗き穴から覗くと、そこにエッチな映像が見える装置とか、短いフィルムが映写される箱とかが、土産物屋や縁日の屋台に並んでいる。「覗き込む」というのは、モバイル版の「暗い中に投影される幻燈」なのだ。

「ハコビジョン」の製品コンセプトは、実際に行われたプロジェクションマッピングの再現で、だから、現在発売中の2つも、1つは東京駅の東京ミチテラス2012で行われた「TOKYO HIKARI VISION」、もう1つは東京国立博物館で行われた「KARAKURI」を、掌の上の箱で再現できるというオモチャ。デカイ物をコンパクトにして所有する、というのも、グッズ展開の魅力的なパターンの1つだし、製品の魅力も伝わりやすい方法だとは思う。そして、実際に魅力的な製品になっているのだけど、せっかく、「投影」と「のぞきからくり」的な面白さを1つにしたのだから、そして、せっかく、チープな作りで製品化しているのだから、そこに映し出される映像は、できれば、そのサイズに特化したものであって欲しかったと思う。

今回の、2つの映像も、つまらなくはないのだけど、何というか、広い屋外で見るのではなく、掌の上で、覗き込んで見ると、妖しさが足りず、アイデアが単調なのだ。これは、「大きい」ことが前提になっている映像で、また版権の問題なのか、元の映像の解像度の問題なのか、画面が粗くて細部がハッキリしないのも寂しい。もちろん、あえて細部をハッキリさせず妖しさを演出するという方法なら良いけど、そういうわけでもないのが、残念。できれば、高解像度(最近のスマホのディスプレイの実力を考えれば、簡単に高解像度は実現できるはず)で、もう少し溜めと細部のアイデアを活かした映像になっていると、面白かったと思う。道行く人ではなく、購入した人に見せるのだから、こんなにカチャカチャした演出でなくても良いと思うのだ。

その意味では、第2弾がガンダムのフィギュアを用いたオリジナル作品、というのには少し期待が持てる。ただ、投影先がガンダムなので、見世物的な妖しさに欠けそうな気はする。せっかくの、製品そのものが持っている魅力的な特質を、プロジェクションマッピングという言葉で、幻燈を明るいイベントにしてしまった悪い流れの方に持っていくこともないだろうと思うのだ。とはいえ、まだ寒い日が続くので、見世物感が、のぞきからくり的な妖しい世界が花開くはずの夏の夜には、きっと妖怪ネタや怪談ネタをやってくれるに違いないと期待している。

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▲「東京国立博物館/KARAKURI」再生中の箱の中を撮影したもの。妖しい騒ぎが繰り広げられている。(クリックで拡大)



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▲「東京ミチテラス2012/TOKYO HIKARI VISION」再生中の箱の中を、見る人の距離で撮影したもの。こんな風に箱を覗き込む。(クリックで拡大)



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▲映像は、どちらかというと派手目の演出。屋外で大きな建物に投影する演出なので、小さな箱の中ではやや大味に映る。(クリックで拡大)




 


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