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SONY「HDR-MV1」
オ ープン価格(ソニーストア価格29,800円)
付属:リチャージャブルバッテリーパック(NP-BX1)、USBケーブル(マイクロUSBケーブル)、レンズキャップ、キャップストリング、取扱説明書、保証書
※ 別売の“メモリースティックマイクロ”またはmicroSD/SDHC/SDXCメモリーカードが必要。(クリックで拡大)
http://www.sony.jp/mvr/products/HDR-MV1/
今、気になるプロダクト その31
持ちたいと思う道具のデザインビデオカメラ
「HDR-MV1」をめぐって

納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。

●カッコいい! 音楽用ビデオカメラ

ラジオにしても、カセットテープレコーダーにしても、カメラ、オーディオ、シンセサイザー、ビデオデッキ、パソコンに至るまで、多分、仕事でもないのに、それらを手にしたいと思い、スペックなんかを調べたりして、手にして興奮したりする、その欲望の大きな要因になるのは、ずっとデザインだったと思う。何だかカッコイイというのは、機械を弄るための重要なポイント。

ソニーの音楽用ビデオカメラ「HDR-MV1」を最初に見た時に思ったのは、「カッコいい」ということで、それがどういうスペックかを知る前に欲しいと思った。ウォークマンが発売された時も、クリエが発売された時もそうだったと思い出して、ソニー製品に対して、その感じになるのは随分久しぶりだと思った。

「HDR-MV1」のマイク部分にはカバーが付いていない。形はビデオカメラというより、デジタルレコーダーに近く、モニターの位置も本体に直付けで可動しないので、撮影時にどんな風に画面を確認するのかがよく分からない。その1つひとつがカッコいいと思ったのだ。それは多分、そんな形のビデオカメラは今までなかったということなのだ。そして、よく分からないけれど、とても無駄がないように感じたこと。マイク部分のゴツイ感じと、本体部分のスッキリした感じの対照も面白い。

機能をユーザーインターフェイスに沿って正しくデザインする、というのが道具の理想的な形をつくると思っているのだけど、それだけでは「カッコいい」にはならない。「機能美」という言葉があるけれど、実は私は自分の文章の中では、ほとんど使わない。それは、機能だけを追求しても、特に使いやすくもならないし、美しくもならないと思っているからだ。機能とインターフェイスを、どういう器の中で、どんな風に融合させるかというのは、そのツールの機能を超えた部分での話だし、削ぎ落としたものは美しいと思われがちではあるけれど、それが手に馴染まないと、形は美しいかも知れないが、ツールとしては美しくない。

何となくシンプルで削ぎ落とされたデザインのようでいて、どこか過剰な感じもするから「HDR-MV1」をカッコいいと感じるのだ。そもそも、ビデオカメラとしては逸脱したデザインなのは一目瞭然で、でもカッコいいと思わせるのは、「この形で動画が撮れる」ということの新鮮さ。そういう、過剰な新鮮さと、パッと見のシンプルさが両立しているという時点で、かなり変な商品であり、でも、それこそが「欲しい」と思わせるポイントなのだと思うのだ。

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▲片面はバッテリーの蓋が、片面はモニターディスプレイ(2.7型ワイド液晶)がある。(クリックで拡大)
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▲レンズ、マイク共に、120度をカバーする。レンズはカールツァイスのテッサーを搭載。(クリックで拡大)

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▲操作ボタンは、ディスプレイ横のジョイスティックと再生ボタン、上部の電源ボタンと録画開始停止ボタンのみ。(クリックで拡大)

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▲後部には給電やPCとの接続ができるUSB端子、HDMI出力端子、LINE IN/マイク端子、ヘッドフォン端子を用意。(クリックで拡大)
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▲底部は、三脚用の穴とメモリースティックマイクロ/microSD/SDHC/SDXCメモリーカード対応のソケットがある。データはすべてメモリカードに記録される方式。(クリックで拡大)

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▲別売で専用ケースも用意されている。(クリックで拡大)

 

●割り切った機能もカッコいい!

