●割り切った機能もカッコいい!
さらに、機能も極端だ。レンズはかなりの広角(35mm換算18mm相当)で、もちろんズームもない。動画に関しては、1,080pか720pかの画質設定くらいしか設定項目はないのだ。音声も、基本PCM録音のみ。設定できるのは録音レベルなどの現場での設定のみ。そして、基本的にはオートで、特に何も設定しなくても、カメラを向けた方向にあるモノと音が録れる。操作は、被写体にカメラを向けて、録画ボタンを押すだけ。
音楽専用とは良く言ったもので、ほとんど、これは録音機なのだ。ただ、音だけでは伝わりにくい部分に対して、演奏している姿が見えると分かりやすいよね、というコンセプト。そして、これは確かに有効なコンセプトなのだ。つまり、バンドの練習をしていて、それを録音して反省材料にするというのは普通のことだが、その際、自分たちがどんな風に演奏していたかは記録できない。別に細部はどうでもよいが、どういう形で弾いているかが見えると、音が聴きやすくなるのだ。だからミスも発見しやすいし、逆に、良い部分も分かりやすくなる。
広角レンズのみ、というのは、狭いリハーサルスタジオの中で、複数の演奏者を一度に捉えるためだし、音に関しては、iPhoneやデジカメなどの簡易録画機は、大体、マイクが良くないし、レベル設定も行えないなど、良い音で録れるように作られていない。通常、バンドの反省会には使いにくいから、本機ではPCMレコーダーの性能を持たせているわけだ。実際、知人のプロミュージシャンは、普段のリハーサルは映像をiPhoneで録りつつ、音は別途PCMレコーダーを使っているという。それを1つにまとめたのが、この「HDR-MV1」というわけだ。
その意味では、プロ用の単機能ガジェットなのだが、これが、一般的にも結構使えてしまう。例えば、カラオケボックスのような狭い場所で、歌っている人の全身を捉えつつ、歌も良い音で録ることができるし、インタビューなどの時、喫茶店などで向かいに座っている取材相手を、テーブルにカメラを置くだけで、2人くらいなら同時に撮影、録音ができる。
専用アプリを使うと、スマホで撮影状況をモニタリングしながら、録画のスタートストップが操作できるというのも、リハーサル撮影よりも取材向きと言ってもよいかも知れない。手元のスマートフォンで時間も、撮影状況もチェックできて、録音録画のオンオフも行えるというのは、メモを取りつつ、質問もしつつと忙しい取材時には、とても重宝した。
使っていて、専用機の威力を感じたのは、宴会時の撮影。周囲の音が大きく、それぞれが好き勝手に喋っている状態の中、カメラを向けた方向にいる、目的の人たちの言葉だけが、きちんと聞き取れるレベルで録音できるのだ。周囲の音は、ちょっとしたノイズのような感じになり、テープ起こしも楽に行えるレベルで、目的の音声が画像付きで録れる。画面に映っていて、こっちの方を向いている人たちの音声が録れるので、画面を見るだけで、録音できているかのチェックになる。これは、ちょっと凄いと思った。録音がカバーする範囲がカメラのレンズの画角とほぼ同じになるように作られているわけだ。
音楽を録るにしても、取材に使うにしても、被写体が出す音は高音質で録れるという設計は、ユーザーが考えずに使っても、普通に録りたいものの方にカメラを向けてさえいれば、ほぼ失敗がないということ。そのために、レンズは単焦点のパンフォーカスで、ピンと合わせなどはできないようになっていたりするのだが、元々超広角レンズだから、パンフォーカスで何の問題もない。寄ったり引いたりしないことが前提だし、音を録る以上、据置で録るのが基本だからだ。そして、そのことは、オートフォーカスの機構などを入れる必要もなく、レンズの構成枚数も減るわけで、コストダウンにも、デザインのシンプルさにもつながる。こういう理に適った割り切りが、デザイン面にも現れると、ガジェット好きは「カッコいい」と思いがちなのだ。
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