さらに、機能も極端だ。レンズはかなりの広角(35mm換算18mm相当)で、もちろんズームもない。動画に関しては、1,080pか720pかの画質設定くらいしか設定項目はないのだ。音声も、基本PCM録音のみ。設定できるのは録音レベルなどの現場での設定のみ。そして、基本的にはオートで、特に何も設定しなくても、カメラを向けた方向にあるモノと音が録れる。操作は、被写体にカメラを向けて、録画ボタンを押すだけ。

音楽専用とは良く言ったもので、ほとんど、これは録音機なのだ。ただ、音だけでは伝わりにくい部分に対して、演奏している姿が見えると分かりやすいよね、というコンセプト。そして、これは確かに有効なコンセプトなのだ。つまり、バンドの練習をしていて、それを録音して反省材料にするというのは普通のことだが、その際、自分たちがどんな風に演奏していたかは記録できない。別に細部はどうでもよいが、どういう形で弾いているかが見えると、音が聴きやすくなるのだ。だからミスも発見しやすいし、逆に、良い部分も分かりやすくなる。

広角レンズのみ、というのは、狭いリハーサルスタジオの中で、複数の演奏者を一度に捉えるためだし、音に関しては、iPhoneやデジカメなどの簡易録画機は、大体、マイクが良くないし、レベル設定も行えないなど、良い音で録れるように作られていない。通常、バンドの反省会には使いにくいから、本機ではPCMレコーダーの性能を持たせているわけだ。実際、知人のプロミュージシャンは、普段のリハーサルは映像をiPhoneで録りつつ、音は別途PCMレコーダーを使っているという。それを1つにまとめたのが、この「HDR-MV1」というわけだ。

その意味では、プロ用の単機能ガジェットなのだが、これが、一般的にも結構使えてしまう。例えば、カラオケボックスのような狭い場所で、歌っている人の全身を捉えつつ、歌も良い音で録ることができるし、インタビューなどの時、喫茶店などで向かいに座っている取材相手を、テーブルにカメラを置くだけで、2人くらいなら同時に撮影、録音ができる。

専用アプリを使うと、スマホで撮影状況をモニタリングしながら、録画のスタートストップが操作できるというのも、リハーサル撮影よりも取材向きと言ってもよいかも知れない。手元のスマートフォンで時間も、撮影状況もチェックできて、録音録画のオンオフも行えるというのは、メモを取りつつ、質問もしつつと忙しい取材時には、とても重宝した。

使っていて、専用機の威力を感じたのは、宴会時の撮影。周囲の音が大きく、それぞれが好き勝手に喋っている状態の中、カメラを向けた方向にいる、目的の人たちの言葉だけが、きちんと聞き取れるレベルで録音できるのだ。周囲の音は、ちょっとしたノイズのような感じになり、テープ起こしも楽に行えるレベルで、目的の音声が画像付きで録れる。画面に映っていて、こっちの方を向いている人たちの音声が録れるので、画面を見るだけで、録音できているかのチェックになる。これは、ちょっと凄いと思った。録音がカバーする範囲がカメラのレンズの画角とほぼ同じになるように作られているわけだ。

音楽を録るにしても、取材に使うにしても、被写体が出す音は高音質で録れるという設計は、ユーザーが考えずに使っても、普通に録りたいものの方にカメラを向けてさえいれば、ほぼ失敗がないということ。そのために、レンズは単焦点のパンフォーカスで、ピンと合わせなどはできないようになっていたりするのだが、元々超広角レンズだから、パンフォーカスで何の問題もない。寄ったり引いたりしないことが前提だし、音を録る以上、据置で録るのが基本だからだ。そして、そのことは、オートフォーカスの機構などを入れる必要もなく、レンズの構成枚数も減るわけで、コストダウンにも、デザインのシンプルさにもつながる。こういう理に適った割り切りが、デザイン面にも現れると、ガジェット好きは「カッコいい」と思いがちなのだ。

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▲各種設定はディスプレイにメニューを呼び出し行う。(クリックで拡大)
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▲重要なのは、録音レベル調整。31段階で表示するレベルメーターを見ながら細かく録音レベルを設定できる。(クリックで拡大)

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▲実際の録画中は、このように、レベルメーターなども表示される。レベル設定や画質、音質などは、この画面からアイコンを選択することで、直接設定画面を呼び出せる。(クリックで拡大)
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▲iPhoneの場合はWi-Fiで、Androidの場合はNFCで無線接続が可能。スマートフォンでモニターしながら、録画の開始停止、録画したデータのコピーなどが行える。(クリックで拡大)

 

●ライブハウスで試し撮り

ライブハウスにおける演奏の撮影も試してみた。協力してくれたのは、「catena」というインプロヴィゼーション・バンド。ジャズの理論をベースに、ドラムンベースやダブステップ的な手法を人力で行うことから生まれるグルーヴを、その演奏の最中にも発展、展開していく、吉原誠(ドラムス)、西嶋正己(ベース)、河原崎豊(キーボード)のトリオだ。
http://www.youtube.com/watch?v=RnM7qlg3JhY&feature=youtu.be

ミニマルなフレーズを繰り返しながらも、1曲の中での音量の変化も、音質の変化も激しい、ダイナミックレンジの広い演奏なのだけど、録画した画像を見ると、かなり、音の1つひとつを拾えている。特に、音色の変化で曲の表情をコントロールするベースの音が、きちんと録れているし、ドラムスのアタックもあまり歪まずに聴こえるから、catenaの複雑なアレンジが、きちんと曲として聴こえるのだ。最小限の音でリズムとメロディを複雑に行き来するキーボードの動きも、きちんと追えていて、音の抜けも良いから、全体が聴きやすい。

その上で、演奏している姿も、暗いステージの中、きちんと捉えている。この映像は、ほぼ最前列、上手の端から、手持ちで録ったものだが、記録としてなら十分だろう。ちょっとドキュメンタリーっぽい感じにもなるので、PVの一部として使うのも面白そうだ。この映像を見て、catenaというバンドに興味を持たれた方は、公式サイトでライブ情報をチェックして下さい。良いバンドですから。
公式サイト:http://catena-web.wix.com/catena

●価格の手頃さも魅力

もちろん、この程度の映像と音なら、現在のデジタルビデオレコーダーに外付けマイクを付ければ、比較的簡単に撮影できる。映像は、もっとエキサイティングに録ることも可能だろう。でも、「HDR-MV1」の面白さは、そういうところではないのだ。単に、ポケットから出して、録音レベルだけ調整してやれば、後は、ボタン1つで、この程度の動画が高音質で録れてしまう、という部分こそが重要なのだ。外付けマイクは不要、明るさの調整をしなくても、手持ちでそこそこ暗いステージを捉えられる、広角レンズだから適当にステージにカメラを向けていれば、メンバー全員が画面に収まる、ピント合わせ不要。それで、この品質というのが面白いし、その機能は、見た目のデザインとも、音楽専用ビデオカメラという惹句にも、とてもピッタリ合っていて、その全体が与える印象こそが「カッコいい」なのだ。

使うかどうかなんて分からないけど、使えることは間違いないという、その微妙なラインがまた物欲を刺激する。しっかり仕事してくれるけれど、出来上がりは意外に地味に良く録れている音と画像だったりする、その地道さが容易に想像できるのも、カッコ良さにつながる。それはつまり、結構使い続けられるということだから。

この「HDR-MV1」は、そのカッコ良さと価格の手頃さで、かなり売れているようだけど、そして売れてしまうと第二弾が出てきて、マイク部分にカバーが付いたり、ズームレンズが付いたりしてカッコ悪くなってしまうかも知れないけれど、とりあえずは、今、「カッコいい」と思わせてくれるだけの製品をソニーが出してきて、他メーカーも同種の製品を出してきた、という事実に喜びたいと思う。

こういうニッチなものをニッチ向けに正しく作ったからこそカッコいい製品が、ちゃんと「カッコいい」モノとして受け入れられるということを、メーカーサイドが認識してくれるのは、とても嬉しいことだから。まあ、価格の問題も大きいけど。

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▲カラオケボックスでの撮影例。机の上に置いて録画。かなり左右が広く録れることが分かる。(クリックで拡大)
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▲喫茶店で正面の人をテーブルの上にカメラを置いて撮影。それほど広いテーブルではないのだが、前に座る2人を完全に捉える事が可能。(クリックで拡大)
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▲こんな風に、パーティー会場などでカメラを適当に向ければ、会話をキレイに録画録音が可能。(クリックで拡大)

 


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